異世界帰りのTS転生ロリババア、ひ孫のヒロインになる 作:ひさなぽぴー
「なるほど……異世界からの外来種、か……大体理解した」
一通りの説明を終えて、九朗氏は顎に手を当ててうなった。
普通であれば信じられるような話ではないから、彼も当初は半信半疑という様子をにじませていた。しかし俺の魔法であれこれ実演して見せてからは、真剣な面持ちに変わっている。
「おっとすまない、言い忘れていた。礼を言わせてくれ。妹たちのみならず、間森まで助けてくれて本当にありがとう」
続けて九朗氏は、深々と頭を下げた。名家の若旦那が、一般人にするにはかなり思い切った行動と言える。
しかしこれは想定の内なので、俺はもちろん優一もうろたえることはない。お気になさらずと返して礼を受け取り、顔を上げるように促した。
「……それにしても、とんでもなく厄介な生態だな。しかも基本的に不可逆な変化とは……」
「途中であれば除去できますが、場所によってはそれもできませんしね」
「魔石を埋め込まれたことに気づかずに亡くなってしまう、というのも厄介だ。ここ数日のニュースでやってる不審死、さてはこれだな?」
「その通りです。なんとかしたいのはやまやまなのですが……」
九朗氏が指摘した通り、ここ数日テレビでは不審死の報道が複数上がっている。いずれも原因不明の突然死であり、司法解剖の結果体内から謎の石が見つかったというものである。
最初のうちにもあった報道だが、最近になってにわかに数が増え出している。
間違いなく魔石に適合できなかったがゆえの死であり、その報道を見るたびに俺は悔しさと無力さに打ちのめされる気分になる。
しかし落ち込んでばかりもいられない。魔石との適合確率を考えれば、その倍近い数の魔導士がいる可能性が高いのだ。
亡くなってしまう人を減らすことはもちろん大事だが、魔石を拡散する存在の数を増やさないことも大事だ。であればこそ、まず何より元凶となる悪魔どもを見つけ出さなければジリ貧になる。
「ですので、どうか三日月家の力をお借りしたいのです。我々が個人で動くのにも限界が」
「もちろんだ。この件に関しては全面的に協力させてもらう。関係各所との折衝はもちろん、情報収集や精査は任せてくれ」
俺の言葉に、九朗氏は力強く頷いてくれた。実に頼もしい。
「差し当たって、何から手をつければいい?」
「であれば、まずはこいつについて調べていただきたいのですが……」
促されて、優一がスマホの画面を見せる。映っていたのは、以前に足取りを追ったトカゲの悪魔の写真だ。
あの日以降、トカゲの悪魔の足取りは追えていない。ニュースで報道されはするから毎回目撃地点に行くのだが、そのたびに暗渠に逃げられてしまって見失うのだ。トカゲとしては大型だが、暗渠のような隙間に入れる程度の大きさだからな。
おまけに悪魔化しているということは、知能なども上がっているはずだ。先日のリア号のようにな。だからたびたび暗渠に入るのも、俺を警戒してのことなのだと思う。
しかし他の悪魔がどこで何をしているのか現状わからない以上、手がかりはこいつしかいない。早くなんとかしたいところなのだが……。
「これまた先日ニュースになっていた新種のトカゲじゃないか。本当にまったく見たことがない種類だなと思っていたが、これも異世界産なのか……」
「ええ。既に悪魔化した個体なので、見つけても下手に近づかないでください。どんな魔法を持っているかはわかりませんが、危険であることは間違いないですから」
「魔法がなくとも、魔力だけですさまじいパワーを発揮するんだったな。わかった、その点も含めて市内を調査させよう」
俺の補足に再度頷いた九朗氏は、ここで一旦言葉を区切った。続けて懐から名刺を取り出し、俺たちの前に提示する。
「これが私の連絡先だ。何かあれば、私がここから連絡しよう。登録しておいてくれ」
「ありがとうございます、非常に助かります」
とは言いつつ、俺は自前のスマホを持っていないし、使い方もまだよくわからないから、そのまま優一へ渡す。
彼もその辺りの役割分担は承知しているから、すんなり受け入れて頭を下げた。
ただそれはそれとして、随分と太いコネクションができたことに、小さいながらも衝撃を受けたような顔つきもしていた。次期当主直通の連絡先となれば、気持ちはわからなくもない。
「もちろん、お二人のほうで何か進展や伝達事項などあれば、いつでも連絡してくれて構わな──」
「せんせー!」「セティ!」
そのときだった。書斎の扉を、テイルとシオンが勢いよく開け放って入って来た。
ノックもなしの所業に、九朗氏が顔をしかめた……が、すぐさま引き締めなおした。俺と優一も似たようなものだ。
なぜなら、双子の顔が鬼気迫るものだったからだ。
「どうした、何かあったのか?」
「うん、大変なんだ!」
「外が……寒いんだよ!」
そうして放たれた言葉に、俺と優一は顔を見合わせた。次いで九朗氏も、同じようにして俺たちに顔を向けてくる。
彼に視線と頷きを返し、俺と優一は立ち上がった。
***
「……っ、なるほどこいつは異常事態だな」
庭に出た時点で、はっきりとわかる。明らかに普段の夏の暑さではない。
昼の天気予報でも、今日の予想最高気温は三十九度と言っていた。一日で一番暑い今の時間帯であればその周辺の温度であるはずなのに、そうはなっていない。半袖か長袖か迷うくらいの気温だ。どう考えてもおかしい。
これが戦前なら、大外れすることもままあったが……現代の科学力はすさまじく、天気予報はかなりの確率で当たるものだ。外すこともないわけではないが、バカみたいな外し方はしないのだから、魔導士によるものと見てまず間違いないだろう。
となると、俺がここに来たときに覚えた違和感はその前兆だったわけか。くそ、もうちょっと早く気づいていれば後手に回ることもなかったかもしれないのに。
「今回の敵の魔法は冷気系なんだろうなぁ……」
思わずと言った様子でつぶやく優一に頷きつつ、一旦三日月家の敷地の外へ出る。敷地が広い上に、壁が視界をふさいでいてどの辺りで異変が起きているのかわからないのだ。
が、外に出たらわりとすぐに察しはついた。北のほうに、霧が滞留していたからだ。急激に気温が下がったせいで、霧が発生したんだろう。
それを見とめて足を止めた俺たちの隣に、九朗氏が並ぶ。そこそこ本気でここまで走ってきたのだが、一切遅れることなくついてきたようだ。
しかもまったく息切れしていない。やはりこの青年、相当鍛えているな。
「原因自体はお二人に任せるしかないんだろうが……人払いはしておいたほうがいいか?」
「お願いします。もし巻き込まれて逃げてきた人がいれば保護と、可能であれば情報が下手に拡散しないようにしていただけると……」
「承った。うちの使用人たちを動員するから、こちらは任せてくれ。お二人とも、ご武運を」
それだけ交わして、九朗氏はスマホを取り出しつつきびすを返した。
一方俺たちは、そんな彼に背中を押されたように駆け出す。
二人とも、既に魔石は励起済み。魔力を帯びての疾走は、それこそ馬にだって劣らない速さで市街地を駆け抜けることができる。
「優一、こっちのほうには何があるんだ?」
「あの感じだと、百七十一号線より北のはず……だとしたら住宅街だったと思うけど」
「住宅街……まずいな」
つまり、人が多くいる場所ということになる。この異変に遭遇した人間が多いとなると、解決した後も色々と面倒になるぞ。
あとそもそもの話、この規模で気温が下がっていることを考えると、震源地はもっと低温になっているだろう。その周辺人口密集地帯となると、被害も相応に増えるはず。
下手したら、氷像になっちまっている人もいる可能性がある。どうしたものか。
「……いや、現地に行ってみないとわからねぇ話をあれこれ考えても仕方ねぇな。まずはあそこに行くことが先決だ」
「そうだね、急ごう!」
途中、結構な交通量がある道路に差し掛かったが、今は急ぎだ。二人とも下半身に魔力を集めて跳躍し、行き交う自動車の上を通り抜ける。
そうして震源地が近くなってくると、いよいよ気温は異常事態となっていく。周辺に漂う霧には、小さいながらも氷の結晶が混じり始めた。
視線の先には霜が降りているところもある。もはや真冬の光景だ。
となれば、誰だって異変に気付く。周囲の人々は混乱のあまり、騒ぎになっていた。
また当然の話だが、この環境下で夏の装いは明確に不釣り合いだ。居合わせた誰もが、身を震わせている様子が見える。
「みなさん、できるだけこの辺りから離れてください! 南のほうに行けば、三日月の若旦那が受け入れてくれます!」
優一がそんな人々に声をかけていく。それで動き出す人はほとんどおらず、変わらず混乱している人ばかりではあったが、一人、二人と離れていくにつれてそれに追随する人が出始める。
場の空気に流されていると言ってしまえばそれまでだが、今はそれでも十分だ。とにかくここから離れて、異変に巻き込まれないでいてくれないと俺たちとしてもやりづらいのだ。
そんな中、他と比べても明らかに濃密な霧に覆われ、霜どころか氷にまで覆われつつある建物が見えてきた。それを見た優一が声を上げる。
「あれは……そうか、技能教習所があったな」
「技能教習所?」
「クレーンとか溶接とか、主に製造業で使う技能を教えるところだよ。あちこちに色んな会社が置いてるけど、あそこはこの辺りで一番大きいやつのはず……」
「溶接……そいつは興味深い話だが、今は後だな。入るぜ!」
「了解!」
恐らく既に氷点下になっているだろう敷地に二人で踏み込めば、視界に飛び込んできたのは急激な温度変化にやられて動けなくなった人々の姿だった。
製造業で扱う技能を教えるところだからか、見ただけの印象では男性がほとんどのようだ。彼らの多くが霜に覆われ、場合によっては氷で地面に縫い付けられてしまっている人すらいる。
予想した最悪、つまり氷像になった人間はいないようだが、この様子だと誤差みたいなものだろう。
何せ本来なら夏のはずで、巻き込まれた人たちの多くは薄着。そんな状態でこれは、多少違ったところで命に関わることには変わりない。
「……救助が先かな」
「そうだな。だが氷に捕まっちまった人らは、下手に動かせねぇぞ。氷ごと皮膚がめくれかねない」
「大丈夫、それについては考えがあるよ」
俺がどういうことだと問いかける間もなく、優一は手近な位置にいて最も重傷と思われる男に駆け寄ると声をかけた。震える弱弱しい声だけが返ってくるが、優一はそれに応じながらも、男の身体を覆っている氷に触れて魔力を込めた。
「僕の体温を、『コピー&ペースト』」
するとどうだろう。男を覆っていた氷が、一瞬にして水に溶けたではないか。
その様子を見て、なるほどと得心する。
優一の魔法は、何かの要素を付与する魔法。その効果は魔法が発動した瞬間から十全に発揮され、少しずつ変化するということがない。
つまり、熱が奪われる冷却現象と関わることなく、対象に特定の温度を一瞬で付与できるのだ。
言うまでもなく、水の融点は約零度。体温程度の温度が一瞬にして付与されれば、氷が即座に水となるのも当然ということだろう。
仕上げに男性を俺の亜空間に入れれば、ひとまず当座の危機からは離れられたはず。亜空間は基本的に実空間から隔離されているから、温度などの影響も受けないからな。
「僕が溶かして回るから、セティは保護を頼むよ」
「おう、任せろ!」
あとはこれを繰り返すだけだ。繰り返しつつ、喋る余力が残っている人からは聞き取りも行う。
しかしそうしている間に、魔導士が攻撃を加えてくることはなかった。姿を見せることも。
……いや、攻撃はある意味受け続けているか。何せ俺たちが救助をしている間にも、どんどん気温が下がり続けているのだから。
直接的に攻撃されたわけではないが、これを攻撃と言わずして何と言う。
ただそれはそれとして、魔導士らしき人物の姿が見えなかったことは間違いない。最初は隠れていて、奇襲を狙っているのかと思ったが……聞き取りを重ねた結果、そうではないらしいということがわかった。
どういうことかというと、
「……マジで?」
「大マジだろうよ。分厚い氷で阻まれてわかりづれぇが、集中して探れば確かに、あそこから魔力を感じる」
「……魔法を発動した人間が、いの一番にやられることなんてあるんだね……氷山に埋もれてるじゃないか……」
……ということである。
今回の相手の魔法は、「魔法はその人の経験や趣味嗜好が反映される」という設定を考えたときに最初に思いついた魔法です。
いやー・・・マージで最近の夏、暑いですよね・・・早く冬になってほしいですわ・・・。