懐かしい、夢を見た。
全ては燃え盛る炎の中で、後輩の手を握ったことから始まった。人理救済の旅。
第一特異点、第二特異点、第三、第四、第五、第六、第七。そして、終局特異点。
人理焼却を終えた後に起きた四つの亜種特異点。
それに続く、前人未踏の聖杯探索。切り捨てられた行き止まりの人類史「異聞帯」との戦い。
ロシア、北欧、中国、インド、大西洋、ブリテン、そして南米。
自らの歪みを正すための旅路、オーディール・コール。
そして、始まりの地である特異点F、全ての元凶である疑似宇宙モデル——マリス・カルデアス。
激動だった。
これまでの日常が一新され、まるで自分が新しく作り直されるような日々だった。辛く、苦しい旅路……しかし、同時に楽しいこともあった。
その最たる例がマシュ・キリエライトとの出会い。
彼女と出会えたからこそ、彼女が一緒に戦ってくれたからこそ、多少の無茶も押し通せた。
だけど、その旅はなかったことになる。
それは良い。それについては、もう答えを出した。
望んだ結末とは違ったけれど、自分自身で決めたゲームセットに向けて戦った。
だから、後悔はない。
間違えたのは、その後——マリス・カルデアスに勝利を収めたかに見えた瞬間だ。
あの時、あの瞬間——もう一手早ければ、決着はついていただろう。
―――
――
―
「立香君、立香君ッ……起きていますか? こんな所で寝ていては、風邪をひきますよ?」
自身を呼ぶ声に微睡から瞼を開ける。
眠気と気怠げを僅かに覚えながら目を覚ますと、そこにいたのは6000年間共に過ごした仲間の姿があった。
「ん、おはよう。トネリコ。もう時間だったかな?」
「はい、もう皆揃っていますよ」
その言葉に藤丸は椅子から体を起こす。
立ち上がった際、膝の上に載っていた書物が床に落ちる。それを見てようやく自分はここで本を読んでいたのだったと寝る前の出来事を思い出した。
「どれぐらい寝てたかな?」
「ほんの一時間程度だと思いますよ? ここに入られたのが朝食を取った後でしたので……」
床に落ちた書物を元の位置に戻し、トネリコと共に部屋を出る。
妖精國ブリテン——キャメロット城。
城の廊下を歩いている最中に窓から見える景色は、思わず足を止めてしまうほどに美しい。かつて、汎人類史においてモルガンが夢見た理想郷。
それを、円卓の騎士達と手を取り合って創り上げた、奇跡の國。
その景色を横目に2人は足を進め、やがて円卓の間へと辿り着く。
何時もならば、そこは妖精騎士と國の重鎮が腰を据える場所――しかし、今は別の存在がそこにいた。
「いやぁ、申し訳ございません。立香君がぐーすか寝ていたので、ちょっと遅れてしまいました!」
その部屋にいたのは、人類が繫栄した時代――いや、正しい歴史の中では存在することすら許されない者達。
魔術を嗜む者がいれば、その部屋を見た瞬間に発狂しただろう。
魔術による姿の投影であるものの、映像とは思えないほどの覇気、空間を捻じ曲げる程の魔力が空間を支配していたのだから。
そんな彼等に藤丸立香は声を掛ける。
「状況はどうなってる?」
「現在カルデアは、Aチームを除くマスター、およびマスター候補生たちのコールド・スリープを解こうと準備をしている最中だ」
「そっか、なら——もうすぐだね」
円卓の一席に藤丸立香が腰を下ろす。
目を閉じ、大きく息を吸う。
人理焼却を防ぐために翻弄した1年間。魔神柱の残党を倒すための1年間。約2年間をあそこで過ごした。
だが、それを知る者はもう誰もいない。
藤丸にとっては過去のことであり、世界にとっては存在しない出来事。
「トネリコ」
「妖精國軍、何時でも出撃可能です」
ブリテン異聞帯、妖精円卓代表――トネリコ
「スカサハ=スカディ」
「『館』を使用した術式は問題なく機能している。後はお主が使うだけだ」
北欧異聞帯、最後の女神――スカサハ=スカディ
「イヴァン雷帝」
「カルデアは現在、国連の内部調査を終え、コールド・スリープ状態のマスター達の意識を回復させようとしている。まだカルデアの者達は我らと通じている者に気付いていない」
ロシア異聞帯、絶対なる暴君——イヴァン雷帝
「アルジュナ」
「全異聞帯におけるサーヴァント召喚の下地となる霊脈は約七割抑えました。残りも急がせましょう」
インド異聞帯、統合神――神たるアルジュナ
「始皇帝」
「異聞帯は安定している。例の計画が動いても崩壊する心配はないぞ」
中国異聞帯、真人――始皇帝
「ゼウス」
「注文していた強制レムレム装置については暫し待て。後一歩で完成する予定だ」
ギリシャ異聞帯、ギリシャ神話最高神――大神ゼウス
「ククルカン」
「う~ん、ごめんなさい! 私だけ嫌な報告しちゃいます。ディノスにも協力して貰ってますけど探し人? 英霊? は未だに見つかってませ~ん!」
南米異聞帯、地底世界の新たなる太陽の神――オルト・ククルカン
ククルカンの言葉に藤丸は柔らかな笑みを作る。
望んだ報告ではないが、怒りはない。むしろ、あのディノス達の性能を以てしても索敵に引っ掛からない探し人への敬意がそこにあった。
「そっか。やっぱり、あの人を見つけるのは難しいか。早めに接触はしたかったけど、これはカルデアと競争かな」
腰を上げ、胸を張る。
座っているよりも立っている方が幾分か気分が落ち着くのを感じ取り、やはり自分は支配者ではないと自嘲した笑みを浮かべる。
だが、それも一瞬のこと。
前を見据えて、今度こそゲームセットを完遂するために藤丸立香は宣言する。
「それじゃあ、始めよう。俺の冠位指定(グランドオーダー)を――」