異世界帰りのTS転生ロリババア、ひ孫のヒロインになる   作:ひさなぽぴー

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第七話 強力な伝手 2/4

 結論から言おう。米はなんとか食えた。えずきながらのギリギリではなく、きちんと食えたのだ。時間は十分以上かかりはしたが、三十分よりは大幅にマシ。

 

 やはり、十六時間以上もの間食べていなかったのは大きいのだろう。いつもは夜七時くらいに食べて、朝七時くらいに食べているからな。

 とはいえ、朝に米を食うために昼の三時以降何も食わないというのは厳しいので、この知見が活かせる機会はないだろう。やっぱり俺はしょんぼりした。

 

 そんな俺を見かねて、優一はこんな提案をしてきた。

 

「魔力で胃腸の働きを強化しながら食べればいいんじゃない?」

「優一……お前天才か? さすがは俺のひ孫だ! 作家先生は目の付け所が違うなぁ!」

「漫画家であることはあまり関係ない気づきな気がするけどなぁ」

 

 いやマジで、それは考えたことがなかった。

 だが言われてみれば確かに、戦争中みたいに魔石を基本励起し続けているときは、いつも快食だった気がする。

 

 よし。明日の朝、早速試してみようと思う。俺は手のひらを返してにっこり笑みを浮かべた。

 

 ……そろそろ本題に戻ろう。

 

 食事の前にあれこれ話していた今日の午後からの用事と言うのは、テイルとシオンの三日月姉妹に会うこと……ではなく、その兄に会うことである。

 双子にも会うが、それはどちらかというとおまけだ。用事が済んで時間が余るなら、一緒にプールで泳ごうと誘われている。

 

 なぜそんなことになったと言えば、経緯はさほど複雑でもない。

 

 まず先日のショッピングモールの事件以降わかったのだが、やはりあのテイルとシオンは日本全国でも有数の財閥……の、分家である三日月家の令嬢であった。いわゆる尾州三日月家である。

 そんな名家のお嬢様が、異世界から来た謎の石によって被害を受けた。となればこれは当事者同士だけで済む問題ではなく、おおよそのところは二人と魔導士であった間森から当主に報告された。

 

 結果、この問題に対処した優一と俺が呼び出される運びになったというわけだ。

 

「ど、どうしようセティ……ザ・上流階級から呼び出しだぜ……!」

 

 優一が声を震わせながら、タブレット端末の画面を見せてきたときは何事かと思ったものだが。これはいい機会だろう。

 

 何せ尾州三日月家と言えば、真宮市においては繊維業で名を馳せた旧家であり、戦前の時代は子爵家として有名な家柄だった。

 つまりは地元の名士である。これは現代でも変わらず、現代においても大企業の創業家として方々に顔が利くらしい。

 魔石や悪魔のことに関して、そんな家の協力が得られるならこれほどありがたいことはないだろう。ここはむしろ、こちらから売り込むくらいの気概で臨むべきだと思う。

 

「落ち着けよ。そんなに心配なら練習でもしてくか? 光太郎時代、尾州三日月家のご当主様とは何度か顔を合わせたことがあるから、しきたりは大体わかってるつもりだぞ」

「マジ? ありがたいけど、うちって貴族と関わりあるような由緒正しい名家だったっけ?」

「いや、単純に家業の元請けが尾州三日月家だったって話だよ」

「あっ、なるほどね!?」

 

 そう、我が家はかつて撚糸業を営んでいた。そして尾州三日月家は、真宮市での繊維業で成功した家。つまりはそういうことである。

 

 まあ、当時と今とで儀礼の内容とかが変わっていたら、どうにもならねぇんだが。そのときはそのときだろう。そう伝えると、

 

「……いやでも、何も知らないよりは、古のやり方でも知ってたほうが心象はよさそう。教えてくれると助かる……」

 

 と、不安そうに応じる優一だった。

 普段はわりとなんでもそつなくこなすやつなのだが、やはり苦手なものはあるようだ。根が小市民とでも言うのか。

 

 とはいえ、異世界のほうじゃグレンセイの家は貴族だったからな。こっちと違って不敬罪で打ち首とか普通にあったから、それに慣れている俺とは感覚が違うのも無理はないか。

 

 であれば、ここは一肌脱ぐべきときだろう。普段あれもこれもと世話になっている身としては、少しくらい恩を返してやらねば女が廃るというもの。

 だから俺は薄くて細い胸をどんと叩き、「大船に乗ったつもりでいてくれていいぜ!」とタンカを切って今日という日を迎えたのだった。

 

「セティ。僕の服、大丈夫かな? ネクタイ曲がってたりしないだろうね?」

「大丈夫だよ、ばっちりだ」

 

 車のまま敷地に入るよう通達されていたこともあって、門で受付を済ませて中に入り、駐車場で降りたところでそんなことを話す。

 

 喝を入れるつもりで背中を叩いてやった優一の姿は、普段とは異なり背広だ。とはいえこの暑さなので、夏用の薄くて軽い生地のものを選んだらしい。

 

 これまで一度も見たことがないいで立ちだが、曾祖父のひいき目抜きに見てもなかなかかっこいいのではないだろうか。

 そもそも優一は結構背丈があるし、足も長い。鍛えていることもあってか立ち姿もきれいだから何を着ても似合うが、こういう儀礼的な装いになるとそれが際立つな。

 

 うん、どこからどう見ても惚れ惚れする男ぶりである。

 

「誰と並んでも見劣りはしないだろうし、気後れすることはないだろうよ。男前だぜ」

 

 そう言ったら彼はひとしきり照れたあと、堂々と振る舞うようになった。俺としても満足である。

 

 一方で、俺も失礼がないようきちんとした装いだ。普段は動きやすさを重視して、子供なら男が着ても違和感の薄いものを中心に着ているのだが、今日ばかりはワンピースである。丸襟で全体的に白いが、薄青のチェック柄が入った涼やかなやつだな。

 これに丸みを帯びた黒い革靴を合わせた。パンプス、というんだったか? 万が一に備えて、かかとがかなり低くてある程度運動もできるものを選んでもらっている。

 

 最初は異世界で儀礼の時に使っていたドレスを使おうかと思ったのだが、現代日本視点で見るとちょっと……いや、だいぶ中世感があるんだよな。

 

 あと何より、コルセットがキツい。おまけに一式そろえると、宝飾品もそこそこの数ついてくる。これがまた重いし、目立ちすぎる。

 俺という人間の背景を説明する上で、異世界の事物があったほうが説得力は増すだろうが、それは魔法を目の前で使えば事足りる。であれば、動きにくい服にこだわる必要はないだろうということで、こうなった。

 

 まあ、久しぶりにスカートをはいたから、少し下半身が心もとないが。

 

「セティは素材がいいから何を着ても似合うけど、だからこそワンピースみたいな王道のファッションと相性いいよね。セティのよさが引き立つっていうか。マジでよく似合ってるよ、超かわいい」

 

 ただ見た目としては完璧だろう。優一も褒めてくれたし。

 まあその、ちょっと……いや結構、照れ臭かったけど。にこりと微笑みながら言うのは、優一らしい言い方を借りるなら、反則ってやつだろ。

 

 でもよくよく考えたら、俺もさっき同じことしたんだよな……。似たもの同士ってことだろうか。それはそれで、ちょっと嬉しいが……。

 

「脇田優一様、セティーア・グレンセイ様、ようこそお越しくださいました。坊ちゃま……若旦那様がお待ちでございます」

 

 そんな俺たちを出迎えてくれたのは、しわ一つないパリっとした衣服に身を包んだ老執事だった。できるご老人、といったたたずまいに、優一も俺も背筋を伸ばす。

 

「どうも、本日はお世話になります。よろしくお願いします」

 

 老執事の案内で敷地内を歩きつつ、軽く周囲を観察していると、隣の優一がこっそりささやくようにして声をかけてきた。

 

「いやー……外から見ることはあっても、この敷地の中に入る機会が来るとは思ってなかったよね……」

「そういうもんか?」

「そういうもんだよ。上流階級の人と付き合う機会なんて、そうそうあるもんじゃないからさ……」

 

 思わずと言った感じの、ため息交じりの声だった。

 

 ふむ。異世界で貴族をしていたこともある身からすると、そこまで広大という感じはしないんだが。

 しかしこちらに戻ってきてから見聞きした現代の街並みの中で、これほどの規模の邸宅と言うのは確かに超豪邸と言って差し支えないだろう。自宅から車でおよそ二十分ほどの場所のこの辺りは、市街地のほぼド真ん中に近い地区だからな。

 

 ただ、そこに俺が知る尾州三日月邸の面影は、一切ない。かつては武家屋敷のような、渋いたたずまいだったが……こちらは完全に洋式だ。当時とは違う場所に建っているらしいから、当然と言えば当然なんだろうが、少し寂しくはある。

 

「……?」

 

 そんな中、俺はふと違和感を覚えて立ち止まった。

 

 何に違和感を覚えたのかがすぐにはわからず、首を傾げる……が、すぐにわかった。涼しいのだ。屋外から空調の効いた屋内に入ったときほどではないが、似たような感覚を味わったのである。

 最初は敷地内に整えられた木々の影響かと思ったが、それにしてはだいぶ涼しいような……。

 

「セティ? どうかしたのかい?」

 

 と、そこに優一が声をかけてきた。立ち止まってこちらを振り返っている。

 

 そうだな、人様の家にお邪魔している状況で、足をとめるのは悪いな。

 俺は改めて歩き出して優一に並び、問いに答えた

 

「いや……なんていうか、この辺りだいぶ涼しくねぇか?」

「ああ、それは僕も思ってた。見た感じ何かがあるわけでもないのに、なんだか妙だよね」

「それでしたら、お二人がいらっしゃる少し前に打ち水をしましたので、その影響かと……」

 

 その会話に、先導していた老執事が入って来た。二人揃ってそちらに顔を向ければ、邸宅の扉に手をかけている執事がにこやかにこちらを見ていた。いかにも好々爺と言ったたたずまいである。

 

 ……打ち水って、そんなに大きな効果のあるものだっただろうか。現代日本の夏の気温だと、文字通り焼け石に水にしかならない気がするが……。

 

 いや逆か。この暑さだからこそ、多少下がっただけでも大きな変化に感じるのかもしれない。

 どちらにせよ、否定で応じるのも角が立つ。優一もそう思ったようで、素直に頭を軽く下げていた。

 

「そうなんですか。気を遣っていただいてありがとうございます」

「いえいえ、これくらいどうということは。さ、どうぞお入りくださいませ。ご遠慮なさらずに」

 

 そうして俺たちは邸宅内に招き入れられたのだが、まず俺たちを出迎えたのはテイルとシオンの双子だった。

 

「せんせー、セティちゃん、いらっしゃい!」

「待ってたよ。こっちこっち」

 

 以前会ったときと同じく、髪型を左右逆にしているくらいでほとんど見分けのつかない二人が、左右から俺と優一を挟んで手を取って来た。

 そんな二人に、老執事がため息交じりに声をかける。

 

「お嬢様がた、わたくしめの仕事を取らないでいただきたいのですがな……」

 

 字面だけを見れば苦言を呈するものだが、実際は執事はにこにこと微笑んでいるし、語調も穏やかだ。これはあれだ、孫を見るじじいの顔だな。

 二人もそれをわかっているからか、ろくに堪えた様子も見せず俺たちの手を引くばかりだ。

 

「いいからいいから、ぼくたちに任せといて!」

「そうそう。じいやはもう歳なんだから、ゆっくりしててよね」

「ほっほ、そういうことでしたら、お任せしてしまいましょうかねぇ」

 

 うん、やはり孫を見るじじいだ。

 俺も死なずにまっとうに生きていれば、優一にこういう接し方をしていたんだろうか。いやでも、その出会い方だと、今みたいな関係にはなってはいないか。どちらがいいかと言えば、俺は……。

 

「こっちにうちのプールがあるんだよー。冬でも使える温水プールなの!」

「お父さんのリハビリ用に作ったんだよね。ついでに遊べるようにしてもらったんだ」

 

 そんなことを考えている暇もなく、俺たちは双子に連れられて屋敷の中を案内された。

 どうしたものかと優一を見たが、彼は滅多に見られない超高級住宅の内装や調度品に夢中だった。懐に入れていたメモ用紙を、メモではなくスケッチで埋めていやがる。クソ漫画家がよぉ……。

 

 ちなみに、お任せしてしまいましょうかねぇと言いつつ、老執事はこっそり後ろからついてきている。客である俺たちに、あるいは双子に何か起きたら、すぐさま飛び出してこれる位置をずっと維持しながらだ。

 その気配の消し方は見事であり、自らの魔法の都合上空間把握能力に秀でる俺でなければ、気づけなかったであろうほどである。双子は歳なんだからと言っていたが、どう考えてもまだ現役だ。

 

 この間の間森といい、三日月家に仕えている連中はみんな何らかの達人ばかりなんだろうか。俺が知らないだけで、戦前もそうだったのだろうか。

 そんな老執事から見て、優一があちこちスケッチしているのはどう見えているのだろうか……。

 

「「用事が終わったら一緒に泳ごうね」!」

「わかったよ、時間があったらな」

「約束だよー!」

「色々用意しとくから」

 

 しかしまあ、双子はのんきだなぁ。湿っぽいよりはいいんだろうが。

 直近の目的地ではなく、それが終わったあとに行く予定のプールをまず案内するのものだから、老執事がやれやれと肩をすくめるのも無理はない。

 

 ま、これはご愛敬だろう。プール自体はあとあと使わせてもらうかもしれないからまったくの無駄というわけでもないし、寄り道は最小限だったからな。

 

「はい着いたよ!」

「ここがお兄ちゃんの書斎だよ」

 

 そうしてようやく案内された目的地は、書斎だった。壁際に設置された本棚には様々な書籍が並んでいて、圧巻である。

 また室内に設置された机は、地球向けの審美眼をろくに持たない俺にはよくわからないが、恐らく高級な木材が使われているのだろう。美しく温かい光沢が映える黒は、実に重厚である。

 

 そんな机に向かって、パソコンを操作していた若者が一人。彼がテイルとシオンの兄で、現在尾州三日月家の多くを取り仕切っている若旦那だろう。

 

九朗(くろう)兄さま! お連れしたよー!」

「じいやはしんどそうに歩いてたから、休ませといたよ」

 

 九朗という青年に、双子が左右からとびかかる。彼の両腕をそれぞれつかみ、ほめてほめてと言わんばかりに顔を輝かせる様は、なんだか犬のようだ。

 

「おいおい、お客様の前でそういうのはやめろっつったろうが……まったくもう。こら、離れなさい」

 

 九朗氏は、苦笑して嗜めながら立ち上がった。続けてゆるゆるとこちらへやってきたが、すぐさまその両隣を双子が占拠する。離れてすぐにまたくっつく辺り、相当懐いているのだろう。

 

 正面から見た九朗氏は、双子によく似た美丈夫だった。双子同様に西洋の血を感じる、涼やかな顔立ちの好青年である。まあ俺は優一のほうがいい男だと思うが。

 

 しかしその首から下は、ものすごく鍛えられていると察せられる。こちらは優一と比べてもそん色ないどころか、上かもしれない。

 優一の一張羅以上に仕立てのいい背広を身に着けているが、筋肉を隠しきれていないぞ。

 

 しかもあれはかなり実戦的なやつだ。絶対強い。これは双子も、さぞかし頼りがいがあるだろう。

 

「初めまして、脇田先生。グレンセイ嬢。三日月九朗だ。……お忙しい中お呼び立てしたというのに、こんな状態で申し訳ない」

「いえその……なんというか、ご兄妹仲良さそうで、何よりと言いますか……」

「おかげさまで……女の子がはしたないぞと常々言ってはいるんだが、なかなかのお転婆で。……ほら二人とも、あとにしなさい」

 

 優一とそれだけの会話をしている間にも、テイルとシオンは九朗氏にべったりだった。仕方ない、と言いたげに九朗氏が促して、ようやく双子は彼から離れた。

 

 そんなやり取りも嬉しいのか、双子は揃って「はぁーい」と笑顔を返す。続けて踵を返した二人は俺に向き直ると、

 

「じゃあまたあとでねセティちゃん!」

「プールで待ってるからね」

 

 それだけ言って手を振り、ばたばたと部屋から飛び出して行った。お嬢様らしからぬ勢いであり、扉もまたバタンと音を鳴らしていた。

 

 彼女たちの余韻が残る中、九朗氏は苦笑したまま肩をすくめる。

 

「……ね? 本当にお転婆で……そういうところもかわいいもので、あまり強く言えない俺……おっと。私も悪いんだろうが」

「いやまあ……子供は元気なのが一番と言いますし」

「そう言ってもらえるなら幸いだが……先生がたに迷惑かけちゃいないかな、あいつら」

「大丈夫ですよ、何もありませんでした」

「むしろ私のほうが気を遣っているところもあるくらいで……」

 

 優一と俺の回答に、九朗氏はどこか安心したように息をついた。その瞬間の顔つきは、どこか優一と似ていて……ああなるほど、彼もまた優しい男なのだろうと思うなどする。

 であれば双子があれほど懐くのも、無理はないかなと思いつつ……俺は、もとい俺たちは、九朗氏に促されてソファに腰を下ろした。

 




以前に登場した三日月姉妹はスターシステムキャラだとあとがきで言いましたが、今回登場した彼女たちの兄、九朗も同様に他作品からのスターシステムキャラです。
姉妹と同じ作品からの出張キャラですね。三人ともお気に入りのキャラなので、今回のように単発ではないキャラとして再利用した形。
サブキャラを考えるのがめんどかったとか、決してそんなことはありませんので・・・ええ・・・!
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