異世界帰りのTS転生ロリババア、ひ孫のヒロインになる   作:ひさなぽぴー

6 / 13
第二話 彼だった彼女いわく 2/4

「順を追って説明する。まず、お前が投げつけられたものは魔石という」

 

 この後にやる処置のために、広い部屋へ移動しながら俺は説明を始める。

 同時に手持ちの研究資料の中から、魔石の写真を見せてやる。赤や青、黄色といった様々な色の魔石が複数並べられている写真だ。

 

 実物? バカ言え、こんな危険物を目の前に出すわけにはいかないだろ。

 何が危険なんだって? それはこれからする話だ。ちょっとだけ我慢してくれや。

 

「へえ、異世界にもカラー写真ってあるんだな。魔法の石ってことかい?」

「違う、悪魔の石だ。悪魔を生み出す石」

 

 俺の返答に、優一は一瞬足を止めた。

 が、すぐに歩みを再開する。俺を先導しながら、視線で続きを促してきた。

 

「俺が転生した世界で、千年以上前に空から降ってきた……と言われていてな。要するに宇宙から来たモンだと思われるんだが……石、という名前に反して一種の寄生生物でな」

「……オーケー、大体わかった。いや、どこからどう見ても宝石にしか見えないこれが、実は寄生生物ですっていうのはちょっと信じられないけど。冗談言うような場面でもないし、それが事実だと仮定して、体内にあるのが大変よろしくないってことはわかったよ」

「理解が早くて助かる。そこをまずは承知してもらわねぇと、話が進まないからよ。何せ魔石に寄生されると、三日ないしは五日くらいの期間を経たあとおよそ六割の確率で死ぬから……」

「予想以上に危ない代物だな!?」

 

 信じたくない、と言わんばかりに優一が声を上げる。

 気持ちはわかる。俺も初めてそれを聞いた時、同じことを思ったからな。

 

 だが残念ながら、この劇物の危険性はそれで終わりじゃない。

 

「生き残ったとしても、寄生が進んでやがて意識を乗っ取られて悪魔になる。見た目はそのままに、人類の敵対者になるわけだ」

「最悪じゃないか!?」

「最悪なんだよ。誇張なしで」

 

 悪意の塊みたいなブツだよ本当に。とてもじゃないが、自然発生したものとは思えない。

 

「……待った、待ってくれ。さっき寄生生物って言ったな? ってことは、そこから増殖する仕組みをお持ちでいらっしゃる?」

「いい質問だな。答えは是だ。悪魔の体内にある魔石は、定期的に株分けして魔石を生み出す」

「カスの極みみたいな石! マジで悪魔の石じゃないか!!」

 

 全面的に同意する、ということで俺は大きく頷いた。人に説明するたびに改めて思うが、本当にカスみたいな代物だと思う。

 石自体は磨き抜かれた宝石みたいな、きれいな見た目をしているからタチが悪い。こんなの知らずに見たら、大体の人間は手に取るに決まってるんだよな。

 

 確か、地球にも昆虫の行動を支配する寄生虫とかがいるらしいみたいな話を聞いたことがあるが、危険性と厄介さはその比じゃないだろう。何せ魔石は、生き物であればなんでも寄生してしまうからだ。

 

「セティのいた世界の人類、よく今の今まで存続してたな……」

「魔石が降ってきた当時と比べると、生存圏はかなり狭くなったって話だぜ」

「でしょうよ。異世界怖……僕は地球人で良かったと心底思うよ。と、言ったところでリビングだけど、ここで大丈夫かな? ここなら、血が飛び散っても困るようなものは置いてないし、あれくらいのソファなら作業にちょうどいいんじゃないか」

 

 到着したのは、どうやら居間のようだった。俺の知っている居間とは様子がまったく異なるが、確か欧州の居間はこんな感じだった気がする。

 

 ただ、どういうものなのか皆目見当つかねぇのがあるな。壁際の台らしきものに置かれた、黒くて平べったい板のようなものは一体なんなんだ?

 しかも足らしきものがついて、立っている。どういう調度品なんだ、アレは? すごく気になる。ソワソワしてきた。

 

 いや、それは今は考えないでおくとして……俺は優一が示した布製と思しき椅子。ソファ? とやらを見た。

 なるほど、これなら手術台の代わりにできそうだな。俺と優一の身長差を考えると、座布団か何かがあればちょうどいいくらいの高さになりそうだ。

 

「これ使う?」

「使う使う。助かる」

 

 それを察したのか、何も言わずとも優一は座布団を差し出してきた。気が利くじゃねぇか。

 

「了解。他に何かいるものある?」

「いや、あとは大丈夫だ。必要なものはこっちで持ってる」

 

 言いながら俺は虚空に取り口を開き、こういうとき用に持っている手術道具一式と、今後の処置に必要な機材を中から取り出した。

 

 もちろん俺が持つ魔法の一環だが、魔法がないこの世界ではありえない挙動だ。優一も驚い……て、ねぇなこいつ。

 

「なるほどディメンション、ね。実空間とは別の空間を作って、そこにものを保管してるとかそんなところかな」

「……お前、あっちの世界から来た人間ってわけじゃないんだよな? それとも、こういう力も今の世界じゃ珍しくないのか?」

「お話の中のことではあるけどね。まあ、定番だよ」

「て、定番なのか……そうか……。頼もしいやら恐ろしいやら……」

 

 道具を使う順番に並べながら、俺はぼそりとつぶやいた。

 

 魔石の仕組み、そして悪魔の存在、魔法の由来を考えれば、そうした知識のある人間が多いと言うのはちょっとな。仲間なら心強いが、敵に回したときどうなることか。

 

 ……いや、今はそんなことを考えている場合じゃなかったな。

 

「まあそれは置いといて……今から俺がやるのは、まず魔石制御装置の埋設だ」

「魔石制御装置の埋設」

 

 おうむ返しに言いながら、優一は俺が示したソファにひとまず座った。

 俺が小さいこともあって、こうしてもまだぎりぎり俺のほうが視線が低い。とりあえず足元に座布団は敷いたものの、俺は立ったまま話を再開する。

 

「前提から順に話すんだが、体内に入った魔石の摘出は外科技術があればできる。俺もできる。ただ、すべての魔石が摘出できるわけじゃない。脳とか心臓とか、肺とか……そういう重要な臓器の近くに入っちまった魔石は、簡単にはいかないわけだ」

「ああ……魔石を取り除けても、肝心の臓器が傷ついたら死にかねないから……。うん……僕はちょうど、左胸に受けたな……。心臓に近い位置だ……」

「そういうことだな。さらに言えば、魔石は不随意筋には根を張りやすいという性質があってだな……。その……特に心臓は不随意筋の塊みたいなモンだから……さっき間もなく死ぬかもって言ったのはそういうことでな……」

「あっ、三日ないし五日。なるほど。僕、魔石を植え付けられてもうすぐ三日が経つな……。しかも場所が場所だから、()()が早い可能性が高い、と。つまりお手上げってわけだ……」

 

 俺の説明を受けた優一の目が、すぅっと遠くなる。本当、もう一度言うがクソみたいな代物だよ。

 

「……いやでも、待てよ? セティ、魔法で時間を操作できるんだろう? それでどうにかならないのか? ほら、僕の身体を一日二日戻すとか!」

「よく気づいた……と言いたいが、魔石と周辺の体組織には魔法の効きが著しく悪くなる、って性質もあってな……」

「はいクソー! 詰んでますわ!」

 

 優一が両手を開きながら天井を仰いだ。吐き捨てるような口調だった。

 

 そうだろ? こいつ、マジで死ぬほどたちが悪いんだよ。俺に限らずすべての魔法で当てはまるから、どうしようもないのだ。

 

 位置を入れ替えるとか、対象を停止させるとか……きちんと効果が通るなら、魔石摘出に使えそうな魔法はいくつか知っているんだがなぁ。

 一応効果がないわけではないから、膨大な魔力の持ち主なら通すことはできるが……それができる使い手なんて、異世界中を探しても片手で足りるくらいしかいないだろう。

 そして俺は、その中に入らない。上から数えたほうが早いのは間違いないが、それでも足りないのだ。

 

 とはいえ、利点が一切ないわけでもない。魔石とその周辺に対する魔法効果をほとんど受けないということは、そこで魔法を防御できるということでもあるからな。

 先の兎の獣人みたいに、魔石が体外に露出しているやつであれば、それなりに有用だったりする。あいつみたいに額にあると使いづらいだろうが、使えるやつは結構積極的に使うから、そういうやつの相手は面倒だ。

 

 ……話を戻そう。優一から魔石を摘出することは不可能である、という話の続きだ。

 

「で、でもあれだろ、セティがなんとかしてくれるんだろ?」

「ああ。取り除くことはできねぇが、死ぬのを防ぐことはできる。絶対なんとかする、俺がお前を死なせやしない」

「……うん、わかった。信じるよ」

 

 少し上ずった声で聞いたきた優一に、俺は断言する。

 直後、俺に向けられていた視線が和らいだ。緊張が抜けて、いい具合に脱力したのだろう。

 

 同時に俺も、知らずのうちに握りこんでいた拳をほどく。

 俺を信じてくれたことに、ほっとしたようだ。優一にとっては未知も未知、信じるに足る証拠や情報なんてほとんどない中だからな……断られたらどうしようとか、無意識に思っていたのかもしれない。

 

 それでも、優一は信じてくれた。もしかしたらまだ半信半疑かもしれないが、それでも。

 

 であるなら、俺がすべきはこの信頼に応えることだろう。口にも出したが改めて、絶対になんとかしてみせるんだと気合を入れる。

 

「んで、だ。これが魔石制御装置だ。今からこいつをお前の身体の中に埋め込むわけだが……」

 

 そうして俺は優一をソファに寝かせつつ、虚空から新品の魔石制御装置を取り出して眼前に掲げて見せた。

 一見すると、金属製の豆本みたいな形の小型機械だ。こいつを開いて、魔石を包むような形で組み込むのが埋設手術の大まかな方法になる。

 

「が、そのためには当然、身体を切り開く必要がある」

「なるべく考えないようにしてたけど、やっぱりそうなんだな……」

「そりゃあな。魔石みたいに、勝手に身体の中に入っていくなら楽だったんだが」

「ええ……魔石ってそんなことまでするのかよ……。話聞くたびに最悪の上限を更新していくの、嫌すぎる……」

 

 ちなみにだが、一時間もあれば体表から体内に完全に入り込む。場所によってはもっと短い。

 本当に最悪な惑星外生命体だと思う。今すぐこの世から消滅してほしい。

 

 そんな内心を乗せて、俺は取り出したばかりのメスを軽く振って虚空を裂いて見せた。魔石にまつわる問題はそんな簡単に切り裂けるものでもないわけだが、せめて心意気くらいはな。

 

「……あの、ところでセティさん? 切り開くのはいいんだけど、麻酔とかって……」

「薬としてはないが、代わりはある。心配すんなよ」

 

 安心させるために努めて優しく言いながら、()()()()()()()()()()()()()。途端に魔石が活性化し、体内を巡る魔力量がグンっと上がる。

 ただし戦闘をするわけではないから、体外にまで放出して身体を覆ったりはしない。それでもこれからうやる魔法の使い方は、きちんと魔力の巡りが整っている必要があるからな。きちんと励起しないといけない。

 

 まあどっちにしても、今はこれが限界なんだけどな。過剰励起による魔力枯渇から復帰したあとって、ろくに魔力を出せないから。

 やってやれないことはないが、普段よりも魔石にも身体にも負担がかかるから、極力やりたくない。いわんや過剰励起をや。

 

「……? なあセティ、もしかしてもう何かやってる?」

「お、気づいたか? ああその通りだ、魔法を使う準備をしてるのさ。具体的には、魔力を練ってるところだ」

 

 魔法の起こりに気づいた優一に、俺は実演するように魔力を体外に少しだけ放出する。さっきも言った通り、これからの手術でここまでする必要はないんだが……優一が魔力に気づけたと言うなら、やる意味はある。

 現時点で本当に魔力が感じられるなら、それは小さいながらも朗報だからだ。

 

「なんか……こう……白っぽい靄みたいな……? セティの身体を包み込んでる感じか……?」

「おお、マジでわかるんだな。なら最低限、魔石で死ぬことはないだろうよ」

「え、お、そ、そうなのか?」

 

 そうなのだ。俺は頷いた。

 

「魔石に寄生されると六割くらいで死ぬって言ったろ。つまり四割は死なないわけだが……この死なずに済んだ人間は、魔力に目覚めていずれ魔法が使えるようになる。これをあっちの世界じゃ、『魔石に適合する』と呼ぶ」

「……つまり、僕は魔石に適合したってことか」

「ああ。適合した人間は、他人の魔力も見えるようになる。魔石の悪影響が出る前に見えるようになる例はあまり多くないが……それでもすごく珍しいってわけでもない。見えたなら確実に適合したってことだから、制御装置を入れる前に死んじまうことはなくなった。そこは安心していいぞ」

「そ、そっかぁ……よかった、いやぁ、実は内心めちゃくちゃビビってたものでね。首の皮一枚繋がったかぁ!」

 

 わかりやすく喜色を浮かべて優一が笑う。俺もほっとしたよ。小さいが、本当に朗報だ。

 

 まあ最悪じゃなくなったってだけで、依然として問題は解決していない。何せ死なないからと放置したら、結局は悪魔になるのだから。

 大慌てでやる必要はなくなっただけで、急いだほうがいいことには変わりないのだ。

 

 だから俺は、体内を巡る魔力を意思でねじ伏せ、魔法を編み上げる。

 タイム。俺が持つ二つの魔法の一つ。時間を操る魔法。これを応用して、優一の痛覚を時間停止させるのだ。

 

「……よし。これでお前の痛覚は止まった。執刀を始めるから、上脱がすぞ」

「だいぶ無法な魔法なんだな、それ……」

 

 素直に服を脱がされながら、優一が苦笑する。まあそう思うのも無理はない。

 

「実際は色々と制約があって、そこまでなんでもかんでもできるものではないんだがな」

「そういうもんかな? 痛覚なんて指定してできるなら、相当なもんだと思うけどな」

「そうは言うが、別に死をなかったことになんてできないし、過去に戻ることもできねぇぞ。何度も試したが……いや、なんでもない。忘れてくれ」

 

 合計で百年以上生きていれば、色々あるものだ。

 とはいえそれは優一には関係ないし、下手に触られたくもない。だから俺は首を振って、メスの切っ先を優一の胸元に向ける。

 

 幸い、優一は何も言わなかった。一瞬気づかわし気な目を向けたものの、言葉を飲み込んでくれたのだろう。

 

「待ってくれセティ。録画したいからもうちょっとだけ待ってほしいッ。開胸手術を受ける機会なんて、下手したら一生来ないからな!」

 

 で、代わりに出てきたのがこのセリフだからたまったもんじゃない。

 

 付き合いは半日にも満たないが、優一が察しがよくて気を遣えるやつだということは既になんとなく察している。こいつのいいところだと思う。

 ただ、気恥ずかしいからなのかどうなのか知らないが、代わりにこういう言葉で場を収めようとするのはどうなんだろうな?

 

 俺は気にしないが、普通の女にやったら幻滅されるんじゃないだろうか。ひ孫の将来が心配だよ。こいつの嫁になる人は大変だろうな……。

 

 というか、個人でそんな簡単に録画なんてできるわけないだろ……と思ったが、色々と発展した今の時代ならできてしまうらしい。

 実際できると見せてくれたし、俺は驚くばかりだ。一体どういう仕組みなんだろう。何でできているんだ? 理工学部卒としては、素直に気になる。

 おかげで俺も、少し時間を忘れてしまった。あまり時間もないというのに!

 

「ああもう! さっさと手術するぞ!」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 まったくもって、締まらない俺たちである……。

 




第二話は主に説明回です。
魔石や悪魔の設定については、実は12年くらい前に公募に出した作品で使っていた設定だったりします。
箸にも棒にも掛からない出来でしたが、設定自体は気に入っているので、少し手を加えて流用した次第。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。