異世界帰りのTS転生ロリババア、ひ孫のヒロインになる   作:ひさなぽぴー

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第二話 彼だった彼女いわく 3/4

「……うわあ、すごい。まったく痛くない」

 

 優一の胸にメスを入れて数秒後、彼は感嘆と呆れをないまぜにしたような声色でそう言った。

 言い方はともかく、似たようなことは大体の被術者が言う。俺にとってはほぼいつものことだから、特に感慨はないが……体内が丸見えになっている部分に意識を向けて混乱されるのも困るから、会話には応じる。

 

「そうだろ。ほら、制御装置を組み込むぞ。これでお前が悪魔になることはなくなる。魔石の影響がなくなるわけじゃないし、効果が出始めるまで少し時間がかかるから、万事解決ってわけじゃないが」

「ははあ、制御装置ってのはつまり、そういうことなんだな。破壊とか停止とかじゃなくて制御ってことは、あくまで寛解まで持っていくのが限界みたいなことかい?」

「これ単体だと、そうだな。こいつを着けている限り悪魔になることはない……つまり人類の敵対者として動くことはないが、悪魔になる過程で起こる諸々は残る」

「たとえばどんな?」

「個人差はもちろん、時期や体調とかによっても変わるが……狂暴性が増したりやたら涙もろくなったりとかが一般的かな。要は感情の制御が緩むって感じだ。制御装置なしだとこれがひどくってよ、文字通り暴走って感じになっちまうんだ」

 

 具体的に言うと、少しずつ己の欲望に忠実に動くようになる。自分のやりたいこと、好きなこと以外が路傍の石になっていく。

 そして最終的には、魔石をまき散らして悪魔を増やすことだけが目的にすり替わっていくのだ。

 

 ここに彼らが目覚めた魔法も絡んでくるから、あっちの世界の治安はかなり悪いんだが。

 これは今のところ、言わなくてもいいだろう。優一のことだから、面白がって聞きそうではあるが。

 

「なるほど、悪魔の石だなぁ。……ちなみにセティのときはどうだったんだい? 魔法を使ってるってことは、セティも魔石に適合したんだろ? やっぱり色々暴れたのかい?」

「俺のときは好奇心が増大して、めちゃくちゃ研究開発に打ち込んだなぁ。まあ魔石の影響は両親も理解していたから、それで面倒な見合いとかは全部無視できたのはありがたかったがよ」

「……ほほーう? ということはもしかして、異世界では結婚はしていないと? なるほどなるほど……」

「確かにあっちじゃずっと独身だったが……なんだ、その意味深な目と顔は」

「いやぁ、なんでも? それにしても、僕もそのパターン引きそうな気がする」

「ありそうだ。お前の場合、ひたすら絵を描き続ける機械になったりとかな」

 

 ……言っておいてなんだが、その様子がありありと想像できてしまう。何せ死にかけていてもなお、絵を描き続けていた男だからな……。

 俺がそう言うと、優一は「いやあ」などと言いつつはにかんだ。別に褒めちゃいねぇんだわ。

 

「よし、制御装置埋設完了っと。次は魔石浄化装置を埋め込むぞ」

「え、今ので終わりじゃないのか!? 聞いてないんだが!?」

「言ってないが、まずって言っただろ。急いでるんだ、説明しながらになるのは堪忍な」

「い、言わんとしてることはわかるけど……!」

 

 納得しかねると言いたげな顔の優一をなだめすかしながら、俺は二つ目の機械を取り出す。

 数本の細い管が伸びた小さな箱のような形だ。箱のほうはろ過機の出し入れのため、フタ部分が体外に露出することになる。管のほうは、制御装置に接続する形だ。

 

「十年くらい前に発明された代物でな。これがあれば、魔石の意思を乗っ取ろうとする力を消して無害化できるのさ。使っている間は、魔石の意思そのものもほぼ完全に鎮静化できる優れものだぞ」

「おお! ということは、それを着けていれば解決ってわけだね!」

「ああ。ま、時間はかなりかかるが……そこは仕方ないだろうさ」

 

 魔石が絡むから、そこを俺のタイムで加速させることもできないしな。

 本当に、それができたらよかったんだが……面倒なヤツで困るぜ。

 

「ただし、取り着けただけじゃダメだ。魔石の力をろ過する装置が必要で、これは定期的に交換しなきゃならねぇ」

「ふむ。面倒だけど、僕だって別に暴走はしたくない。しょうがないね」

「ろ過装置のことや交換方法なんかは追って説明するが、交換忘れだけはナシで頼むぞ?」

「しないしない、いくら僕でもそんなことは」

「魔石に乗っ取られるってどういうことか体験してみたい、とか言い出しかねないんだよお前は」

「……そんなわけないじゃないかぁ」

「白々しい言い方しやがって。お前がどういうやつか、もう大体わかったぞ俺ァ」

 

 思ってやがったんだろうなぁ。まったく、しょうがないやつだ。

 ……まあ、気持ちはちょっとわかるから、これ以上は何も言わないでやるがよ。

 

「……これでよし、と。それじゃ、開いた胸を元に戻すぞ」

「うい」

 

 と、そうこうしているうちにすべての工程が終わった。あとはタイムの魔法で、優一の時間を戻してやれば完了だ。

 魔法も滞りなく効果を発揮し、流れ出た優一の血が余すことなく彼の体内に戻っていく。ほどなくして傷口もなかったことになった。部屋中に漂っていた血の匂いも、同じくすぐに消えた。無事成功、である。

 

 いやあ、枯渇明けで魔力の残量が不安だったんだが、問題なく終わってよかった。さすが俺、ってなもんである。

 

「本当にこれで終わりなのかい?」

 

 身体を起こしながら優一が目を丸くしている。あっけない、と言いたげだ。

 

 だが俺にしてみれば、もう数えきれないくらいやってきた行為なのだ。部位ごとに多少の差はあれど、慣れたもの。あっけないくらいあっさり終わるのも、当然と言えよう。

 

 ……まあ今回については、時間停止の魔法を長時間使い続けられなさそうだから手早く済ませるしかない、という事情もあったわけだが。そこはなんというか、少しくらいひ孫に格好つけたいという男心というやつである。

 いや、今の俺は女ではあるんだが。それはそれとして、この手の感覚はまだまだ残っているのである。

 

「ま、俺の手にかかればざっとこんなもんよ」

 

 というわけで、道具を片付けながらそんな風に胸を張る俺であった。

 そんな俺に「相変わらずかわいいな……」とつぶやきながら、優一は先ほどまで開かれていた胸をさすっている。

 

 そこには浄化装置のろ過機取り換え口があるのだが、遠目にはそういうものが埋め込まれているということはわからない。

 浄化装置のフタ部分には特殊な加工が施されており、周囲の肌の質感を再現しているのだ。おかげで誰かに見られたとしても、違和感を持たれることはないはずだ。

 

 このフタ部分を軽く押せば、フタが開いて中が露出するという仕掛けになっている。

 

「ここをこうして……開いたところに、こいつをはめこむんだ」

 

 フタを開く仕掛けを動かしてやりながら、俺は亜空間からろ過機を取り出して見せる。

 

 が、それを見た優一はぎょっとして身を引いた。

 引くというか、飛びのく勢いである。家庭内害虫を見た娘っ子のような反応だが、無理もない。

 

「ちょ、それ魔石じゃないのか!?」

 

 何せ俺が取り出したものは、青い宝石のようなもの。知識がなければ、魔石にしか見えないだろうからな。

 

 だがこれは魔石ではない。

 

「いいや、こいつは魔導石と言ってな。かつて魔石だったものだが、今は寄生能力……あっちの言葉で魔石の毒素を失っているから安心しろよ」

 

 そう説明するが、優一は疑わし気に距離を取ったままだ。

 いい反応だ。説明も聞かず考えなしに手を伸ばすようなやつだったら、むしろ叱ってるところだからな。

 

「いいか優一、悪魔の倒し方は二つある。一つは身体のどこかにある魔石を取り除くこと。体外に出してもいいし、破壊してもいい。もう一つは、生物としての息の根をとめることだ」

「なる、ほど? それは何かしらの形で悪魔から取り出した魔石、ってことかい?」

 

 ……相変わらず、異次元に察しがいいなこいつ。説明が楽なのはいいが、こうもぽんぽん言い当てられるとなんだか悔しさがこみ上げてくるな。

 もちろんそんなことで意地悪をする意味なんてないから、やらないが……。

 

「そういうことだ。悪魔によって導かれた石。魔法を導く石だ。見分けるのは難しくない、光を帯びていたら魔石。帯びていなかったら魔導石だ。あとは……近くで見ると、中に模様が刻まれているのが見えないか?」

「んー……? …………、……あ、本当だ。文字なようなそうでないような、なんだか不思議な紋様がずらっと……」

「この紋様の羅列に対して魔力を注げば、魔法が発動する。魔法を導き出す石だから魔導石、というわけだな」

「へぇ……興味深いな。じゃあこの紋様を、たとえば金属の板とかに刻んだらどうなるんだい? やっぱり魔法の発動ができたりするのか?」

 

 魔導石に恐る恐る顔を寄せていた優一は、次にそんなことを言い出した。すっと魔導石から顔を離し、なんでもない……本当にただの質問と言った様子で、俺に問いかけてくる。

 

 だが俺は、またしても発揮された優一の察しの良さに驚くしかなかった。素っ頓狂な声が、俺の口をついて出た。

 

「本当にお前ってやつは、なんでそんなすぐにわかっちまうかな!?」

「え、あ、やっぱりできるんだ」

「異世界じゃ魔導石の紋様を書き写して、それに魔力を流すことで使える魔法の道具が普及してるんだよ! こっちで言う機械の代わりに、そういうものが文明を支えているってわけだな」

「へぇー、ザ・ファンタジーって感じだ。ぜひとも街や村が見てみたいところだなぁ」

 

 のんきに笑いやがってこいつめ。こっちは驚かされっぱなしだっていうのによぉ。

 これも、コンテンツを生み出す側だからこその理解力ということだろうか。それとも、俺があの世界で見てきたものも、現代の漫画やら小説やらではさほど奇抜でもなんでもないものなんだろうか。

 

 それはそれで、複雑な気分だが……興味深くはある。優一が描いた漫画も気になるし、落ち着いたら色々と見せてもらいたいもんだな。

 画業で食っていけているってことは、さぞかし上手いんだろう。作品としても面白いに違いないだろうし、年甲斐もなく少しワクワクしてきた。

 

「ちなみに、この魔導石はどんな魔法が使えるんだい?」

 

 おっと、話はまだ途中だったな。お楽しみは後に取っておこう。

 

「そいつは『ゴールド』。対象を金にする魔法だな」

「……経済を木っ端みじんにしそうな魔法だ……」

「ところがどっこい、永続しないから使い道はほとんどないんだなこれが」

「あ、そうなんだ。よかった……本当によかった……」

 

 マジで金を生成できるのもなくはないけどな。そういう危険なものは大抵国が厳重に管理しているから、一般に出回ることは基本的にない。

 そういう意味では、こいつは外れの魔導石と言えるだろう。

 

「ただ浄化装置が発明されたことで、こういう外れにも使い道ができた。だから俺はこんなんでも手持ちに入れてるってわけだ」

「あぁー、生活に使い道はなくても魔導石であることには変わらないから、ってことかぁ」

 

 なるほどなぁ、とつぶやきながら、魔導石を明かりに透かして紋様を眺める優一。

 

 そんな彼に、いい加減装置に取り着けろと声をかける……が。

 

「いやいや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「は?」

 

 暴走はしたくない、と言っていたのを翻すような発言に、俺は唖然とした。そのまま視線を優一に向ける。

 

 しかしすぐに悟った。

 ああ、始まってしまった。魔石の意思が、優一の思考を奪い始めている! 案の定、絵に関心が向かいすぎてやがる!

 

 俺がそう思うのと、筆記用具を探して優一が部屋から出ていこうとするのは同時だった。

 だから思わず回り込み、ここから出るなと道をふさぐ。今までの優一なら、素直に従っただろうが……。

 

「ま、待て待て! そのまま魔導石を入れずにいたら、浄化装置が機能しないぞ! ほら入れろって!」

「浄化がどうとかはどうでもいいよ。今はとにかく、このファンタジー感あふれる魔導石をスケッチしたいんだ」

 

 頑なに俺の言葉に否を返してくる。その瞳には、危うげな光が宿り始めていた。

 くっそ、どうやら制御装置はまだ効果を発揮していないらしい。していても、微々たるものか。

 装置の稼働が軌道に乗るまで、あとどれくらいだ? これも個人差があるからな……。

 

 ったく、これだから魔石は嫌いなんだよ、クソが! 

 

 かくなる上は、仕方ない。強引に魔導石を浄化装置に装てんするしかないないだろう。

 放っておいてもいずれは落ち着くが、その間に何かやらかされても困る。浄化装置が稼働さえすれば、制御装置の効果も底上げされて優一もすぐに落ち着くはずだからな……。

 

「……優一。お前は今、魔石の意思に乗っ取られかけている。経験上、言葉でどうにかなるもんでもないから……力づくで行かせてもらうぞ」

「ええ……? 急に物騒なことを言い出すじゃないか……」

 

 言いながら構えた俺に対して、優一も呆れながら身構えた。

 

 呆れたいのは俺のほうだが、魔石によって意思を侵されつつある優一にとっては、自分の欲求を押し通すことが一番になっている。今まさに俺が言った通り、言葉じゃどうにもならないんだよな。

 

 ひ孫にこんなことしたくはないが、やるしかない。何せ身構えた優一の身体からは黒いもやのようなものが湧き上がり、彼の全身を緩やかに覆い始めている。()()()

 

 魔力に目覚めるのが早い。それが魔法の得手不得手に直接関係することはないが、少なくとも使えると使えないとでは雲泥の差だ。

 さらに、優一は格闘術を修めていると思われる。そこに魔力が乗ると手ごわいことになるだろう。

 この上で、魔法にまで覚醒されたらたぶん、手が付けられない。

 

 こんなことで優一と対峙したくなかったなぁ……。

 

 俺はため息を押し殺して、優一を真正面から見据えた。室内の空気が、ピンと張りつめたような気がした。

 




似たような固有名詞が連続してるので、わかりづらくないだろうかとちょっと不安。
一応、セティが本文中で言っている通り、意味があってその名前になっているんですけどね。その分他にいい名前が思いつかないというか・・・ファルシのルシでとかよりはまだマシかなって。
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