異世界帰りのTS転生ロリババア、ひ孫のヒロインになる 作:ひさなぽぴー
相手をおびき出すために、亜空間に閉じ込めた使い魔……ガードマンを破壊する。そう決めた俺たちは今、
「もうちょっとだよセティちゃん!」
「行ける行ける。その調子だよ!」
「「「あーーっっ!?」」」
ゲームセンターなる場所で、クレーンゲームなる遊びに興じていた。今はせっかくアームとやらでつかんだ菓子の箱が健闘むなしく途中で滑落したところで、俺はテイルやシオン共々悲鳴を上げる羽目になっていた。
「くそっ、なんなんだこの機械! いくらなんでも力なさすぎるだろ!! 取らせる気あんのか畜生め!!」
失敗を煽るような素っ頓狂な効果音に、思わず声を荒らげて地団太を踏んでしまう俺だが、まあ待ってくれ。これは何も、方針を転換したわけではないんだ。もちろん、既にすべてやるべきことが終わったというわけでもない。
じゃあなんだと言われれば、ずばり俺の魔石の不調が原因である。先ほどの戦闘から続いているせいで、魔法がろくに使えないのだ。
正確に言えば使えなくはないんだが、そのたびに十数秒の集中と繊細な魔力制御が求められる。そこまでやっても、一回の発動では出入り口の開け閉めだけで精いっぱい。それは色々とまずい。
ガードマンを破壊するだけなら、最悪優一と二人がかりで殴ればできるだろうからその一回でいいかもしれないが……そんな状態では、犯人をおびき出してから必要な戦闘用の亜空間が展開できない。
だが何より、犯人から魔石を除去する手術ができない。これが致命的だ。外科手術が命に関わる行為である以上、ここは妥協できないからな。
となると、魔法が使えるようになるまでは待つしかない、というのが俺たちの出した結論なのだ。
とはいえ、今の俺の状態は長い人生の中でも初めての経験だから、すぐに戻るかどうかはわからない。それに復調したとしても、肝心の除去手術のときにまた不調になる可能性は十分ある。
ただ、それでも魔法がきちんと使える状態になってから動くのが無難だろう……という判断だ。今回の犯人が悪魔化してしまうまでは、まだ一日以上猶予があるはずだしな。
というわけで、唐突に時間を持て余すことになった俺たちだったわけだが。そこでゲームセンターに行こう、と声を上げたのはテイルとシオンだ。
「元々今日は早めに来て、ミニライブの時間までシオンと二人で遊ぶ予定だったんだぁ!」
「ね。どうせならセティも一緒に遊ぼうよ。え、やったことない?」
「大丈夫だよ、ぼくたちもこういうところ来るの今日が初めてだし!」
「一緒に覚えればいいんだよ。ね?」
とのことで。
現代の遊びがどういうものかわからないから、ついていけるか不安はあったが……二人ともやったことがないというなら、悪目立ちすることもないだろう。せっかくの厚意だし、無下にするのも悪い。
そう思って応じたのだが……まさかこんな悪辣な遊びをさせられるとは思わなかった。
これは騙されたのか? という疑心が一瞬脳裏をかすめたが、さすがにそうではないはず。そうであってくれ。
ふー……まあ待て、落ち着け。冷静になるんだ俺。
持ち上げて棒と棒の間に落とすんだ、と二人に教えられるまま操作したが、こいつはもしかしなくても、ただ持ち上げるだけじゃどうにもならねぇやつだな?
貧弱な力に反して、やけに可動範囲が広いアーム。その上下幅……これらを総合して考えるに、こいつは正攻法でやつものじゃないはず。
そう考えながら、筐体の横に回り込む。ここに来れば、アームの前後の位置関係も把握できる。
そしてこの位置についたとき、ちらりと視界に入った優一が感心したような顔をしていたことから、俺は自分の考えが正しいことを察した。
「? どうしたの?」
「何か見える?」
「ああ。大体わかった」
俺の返事に、二人は互いの顔を見合わせて首を傾げている。
鏡合わせでありながら、その向きも瞬間もまったく同じ。一卵性の双子というのは不思議だなとなんとなく思う。
そんな二人を尻目に、俺は筐体に硬貨を投入した。
言うまでもないかもしれないが、これは優一から渡されたものだ。好きに使えとそれなりの額を渡してくれたが、無駄遣いはしないに越したことはない。
だから俺は集中を高め、慎重にアームを操作する。
「え? セティちゃん、それだと持ち上げられないんじゃ」
「そうだろうな」
「じゃあダメじゃん?」
「いーや、これでいいんだ」
絶対につかめない位置にアームを移動させた俺に、双子がやはり揃っていぶかしむ。
そんな二人の目の前で、アームは菓子の箱を持ち上げようとして失敗し……一瞬だけ持ち上げられた箱は、結局ほとんど元と変わらない場所に落ち着いた。
もちろん景品として獲得することはできなかった……が、箱の状態は変わった。今までは横向きの穴に対して垂直だったが、斜めになったのだ。
よし、成功だ。思わずふっとほくそ笑む。
「いやあ、たった二回やっただけでこれの本質に気づくとはさすがだね」
そんな俺の背中に、優一の声がかかる。首だけを動かして後ろに目をやれば、彼は腕を組んで得意げにしていた。
双子と一緒のゲームセンター巡りで、彼はこうやって一歩引いた位置で見守り役に徹している。これは万が一相手の魔導士とばったり顔を合わせたときのためだが、もう一つ別に警戒していることがあるからだ。
何かというと、ガードマンがシオンにもついている可能性を危惧してのことである。召喚系魔法というのは、複数の使い魔を召喚できるものがそれなりにあるからな。
さらにここまでの情報から、今回の相手はテイルとシオンの双子を守ろうとしている可能性が高い。やり方の是非はともかく、使い魔のガードマンという便利なものを、双子の片割れにだけつける可能性は低いだろう?
であれば何かの拍子に……それこそこの人ごみの中、シオンに誰かがぶつかったら使い魔が出てくるかもしれない。優一はそうなったときに備えているのだ。
もちろん、二人に対してガードマンは一体だけ、という可能性もある。しかしそこまで外した推測ではないはずだ。この辺りは俺の経験則からの推測になるから、断言はできないが。
しかし今は、ひとまず目の前のこと。つまりクレーンゲームに向き合うことにしようじゃないか。
「やっぱりか。つまりこいつは、持ち上げるんじゃなくて少しずつ向きを変えていって落とす遊びなんだな?」
褒めてきた優一に問いかければ、彼の反応は笑顔と首肯であった。
「イグザクトリー、その通りでございます。うまくやれば、たぶんあと一、二回で取れるよそれ」
「「えぇっ!?」」
これに驚きの声を上げる双子。その様子が演技とは思えないから、こういうところに来るのは初めて、というテイルの申告は本当なんだろう。
そもそも三日月という姓からして、恐らく二人は財閥の令嬢だ。さらに言えば、俺がいた時代からある……どころか、明治よりも前からある貴族である可能性が高い。
華族制度が現代にも残っているかどうかはわからんが、ともかくこういうところに来たことがないというのも頷ける。
詳しく聞いたわけではないし、彼女たちもそれをひけらかす様子はないが、家に女中や庭師がいるらしい発言からして、外してはいないと思う。
周りに護衛の姿が見当たらない点だけは少し奇妙だが、現代は基本平和らしいし、そんなこともあるかもしれない。
まあだとしても別にかしこまったりはしないが、いいところのお嬢様たちがこういう……人がたくさんいる上に賑やかがすぎるところに喜んで来るというのは、時代の流れなんだろうかな。
なんて思考を振り払って、俺は顎に手を当てて筐体の中を眺めやる。この状態の、前後左右それぞれどの位置にアームを入れればいいかを考えながらだ。
「確かにものを持ち上げて、取り出し口のところに落とすってのはクレーンゲームの元祖だけどね。最近の……というかもうここ何十年も、クレーンゲームはむしろ完全には持ち上げないで位置を変えていくのが主流に近いんだよ」
「ほえー、そうなんだ」
「食品系とかフィギュアなんかは、基本持ち上げられないね。ぬいぐるみとかは結構持ち上げるやつもあるけど」
「普通に持ち上げるやつのが少ないの? いじわるだ」
「まあ仕方ない部分はあるよ。こういうのは時間が経てば攻略法が見つかるものだし、企業としても一回二回で取られると儲けにならないからねぇ」
「「大人はずるい!」」
「はははノーコメントでいいかな?」
背後で行われている優一の解説を聞き流しつつ、俺は次の手を打った。再度硬貨を投入して動かしたアームが、目当ての箱の位置をさらにずらす。
ふむ……恐らくは脇からすり抜けるのを防ぐためと思われる、棒の上まで来た。だいぶ手前まで来ているから、逆に奥の部分は穴に落ちそうになっている。
ということは、次は奥のほうを動かして下にずり落ちるように誘導してやれば……。
「お、取れた」
「「ええぇぇぇぇっ!? すごーい!!」」
箱が落ちて、ごとんという音が響く。これに改めて筐体のほうへ振り返った双子が、歓声を上げた。
彼女たちに応じるようにしゃがみ、筐体下部にある取り出し口からブツを取り出す。青を中心にした装丁に、帆船の絵が描かれている箱だ。
見たところ、チョコレートとビスケットを組み合わせた菓子らしい。まずいはずがない組み合わせだ。これは期待が膨らむな。現代の菓子はまだ食べたことがほとんどないから、楽しみだ。
「お見事」
優一が楽しそうに拍手する。その声と音をかき消すように、双子が左右から俺を挟み込んで抱き着いてきた。
「セティちゃんすっごい! すっごいよ!」
「初めてとは思えないよ! ワザマエってやつだ!」
「お、おう……まさかこんなにうまくいくとは思ってなかった」
「どうやったの!? ぼくにも教えて!」
「ボクも知りたい! もっかい見せてもっかい!」
「ったく、しょうがねぇなぁ」
そこまで言われちゃ仕方ねぇ。二度目も同じようにできるかはわからんが、やれるだけやってみようじゃねぇか。
「景品預かろうか?」
「すまん、頼む」
「ありがとせんせー!」
「お願いね先生」
相変わらず気が利く優一に箱を渡し、俺たちは次の獲物を探して場所を移動し始める。場の雰囲気に馴染む、騒がしい行進だった。
まあ、たまにはこうやって童心に帰って、子供と一緒に遊ぶのも悪くない。結局自分の子供と接する機会なんて今も昔もないままだから、こういうのに少し憧れがあったんだ。
二人は同年代の友人と接しているような雰囲気だが、そこは大した問題じゃない。長く生きていれば、年下の友人なんて珍しいもんでもないしな。
で、そうやって遊ぶことおよそ三十分ちょっと。俺たちは四つの景品を手中に収めていた。なんなら五つ目の獲物を手に入れるべく、三人で順繰りに奮闘している最中だった。
「あ」
まさに硬貨を入れた瞬間である。それまで動かすのに難儀していた魔力の流れが急に整い、普段通りの感覚が戻って来たことがわかった。クレーンゲームが始まった瞬間の、無暗に明るい音楽と重なったこともあって、祝福されているかのようだった。
そしてそんな中で、俺の間抜けな声はやけに響いて聞こえたらしい。優一はもちろん、テイルとシオンの二人も俺に顔を向けてきた。
いや優一は後ろにいて顔は元々向いていたわけだが、こう、雰囲気としてな?
「どうやらゲームの時間はここまでみたいだね?」
「ああ、ようやくだ。これがいつまでもつかもわからねぇし、早速始めようぜ」
「了解。それじゃ場所移そうか」
俺たちの会話を聞いて、双子も事態を察したようだ。遊んでいたときの楽しそうな顔を一転させて、表情を引き締めている。
「遂に犯人がわかるんだね……!」
「ふん、とっちめてやろうじゃん」
「……怯えるよりはマシだが、くれぐれも軽率なことはしないでくれよ……」
やけにやる気に満ちた顔が少し不安でもあるんだが、まあ今回は便所のときみたいな不意の遭遇にはならないはず。
こちらが待ち構える形になるわけだし、二人が下手に首を突っ込まないように誘導する予定だ。
……と、その前に。
「せっかくお金を入れたわけだし、この状態でクレーンゲームを放置するのはもったいないよな」
「……まあそうか。わかった、あと一回だけね」
ということで、一回だけ操作することになった。五つ目の景品が手に入ったので、幸先はいいと見ていいだろう。
こういう話を書いておいてなんですが、もはや汚い大人になってしまったボクは「1万くらい余裕で払うから、その商品すぐにくれよ」って思ってしまいます。
大学時代、友人とつるんで繰り出したゲーセンで、騒ぎながら連コしたプライズはクッソ楽しかったんですけどね・・・(死