「遺志にて」
どうやら、僕はもう助からないらしい。
座ってても足元は大きく濡れている。
これが雨なら着替えればいいやで済むんだけどね…
親友のエリートが心配してくれている。
「おいっ、今すぐ医療忍者が来るから堪えろ。頼むから…。」
僕は苦笑した。もう痛みもほとんどないからだ。
ただ、冷たい、凍るような感覚があるだけだ。
ここが最後と僕は、意識がまだあるうちにお願いすることにした。
「頼む。僕のポーチに入っている瓶の中に、僕の万華鏡写輪眼を入れて嫁に渡してほしい。頼む。」
目の前の親友の顔が歪んだのが、ぼやけた視界でもわかる。
「なんでだよ、まだ生きててくれよ。お前の嫁さんをどうするんだよ。お願いだよ、頼むから…」
僕は言った。
「これでも僕は忍びだから。託せるものなんて僕の意思しかないんだ。お願いするよ。」
親友は顔から涙を垂らしつつ言った。
「くそっ、俺にお前の顔をえぐらせる何て、お前はひどい奴だ、くそっ、くそっ。」
僕に幻術がかかる。
そのまま視界が真っ暗になった。
わざわざ連戦で少ないチャクラを使ってまで、適性の少ない幻術を使ってまでやってくれるなんて、僕はいい友人を持った。
ぽちゃんという音に続いて、瓶の蓋を閉める音がする。
僕はかすれる声で言った。
「最後に一つだけお願いがあるんだ。僕を火遁で焼いてほしい。」
ついに親友は堪えきれずに言った。
「なんでだよ。なんで俺が親友を焼かなくちゃいけねえんだよ…」
苦笑いして答えた。
「忍びだからだよ。特にうちはの体なんて残して置いたらどうなるかは、わかるだろ?」
「チクショウ…」
暫くして熱が僕に迫ってくるのを感じた。
今際の際に思い出す。
嫁に早すぎと怒られつつ、買ってきた毬を。
「ああ、大きくなったアゲハと一緒にいたかったなあ…」
暗転した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「遺品にて」
俺はいら立ちが止まらなかった。
うちはの屋敷の離れにある、襤褸小屋へ向かう。
そのいら立ちのまま、ふすまを開ける。
「お帰りなさ…、あれ、どちら様?」
そののんきそうな顔もいら立つ。
俺はいら立ちのまま、小瓶を畳の上に放り投げて言う。
「ほらよ。お前の旦那様のご帰還だ、感謝しろよな。」
女はその言葉を理解できずに固まる。
「…え、」
いら立つ。
「それがお前の旦那だって言ってんだろ。愚図だな。」
女は暫く固まった後、小瓶をゆっくりと拾い上げて中を透かし見た。
次の瞬間、女は突然泣き出した。
どうやら万華鏡写輪眼の模様を見て、ようやく理解したらしい。
「なんで、どうして…」
ぽつぽつとつぶやいてる。
俺はついに怒りが限界に届いて思わず女の着物の首部分を掴み見上げて言った。
「お前が、戦えないからだろうが!それにいくら忍びじゃなくてもうちはだろうが、うろたえてんじゃねぇ!」
手を離すと女は小瓶を額に当て、崩れるようにうずくまり、絞り出すように泣き出した。
俺はそのまま帰ることにした。
ここに来るのに、うちはの老害どもに言われた無理を飲んで、ようやく短い間話に来れているからだ。
「チクショウ、俺だって泣きてぇよ、クソッ。」
その言葉は自分にすら聞こえずに消えていった。
その後何度かの任務のあと、帰ってこなかった。