待っていてくれた人がいるかどうかは分かりませんが、自分がやりたいので投稿じゃあ!!
本当は幕間で藤丸が異聞帯でどう過ごしていたか書こうかなと思ってたんですけど、削ってしまうことにしました。今後も削れるところは削って行こうかなと思ってます。
殺した人の数を数えると、足がすくむ。目の前が真っ暗になり、足を前に出すことが怖くなる。
一度世界を滅ぼした。自分が
目を閉じれば、黒い水に沈んでいく人々の幻影が脳裏を過る。老人も、子供も、赤ん坊も、悲鳴を上げて助けを求める人も、誰かを助けようとする人も、皆、等しく黒い水に飲み込まれていく。
その光景を実際に目にした訳ではない。だが、罪の意識がその地獄絵図を脳裏に鮮明に描き出す。
父親がいた。母親がいた。妹がいた。幼馴染がいた。友達がいた。もう顔も覚えていないけれど、家族と気の許せる友達がいた。それらを、自分自身の手で殺した。
記憶の彼方に霞む笑顔、温かい声、触れた手の感触。それらは、もう二度と取り戻せない。失われた過去は、永遠に苛む。それだけではない。自分と同じく家族も友人もいる人もいただろう。
そんな、日常を謳歌していた人々を殺した。その全てを奪ったのだ。
正に全人類から恨みを買っても可笑しくない所業。
更に、今は異星の使徒になって人理漂白に手を貸し、再び人類史を脅かしている。
汎人類史だけではない。自身が起こした行動で異聞帯にまで及んでいる。
妖精國では、トネリコの魔術で本体をコールドスリープ状態にして、眠りに付き、魔力で仮初の肉体を形成し、活動していた。
トネリコの旅路を少しでも良いものにしようと、死に物狂いで走り回ったが、それでもウーサーの死を防げず、そのせいでトネリコと袂を分かつことになった。その後は、助けたはずの牙の氏族に喰い殺されることもあったり、芋虫にされて踏み潰されれて殺されたりもした。
最終的にはトネリコと大喧嘩をした後に和解をし、巡礼の旅を終える事は出来た。けれど、前回とは違う歴史を歩んだ異聞帯にしたせいで――アルトリア・キャスターは生まれなくなった。
胸に去来するのは、言いようのない喪失感。まるで心が霧に覆い尽くされたかのように冷たくなる。
多くの命を奪った。多くの希望を奪った。
そんな自分は、一体この先どうなるのか。少なくとも、もう自分が帰りたかった場所には帰れない。
確証はない。しかし、それだけは確かなことだと無意識に理解していた。
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カルデアの新しい拠点。オデュッセウス率いる艦隊の一隻、そして現地民と交渉して手に入れたテオス・クリロノミアで大幅に強化したシャドウ・ボーダーの廊下を、カドックは自身のサーヴァントであるアナスタシアと共に歩いていた。
現在は南米異聞帯へ向けて移動中。
これまでカルデアはロシア、北欧、中国、インド、大西洋と旅をして来た。目的はカルデアの戦力の増強。
これまでの異聞帯では、多くの英霊たちを仲間に引き込むことに成功した。
旅の最中にキリシュタリアとデイビッドの容体も回復し、もう直ぐ目を覚ますとドクターロマニからも報告を受けている。
今の所、全てが順調だ。
十分な戦力が揃えば、もう藤丸立香に敗北することはないだろう。誰もがそう考えていた。
「カドック、何処に行くつもりなの?」
「図書室だよ。今回仲間になった英霊の記録をもう一度見ておこうと思ってる。マスターがサーヴァントの戦いに介入何て出来ないけど、支援は出来るからな。そのためにも、彼等のことをもっと深く知っておきたいんだ」
「そう。その勤勉さは流石ね。私、あなたのそういうところ好きよ」
「そうか。邪魔しないでくれよ」
好意を口にしたのに素っ気ない態度。
アナスタシアが少しムッとした表情になる。
「……残念ね。初めの頃は、私の言葉にあんなに狼狽してくれていたのに」
「殆どからかいだって分かったからな。もう騙されないよ」
「むぅ……詰まらないわ。詰まらないから、廊下を凍らせて、あなたがへっぴり腰で歩いている様子を動画に撮っても良いかしら?」
「やめてくれ! 君の悪戯で、これまでどれだけ僕が胃を痛めて来たと思ってるんだ!? カルデア全体を巻き込んだ時は、本当にどうすれば良いか頭を悩ましたんだぞ!!」
思わず声を荒げて、カドックがアナスタシアに詰め寄る。
思い出すのは、魔術師の常識をアナスタシアがぶち壊そうとして、回収した聖杯でボーリングを目の前でし始め、結果、ボーリング特異点なるものが出来てしまった事件。
本当に何故あんなことになってしまったのか。
聖杯――神の血を受けた杯、あらゆる魔術の根底にあるとされる魔法の釜。
カルデアが回収した聖杯は、逸話にあるような神の血を受けた杯ではなく、純粋な魔力の塊でしかないが、それでも魔術的価値は計り知れない。
ダ・ヴィンチの話では、アナスタシアが行ったボウリングで聖杯がそれに興味を持っちゃったから特異点が出来たのではと……とのことだが、それで良いのかとツッコみたくなる。
何故、急に知能指数が低くなった。何故、聖杯が思考しているんだ。最終的に聖杯に足でも生えて、走り出したりするのだろうか。そうカドックは思わずにいられなかった。
ちなみに、問題の特異点は、最終的にキリシュタリアがパーフェクトゲームを叩き出して特異点を解消した。
「あれは私も反省しているわ」
「反省しているなら、そういう悪戯は控えてくれ。やるとしても、せめて対象は僕個人にしてくれ。後で部屋で付き合うから……」
「さりげなく部屋に誘うだなんて……随分なたらしになったものね」
「そういう意味じゃない!?」
アナスタシアの言葉に頭が痛くなる。
酷い時には戦闘よりも気が滅入るのだから、本当に勘弁して欲しい。しかし、どれだけ悪戯をされても、最後には笑った笑顔を見て許してしまうのだから、自分もどうかしているだろう。
これが惚れた弱み、というものだろうか。絶対に口にすることはないが……。
「何だよ。夫婦一緒に廊下で何してるんだ?」
「誰が夫婦だ!」
聞こえてきた言葉に反射的に答えてしまう。
振り向いた先にいたのは、キリシュタリアのサーヴァントであるカイニスだ。
槍を気軽に肩に担ぎ、小馬鹿にするようにカドックを見ている。
「……カイニスか。何をしてるんだよ」
「別に、何も。シュミレーションで体を動かしてたが、一日中ずっと一人で占領するのは勘弁してくれってダ・ヴィンチの野郎に言われてたから、ぶらついてたんだよ」
「つまり、やることがなくなったから、私たちに絡んだのね。言動と言い、あなたはどんどんチンピラになっていくわね」
「おい、アナスタシア!?」
「ハッ――いい度胸だな、皇女様。お前のそういう所、嫌いじゃねぇぜ」
カイニスを挑発するような言葉を吐くアナスタシアにヒヤリとする。
同じAチームのサーヴァントであるのに、この二人の相性は悪い。本気で喧嘩をすることはまずないが、聞いているだけでヒヤリとする会話をする。
本格的に胃がもたなくなる前に、カドックは二人の間に割って入った。
「二人共、やめてくれ。ここで暴れられたらシャドウ・ボーダーがもたない」
「安心しろよ。カドック、この程度で喧嘩なんかしねぇよ。鬱憤はシュミレーションで減らして来たからな」
何はともあれ、喧嘩になることはない。
アナスタシアは自身が止めることができるため、懸念がなくなり、胸を撫で下す。
「鬱憤は減らして来た? 随分と暴れて来たみたいね。そんなに敵がいないのは不満なの?」
「……それもある。どこの異聞帯も予想以上にオレたちを殺そうとはしてこなかったからな」
「異聞帯の王たちと戦って戦力を減らすよりは良いだろう。確かに少々不気味ではあるが……」
カイニスの言葉に、これまでの旅を思い出す。
異聞帯を巡って英霊を集めていた際、異聞帯の王たちと何度か遭遇したが、戦闘になることはなかった。カルデアは異聞帯を消そうとしているため、異聞帯の王たちにとってはカルデアは見つけ次第殺しに来る。そう思ってカルデアは準備を進めていた。
しかし、実際に遭遇して見れば、戦闘になることはなく、異聞帯を見て回ることを許可を貰うことも出来た。
ロシア異聞帯では、異聞帯の王であるイヴァン雷帝は、アナスタシアと楽しそうに会話をすることもあったぐらいだ。
そのおかげもあって、カルデアの旅はこれ以上なく順調に進んでいる。
カルデアの旅が順調に進むことは異聞帯にとっては良いことではないはずなのに、何故、彼らは戦いを仕掛けてこなかったのか、疑問は残る。
カルデアは本来研究機関。戦いの専門部隊ではない。だから、侮られているのか。あるいは、何か別の意図があるのか。
一抹の不安が過る。
もし、戦闘になれば、勝つことが出来るのだろうか。
異聞帯の王の中には、北欧やギリシャのように、正真正銘本物の神もいる。そんな相手に、勝利し、汎人類史を取り戻すことが出来るのか。
異聞帯の王の戦力を測れていない現状、確実に勝てるという根拠はない。もしかしたら、敗北することになるかもしれない。
もし、そうなれば、カルデアが終わるだけではない。
自分たちが背負っている汎人類史の未来そのものが閉ざされることになる。
弱気になるカドックだが、その心を見透かすように、アナスタシアが静かに語りかける。
「カドック、慢心から手を緩めたり、途中で諦めたりすることのない精神性であなたは人理修復の旅を乗り越えたのでしょう? 今更、何を弱気になっているの?」
「――あぁ、そうだった。ありがとう」
アナスタシアの言葉が、心に深く突き刺さる。
キリシュタリアたちのように才能はない。だからこそ、自分にできることを続けた。
そうだ。自分は、あの地獄のような旅を、諦めることなく乗り越えてきたのだ。今更弱音を吐いてどうする。
アナスタシアの言葉に、カドックは静かに頷く。
「やれやれ、夫婦は何処でもイチャつくな。甘ったるくて仕方ねぇ……はぁ、なんかむしゃくしゃして来たな。体動かしに行くか」
「あら、嫉妬してしまったかしら?」
「ちげーよ。今度こそ、あの自分は世界一不幸ですって面してる野郎を叩きのめすためだよ」
「今頃修行しても、サーヴァントは成長しないわよ……」
「真に受けんな。気分の問題だよ」
槍を肩に担ぎ、二人に背を向けてカイニスが歩き出す。
カドックとアナスタシアも、カイニスが歩き出したのを皮切りに、止まっていた足を動かす。
その直後、二人の背後、薄暗い通路の影に漆黒のローブを纏った人影が、音もなく立った。その顔はフードで深く覆われ、表情は窺い知れない。
手に持つのは身の丈ほどの大剣。ローブの隙間から見える目は青く冷たい光を宿している。
異様な姿をしているのに、カドックも彼のサーヴァントであるアナスタシアも、無双の力を以て神と傲った僭主であるカイニスも誰も気付かない。
その存在は、誰に気付かれることもなく、身の丈ほどの大剣をカドックへ向けて振るった。
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シャドウ・ボーダーに存在するダ・ヴィンチの工房。
そこには、工房の主であるダ・ヴィンチの他にオフェーリアとペペロンチーノ、ベリルの三人がいた。
三人がそこにいるのは、珍しい話ではない。
この工房では、魔術に使用する素材の取引も行っており、Aチームもここをよく利用している。
今回も同じような理由でダ・ヴィンチの工房に足を運んでいた三人だが、ダ・ヴィンチにこれ幸いとばかりに新しく作られた魔術礼装の試着をさせられていた。
「へぇ、これが新しい礼装かい? これまでのものよりも上等だな」
「ふふふ、分かるかいベリル君。なんせ腕によりをかけて作ったからね」
「分かるだろ。これが分からない奴は素人ぐらいだぜ」
新しくAチームに配給される予定の礼装に腕を通したベリルが、驚きつつダ・ヴィンチの腕を称賛する。
その横では、ペペロンチーノとオフェーリアも礼装の出来に驚きを隠せずにいた。
「ほんっと……流石ねぇダ・ヴィンチちゃん。これ、下手すれば宝具クラスの代物にならない?」
「……これが万能の才人。ミスタ、あなたが魔術の道を極めれば、一代で根源にすら到達出来たのでは?」
「別に私だけの功績じゃない。これが出来たのは、君達が異聞帯で充分な素材を集めて来てくれたからさ。それはそれとして、もっと褒めてくれてもいいんだよぉ~」
にやにやと満更でもない表情を浮かべたダ・ヴィンチ。
彼は更に機嫌よく引き出しを開けて、中の物を取り出し、机の上に置く。人が腕に抱えられるほどの大きさの円柱の透明な瓶。その中には、何やら怪しい色のドロッとした液体が入っている。
一体これは何なのか、思わず手を一番近くにいたオフェーリアが手を伸ばして確認しようとする。――が、それをダ・ヴィンチが遮った。
「おっと、これは触っちゃいけないよ」
「何だ。そんなに危険なものなのか?」
見せてくれたというのに、触らせてはくれない。それほど危険なものなのかとベリルの目に好奇心が宿る。
「こら、興味本位で触ろうとするんじゃない。これに一滴でも触れたら命の保証は出来ないよ」
「……もしかして毒かしら?」
「その通りだよ。ペペロンチーノ……しかもただの毒じゃない。ギリシャの大英雄ですら命を落としたほどの猛毒さ」
「それってまさかっ!!?」
ダ・ヴィンチの言葉にペペロンチーノが目を見開く。反応を見せたのはペペロンチーノだけではない。毒の正体を知ったオフェーリアは体を強張らせ、ベリルは笑みを深くする。
ギリシャの大英雄――誰もがその真名を頭に浮かべる。
そのギリシャの大英雄の死因となった毒であれば、ダ・ヴィンチがここまで警告するのも当然だった。
「そんな代物、一体どうやって?」
「君達が異聞帯で討伐したヒュドラがいただろ? あれの細胞から作り出したのさ。この私とカルデアの技術力があるんだ。これぐらいできて当然さ!」
異聞帯で生息していた野生のヒュドラ。
汎人類史の神話に語られるヒュドラそのものではなく、劣化した存在だったが、天才の閃きとカルデアの技術により、その微かな残滓からから本物を再現してみせたと豪語する。
「こいつは、俺が使っても良いか?」
「……そうだね。オルガマリーの許可を貰ってからなら良いよ。これも異聞帯との勢力差をなくすために用意したものだからね。ただし……扱いには気を付けてくれよ?」
「安心してくれよ。毒の扱いはしっかり理解してる」
ダ・ヴィンチの言葉に、ベリルはいつもの軽い調子で陽気に返事をする。
だが、その視線は怪しく蠢く毒の入った円柱の瓶に釘付けになっていた。口では調子の良いことを言いながらも、彼の脳裏では既に、その最悪の呪毒をどう使えば、最も愉しく効率的に敵を蹂躙できるか、幾通りもの凄惨なシミュレーションが瞬時に組み立てられている。
「ちゃんと言う通りにするさ。俺ってば、規律正しきAチームの優等生だからな?」
おどけるように肩をすくめ、ケラケラと笑うベリル。
しかし、目の前に立つ万能の天才の目を欺くことはできない。
「一応言っておくけど、使用用途は、予めこちらで指定させて貰うからね?」
「おいおい、俺ってそこまで信用ないのか? 悲しいな」
ベリルはわざとらしく両手を広げ、お茶らけた態度で笑ってみせるのだった。
ペペロンチーノが呆れたようにため息をつき、オフェーリアが冷ややかな視線をベリルへ向ける。
そんな、いつもと変わらないクリプターたちのやり取り。
だが――その時間に終わりを告げるように、三人の背後に、漆黒のローブを纏った人影が音もなく立つ。
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シャドウ・ボーダーの図書室。
いつもと変わらず、虞美人は図書室の隅で静かに本を読む。
拠点がカルデアからシャドウ・ボーダーに移った際に、見つけた秘かに一人になれる場所は彼女のお気に入りの場所だ。
別に読書が好き、という訳ではなく他人と関わらずに距離を取る都合の良い手段として読書をしてただけだが、ずっと続けてきたせいでもう習慣のようになっている。
最も、本を読む理由はもう一つあるのだが……。
彼女の手の中にある書物のタイトルに記載されている文字は『項羽』。
彼女のことを知っている者からすれば、実に分かりやすかった。
「チッ――」
唐突に虞美人が舌を打ち、本を閉じて、後ろを振り返る。
彼女の背後に佇んでいたのは、漆黒のローブを纏った人影。カドックやオフェリア、ペペロンチーノ、ベリルを襲った人物と同一の存在だった。
「――――」
「…………」
重苦しい空気が二人の間に漂う。互いに目の前の存在がどういう者かを理解する。
暫く、二人は静かに睨み合っていると、漆黒のローブを纏った人影――山の翁がゆっくりと口を開いた。
「――ほう、己自身で切り捨てたか」
重々しい言葉を吐き、山の翁は姿を消す。
正面にいたはずなのに、山の翁は虞美人から知覚されずに影も残さず消える。
一人、残された虞美人は静かに息を吐く。
その頬には一滴の汗が流れていた。
はて、山の翁は一体何をしに来たのだろうか……