ソードアート・オンライン《三人の勇者》(凍結)   作:ホイコーロー

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《皆藤哲》

 

俺はとある建物の前に立っている。

音を立てないように、ゆーっくりと扉を開けて侵入。

そして人影を見つけると背後から近づき…

 

「ただいまっ!」

 

「うわッ!?」

 

襲い(?)かかった。

 

 

「全く…どうしてそう毎回毎回こっそり帰ってくるのかな〜?」

 

「ソンナコトナイデスヨ?」

 

「よく言うわね、ホントに…。」

 

彼女の名前は《皆藤真菜(まな)》。俺、皆藤哲の母親だ。

初めは別に脅かすつもりで静かに帰ってきていたわけじゃなかったんだが、あまりに面白い反応をするので最近はちょっとした趣味になっている。

 

「二人は寝てんの?」

 

「えぇ、さっき寝たばっかり。あんまり今寝られちゃうと夜が大変なんだけどね。」

 

二人というのは俺の妹《(あんず)》と弟《(すすむ)》。先月に一歳になったばかりの双子だ。

 

「じゃあ起こしてこようか?」

 

「やめてよ!せっかく寝たんだから。今のうちに洗濯物たたんじゃわないと。」

 

「冗談だって。ちょっと手伝うよ。」

 

「ほんと?ならお願いしちゃおっかな。」

 

「オッケー。」

 

「あ、そういえば今度の旅行、二週間後に決まったわよ。」

 

「おぉ!マジで!」

 

「ちゃんと予定たててから行かないとね。」

 

今度、進と杏が生まれたお祝いでアメリカまで旅行に行くことになってる。

海外旅行なんて、普通なら行けないんだけど、学校が一週間後から夏休みなので俺も行ける。ちなみに中1。

でも、今考えても本当にすごいと思う。だって母さんも父さんも40超えてるんだから。頑張ったというか、運が良かったというか?

まあ、だからこそのお祝いでもあるのだろう。

 

(うんうん、楽しみだねぇ。)

 

「じゃあ、これお願い。」

 

「え、いや、ちょっと多すぎじゃ…」

 

「私は買い物行ってくるから。よろしくねー。」

 

「そんな理不尽な…。」

 

 

 

 

 

 

 

〜二週間後〜

 

旅行当日。

俺たちは父親の《皆藤(まなぶ)》を加えた五人で空港にやってきていた。

 

「アメリカはなぁ、父さんと母さんの出会った場所なんだぞ。」

 

「それ何回目だよ…父さん…。」

 

「ねぇ、せっかくだから写真撮ってもらわない?」

 

「まだ日本ですけど!?」

 

「まぁまぁ。あ、すいませーん。」

 

(はは、やっと旅行って感じになってきたな。)

 

そして俺は手の中に進を抱いて写真を撮る。

 

この時はまだ知らなかった。

それがみんなでの最後の思い出になってしまうなんて。

 

 

 

 

注意事項のアナウンスが流れ、飛行機が離陸する。

父さんと母さんは隣の席だけど、俺だけはちょっと離れたところだった。

 

(かなりの長旅だし、今の内にしっかり体力を温存しとかないとな。)

 

そして、俺は目を閉じて眠りについた。

 

 

 

 

どのくらい時間が経ったのか。

 

「い、いやーー!!」

 

俺は突然、誰かの悲鳴に叩き起こされた。

今の声は女性だろうか。

 

(何だ…?)

 

周囲を見回して状況を確かめようとする。

しかし、その瞬間、

 

(!?)

 

俺の体をとてつもない衝撃が襲った。

 

 

 

 

目が覚めた時、そこは俺がさっきまでいた場所でなかった。

 

(何が起こった…?)

 

思考は遅いし、全身は悲鳴を上げている。

 

「…誰か……ないか……。」

 

遠くで誰かが叫んでいる。

いや、叫んでいるのは分かるが、よく聞こえていなかった。

 

「…たら手を…げて……。」

 

(手をあげればいいのか…?)

 

「!待っ………頑張れ!。」

 

(頑張れ…?何をだよ………)

 

そして俺の意識は再び深く沈んだ。

 

 

 

 

次に起きたのは真っ白な場所だった。

 

(頭、というか全身が痛ぇ……。ここは…?)

 

「せ、先生ーー!!」

 

声のした方を見ると、看護師の格好をした女性がまるでオバケでも見たかのような表情をして部屋から走り去っていくところだった。

 

(病院、か…?)

 

 

少しすると医者らしき人がやってきた。

 

「気がついたのか。」

 

「(あんた、誰だよ…。)」「私はきみの担当医の《林田(はやしだ)》だ。」

 

「(ここはどこだ…。)」「ここは病院だよ、日本のね。ちょっと質問してもいいかな?」

 

俺はかすかに頷く。やはり頭がひどく痛い。

 

「君の名前は?」「皆藤哲…。」

 

「年は?」「12…じゃなくて13…。」

 

「趣味は何?」「神話とか…昔話の勉強…。」

 

「へぇ!それはなかなか面白そうだね。そうか…うん、一先ずは大丈夫そうだ。辛いのにいろいろ聞いてすまなかったね、よく休みなさい。」

 

(何が大丈夫なんだよ。…まぁ、寝るか…。)

 

俺は訳も分からないまま眠りに落ちた。

 

 

 

 

あの日、俺は飛行機事故に巻き込まれたらしい。いや、事故じゃなくて事件、所謂テロだった。

日本にではなくアメリカに対するものだったらしい。

 

乗員乗客のほとんどが死亡。

 

俺の家族も

 

みんな死んでしまった。

 

 

 

 

それからしばらくはヒドイものだった。

食事もろくにのどを通さず、人が見舞いに来ても誰にも会わなかった。テレビの取材が来たと聞いた時なんかには怒り狂って、怒鳴り散らしてしまった。これはさすがに反省したが。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして体だけはすっかり回復した俺は、病院の中を歩き回るのが日課になっていた。

特に足を運んだのは小児病棟。

そこには元気そうに見えても、実際は体を病魔に侵され、余命いくばくもない子供たちがいた。

 

そこで俺はいろんな人たち、子供たちと触れて、徐々に精神も回復していった。

 

 

 

 

確かに世界は俺にやさしくなかった。

 

でもたくさんの人達が俺にやさしさを教えてくれたんだ。

 

だから、俺も誰かの為にやさしくありたいと思えた。

 

 

 

 

 

 

 

(ここが桐ヶ谷さんの家か。)

 

無事に退院できた俺は、これから住む家へと送ってもらった。

桐ヶ谷さんは父さんの同級生で親友だった人だ。以前から何度か一緒に食事をしたこともあったし、俺が入院してた時にお見舞いに来てくれていたのもこの人たちだったらしい。

 

なんで身内でもない赤の他人に、と思うかもしれないが、俺の両親とも兄弟はおらず、祖父母もすでに天寿を全うしていたので、ここに引き取ってもらうことになったのだ。

 

つまりまぁ、

俺は〈天涯孤独〉ってやつになったわけだ。

 

 

呼び鈴を押すと中からドタバタと音が聞こえる。

 

(そんなに焦らなくていいのに。)

 

桐ヶ谷さん夫婦が出迎えてくれた。

 

「えーと、皆藤哲です。これからよろしくお願い…します…。」

 

その後ろに二人の子供を見つける。

彼らの子供、兄の《桐ヶ谷和人》と、妹の《桐ヶ谷直葉》。

俺はそこに()()()()の面影を重ねてみてしまった。

 

(進に……杏……)

 

俺は思わずこみ上げてくるものに耐えきれず、その場に崩れ落ちてしまう。

 

桐ヶ谷さんたちがおもいっきり抱きしめてくる。

 

「哲くん…大変だったね…本当によく頑張ったね…。」

 

そしてその時、あの日以来、

 

俺は、初めて泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

「今までホントにお世話になりました!」

 

「こっちこそお前がしっかり育ってくれて本当に良かったよ。」

 

「子供たちの面倒も見てくれてねぇ。」

 

あれから約五年後、大学生となったことで俺は家を発つことにした。

あの事件がきっかけで医者を志した俺は医学部に入った。それまで面倒を見てくれたこの人たちにはいくら感謝してもしきれない。

 

「じゃあな、哲!」

 

(こいつはいつから俺を呼び捨てで呼ぶようになったんだ…。)

「あぁ、またな和人。直葉は?」

 

「ふふっ。ちょっと待っててね。」

 

お袋が直葉を連れてくる。

ちなみに、ごちゃ混ぜにならないように俺は桐ヶ谷さんたちを親父、お袋と呼んでいる。

 

「どうした、直葉。見送りぐらいしてくれよ。」

 

「…ほんとに行っちゃうの…?」

 

(どうしてそんな泣きそうなんだ…。)

 

いつのまにか他の三人はいなくなってるし。

 

「大丈夫だって!またすぐに会いに来るよ。」

 

「…ほんと?」

 

「ああ!約束する!」

 

「分かった…。じゃあ、最後に」

 

(な、何なんだ、一体。)

 

「握手。」

 

「へ?」

 

「だから、最後に握手して。」

 

「お、おう。」

(そんなんでいいのか?)

 

そう言って、手を差し出してくる直葉。

しかし拍子抜けしてしまった俺は

 

「きゃあ!?」

 

直葉を抱き上げた。

 

「ちょ、ちょっと!おろして!!」

 

「ああ、すまんすまん。思わずな。」

 

おろすと、ものすごい勢いで走り去って行ってしまった。

 

(ちょっとショックだなぁ…。)

 

その姿を見送ると、いなくなっていた三人が戻ってきた。

 

「お別れの挨拶も済んだみたいだし、そろそろ行くか?」

 

「はい。それじゃあ!」

 

そして俺は桐ヶ谷家に別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

親父、お袋、必ず和人を二人のもとに帰してみせる。

 

それが俺が二人に出来る一番の恩返しだと思うから。

 

 

 

 

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