異世界帰りのTS転生ロリババア、ひ孫のヒロインになる 作:ひさなぽぴー
「ここならあまり人も来ないし、いいんじゃないかな」
このまま女子便所に居続けるわけにはいかない。
というわけで、俺たちが移動した先は階段だった(ちなみに俺がやらかした床は修復済み。これも今の状態だとしっかり集中が必要で、面倒だった)。
なんで階段周りがこんなに人気がないんだ……と思ったが、自動で動く階段や自動昇降機があちこちにあるんだったな。そりゃあわざわざ階段を使う人間なんて、あまりいないだろう。
ここなら秘密の話をしても、気づかれることはなさそうだ。比較的静かだから、あまり大声にならないよう気をつけて話す必要はあるだろうが。
と、納得したところで、俺は改めて二人に向き直った。
並んでいる彼女たちを正面から見据えると、改めて双子だなぁと感じる。初対面の俺では、左右対称になっている髪型でしか区別できなさそうだ。
「まずは名乗ろう。俺はセティーア・グレンセイ。セティでいい。それからこいつは脇田優一。俺の……あーっと……保護者、みたいなもんかな」
そんな二人に名乗った俺だが、優一のことをひ孫だと言うわけにもいかず、そこは言葉を濁すしかなかった。
優一もそれは理解しているから、「よろしくね」とだけ言って頭を下げ、さらにその場にしゃがんだ。二人と視線を合わせるということだろう。
「ぼく、三日月テイル! 見ての通り双子で、一応お姉ちゃんだよ」
「で、ボクが三日月シオン。一応妹ってことになってる」
対して行われた双子の自己紹介に、俺と優一は揃って驚いた。だからつい、声が出たのだが……。
「三日月……まさか、尾州三日月家か!?」
「テイルとシオン……まさか、クレセント☆ジェミニ!?」
その理由は二人で違っていた。だから俺たちは互いに、素っ頓狂な顔を見合わせることになった。なんだその、クレセントなんとかってのは。
「え、お兄さんぼくたちのこと知ってくれてるのっ?」
「珍しいね。ボクたち、まだそんな売れてないのに」
一方の双子はというと、俺ではなく優一のほうに反応していた。テイルのほうは顔を輝かせて、シオンのほうは意外そうに、という違いはあれど、二人の興味は優一に集中している。
「そりゃまあ……いや、そういうことなら二人にはこう名乗ったほうがよさそうだ」
すると優一は、少し気取った風に小さく咳払いをして、手提げカバンから取り出した名刺入れからさらに名刺を出すと、二人に差し出した。
「漫画家の、かんなぎまつりだ。改めてよろしく」
「えっ、まつりせんせー!?」
「うそぉ!? 本物!?」
この名乗りは効果抜群で、名刺を受け取った二人は驚きと喜びがたっぷり含む声を上げた。
どういうことなのか、さっぱりわからないのは俺だけだ。何があってそうなったんだろう、と一人首を傾げる俺をよそに、優一は手提げカバンから筆記具を取り出すと、すごい勢いでスケッチブックに絵を描き始めた。
「ほら、これで証明になるかな?」
「わあ! 本当だ!」
「すご……超早い……!」
何を描いたのかはわからないが、これで二人は信じたのだろう。興奮した様子で、優一の左右を固めてスケッチブックの中を嬉しそうに眺め始めた。
ページがめくられるたびに、二人からきゃあきゃあと黄色い声が上がる。そんな様子に少し照れた様子を見せつつ、優一はようやく俺に視線を戻した。
「かんなぎまつりっていうのはペンネームだよ。二葉亭四迷とか夏目漱石みたいなもんだね。一般だとこの名義で漫画を描いているんだ」
そう言われて、ようやく俺は得心した。
「なるほどなぁ、つまりこの子たちは優一のファンってことか」
「それもあるんだろうけど、この子たちはご当地アイドルで……あー、言ってみれば真宮市の公認看板娘、みたいなものなんだけどね。二人の衣装をデザインしたのが、何を隠そう僕なのさ。地元出身の漫画家に依頼したい、って仕事が回ってきてね」
「おお……思ってたよりちゃんと関係があるんだな。世界って案外狭いな……」
市公認の看板娘というのは、ちょっとよくわからんが。それに、看板娘っていうにはだいぶ若い……というより、幼くないか? どういう意図があるんだ?
しかしそれは置いとくとして、たまたま入った店で出会った人間が仕事での知り合いというのが、いかに低確率かはなんとなくわかる。
しかも知り合った理由が魔石絡みのあれこれとなれば、もっと確率は低いだろう。天文学的な確率じゃねぇか?
そんな驚きをもって言葉をこぼした俺に、双子が同時に顔を向けてきた。俺にはとてもできそうにない、純粋無垢な笑顔がそこにあった。
テイルは文字通り満面の笑み、シオンは隠そうとしてしかし隠し切れていない笑みである。
「まつりせんせーのステージ衣装、すっごくかわいいんだよ!」
「学校でも人気でさ、着てみたいって子結構いるんだ」
「ねー! ぼくたちもお気に入りなんだぁ!」
「だから先生には一回ちゃんと会いたかったんだ」
「うん! お礼言いたかったから!」
「先生、素敵な衣装ありがとね」
「ありがとー!」
双子特有の連帯感と言えばいいのだろうか。二人で交互にしゃべっているはずなのに、一人が連続してしゃべっているかのような勢いだ。
一見すると、雰囲気は真逆と言ってもいいくらい違うのにな。にもかかわらず、きちんと双子だと認識できるのは顔と声が一緒だからなんだろうが。
「あれは仕事で、僕はそれを全うしただけだけど……うん、どういたしまして。気に入ってくれて嬉しいよ」
「ねーねーせんせー、次の衣装もせんせーにお願いできる?」
「ね。そろそろ新しい衣装ほしいって話してて」
「ぼくねー、次はクールで大人っぽいのがいいと思うんだぁ!」
「ボクは季節的なのがほしいな。ハロウィンとか、クリスマスとかさ」
「大人っぽくて、季節的なのかぁ。うーん、どう組み合わせるかな。ああいや、現時点だと依頼は来てないから、次もやるかどうかはわからないんだけど……やるならこういう感じとか……」
「わー!」「おー」
と、俺が益体もないことを考えている間に、双子は優一を挟んで楽しそうに話し始めていた。
彼女たち、特にテイルのほうは優一の腕をがっちりとつかんでいて、離さないとでも言いたげである。シオンはつかんでこそいないが、優一の肩に頭を預けている様は、全面的に甘えているようにも見える。
そんな双子を振り払うでもなく、優一はスケッチブックにペンを走らせている。やるかどうかわからないと言いつつも、ああでもないこうでもないと悩むようにペンを動かす姿は、実に楽しそうだ。
「…………」
一方の俺はと言えば、完全に空気である。三人の話題がまったくわからないものだから、口を挟むこともできない。
別にその内容自体はどうでもいいが、面白くはない。思わず鼻を鳴らしてしまった。
何せこの双子は、優一にしてみれば好みど真ん中と思われる。楽しそうにしているのも、それが何割かはあることだろう。
一応優一に下心はなく、単純にやりがいのあるお題の絵を描くのが一番楽しいということは、顔や態度を見ればわかる。わかるが、それでももしそういうツラをしていたら、俺はきっとぶん殴っていただろう。
つーかそもそもの話、秘密の話をするから場所を変えたんだろうが。今はそれどころじゃないだろ。
我がことながら、じとりと優一をにらんでいるのが自分でもわかった。
「……おい優一、その辺にしとけ。衣装がどうのって話をするために二人を連れてきたわけじゃないんだからな!」
「あ! そ、そうだった。悪い、つい」
いい加減しびれを切らした俺が割って入れば、優一は素直に謝ってきた。こういうとき変に言い訳しないところは美徳だが、それはそれとして俺は再度ふんと鼻を鳴らして、腕を組んだ。
そんな俺たちをよそに、双子は何やら意味深に顔を合わせて視線を交わしていた。何か言いたいことでもあるのかと思ったが、これ以上本題に入れないのも困るから、そこには言及しないことにする。
「俺たちは魔法使いでな。悪魔に乗っ取られた人を助ける活動をしてるんだ」
そうして簡潔に説明したところ、二人は驚きつつも目を輝かせた。そういうのに興味津々なお年頃ってやつかな。気持ちはわからなくはない。
だがそんな二人の顔は、次の説明で陰った。
「さっきのやつは、その悪魔に乗っ取られた人間の魔法で作られたものだ。なんで襲われたのかはまだわからねぇが、少なくとも人形みたいなやつだったことは間違いない」
恐らく下手人はまだ悪魔になっていないだろうが、細かく話してもややこしいから、ここはわかりやすさ重視だ。
「……あれ、やっぱり悪いやつなんだ……?」
「あれ自体はいいも悪いもねぇよ。要は使い方の問題なんだが……使ってるのが悪魔だからな。わざわざ俺に逃げろって言ったってことは、今までも問題起きてたんだろ?」
「そう! 実はそうなんだよ! いきなり出てきて人を殴ったりするから、ボクたちどうすればいいのか悩んでて……」
「でもさ、あいつぼくたちにしか見えてないみたいで! 大人に言っても信じてくれなくって……それで……」
よっぽど悩んでいたのか、二人はずいっと前のめりになった。しかしすぐに失速し、しょんぼりと視線を下げてしまう。
誰にも信じてもらえない、という状況がそれだけ堪えていたんだろう。俺も優一も無言だったが、双子の心境を慮ってひっそりと顔をしかめた。
だがまだだ。まだこの件は終わっていない。だから申し訳ないが、二人にはもう少しだけ付き合ってもらわなければならない。
「……二人には悪いが、まだ解決してない。魔法をかけたやつをなんとかしないと、また同じことが起きるかもしれねぇんだ」
だから心を鬼にしてそう言ったのだが……幸いと言おうか。双子は俺が思っていたよりも強かった。
「あ、そっか! 魔法で作ったってさっき言ってたもんね」
「じゃあ大元の犯人ぶちのめさなきゃだ」
二人は落ち込むことなく、むしろ積極的な姿勢を見せたのである。
これには俺も優一もちょっと驚いた。二人揃って目を見開いたもんな。
だがそんな俺たちをよそに、テイルがシオンの言葉に物言いをつける。
「もー、シオンは相変わらず物騒なこと言うんだから」
「あんなのつけてくるやつが、まともなやつなわけないじゃん? 大体、悪魔なんだからさぁ」
「それはそうかもだけどぉ……」
シオンの指摘は正しい。悪魔は当然として、魔導士だって基本他人の言うことなんて聞きやしないのだ。拳で解決するのが基本である。
テイルのほうも、言っていないだけでそれは察しているのだろう。反論はほとんどしていない。せいぜい苦笑するくらいだ
二人とも理解力があって何よりだが、さっきみたいに戦いに割り込んでくるのはぜひやめてもらいたいぞ。あれは本当にヒヤッとさせられた。
結果的にいい方向に転んだが、そうじゃなかったらどうなっていたことか……とは思うが、それは今は言わないでおくとしよう。俺はわりと喉元まで出かかった言葉を飲み込むと、本題を切り出した。
「どっちにしても、まずは犯人を見つけないとどうにもならないわけでな。そのためにも、いくつか聞きたいことがあるんだがいいか?」
「もっちろん! 何でも聞いてよ!」
「役に立つことが言えるとは限らないけどね」
これに手を上げ快く応じるテイルと、肩をすくめて苦笑して見せるシオンであった。
うーむ。こうやって会話する姿を見ていると、結構性格が違うんだなこの二人。見た目はほぼ同じだが、テイルのほうは天真爛漫というか……陽気で大体にこやかにしている。温厚な子なんだろう。
対するシオンはというと、物静かでやや皮肉気だ。わりと歯に衣着せぬ物言いをするし、なんなら少し物騒な考え方をしているようにも見える。なんともまあ対照的な双子もいたもんだ。
……と、それはさておき。
「今まで何回かあいつが出たって言ってたよな。どういう状況だった? 覚えている範囲でいいから、教えてくれ」
「えーっと、最初は確かおとといだったっけ?」
「うん、おとといの夜だよ。レッスン帰りの駅で、ボクたちにぶつかってきたお兄さんがボッコボコにされたんだ」
「自分からぶつかってきたくせに、ぼくたちに怒ってきたからなんだよーって思ってたんだけど」
「後ろに出てきたあいつがガンガン殴りまくるものだから、そっちに怖くなっちゃったんだよね。最初はざまあみろって思ってたんだけど……」
「ね。お兄さん、血まみれだったし気絶しちゃってたしで……」
ああうん……それは、いくらなんでも子供には衝撃的すぎただろうな。そりゃあ理不尽な大人に怒りはあっただろうが、そこまでしようなんて思っていなかっただろうし。
加減を知らないこの感じも、自律型の使い魔の挙動だな。設定された行動に沿ってしか動けないから、一度動き出したら終わるまでとまらないんだ。
他にもめぼしい情報がないか確かめるべく、続きを促したが……それなりの数の被害者がいるらしくて俺はそこはかとなく頭痛を覚えた。
「昨日はね、朝に着替え手伝ってくれたメイドさんが殴られたんだよ。お尻ペンペンされてた」
「それとお昼だね。バスの順番追い越して乗ろうとしたおばさんが、ボッコボコにされたんだ。気絶はしてなかったけど……」
「今朝は庭師のおじさんだよ。一発だけだったけど、顔だったから結構なケガで……」
と、こんな感じで。最低でも四人は被害に遭っている。
恐らく魔法に目覚めてから早速使ったんだろうが、三日間でこれはとはよくもまあ動いたもんだ。
このまま放っておけば、被害はさらに増えそうだな。元々魔導士案件は急がないといけないものだが、魔法に目覚めて三日が経っているならなおさらだ。
何せ魔法に目覚めてから悪魔化が完了するまでにかかる時間は、大体五日から一週間くらい。最短で侵食が進んだ場合、猶予はあと一日と少し程度しかないはずだからな。
ただ幸いと言うべきか。犯人に繋がりそうな情報はちゃんと語ってくれた中にあった。
「恐らくだけど、二人に何かしらの被害が出たときにあれは出てくるんだろうね」
優一の総括は、俺も感じていたことだった。彼に同意を示す形で大きく頷きつつ、さらに補足する。
「そしてその被害の大きさに比例した制裁を与える。そういうことだろうな」
「「どういうこと?」」
「被害が出た直前を思い返してごらん。最初のおじさんに何をされたんだったかな?」
「ぶつかられた」
「そうだね。メイドさんのときは?」
「静電気がバチって来た……あ、そういうこと?」
「シオンちゃんは気づいたみたいだね。じゃあバスのおばさんは?」
「ぼくもわかったよ! 追い越されたときにバッグがぼくにぶつかったからだ!」
「庭師のおじさんは?」
「打ち水がボクにかかった。確かに、全部ぜーんぶ、直前にボクたちにヤなことが起きてるんだ」
気づきを得て得心がいったという様子の二人に、俺と優一は満足げに頷く。
これらの被害者のうち、気絶するくらい殴られ続けたのは最初のぶつかってきたやつだけだ。静電気という不可抗力だった女中は尻を叩かれただけ、庭師についても一発だけだ。
まあ庭師については、殴られた場所が悪かったようだが……とりあえず、一発は一発だからな。
この情報をまとめれば、おのずと犯人の目的は見えてくる。
「つまり犯人は、二人を護衛しているんだろうね」
「そういうことだろうな」
今回の相手の魔法は、「ガードマン」とでも言ったところか。護衛対象である二人に何か被害が出ることをきっかけに、その犯人に制裁を加える使い魔を自動で召喚する。そんなところだろう。
「えぇー、あれが護衛~……?」
「やりすぎだよ……」
俺たちの推測を受けて、二人はげんなりした様子で顔をしかめた。
まあ、そりゃそうだ。まったくもってその通りである。
やりすぎな上に、片手落ちなんだよな。本当に護衛と言うのであれば、被害が出る前に相手を押しとどめるなり、脅威からかばうなりすべきだろうによぉ。
だがこれは、魔石によってそうなっているもののはずだ。二人を守ることそのものよりも、二人に害を与えたものを制裁したいという形に歪められているのだと思う。
いびつな独占欲を感じるが、しかし最初の出発点は間違いなく、二人を守りたいという使命感だったのではないだろうか。そういうことであれば……。
「使い魔ってのは千差万別で、使い手によって本当にまったく違うんだが……それでも共通点はある。特に自律型の場合、そこそこの確率で搭載されている機能に……撃破された際に使い手へそれが伝わる、ってのがあってな」
「へえ? まさに今回の使い魔にありそうな機能じゃないか」
「ああ。やられたときにわかるようになっていれば、たとえ近くにいなくとも緊急事態だと気づけるからな」
「近くにいないときでも、最低限は安心できるってわけだ。ということは……」
「おう。さっき亜空間に閉じ込めた使い魔を、破壊する。そうすれば、何かしらの形で接触があるはずだ」
かくして、俺たちは相手をおびき出すことを決めたのだった。
今エピソードで登場の三日月姉妹は、ボクの過去作からのスターシステムキャラです。
過去作と言っても小説ではなくゲームなのですがね。名前もそれモチーフ。
まあ原作においては姉妹ではなく兄弟なのですが、そこは細かいことはいいんだよの精神。