異世界帰りのTS転生ロリババア、ひ孫のヒロインになる   作:ひさなぽぴー

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第四話 優一、初陣す 4/4

 先ほどまでと打って変わって、強大な魔力を帯びる男。激流と呼べるほどの赤が、彼の身体から立ち上り続けている。なんだろう、某スーパーな野菜星人のアニメで聞いたことがあるような音が聞こえる気がする。

 

 しかし音はともかく、ああやって魔力を立ち上らせているのは魔力の無駄遣いだ。

 

『よく見てろよ。こうやって……身体の周りに留めてしっかりと全身にまとわせろ。そうしないと、魔力はどんどん外に流れ出て失われちまうんだ。魔力は絶対に無駄遣いするな。基本のキだが、これが一番大事なんだからよ』

 

 セティの解説を思い出す。できていないぞ、しっかりやれと、魔力をまとう特訓中に座禅の警策よろしく、何度もぶん殴られたこともついでに思い出してしまったけれど、それはともかく。

 

 恐らくこの男は、魔導士になってほとんど時間が経っていない。下手したら、ここ一時間以内とかそのレベルじゃないだろうか。

 だから魔力に対する理解が乏しいんだろうな。あのお粗末な魔力運用はきっとそういうこと。

 これが味方だったら、即座にセティの教育的指導(物理)が飛んでるぞ。

 

 そんなことを考えつつも、さてどうしたものかと身構える。

 前に出した左手首で時を刻む腕時計の文字盤がちらりと見えた。まだ戦い始めて五分も経っていないらしいってマジか。

 

「おおおぉぉぉーーッッ!!」

 

 なんて、少しだけ意識が逸れた瞬間のこと。男が雄たけびを上げながら、再びこちらに向けて駆け出した。

 またタックルかな……と思っていた僕は、次の瞬間声を上げて驚くことになる。何せ僕のすぐ近くまで来た男は、なんと拳を繰り出してきたのだから。

 

「あっぶな!?」

 

 予想していなかったその攻撃を、慌てて打ち払う。しかし今は男がまとう魔力が多いせいで、対処に使った右手に重い衝撃が襲ってきた。さっき蹴りを受け止めたときより明らかに強い!

 そして何より、痛い! くそう、漫画家の利き手を痛めるなんて重罪だぞ!

 

「どうだ! どうだどうだどうだァ!!」

「うおおお……! どっ、ドーピング反対……ッ!!」

 

 場違いなことを考えている場合じゃない。増大した魔力に任せての連続攻撃は、非常にまずい!

 確かに男は魔力を無駄遣いしているけれど、これだけの魔力量となると短期的には問題ない。その状態での繰り出される攻撃をどうにかするのは、至難の業なのだ。

 

 何と言っても、単純に威力が高い。食らうわけにはいかないから回避するなりいなすなりしないといけないのに、かするだけでもダメージを受けるのだ。理不尽!

 かといって防御しても、魔力量の差から普通に貫通される。今の僕の魔力量だと、打点に魔力をすべて集中させてようやく競り勝てるかどうかってところなのだ。受けきるなんて到底不可能。

 

 回避ができればいいが、連続攻撃すべての回避は無理。防御も効果が薄い。この状況で僕にできるベターな選択は、攻撃を受ける箇所……特にいなす際によく使う両腕に魔力を多めに回すことだろう。

 こうすることでダメージを最低限にしつつ、直撃だけは避けるという寸法だ。

 

「く……っ! 魔法を使う暇がない……!」

 

 しかし何より問題なのは、これだけ間断なく攻撃をされると、今の僕では魔法を使えないということだ。セティは攻撃しながら魔法を使ったりできるが、魔導士になって日が浅い僕にはそこまでできないのである。

 だから仕方なく、直撃を避けることに専念したのだけれど……僕はすぐにもう一つ問題に気づいた。

 

 今、男は魔法によって魔力放出量を激増させている。このせいで、魔力が身体のどこに集まり、どう動いているかがわからない状態が疑似的に再現されてしまっているのだ。

 仕切り直し後、最初の攻撃を予想できなかったのはそのせいだ。そして回避に専念するだけでいっぱいいっぱいな現状も、そのせいだと言えるだろう。大は小を兼ねるとはよく言ったものだ。

 

 なるほど、相手の魔力だけを判断基準にするのは危ないな。セティが言っていた警告は、こういうことなんだ。頭ではなく、魂で理解したぜ!

 

 とはいうものの、わかったところで今のままじゃ反撃を挟む余裕がない。これまでの男の動きからして、見てから魔法を使えば十分受け止められると思っていたのに!

 まあ、それは僕の見通しがただ甘かったってだけではあるんだが……。

 

「はははははー!! おれの邪魔をするやつは全部ゴミだ! お前も燃やせるゴミとして焼却処分してやる!」

「あいにくと今のご時世、ゴミの野焼きは違法なんだよなぁ!」

 

 ああもう、テンション爆上げしちゃってもう! これまでずっと劣勢だったのを覆せて機嫌いいのはわかるけど、ちょーっと言い方が過激すぎますことよ!

 ……彼が元々そんな人物だとは思いたくないなぁ。きっと魔石によって、感情が暴走しているせい。そうであってほしい。

 

 しかし頭でそれがわかっていたとしても、面と向かってのゴミ呼ばわりに思うところがない人間なんてそういるわけじゃない。それは僕だって同じだ。

 だからってわけじゃないけれど、僕は直撃を覚悟することにした。一秒二秒でいい、なんとかして魔法を使う時間を確保しなければ。

 

 そう決めたと同時に、僕は両腕で顔をかばうようにして前に出した。そこに魔力をすべて集中させ、しかしそれ以外はほぼ身構えない。

 攻撃を受けるに当たっては、不適切と言える態勢。しかし今は、これでいい。()()()()()()()

 

「分別ゥ!!」

「うぐぅ……ッ!」

 

 僕が身構えたのと、男の拳がたたきつけられたのは、ほぼ同時だった。凄まじい衝撃が腕に注ぎ込まれ、激しい痛みに襲われる。

 不幸中の幸いは、左腕だったことか……と思う間もなく、僕の身体はその衝撃によって派手に吹き飛ばされた。

 よっぽどの威力だったのか、目にもとまらぬ速さで射出されるように飛んでいく僕。

 

「優一! くそっ!」

 

 それを見たセティが血相を変えて声を上げるが、心配いらない。

 

「いいや、これでいいんだよ!」

 

 生まれて初めてレベルの激痛をこらえながら、僕はセティに声を投げかける。

 なぜって? 僕の目的はねぇ、男の手で僕を遠くに飛ばしてもらって距離を……ひいては時間を稼ぐことだったからさ! これが我が逃走経路ってやつよ!

 

 だからそう、このあとやることはただ一つ。僕は吹き飛びつつも、体内の魔石に改めて意識を向けた。約一秒の集中。

 そうして、この身に宿った魔法の名前を宣言する。

 

「『コピー&ペースト』!」

 

 そのまま僕は地面を転がった。

 一見すると、何も起きていないように見えるだろう。僕の魔法はわかりやすく何かを放ったり強化したりするものじゃないから、そう思っても仕方ない。

 

 けれど、確実に変化は起きている。今地面を転がった僕は、それによる痛みを感じていないのだから。

 

 追加の痛みがない。そのありがたみを感じながら、僕は急いで体勢を整える。追撃のために迫って来る男がもうすぐそこにいる!

 

 だが慌てるな。地面をしっかり踏みしめて腰を落とし、迎撃の構えを取る。先ほどとは違う、相手の攻撃を、きちんと正面から受け止めることを意図した構えだ。

 

「処分ゥン!!」

 

 そこに、男は拳を叩き込んできた。僕に起きている変化を気にするそぶりを見せない、よく言えばまっすぐ。悪く言えば猪突猛進な攻撃だ。

 そんな、大量の魔力によって強化された拳が僕のみぞおちに直撃する。

 

 が、その瞬間だ。低く鈍い音が響き渡った。魔力を宿した肉体同士がぶつかり合った音ともまた少し違う……そうだな、たとえるならお寺の鐘のような音だった。かすかな残響音が尾を引いていく。

 

「い……ってぇーーっっ!? なんじゃこりゃァーー!!」

 

 殴りつけた拳をもう片方の手で包み、男が飛び上がるように悲鳴を上げた。

 

 対する僕は、防御した姿勢のまま感触を確かめるように、殴られた場所をなでる。次いで軽くデコピンを当ててやると、キィンと高い音がかすかに鳴った。

 へぇー。金属の硬さをしていると、肌でもそれに近しい音が鳴るんだ? 興味深いね。これはバトルものの漫画を描くときに活かせそうだ。

 

 ……おっと、そろそろ僕の魔法について説明しようか。

 

 先ほど宣言した通り、コピー&ペーストと名付けたこの魔法は、僕が触れているものから何かしらの要素を選んでコピーし、それを別のものにペーストできるというものである。

 一度に複数の要素は扱えないとか、効果時間の上限とか、この世に存在するすべてを扱えるわけではないとか、様々な制約はあるけれど、使い方によっては非常に有用かつ強力な魔法だろうと思う。

 

『魔法ってのは、得てして宿主の欲求とか趣味嗜好、人生経験なんかが大なり小なり反映される。たとえば今お前の浄化装置に入れている「ゴールド」を使っていた悪魔は、元々成金趣味の商人だった。(カネ)より(キン)が好きっていうな。

 だからお前のその魔法も、何かしらお前の心の内を現したもののはずだ。心当たり、あるんじゃないか?』

 

 セティはそう説明してくれたけど、まさにその通り。

 僕は漫画家だけど、デジタル世代の漫画家だ。紙とペンはもちろん使うけれど、パソコンを用いて行う作業のほうが多い。

 その過程で、結構な頻度で画像のコピーとペーストを使うのだ。そんな僕が得たものとしては、かなり()()()ものだと言えるんじゃないだろうか。

 

 そして今回はこの魔法によって、普段から身に着けている腕時計の材質であるステンレスの硬さを、僕自身に付与した。この魔法に目覚めて最初に思いついた活用法であり、恐らく現時点の性能では、これ以上の最適解はなかなかないだろうと自負している。

 実際効果はてきめんで、何も対策せずに殴りかかってきた男がどうなったかはご覧の通り。当然そんなスキを見逃すはずもなく、僕は一気に前へと踏み込んだ。

 

 はてさて、魔力がみなぎっている状態の男に、ステンレスの硬さを身体に宿した僕の拳はどれくらい効くだろうか?

 

「せいやァーッ!」

 

 そう思いながら放った正拳突きは、狙いを一切過たずに男のみぞおちに突き刺さった。意趣返しってやつだ。

 もちろんと言うべきか、先ほどと同じような低い金属音が響き渡る。

 

「げぼぁあーーっっ!?」

 

 男は悲鳴と共に、砲弾のように吹き飛んだ。先ほどとは逆の光景だな。

 

 さらにさらに、十数メートルたっぷり吹き飛んで地面を転がる彼の身体の魔力は、いつの間にかすっかり元に戻っていた。かすかに聞こえていた音も、今や聞こえない。

 

 ふうん? 一時的な強化だったのか、それともダメージを受けて解除されたのか。どっちだろうね?

 ただ少なくとも、永続するものではないようだ。仮に永続するとしたら使い得だし、それはないだろうとは思っていたけれど……予想通りで何より。

 

 あとは発動条件がわかれば、封殺してしまえるかもしれないけれど……ということを考えつつも、駆け出した。

 

 先ほどのように、追撃をためらうつもりはない。魔力が元の規模に戻っただけで消失していないということは、男にはまだ意識がある。なんならやる気も。

 実際、男は大きくせき込み涙目になりながらも、よたよたと立ち上がろうとしている。目は憎々し気に僕を見ていて、やる気は依然旺盛とみていいだろう。

 

 ならばこのまま顎をカチ上げて、一気に勝負を決めてやろうじゃないか。今ならできるはず!

 

「さ……させるかぁ……! 分別、されてたまる、かぁ……っ!! おれが! 分別するんだぁ!!」

 

 そう思った僕の手が届く範囲に入る直前、男はかろうじて立ち上がった。相変わらず言い回しは独特だけれども、その手元には先ほどまでなかった作業帽がある。

 いつの間にと思ったけれど、背負い投げをかましたときに落ちたやつか。殴り飛ばして転がった先にあったようだ。

 

「よぉしッ()()()ゴミだ! ふんッ!!」

 

 しかし僕が拳を引き絞ったタイミングで、男はその帽子を引きちぎってバラバラにしてしまった。

 文字通り布を引き裂く音に耳を疑い、目を見開く。今ここですることか!?

 

 そう思ったけれど、それは僕の想定が甘かった。

 男の背中から、赤い光が放たれる。引きちぎられた帽子だったものが、()()()()()()()()()()()()。魔法!

 

 ヤバい──と思ったときには、もう遅かった。男の身体から、再び魔力が爆発的に発せられたのだ。

 目の前で男の存在感が一気に増して、ビリビリと痺れるような感覚を味わう。

 

「くらえゴミめが!!」

 

 その魔力にものを言わせて、男も拳を放って来た。けれど既に攻撃態勢に入っていた僕に、それをどうにかするすべはない。

 なんとか無理やり上半身をひねったけれど、結果は打点が顔面ど真ん中から頬にずれた程度。

 

 ならばせめて攻撃は当ててやるという気概でもって、拳を殴りぬけた。やってやろうじゃねぇかよこの野郎!!

 

「っぐぅ!」

「ちィ!」

 

 二人揃って、殴られた衝撃で後ろに下がる。

 僕の拳も彼の顔に叩き込めたから、痛み分けではあるものの……顔にこれはめちゃくちゃキッツいな!

 ステンレスの硬さを貼り付けていたのにこれとは、魔力ありでも素の身体で受けたら下手すりゃ一撃KOじゃないか? ファンタジーもなかなか理不尽なことしてくれるよ!

 まあでも、さっき吹っ飛ばされるために食らった攻撃よりはだいぶマシ! 硬いって偉大だね!

 

 そして男のほうも、無事ではないようだ。何せ彼は今、金属にぶん殴られ金属を殴ったも同然。

 しかもほぼ同時にだ。いくら魔力があったとはいえ、効いていないはずはないだろう。

 というか、効いていてくれ。頼むから、これでノーダメとかやってられないから……。

 

 だがそれより何より、ここまでのやり取りで男の魔法は大体わかった。()()()ゴミ、と言ったのは失敗だったな。名付けるならその魔法、リサイクルとでもいったところか!

 

 だから僕は、心配そうに戦いを見守っていたセティに向けて声を張り上げる。

 彼女の負担を増やすことになってしまうけれど、ここは確実性を取らせてもらいたい!

 

「セティ! ゴミを自分の魔力に変換する魔法だ! 隔離頼む!」

「……! そういうことか、任せとけ!!」

 

 すぐさま空間内に、複数の穴が開いた。セティがよく使っている、どこからともなくモノを出し入れする穴だ。

 そこに散乱するゴミ袋たちが、一斉に落ちて消えた。敵を利するアイテムは、全部ボッシュートだ!

 

「ああっ! なんてことを!」

「仕事が減ったと思って喜んでくれていいんだぜ!」

 

 嘆く男にそう軽口を返しながら、僕は続けてセティへ声をかける。これ以上、男に魔法を使わせてたまるかってんだ。

 

「ゴミ収集車も頼む! 中に圧縮されたゴミがあるから!」

「お、おお! アレそういう仕組みなのか! わかった!」

「ふ、ふざけんなぁ!!」

 

 次いでゴミ収集車も、別空間へ収納された。男にとっては理不尽すぎるだろうけれど、知ったことじゃないぜ。

 

 何せこれは、助けるための戦いだからね。使えるものは親でも……曾祖父でも使うのだ。

 確かにセティの魔力は消耗するだろうけれど……これくらいなら許容範囲のはず。あとは僕がしくじらなければいいだけだ。

 

「大丈夫、勝負の絵は描けた。僕の勝ちだ!」

 

 相手への挑発と、自分への鼓舞。両方の意味を込めて、気炎を吐く。

 

 なぁに、ちゃんと根拠はあるんだ。何せ男の強化はタイムリミットつき。僕の魔法もタイムリミットはあるけれど、男はそれを知らない。

 知っていたとしても、よもや現時点でも五分以上は余裕で使い続けられるとは夢にも思わないだろう。この状況に持ち込んだ時点で、僕が圧倒的に有利なのは変わりないのだ。

 

 そして魔力の増強がない場合、男は僕に対抗できないというのは、ここまでの戦いでほとんど証明されているも同然。

 だから男は、急いで僕を倒すしかない。ただ殴るだけでは自滅もあり得る硬さの僕を相手に、短時間で勝負を決めなければならないのだ。

 

「こっ、この……ゴミカスがァァーーッッ!!」

「おっと、動きが乱れてるぜ。そろそろ大人しくしたほうがいいんじゃないかな!」

 

 そんな焦った状況で、防御に専念した僕の守りを抜くことは困難というもの。乱れ始めた男の拳の連打を、一つ一つ丁寧にさばいていなしていく。

 

 もちろん乱れてはいても、膨大な魔力が込められた攻撃だ。さばくだけでも多少ダメージは入って来るし、攻撃をさばくために使っている僕の両腕は既に腫れまくっている。なんならあちこち、青黒く変色しているまである。

 

 けれど、それでもここまで来たら、あとは我慢比べってやつさ。

 大丈夫、痛いのは内部だけだ。追加の痛みはほとんどない。僕の魔法が最低限に抑えてくれる。

 

 であればこの勝負、やはり僕の勝ちである。リサイクルの魔法は確かに脅威だけれど、それでパワーアップしてもなお越えられない壁に対しては、なすすべがないんだからね!

 

「あ……っ、あっ、あ……っ!」

 

 そして一分弱程度の攻防ののち、男の魔力がしぼんだ。魔力をきちんと身体の周りでとどめていれば、もう少し続いたかもしれないが……ともかく時間切れだ。

 

 男の顔が、目に見えて青ざめたのがわかった。魔石に意思を乗っ取られかけていても、そういうリアクションするんだ? 少し意外かもしれない。

 ああでも、悪魔にまでは至っていないなら、少しは人間としての情緒が残っているのは当然かな?

 ま、だからってそれが躊躇する理由には、あいにくとならないんだけどな。

 

「そこォ!」

「ぎゃああぁ!?」

 

 二発の牽制をはさみ三発目、本命として放った拳が男の防御をすり抜け、みぞおちに叩き込まれた。

 本日実に、三回目のクリーンヒットだ。これには男も耐え切れず、遂に意識を手放して地面に仰向けに転がった。

 

 男の身体から、赤い魔力が霧散する。全身から力が抜けているし、勝負ありと言ったところだろう。ふぅー、となかなかに深いため息が思わず漏れた。

 

***

 

 その後、ただちに男の魔石除去手術が行われた。彼の魔石は背中にあり、しかも半分ほど石が露出していた。魔法を使うたびに背中が光るわけだよ。

 しかしこれなら、僕みたいに制御装置と浄化装置を使う必要はない。きちんと魔石を摘出することができる。

 

 ただ場所が場所だ。住宅街のど真ん中である。いくら必要なことだからとはいっても、こんなところで外科手術なんてやるのはさすがにまずい。

 かといって痛覚をとめるためには、タイムの魔法が不可欠。亜空間の中でそれをするとなると、どうしても過剰励起は必要だ。

 

「うぐぐ……いや、人命には代えられねぇ! 大丈夫だ、この間の感覚から言って死にはしねぇだろ! また魔力の安定からは遠のくかもしれんが……そのときはそのとき!」

 

 結果として、セティは半ばヤケクソじみた声を上げながらも過剰励起を発動。抜群の手際で手早く手術を完了させた。

 まあ、例のサイバー天使のような姿でそれは、これまでのシリアスを全部吹き飛ばすだけのものだったけど。

 

 そうして摘出された魔石はほどなくして色を失い、ただの黒ずんだ石に変わった。魔石として死んだ、機能停止したということだ。

 

「悪魔になってからだと、摘出しても死なずに魔導石になるんだがな。この段階ならこんなもんだ」

 

 死んだ魔石を握りつぶしながら、セティはそう解説してくれた。少しもったいないな、なんて思ってしまったのはここだけの話。

 

 最後に男のケガは──ついでに僕のケガも──すべてタイムの魔法によってなかったことになり、彼は一緒にいたおじさん共々職務に復帰していった。終始混乱しっぱなしだったおじさんには、ちょっと申し訳なかったけど。

 

 なお男がかぶっていた作業帽は、彼自身が消滅させてしまったから戻せなかった。さすがのセティも、一切形のなくなってしまったものを戻すことはできないようだ。

 あとゴミ収集の巡回もかなり時間が足らなくなりそうだったけれど、その辺りは、仕方ないものと思っていただきたく。

 

「ゴミとか散々言って本当にごめんよ……」

 

 最後、本当に申し訳なさそうに謝ってきた、泣きそうな男が何とも印象的だった。

 あの口悪い罵倒は、やはり魔石のせいだったんだろう。悪いのは魔石なんだなと、改めて思ったよね。

 

 こういう被害を出さないためにも、自分と似たような症状が出た人がいたら教えてくれと彼とは連絡先の交換は済ませておいた。

 地道すぎるけれど、やはり悪魔を見つけないと始まらないからね。

 そして僕たちの身体は一つしかない。協力者はいたほうがいいだろう、という判断だ。

 

「……さて、このあとどうする? まだ午前中だけど、悪魔探し続けるかい?」

「……まずは飯にしようぜ。腹減ったよ」

「昼食というには少し早いけど、疲れたしね……こういうときは美味いモンでも食べて、英気を養うのが吉か」

 

 あと、やっぱり暑いんだよな。運動もしたし、冷房の効いたところで涼みたい。

 その意見は一致し、ここから近いオムライスがおいしい洋食屋さんに向かうことになった僕たちだったけれど……結局この日は、もうろくに悪魔探しはできないまま帰宅することになった。

 

 やっぱりね、生まれて初めての命を懸けた戦いというのは、しんどかったんだろう。自分で思っていた以上に僕は疲れていたようで、腰を据えて食事をしたら動くに動けなくなってしまったんだよね。

 

「ははは、俺にも覚えがあるぞ。初陣を終えたばかりの新兵なんざそんなもんだよ。泣いたり吐いたりしてないだけ、優一は立派なもんさ」

 

 ま、そんな疲労感も、セティがそう言って手放しに誉めてくれたら吹っ飛んだんだけどね。

 我ながら現金だとは思うけれど、やはり好きな女の子からの賞賛はキくんだ。なんならそのうちガンにも効くようになる。

 

 とはいえ、セティにずっと甘えるわけにはいかない。

 何せ僕は、そのセティの負担を減らしたくて一緒に戦うことを選んだんだ。いつまでもおんぶにだっこではいけない。彼女の助けがなくても、一人で魔導士を……ひいては悪魔を倒せるだけの力が必要になる。

 

 けれどセティはなんだかんだで優しい人だから、そんなことを聞いたら焦らなくていいとか、無理しなくていいとか言ってくれるんだろう。

 だから僕はこの決意を口にしない。今回の反省点として、僕の胸の内にそっと刻み込む。

 

 とはいえ、一足跳びに強くなれるはずないのが現実というもの。

 だから……そうだな、まずは自主トレの時間を増やそう。なんなら久々に、師匠でもある幼馴染にレッスンしてもらうか。

 

 こっそりとそう決めて、僕はデザートを注文するべくメニューを再度開くのだった。

 




優一が獲得した魔法は、昔書いてたジョジョの二次創作で出てきた敵キャラのものをほぼそのまま流用したものです。
魔法は魔導士になった人間の経験や趣味嗜好から生まれる、という設定にした時点で漫画家の優一が目覚めるのはこれかなと思った次第。
アンドゥ&リドゥにするのもありかと思いましたが、時間操作系はセティの役目なのでね。

・・・それでええと、その、例の女に関してはその、エタってしまっていて申し訳ないと申しますかですね・・・。
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