異世界帰りのTS転生ロリババア、ひ孫のヒロインになる 作:ひさなぽぴー
読むタイミングにお気をつけください。
改めて自己紹介をしよう。
僕の名前は
現在二十七歳の独身で、今は彼女なし。高校時代に少し付き合っていた子はいるけど、お互い夢に向かって全力疾走するタイプだったのでほぼ自然消滅して、今に至る。
まあ僕の場合、ストライクゾーンが狭いからこそ現在彼女なしである、とも言えるのだけど。
だからこそ、そんな僕がセティと並んで歩いている様子を友人知人に見られたら、こう言われるに違いない。
「いつかやると思ってました」
とね。
失礼な話だけど、同時に気持ちはわかるのだ。何せ僕は確かに漫画家だけど、描いているものがものだから。
それに実際、女児服をひいじいさん……もとい、セティに着せるのが楽しかったのは否定できない事実だ。我ながら結構なハイテンションだった自覚はあるから、親しい人間に揶揄されるのも致し方なし。
何せセティのファッションショーを、一時間弱楽しんだからね……。
「……お前、この家の感じからして子供はおろか嫁もいないよな? なんでこんな子供の服が大量に……」
「作画資料だよ」
「あ、な、なるほど?」
やや引いた様子のセティだったけれど、他意はない。本当に作画資料以外の何物でもなかったんだ、服は。
だけどセティが何を着ても似合うものだから、それ以上の意味を見出しそうになったのも事実。おかげで途中から、彼女に向ける視線によこしまなものが紛れやしないか内心ドッキドキだった僕だ。
「浴衣もあるけど、どうする? セティの世代なら、こっちのほうが馴染みあるだろ?」
「ん……それは確かに、その通りなんだが。動きやすさの観点で言えば浴衣はあまり、だろう?」
「それは確かに。オーケー、それじゃ普通に洋服を……この辺から順に行ってみようか」
「俺は早く飯が食いたいんだが!? ったくしょうがねぇなぁ、ほら着てやっからよこしな」
救いは、途中からセティも案外楽しんでいたことだろう。やはりこのひいじいさん、ノリがいい。
どれくらいノリがいいかというと、カメラ(というかスマホ)を向けられたらドヤ顔でポーズを決めるくらいノリがよかった。それでいいのかひいじいさん、と思わなくもなかったが、かわいいは正義なので僕は許した。たぶんお天道様も許す。
「これがカメラだと……!? ど、どんな仕組みなんだ!? 分解! 分解させてくれ! 少しだけでいいから!」
「だーめーでーすー!」
「そんなご無体な! 分解したいぃ! させてくれよぉ!」
「そんなかわいく駄々をこねてもダメなものはダメですぅ!」
「あぁーれぇーっ」
カメラについてはそんな感じで、理工学部卒らしい好奇心と共に迫られたりもしたけれど。なんなら縋り付かれた。
気になったものに対して前のめりになるのは僕もそうだから、気持ちはわかる。
だから金色夜叉のマネでセティを袖にしつつ(彼女も笑いながら大げさに床を転がっていた)も、自分との共通点を見つけて実は嬉しかったのは秘密だ。おかげでますます好きになってしまいそうだ。
……いい歳した大人二人で何をはしゃいでるんだと思われるかもしれないが、まあ待ってくれ。僕は何も、セティを着せ替えまくって遊んでたわけじゃないんだ。
いやその気持ちがなかったと言ったらウソになるけれど、それでも一番は彼女と打ち解ける時間がほしかったんだよ。
何せ出会い方がものすごく唐突だった。お互いにひ孫と曾祖父ということは理解したけれど、お互いに面識があったわけでもない。
特にセティのほうは、紫乃ばあから聞く機会があった僕と違って、ひ孫のことなんて一切知らない状態だったはずだからね。ただの情報を説明しあうだけじゃない、心を通わせる時間が必要だろうと思ってのことなのさ。
ま、僕のそんな思惑は見透かされていたみたいだけどね。無邪気に振る舞ってはいたけれど、序盤のセティはかなり探るような目をしていたから。
この辺りは年の功ってことだろう。さすがはロリババアである。
「よし、それじゃあこいつを使わせてもらおうかな」
なおそんな彼女が最終的に選んだのは、デニムのショートパンツに、袖や裾がふんわりと広がる白い半袖のブラウスだ。
シフォン生地を思わせる透け感のある素材でできていて、身に着けると夏らしく涼やかな装いになる。ほっそりとした白い腕や足が、実にまぶしくてとてもよい。
さらにせっかくだから、ということでヘアピンまで着けてあげた。いわゆるパッチン留めタイプの上品な黒いやつで、セティの金髪とのコントラストがいい感じになっていると思う。
「どうよ?」
「最高に似合ってる。かわいいの人間国宝」
「ははっ、なんだそりゃ? ま、ありがとさん。この飾り、大事にするよ」
どのみち僕は作画資料にしか使っていないからプレゼントしたんだけど、普通に嬉しそうにしていた。女をやっている時間のほうが長い、というのはマジなんだろう。
というか、着せ替えをしながらそれとなく観察していた感じからして、仕草や立ち居振る舞いが普通に気品あるお嬢様という感じなんだよな。女物の服を着て自身を飾り立てることに、抵抗がまったくない。
口調に反してがさつさを一切感じないし、男らしい迂闊な動きもない。普通に女性と接している気分だ。なるほど貴族の生まれ、というのは事実なんだろう。
この感じからして、やはり性別が変わったことによる様々なイベントは既にあらかた終えているんだろうなぁ。
残念だよ……これじゃただ男言葉なだけの女の子じゃないか。現実にはまだ完ぺきな性転換なんて存在しないから、変わっていく自身の心に振り回されるTSロリの様子を、特等席で余すことなく観察したかったんだが。
「んじゃ、いい加減飯行こうぜ。俺ァもう腹減ってしょうがねぇよ」
「そうだね、行こうか。待たせてごめんな」
「気にしてねぇよ。俺も楽しかったからな」
「く……っ、美少女がすぎる……!」
まあそれはそれとして、普通に見た目がよすぎるので、依然としてストライクゾーンど真ん中であることに変わりはないのだけれど。
白い歯を見せて、にひひと笑う姿のかわいさと来たらね。もうね。本当にかわいい。語彙力なくなる。
ちなみに、そんな新しい装いでウキウキしながら外に出たセティの第一声は、「暑ッ!? もう夜の八時過ぎてるだろ!? なんでこんなに暑いんだ!?」でした。
それはそう。八十年分のジェネレーションギャップを感じる。
何はともあれセティに地球温暖化とかについてあれこれ説明しつつ、夏の夜道を歩く。真夏特有のむせかえる暑さをかき分けるようにして向かう先は、諸々あって行きつけのファミレスだ。
選択肢は色々あったけど、確実に米と味噌汁がメニューにあり、味が必要十分だと保証されていて、この時間に行っても問題にならない店となると、ここが一番都合がよかったからね。家から近くて僕が行き慣れている、ということもある。
まあ、歩くとなると二十分近くは必要なんだけどさ。車を出そうかと提案したものの、セティ曰く「その程度の距離で車? 贅沢言ってんじゃねぇぞ」とのことで。
なるほど確かに。今ほど車が普及していなかった戦前の感覚だと、そういうものかもしれない。昔は今に比べて、歩くという手段が一般的だったわけだもんな。
ただ、シンプルに今の街並みを見ながらがいいという気持ちもあるらしい。そういうことなら、と僕も素直に歩くことにして普段使いしているロールバッグを手に取った。
とはいえ、今は夜。夏とはいえ日は完全に暮れているから、景色を楽しむために最適な時間帯とは言えない。僕はそう思っていたのだけど……セティにとってはそうじゃなかった。
「夜なのに街灯がたくさんある……こんなに明るい……。歩道も車道も全部舗装されてる……! この時間に、あんなにたくさんの車が走ってる……! すげぇ……日本、豊かになったんだなぁ!」
と感動していたものだから、改めてジェネレーションギャップを感じたよ。
念のため車道側を歩いていて正解だ。車道まで乗り出しそうな勢いだったからね。
しかしこれくらいで感動していたら、名古屋や大阪、東京なんてどうなってしまうのか。何かの拍子に見せてみたいところだ。
過去の人間が未来に来たときの生のリアクション、ぜひ色々と観察してみたい。漫画にはリアリティが特に重要なもので。
あと単純に、セティがはしゃいでるところが見たい。
「この並んでるやつ、全部家なんだよな? い、一体何人いるんだ……!?」
「戦後何度か自治体の再編とか合併とかあったから、一概に昔とは比較できないけど……今の真宮市の人口は確か、三十七万人くらいじゃなかったかな」
「さんじゅうななまん! はぁー、信じられねぇけどこの様子からして、マジなんだろうな……。この感じだと、俺がいた頃とは何もかもが変わっちまってるんだろうなぁ。文字通り隔世の感があるぜ……」
けれどしばらくしたら、落ち着いたのか雰囲気が変わってきた。しみじみとそう言ったセティは、少し寂しそうだった。
気持ちはわからなくはない。まだ三十になっていない僕ですら、久々に通りがかった場所が様変わりしていることに対して、そこはかとない寂しさを覚えるのだ。セティならなおさらだろう。
そう思った僕は、手を伸ばしてセティの頭をそっとなでた。見た目通りの女の子にしたら事案かもしれないが、TSロリババアであるところのセティにならまあ許されるだろう。許されてくれ、頼む。
「安心しなよ、八十年前と変わってないところもちゃんとあるから」
「本当か? 八十年前って言ったらお前あれだぞ、俺からしたらアヘン戦争の頃って感覚だぞ?」
「完全に歴史の話なんだよなぁ……本当だっての。そろそろ見えてくるはず……ほら、あれ」
「んん?」
撫でられるがままにしていたセティは、僕が指さした方角に向けて目を凝らした。そして僕が何を示していたのかをすぐに理解したのか、そちらに向けて駆け出す。
「おおーっ、線路! 線路じゃねぇか!」
「そうだよ。東海道本線は八十年前もここを通っていただろ? まあ見た目はちょっと違うかもだけど、建物に比べたら変化は少ないんじゃないか?」
「ああ、違うところもあるけどこれは確かに、あの頃に近い感じがするぞ。はぁー、そうかぁ、全然知らないところじゃないってわかったら少しほっとしたよ」
先ほどとは打って変わって、嬉しそうにため息をつく姿に僕もほっとする。
やはり美少女には、笑顔でいてほしいもんな。そんな僕に同意するかのように、遠くで車のクラクションが鳴っていた。
さて、ここから目的地であるファミレスの近くまで、しばらくは南に向かってこの線路沿いを歩くことになる。十分くらいかな。
その間、二本の電車が横を通り過ぎることになり、それを見たセティは二回とも足を止めて大喜びだった。
「うおー! すげぇーっ! ギラギラしててかっけぇなぁ! 速ぇーーっ!」
はしゃぎ方が男の子っぽいのは、前世の名残かな。すっかり女の子だなぁとさっきは思ったけど、趣味嗜好はそんなに変わっていないのかもしれない。
つまり、メカが好き。
わかるよセティ。男の子はみんな、心のどこかでメカを求めているんだ。求める形が、巨大ロボだったり工業用ロボだったりヒューマノイドだったり、色々分かれるだけで。
しかしそういうことなら、時間を取ってロボット系のアニメとか見せてあげてもよさそうだ。セティは戦争経験者だから、戦争が起こる系のやつは除外するとして……何がいいかな?
「電車ってことは、電気で動くんだよな? 一体どこから電気を供給しているんだ……? え、電線? あの上を伝ってるやつ? マジかよあんなのどうやって作ってるんだ? っつーか材質は? 鉄? 銅? それか合金とか?」
しかしまあ、なんだな。こうやって僕を質問攻めにする様は、やっぱり少女というには違和感がある。構造やら材質やらを考察しながらブツブツつぶやく姿はなるほど、理系の男といった風格があったから。
とはいえ、僕はその違和感が嫌いじゃない。むしろ現実で見たことで、改めてそういうちぐはぐさが僕は好きなんだなと再認識したくらいだ。
「……ん? 待てよ。線路が近いってことは、さっきまでいた家は実家じゃねぇな? もしかして、うちの工場があったところか?」
「お、気づいた? そうだよ。正確には社宅として使ってたところだね。今は建て替えて、僕の仕事場兼自宅として使っているってわけさ」
「そうかぁ! じゃあそのうち実家のほうも見たいな……どうなってるかちょっと怖くもあるが……」
話が結構飛んだなと思いつつ、準備ができたら見せてあげるよと応じる。
まあその準備がいつできるかは、定かじゃないんだけれどね。
だって、セティのことは両親にどう説明すればいいんだ? 息子がどこからともなく身元不明の幼女を連れてきたとなれば、まっとうな親がどうするかは決まっているだろう。
そうだね、通報だね。
本当のことを言う? いやあ無理でしょ。
幼女を指して、この子僕のひいじいさんなんですって言ったところで、正気を疑われるのがオチだ。なんなら初手救急車の可能性すらある。
さらに言えば、実家を見せるに当たっての障害は両親だけじゃない。地元の人たちもだ。
何せ大学を卒業するまで、二十二年間を過ごしたところだからね。僕の顔を覚えているご近所さんがほとんどだから、仮に両親に顔を合わせなくとも下手に周辺を歩き回るだけで、よからぬ噂を立てられる可能性もあるんだよ。田舎の噂は怖いんだ。
「ん? なんだあれ、橋か?」
どうしたもんかなぁとあれこれ考える僕をよそに、セティはまた話題を変えた。無邪気に前方を指しながら、僕を見上げてくる。
「陸橋さ。線路をまたぐ形にかかってて、電車が車の移動を妨げないようになっているんだよ」
「なるほど、電車も車もこれだけ数が多いもんな。そういう工夫が必要ってことか」
「ああ。これから行く店の道中でもあるから、上り切れば線路を上から眺められるよ」
「いいじゃねぇか。俺が光太郎だった頃は、高いところから景色を眺める機会なんて山に登るしかなかったからなぁ」
「そういうことなら、そのうち実家近くにあるタワーにでも行こうか。木曽川沿いに展望台があって、真宮市を一望できるんだよ」
「ほぉー、それも楽しみだな!」
なんて話しているうちに、僕たちは陸橋に上がるところまで来た。さらに数十秒歩けば、陸橋の一番高いところまで来る。
「おぉっ、なかなかいい景色だ!」
欄干に限界まで寄りかかって、セティが歓声を上げた。
反対側から見たら、まるで牢屋に投獄されてるような絵面かもしれない。けれど見た目が子供のセティがやると、そういう不穏さは一切感じられないに違いない。
しっかしまあなんだな。こうやって陸橋から線路を眺める機会って、思えばあんまりなかった。すぐそこにある日常って、なかなか気にしないものだよなぁ。
だけどこうやってじっと見てみれば、これはこれでなかなかに趣があるような気もしてくるから不思議だ。今度昼のうちに、スケッチに来てもいいかもしれない。やるならもちろん、夏が終わってから。
そうこうしているうちに、また一本電車が通過していく。大きな音を立てて走る車両を、二人でのんびりと見送る。
あれは私鉄のほうだな……なんて思っているうちに、電車はすっかり走り去っていった。線路を鳴らす音が、尾を引くようにして遠ざかっていく。
僕たちはそのあとも、少しだけ無言だった。けれど、そろそろいいだろう。
そう思って口を開こうとした、そのときである。かすかな足音が聞こえた。
それに違和感を覚えるまもなく不意に後ろに引っ張られて、僕はたたらを踏む。さらに首に力のこもった手が当てられており、僕の気道が少し締まる。
「ぐ……っ!?」
「優一!? ……ッ、テメェは!」
『おっと、二人とも動くんじゃないよ』
セティが険しい表情を浮かべている。その視線の先に僕も横目で視線を向けて……思わず息を呑んだ。
そこにいたのは、兎だった。
……いや、違うな。人間に兎の要素を足したような、人型の生物だ。きちんと服を着ているところから察するに、いわゆる獣人というやつだろうか。
人間で言えば耳に当たる部分は、いわゆるロップイヤーになっているようだ。俗っぽい言い方をするなら、ほどほどにケモ度があるタイプの獣人と言ったところだろう。
当然、地球上にそんな生物は存在しない。あり得ない。
ということは、セティがいた世界から来たのだろう。それ以外にはあり得ないはず。
ただ、額から黄色の角が生えているところからすると、人間というよりは魔族とか悪魔とか、そういう種族かもしれない。
決めつけるのも失礼かもしれないけれど、僕を人質にするような真似をしているんだ。まっとうな手合いではないのは間違いないだろう。
そんな相手に、首を絞められかけている。その事実を改めて認識して、僕は一気に肌が粟立つのを感じた。
ここまで2話分の話を読めばわかる方にはわかるかと思いますが、主人公である優一は性格がまっとうな代わりにロリコンになってしまった某動かない人、というイメージで大体あってます。
去年書いていた話の主人公がだいぶアレなドMだったので信じてもらえないかもしれませんが、ちゃんと(?)光のロリコンです。
嘘じゃないんです、本当なんですポリスさん! 信じてください!