「■■■■■■!!」
巨躯の武人が咆哮を上げ、地を蹴る。
前方から飛来する氷柱や最早鉄塊とも言っても良いほどの巨大な
その眼前に立ち塞がるのは、盾の乙女。
大地を鳴らし、大気を震わせる大英雄の雄叫びに恐怖を抱きながらも、後ろにいる大切な人達を守るためにマシュ・キリエライトは意思を固める。
今のカルデアは知りようもないことだが、マシュに力を貸したサーヴァントの真名はギャラハット。
円卓の騎士において、十三の席に座り、唯一聖杯探索の旅を終えた円卓で最も天然──失礼、最も清き騎士である。
円卓の騎士ギャラハットの盾を受け継いだマシュの盾は、想いの丈により、その堅牢さを増す。
彼女の心が折れない限り、雪花の盾は穢されることはない。
その守りは特異点においても、体の限界が訪れるまでAチームの面々を守り続けた。既にギャラハットの霊基が失われ、オルテナウスで補強されていたとしても、その守りをAチームが疑うことはない。
しかし、彼等には一つの誤算があった。
それは、藤丸立香はカルデアを知っており、カルデアは藤丸立香を知らなかったこと──。
この場においても、マシュの守りを信頼しているのはAチームだけではない。
藤丸立香もまた、彼女の守りを信頼していた。
故に、真正面からの攻略は行わない。
「呂布奉先、
「■■■■ッ!」
「えっ……!?」
呂布奉先が手の中にある方天画戟を地面に突き刺し、盾の足元から上へとかち上げる。
衝撃がマシュの全身を突き抜ける。
防御の要である盾が跳ね上げられ、マシュの体勢が大きく崩れた。
その瞬間、呂布奉先の巨大な手が細い腰を掴み、まるでボールでも放り投げられるかのような動作でマシュを放り投げる。
抵抗する間もなく、マシュの体は宙を舞った。
ドッ!! と非常に重く、衝撃的な爆発音と共にマシュの姿が小さくなる。
大英雄の投擲により、戦場から遠く離れた街の方角へとマシュは戦線離脱を余儀なくされる。
「チィッ──マスター!! 宝具を解放するぞ!!」
「えぇ、その怒りをぶつけて!!」
仲間の窮地に、ペペロンチーノのサーヴァント、アシュヴァッターマンが激昂する。
その手にある巨大な円盤が、紅蓮の炎を纏い始めた。
宝具発動の予兆。
サーヴァントの出自が明らかになる宝具の真名解放は慎重を期すものだが、もうそうは言っていられない。
先程の氷柱を簡単に叩き落したことから、カドックとキャスターであるアナスタシアは呂布奉先を真正面から止めることは難しいだろう。
藤丸立香の横にいる白いドレスを着たサーヴァントが視界に入る。
太陽神ルーが海神マナナンより与えられたとされるフラガラック。
そして、ドクターロマニの警告から、サーヴァントの正体はもう殆ど分かったようなものだ。
何故女性なのか、その人物が何処かで見た覚えのある顔をしていることを気にしながらもペペロンチーノは真名を予想する。
真名マナナン・マク・リール。
フラガラックは元々はマナナンが所持していたもの。
であるならば、サーヴァントとして現界する際に、宝具として持っていても可笑しくはない。
だが、敗北は考えていなかった。
今マナナンは虞美人と対峙しており、宝具がアシュヴァッターマンへ向かうことはない。
尤も、神霊相手であっても、自身のサーヴァントであるアシュヴァッターマンやAチームが負けることはないだろうが……。
ましてや相手は神霊サーヴァントを正規の召喚で呼び出すのではなく、簡易英霊召喚で影のみ呼び出している。
呂布奉先はここで止める。そう決意をして、魔力を回す。
「技巧戦闘──戦輪、起動!」
カルデアから供給される魔力、ペペロンチーノの後押しによって尋常ならざる神秘の魔力がアシュヴァッターマンから溢れ出る。
彼の手中で、巨大な戦輪が悲鳴のような回転音を上げ始めた。
それは武器と呼ぶにはあまりに巨大で、神具と呼ぶにはあまりに禍々しい。赤黒い炎が渦を巻き、周囲の大気を一瞬で蒸発させる。
アシュヴァッターマンが咆哮とともにそれを解き放てば、紅蓮の戦輪は空間そのものを削り取るだろう。
本能で危機を感じ取った呂布奉先が腰を降ろして構えを取る。
人跡未踏の武を体現する戦鬼、呂布奉先。中国の三国志時代において最強の一角に数えられる武将に相応しい闘気を感じ、アシュヴァッターマンの胸中にも、瞬時に獰猛な戦闘意欲が沸き上がった。
「ハッ、上等だ! そのツラ、その力……! 叩き潰し甲斐があるってなァ!」
手にした巨大な戦輪は、摩擦と憤怒によって白熱し、周囲の空間を陽炎のように歪める。
「戦士の誓いはとうに消え、我らは堕落した! それでも俺は堕落を怒り、自分自身にも怒り続けよう! 疾走するが良い……天輪よッ!!」
アシュヴァッターマンが渾身の力で円盤を振り抜き、破滅の紅蓮が呂布を飲み込もうとしたその刹那。
藤丸の声が響き、一筋の清浄な光が走ったかと思うと、狂える二人の武人の間に割り込んだ。
「──来てください、パールヴァティー様!!」
光の中から現れたのは、戦場にはあまりに場違いな、穏やかで慈愛に満ちた女神の微笑。
刹那、アシュヴァッターマンの全身を、心臓を直接掴まれたかのような衝撃が貫いた。
光の中から現れたのは、目元が陰で隠れた優美な衣装を纏った女神。
その姿を見たアシュヴァッターマンは体がまるで金縛りにあったかのように硬直し、宝具が強制的に中断され、炎が霧散していく。
アシュヴァッターマンは常に怒り、怒鳴りまくっている荒々しい男だ。しかし、正気を失っている訳ではない。
相手が誰であろうと納得いかなければ余裕で吹っ飛ばすことはあるかもしれないが、マスターが尊敬できるような人物であるなら、誓約を破り、夜襲を決行した際の罰――三千年の長きに渡り、森を放浪した罰をもう一度受けても良いと思うことの出来る情熱の戦士だ。
見目麗しい女性が出て来ただけで、彼は動揺はしない。
しかし、目の前の女性だけは別だ。
「は? え……パ、パールヴァティー様ァアッッ!!?」
インド神話の最高神シヴァの伴侶であるパールヴァティー。
恐れを知らない大戦士であるアシュヴァッターマンではあるが、最大限の敬意を払うべき相手が無防備に突然出て来たことに、驚き、全身の動きを止めてしまった。
それを想定していた藤丸立香は止まらなかった。
「恋見てせざるは愛無きなり《トリシューラ・シャクティ》!!」
動きの止まったアシュヴァッターマンに、パールヴァティの三叉戟から放たれる雷撃が直撃する。
愛の女神の慈悲深き一撃は、怒れる戦士の霊基を粉砕した。
アシュヴァッターマンは断末魔の叫びを上げる間もなく、光の粒子となって消滅する。
Aチームは、中距離攻撃の要を失った。
「アシュヴァッターマン……! 嘘でしょ……」
ペペロンチーノが絶句する。
戦況は一気にカルデア側に不利へと傾いた。
オフェリアはキリシュタリアがやられたことに最も動揺し、戦場のことに目を向けず、回復魔術をかけ続けている。
キリシュタリアは死にはしないものの傷は深く、動けない。
デイビッドは意識不明。ベリルも魔術師としては一流ではあるが、サーヴァントと妖精國の騎士達との戦いに割って入ることは出来ない。
カイニスやシグルドはウッドワス、ランスロットに押されており、蘭陵王もパーシヴァルとガレスの二人を相手に苦戦を余儀なくされている。
「ッ全員、今直ぐ撤退なさい! これ以上の戦闘は無意味よ!」
通信越しに、オルガマリー所長の悲痛な叫びが響く。
戦況の悪化、そして周囲には敵の増援と思われる気配が迫っていた。
シャドウ・ボーダーの装甲が僅かに開き、ミサイルが両陣営を分断するように降り注ぎ、妖精騎士の足を止める。
その隙にAチームは撤退を開始する。
「待って、マシュ……マシュがまだッ!!」
「ダメだ。オフェリア! あぁックソ……アナスタシア、オフェリアを抱えてくれ!」
「敵の牽制をしているのに、無茶を言うわねカドック。淑女一人も持ち上げられないなんて、あなたはもう少し筋力を付けた方が良いわ」
「文句は後で聞く! 今は指示に従ってくれ!」
マシュの姿がないことに気付いたオフェリアが下された撤退命令に逆らい、シャドウ・ボーダーの入口とは逆方向に駆け出そうとする。
それを止めたのは、現状でAチームでも最も冷静だったカドックだ。
キリシュタリアをペペロンチーノが抱え、シャドウ・ボーダーへと駆け込む。
その後ろをオフェリアを抱えたアナスタシアが続く。
その途中、彼女は見てしまった。
街の瓦礫の中で気を失っているマシュが、敵の騎士たちによって拘束され、連れ去られていく姿を。
「マシュ……!」
「ダメよ、オフェリア! 今は引くしかないわ!」
ペペロンチーノがオフェリアの肩に手を置き、言い聞かせる。
「キリシュタリアもデイビッドも傷を負ってる。今助け出すのは無理よ……!」
「ッ!!」
オフェリアの悲痛な叫びが、遠ざかる装甲車から響く。
ペペロンチーノが必死に彼女を抑え込み、敗北を認めて撤退を選択する。ハッチが閉まる直前、デイビッドと目が合った気がした。
だが、藤丸は視線を逸らさない。
見送る瞳は、冬の湖のように冷たく澄んでいた。
藤丸は、遠ざかっていくその影を追おうとはしなかった。
深追いはしない。
それが今の彼の選択だった。
「……行ったか」
巻き上がる砂塵が、カルデアの敗走を象徴していた。
静寂が戻り始めたキャメロット。
藤丸は血の匂いが混じった風を吸い込む。
その時、懐の通信機が場違いに明るい声を響かせた。南米異聞帯――ククルカンの統べる地からの緊急通信。
『リツカ君、聞こえますかー? ククルカンでーす!!』
「ククルカン。どうしたの?」
『いいニュースでーす! 君が言っていた「探し人」……ようやく見つかったしたよ!!』
「そっか、ありがとう。すぐに向かうよ」
藤丸立香はシャドウ・ボーダーが走り去った後を暫く見つめる。
かつての仲間を、大事な盾の少女を、自らの手で蹂躙した。
その事実が心に鉛のような重みを加えるが、藤丸はそれを飲み込み、唾を返して仲間の元へと歩んでいく。
戦闘描写が、難しいッ!!
次に本格的に戦う時はもっと登場人物の考えとか書いた方が良いかな。