ある日、開店前の喫茶 神河にて、
「時雨、黒蜥蜴とデュエルしたの!?」
店長の色葉が、時雨を問い詰めていた。
「まぁ、成り行きで。というか今にして思えば、あいつらが黒蜥蜴だったかもってだけで」
「ズルい!アタシもデュエルしたかった!」
「こら」
恵が色葉を軽く小突いた。
「忍田さんにも言われたでしょ。あなたは店長なんだから、揉め事起こしたらお店を続けられなくなるでしょ」
「はーい」
「というか、時雨ちゃんは大丈夫なの?」
話を聞いて年上のキャストである、24歳のルナこと
「別に大丈夫よ。あいつら、イキってるだけのチキンだから。帰りは彼氏に送ってもらったし、つけられたりとかはしてないはず」
「な、ならいいんだけど」
「だからって喧嘩売っちゃ駄目でしょ」
「だって……」
恵に窘められて時雨は不満そうに頬を膨らます。
(あいつらカドショどころか、TCGそのものを馬鹿にしててムカついたとは、この
「しばらく、夕方も送迎するわ。さすがに今のまま一人で帰すのは危ないし」
「ありがとうございます」
「じゃあそろそろ準備をしましょ。店長」
「うん。えーっと、後は……」
店内を見回すと百合花は厨房スタッフの御厨と何かを話した後、ドリンクカウンターを整え始めた。
「じゃあ時雨はカウンター席、凪さんは対戦卓をお願い。アタシは床やっとく」
「了解」
「分かったわ」
「恵さんは、レジの小銭の確認お願い」
「分かったわ」
それぞれが開店準備に動き始めた。
◆
初来店からしばらく経ったある日、弘は再び神河を訪れていた。
「いらっしゃいませ。ようこそ喫茶神河へ」
出迎えてくれたのは、弘よりも年上の女性、ルナだった。
「あ、えっと。一名です」
「はい。お名前は?」
「さ、桜井弘、といいます」
「桜井くんね。私はルナ。気軽に呼んでくれていいからね」
年上の女性特有の包容力のある雰囲気と柔らかい笑顔が、弘の心を骨抜きにしていた。
「じゃあお席へどうぞ」
「は、はい」
(なんだろう。ルナさんの服。店長や他の人と同じはずなのに、なんか妙にいやらしいというか)
弘がルナのグラマラスな体つきに見惚れていると、アリスが席へ向かう弘の肩をツンツンと叩いた。
「あ、アリスさん?」
耳を貸せとジェスチャーされ、弘は少しかがんだ。
「うちの制服、ドンキで買った既製品だから、ルナさんの体型に合ってないの」
「あ、あぁ、だから……」
「えっちな目で見るのはいいけど、ちょっとでも変なことしたら出禁だからね」
「は、はい。もちろんです」
アリスの忠告を受けて、弘は少し気を引き締めてルナの向かいに座った。
「えーっと、桜井くんはどのタイトルが好きなの?」
「僕はバトスピです」
「え!そうなの!私も一番好きなのはバトスピなの!ちなみに、アニメは?どれが好き?」
「あ、えっと、そうですね……僕はバシンですかね」
「バシンって少年突破の方!?すごい!私もよ!やっぱり世間一般的な風潮はダン、というか異界見聞録シリーズというかブレイヴが一番って感じだけど、それでも伝説を始めたのは初代なのよ!あのバシンくんたちのわちゃわちゃ感こそが─────」
(駄目だ。この人可愛すぎる……)
「あ、ごめんなさい……私ばっかり喋っちゃって」
ふと、我に返ったルナが申し訳なさそうにする。
「い、いえ、全ぜ─────」
「ウザかったよね!ババアが長々と語ってんじゃねぇよとか思ったかもしれないけど帰らないで!」
「だ、大丈夫ですから!」
情緒不安定なルナをどうにか宥めたところで、弘は鞄からストレージボックスを取り出した。
「桜井くんは、どんなデッキを使うの?」
「そうですね……」
とりあえずデッキを箱から出して吟味していると、
「あ、そのスリーブって……」
ルナが指差したのは、弘が取り出した三重スリーブのデッキだった。
黒いノースリーブのドレスをまとい、燃えるような髪色で、凛々しい姿で炎を操る少女だ。
「え?あ、これは……」
「
バトスピの系統(他のゲームで言う種族)の一つであり、既存のスピリットやアルティメットを擬人化、美少女化してアイドルにしたシリーズ群である。
毎年、詩姫限定のブースターが販売されたり、通販限定の商品が出たりと、根強い人気を誇っている。
「あ、はい……」
弘は目を伏せる。
「恥ずかしがることないわ。趣味に貴賤なし。それがこのお店のモットーだから」
「あ、ありがとうございます」
「私も
「そうなんですね」
楽しそうに話す姿に、弘は少し安心した。
「まぁ、解釈違いもあるんだけどね」
その直後、笑顔を崩してスンとした表情でそう呟くルナに、なんとも言えない気持ちになった。
「せっかくだから、
「は、はい。お願いします」
ルナもデッキケースから、四人並んだ美少女のイラストが描かれたスリーブのデッキを取り出した。
「ん?それって確か、オリジナルフォーのイラストですよね」
描かれていたのは、バトスピ第1弾のXレアを擬人化した四人の少女達で、背景ストーリーでチーム「オリジナルフォー」を名乗っている。
「そうよ。これは
「そのイラストのスリーブってありましたっけ?」
「自作よ」
「自作!?」
「ああ、正確には、こういうスリーブを作ってくれるサービスがあるのよ。イラストはカードのやつを元に、自分で少し描き加えて、それを業者に送ってスリーブにしてもらうの」
「へぇ」
「この子達は少年突破バシンを象徴する子達だからねぇ。いつか《ミカファール》と《英雄巨人タイタス》も
ルナはときおり運営への不満を漏らしつつ、対戦の準備を進める。
「私の契約カードは、《[ずっと一緒に]レイ・オーバ》」
ルナは裏向きで伏せたカードを見せる。
「僕の契約カードは、《[ずっと一緒に]フラム・サンドリア》」
弘もそれに合わせてカードを公開。お互い見せたカードをそれぞれ手札に加える。
契約カードとは、現代のバトルスピリッツにおける主要なギミックの一つ。
デッキに1種類だけ入れることができ、ゲーム開始時に、初期手札4枚のうち、1枚に加えることができる。
「それじゃ、せーの────」
「「ゲートオープン、界放!」」
◆
ターン1 先攻 弘
「《フラム・フレイム》をミラージュとしてセット」
フィールド左上のバースト置き場と呼ばれる場所に、フラム・サンドリアが描かれたマジックカードを置いた。
ミラージュとは、バースト置き場に表向きで置くことで、様々な効果を適用するキーワード効果である。
「セット時の効果、手札から契約スピリット、《[ずっと一緒に]フラム・サンドリア》をノーコスト召喚」
[ずっと一緒に]フラム・サンドリア 5(黄4) 黄属性
スピリット:
【チーム:トワイライトゴシック】
魂状態のこのカードには《契約煌臨》できる。
このとき、煌臨するカードに、自分のフィールド/リザーブのコア を好きなだけ置く。
【魂状態】【契約煌臨元】/【スピリット】Lv1・Lv2『自分のメインステップ』
ターンに1回、自分の手札にある「四魔女」1枚か、【歌】を持つマジックカード1枚を破棄することで、自分はデッキから1枚ドローする。
【契約煌臨元】/【スピリット】Lv1・Lv2『このスピリットのアタック時』
自分のカウント+1する。
その後、このスピリットのBP以下の相手のスピリット1体を破壊でき、破壊したとき、ターンに1回、自分のフィールド/トラッシュにある【歌】を持つマジックカード1枚を手札に戻せる。
シンボル:黄
「イラストは通常版ね」
「はい。まあ。シク版はさすがに高くて」
「でも通常版のイラストもいいわよね。パンツスタイルでカッコいい系だけど、上着は着崩して肩を大胆に見せて、よく見ると胸の部分もシースルー素材で、ちょっと透けてる感じがえっちで。しかもこっちに手を出して「私の炎に耐えられるなら」ってフレーバーテキストとか凄く、いい」
(僕より詳しい……)
「えっと、起動効果で、手札から《[真・獄炎の四魔女]フラム・サンドリア》を破棄することで、1枚ドローします。ターンエンド」
ターン2
「メインステップ、契約スピリット、《[ずっと一緒に]レイ・オーバ》を召喚」
[ずっと一緒に]レイ・オーバ 3(黄2) 黄属性
スピリット:
【チーム:シャイニーハーツ】
魂状態のこのカードには《契約煌臨》できる。
このとき、煌臨するカードに、自分のフィールド/リザーブのコアを好きなだけ置く。
【魂状態】【契約煌臨元】/【スピリット】Lv1・Lv2『自分のターン』
ターンに1回、自分が【オンステージ】/【ショーアップ】したとき、ボイドからコア1個を自分の「レイ・オーバ」に置ける。
【契約煌臨元】/【スピリット】Lv1・Lv2『このスピリットのアタック時』
自分のカウント+2する。
その後、このターンの間、相手のスピリット1体をBP-5000し、BP0になったとき破壊する。
ブレイヴとの合体中、この効果に書かれた「BP-5000」を「BP-12000」に変更する。
シンボル:黄
「これでアタックステップ、レイちゃんでアタック!アタック時効果で、カウント+2して、フラムのBP-5000!」
《フラム・サンドリア》はBP0になって破壊されるが、上に置いたコアすべてを外してフィールドに残した。
契約スピリットの特徴として、たとえ破壊されても魂状態でフィールドに残ることができる。
ゲーム開始から終盤まで、常に主役として場に残り、効果を発揮し続けるのだ。
「ライフで受けます」
弘:5→4
「ターンエンド」
ターン3
「僕のターン、《フラム・サンドリア》の効果起動。手札から《魂のリフレイン》を破棄して1枚ドロー。そして、契約煌臨!」
他のコアより一際大きな赤色のコア、ソウルコアをトラッシュに置いて、魂状態のカードの上に手札から重ねた。
「《[四魔女坂]フラム・サンドリア》」
清楚なチェック柄のワンピースタイプのジャケットをまとい、長い髪を後ろで結った姿で、フィールドに舞い戻った。
「煌臨時効果で、トラッシュにある《魂のリフレイン》と、《[真・獄炎の四魔女]フラム・サンドリア》を手札に戻します。続けて、《[学園制服]イルマ・イマージュ》を召喚。召喚時効果で、デッキの上から3枚をオープン。その中から、「四魔女」と【歌】を全て手札に加えます」
オープンしたカードは、《[10thディーバ・プリマの四魔女]ルーナ・ヴァンディル》、《[10thディーバ・プリマの四魔女]マグノリリア・マイザー》、《フラム・フレイム》の3枚。
全て対象カードなので手札に加えた。
「アタックステップ、《[四魔女坂]フラム・サンドリア》でアタック。アタック時効果で、手札の【歌】を持つマジックカード、《魂のリフレイン》をフィールドに置くことで、トラッシュのソウルコアを自身に置きます。さらに煌臨元の《フラム》の効果!自身のBP以下の相手を破壊します」
前のターンをやり返すように、《レイ・オーバ》は破壊され、魂状態となった。
「ライフで受けるわ」
ルナ:5→4
「続けて、《[学園制服]イルマ・イマージュ》でアタック」
「それもライフよ」
ルナ:4→3
「ターンエンド」
ターン4
「じゃあ私は、魂状態のレイちゃんの上に重ねて、《[放課後の約束]レイ・オーバ》を契約煌臨。
ルナも制服姿のレイ・オーバのカードを重ねて、フィールドに戻した。
「効果でデッキから《プロデューサー兼マネージャープリン・ガーフィールド》を手札に加えて、そのまま配置。これでアタックよ。レイちゃんでアタック。効果でカウントを増やして、イルマちゃんを破壊!」
「ライフで受けます」
弘:4→3
「これでターンエンド」
ターン5
「《[四魔女のオフショット]イルマ・イマージュ》を2体召喚。これでアタックステップ。《フラム》でアタック。アタック時効果で、カウント+1して、《レイ・オーバ》を破壊します」
「フラッシュタイミング!マジック、《シーズグローリー》!」
シーズグローリー 4(全2) 黄属性
マジック:起幻
デッキからオープンされたこのカードは、自分の手札1枚を破棄することで、手札に加える。
フラッシュ:
このターンの間、相手のスピリット/アルティメット1体をBP-7000し、BP0になったとき破壊する。
この効果でBP0になったとき、この効果発揮後、このカードの《転醒》を発揮できる。
《転醒:自分のライフ2以上(転醒は同時に使えない)》
このカードを裏返す。
このとき、この転醒後ブレイヴは自分のスピリットに合体するか、自分のフィールド/リザーブのコア1個を置いてスピリット状態にする。
「イルマちゃんをBP-7000」
「くっ……」
BP0になり、破壊された《イルマ》をトラッシュに置いた。
「そしてBP0になったとき、転醒!」
《シーズグローリー》のカードを裏返すと、それは槍へと変わる。
「《天醒槍ロンゴ・ミニアス》!」
天醒槍ロンゴ・ミニアス 6 全属性
ブレイヴ:剣刃・起幻
<1>Lv1 5000 <0>合体+6000
この面に裏返ったとき、フィールドに残り、カウント+1する。
Lv1『このブレイヴの転醒時』
このターンの間、自分のライフは相手のスピリット/アルティメットのアタックでは1しか減らない。
</合体条件:コスト3以上&C6以上、コスト5以上/>
【合体中】
このスピリットのLvを1つ上のものとして扱う。
さらに、自分のカウント3以上の間、このスピリットに神シンボル1つを追加する。
シンボル:神
「そして《フラム》のアタックはライフで受けるわ」
ルナ:3→2
「このターン、《ロンゴ・ミニアス》の効果で私のライフはこれ以上減らないわ」
「ターンエンド」
ターン6
「それじゃあ、私は手札から《[10thディーバ]レイ・オーバ》を契約煌臨」
魂状態となったレイ・オーバの上に、新たに桃色のドレスをまとったレイ・オーバが重ねられた。
「そして《天醒槍ロンゴ・ミニアス》を、《[10thディーバ]レイ・オーバ》に
右上に《ロンゴ・ミニアス》のカードを重ねた。
「まずい、確か《ロンゴ・ミニアス》は……」
「これでアタックステップ。《ロンゴ・ミニアス》の効果で、《[10thディーバ]レイ・オーバ》のLvを1つ上のものとして扱う。さらにカウント3以上なので、シンボル1つを追加」
バトスピにおいて、スピリットの持つシンボルが、ライフに与えるダメージとなる。
《レイ・オーバ》に元々持ってるシンボル1つ、
残りライフ3の弘は、この攻撃を受ければ0になる。
「レイちゃんでアタック!アタック時効果でカウント+2して、イルマちゃんのBP-12000!」
イルマが破壊され、これで弘のブロッカーは失われた。
「さらにアタック時効果!手札から《[夏休み]レイ・オーバ》をノーコスト召喚!」
「フラッシュタイミング、マジック、《跪いてエブリワン》!」
跪いてエブリワン 4(黄3) 黄属性
マジック
【タイプ:歌】
フラッシュ:
このターンの間、自分のライフは、コスト4以上の相手のスピリットのアタックでは減らない。
その後、このカードを自分のフィールドに置ける。
「そ、そのカードは!?」
「これで《レイ・オーバ》のアタックでライフは減りません!」
「プロデューサーカップ限定のフラムちゃんのイラスト!」
ルナが驚いたのはカードのイラストの方である。
短いスカートのドレスで玉座に腰掛け、脚を組み、ワイン片手にこちらに跪かせる様子をローアングルで描かれている。
過去に開かれた
「あ、はい。イベント行ってきて。まあほぼ勝てなかったんですけど」
「私はその時期……何でもない」
なぜかルナはひどく落ち込んだ様子でため息を吐いた。
「そ、そんなことより、《レイ・オーバ》の効果発揮よ!相手がマジックを使ったので、ライフのコアをリザーブに!」
弘:3→2
「さらにアタックは防がれたけど、バトル終了時、合体していれば、ライフのコアをリザーブに!」
「くっ……」
弘:2→1
「とどめよ!《[夏休み]レイ・オーバ》でアタック!」
◆
「ま、参りました」
(なんか、やっぱりこのお店のキャスト、店長以外もしっかり強いな。僕全然勝ててない。なんならカードバトラーとしての熱意すら負けてる気がする……)
敗戦を振り返って肩を落とす。
「桜井くん、お疲れ様」
「どうも。対戦ありがとうございました」
ルナはやや不満そうな顔をすると、人差し指を振って否定の意を示す。
「そこは……」
ルナは自分の手を差し出した。
「ありがとうございました。いいバトルでした。でしょ?」
「あ、それって」
アニメ『バトルスピリッツ 少年激覇ダン』の主人公、馬神ダンのセリフである。
「ルナさん、好きなのは少年突破の方って」
「誤解しないで。一番好きなのがバシンであって、私はバトスピのアニメは全部好きよ。もちろん他のホビーアニメも。だから、ほら」
「は、はい」
弘はルナの手を取る。
すると彼女は満足そうに満面の笑みを浮かべた。
(まぁ、負けたけど、楽しかったからいっか)