最近忙しくて……再投稿はいつになるのかな。
「魔力計が振り切れていますッ」
「第七異聞帯に恒星級以上の魔力反応……これがORT!?」
「藤丸立香、ORTとの交戦を開始しました!」
「ORTの進行速度を計算!地上に出るまで約二十時間と思われます!」
「ミクトランのあちこちがORTによって浸食されていますッ。所長、すぐに脱出した方が良いのでは!?」
シャドウ・ボーダーの操縦席内に赤いランプが明滅し、けたたましいアラームが鳴り響く。オペレーターたちが忙しそうに画面へ視線を走らせ、悲鳴に近い声を上げながら口を動かしていた。
「そんなことは、出来るわけないでしょ! デイビットが戻って来るまでここで待機よ!」
カルデア職員の動揺を叩き潰すように、オルガマリーが毅然と答える。
メインモニターに映し出されているのは、ミクトランを直線で移動するORTの巨大な光点。そしてその前方には、単身撤退を続けるデイビットの生体反応を示す表示があった。
移動速度は、デイビットの方が僅かに早い。
このままのペースを維持できれば、ORTがシャドウ・ボーダーの潜伏地点に到達するよりも前にデイビットを回収し、南米異聞帯を脱出することは十分に可能だろう。
ORTが目を覚ましたせいで、南米のあちこちで急激な浸食が起きているが、ここまでは予定通り。問題はない。もとより、カルデアの作戦において、この異聞帯はORTの手によって破壊させる予定なのだから。
全ての異聞帯を完全に破壊できれば、後はAチームの出番だ。
今や全ての異聞帯の存在強度は汎人類史と同等。
異聞帯を維持している藤丸が消えても、異聞帯に存在する全ての生命は消えることなく、白紙化された汎人類史の地球へ移住することすら可能となっている。そしてそれは、異聞帯という世界が消え失せようとも、そこに座すORTという絶対強者だけは、存在し続けることを意味していた。
ORTが暴れることで、南米異聞帯の生命はことごとく死に絶えることになるだろう。しかし、この世界が滅びようとも、ORTだけは消えることはない。
ORTによって異聞帯を消滅させるというデイビットの案の、一番恐ろしい所。
それは、異聞帯を喰らい尽くしたORTが、そのまま次の餌を求めて、自分たちが取り戻すべき汎人類史さえも餌食にする恐れがあるということだ。
世界を救うための毒が、世界そのものを滅ぼす大津波となって溢れ出す。その最悪の瞬間を御し、汎人類史を守り抜くために――今、Aチームのマスターたちは静かに待機しているのだ。
「それにしても、まさかORTに戦いを挑むとわね。ORTを少しでも知っていたら、絶対に避ける行為なのに……やっぱり、素人だからかしら」
ORTと戦う。
それは、まともな魔術師であれば天地がひっくり返ってもやらない行為だ。
汎人類史では南米の奥深くに眠っていると言われているORT。
唯一接触したのは、十六世紀に調査に乗り出した七人の魔術師。冠位1名、色位六名のどんな極地でも乗り越えることが出来そうなメンバーしかいなかったにもかかわらず、一人を除いて壊滅し、その一人も最後には遺言を残して死亡した。
この惨劇を受け、時計塔の学院長はそれを「決して手を出してはいけない絶対の脅威」と認定した。
その話について、無論オルガマリーもその言い伝えは耳が痛いほど聞いている。しかし、藤丸立香という少年は、それを知らないのだろう。
なんせ、彼は魔術のイロハも知らずにカルデアへ踏み入った完全な門外漢。そんな人物がORTなど知っているはずもない。
ORTに対して恐怖を抱くことなく立ち向かえるのは、その歴史も不条理さも何一つ理解していない素人だからこそなのだろうと、オルガマリーは結論付ける。
「はぁ、何も知らない素人って怖いわね」
小さく溜息を吐き、オルガマリーはメインモニターに映るORTの周囲の魔力反応に視線を落とした。
ORTの傍にある8つの冠位の霊基反応。冠位の称号を手にした時は驚いたが、それだけ。
霊基反応は小さく、サーヴァントへ供給する魔力も補助を使わなければ満足にできない三流。たとえ異聞帯の王たちの力を借りたとしても、マスターとしての力量は一流の足元にも及ばない。
やはり、藤丸立香単体では何の力もないただの凡才なのだと、彼女は確信する。
当初の予定では、異聞帯の王達がORTに対処するために、出払ったのを確認してから、後ろで隠れているだけの藤丸立香に奇襲をかける作戦だったが、もうその必要性もなくなった。
あのORTの前に立ったのだ。
この後、どうなるのかは言うまでもない。
「…………」
ふと、オルガマリーはモニターから、シャドウ・ボーダーの強固な装甲に遮られている外の世界へと視線を移した。
樹海が激しく揺れ、地底世界がORTの目覚めによって悲鳴を上げている。
「……ごめんなさい。あなたたちは、何も悪くないのに」
誰に届くでもない小さな声で、オルガマリーは滅びゆく異聞帯で生きる民に向けて、呟くように謝罪の言葉を零した。
本来であれば、とっくに人類史の編纂から零れ落ち、剪定事象として静かに消え去っていたはずの世界。それを無理やり引き上げ、地球の上にテクスチャとして上書きし、
だが、その藤丸立香と違い、この地に生きる無辜の人々には何の罪もない。
世界を身勝手に復活させた藤丸は明確な悪だが、その傲慢の被害者となった異聞帯の人々は、ただ必死に生きていただけの無辜の命。
汎人類史を取り戻すためとはいえ――それを正しいと信じて進める冷徹な作戦の最中であっても、散りゆく無関係な命に対して、何も感じない訳ではなかった。
――――――――
――――――
――――
――
灼熱の炎が迫る。
摂氏千五百万度を超える炎。触れれば溶ける処か、原子そのものがバラバラに崩壊し、プラズマ状態になるレベルの炎。
ORTの浸食を権能によって食い止めていたテスカトリポカの神躯すらも一瞬で炎に呑まれ、トネリコが死に物狂いで藤丸の前に張ってくれた障壁も、触れた瞬間にまるで紙切れのように消し飛んだ。
万策尽きたかと思われた、その刹那。
炎の波に呑み込まれる直前に、藤丸は恐怖で硬直する体を動かした。
「――来い、カルナ!!」
手の甲にある令呪が赤く輝き、炎と藤丸の間に現れるのは、インドの叙事詩マハーバーラタに名を刻む大英雄。
黄金の鎧を身に纏い、神殺しの槍を手にした大英雄が即座に状況を判断し、宝具の真名を叫ぶ。
「『
現界と同時に、その真名と宝具の解放が戦場に響き渡る。
太陽神から授かった絶対不可摧の黄金の鎧と耳飾りが激しい光を放って具現化した。
神話において、インドラによって奪われた黄金の鎧。それは、神々でさえ破壊困難と言われており、物理・概念を問わずあらゆる敵対干渉を削減する、カルナが不死身の英霊と言われる所以となったもの。その堅牢さは、とある平行世界にて、竜殺しの対軍宝具の直撃を受けても倒れないという出鱈目なものだ。
炎が凄まじい衝撃を伴ってカルナの黄金の鎧へと激突する。
ミクトランの大地がどろどろに融解していく灼熱地獄のただ中で、カルナは自身の肉体と同化した不死の具足を限界まで広げ、その大きな背中で藤丸とトネリコを包み込むようにして立ち塞がる。
ギチギチと世界そのものが軋むような音が響くが、太陽の鎧は融けることなく、灼熱の炎を強引に弾き返し続けた。
だが――黄金の鎧を以てしても、ORTが放つ灼熱の炎を完全に無にすることは叶わない。
「ガハッ……!」
炎を防いでいる最中、カルナの口から鮮血が迸った。
神々でさえ破壊困難と言われた鎧に、亀裂が入り、太陽神の子たるカルナですら耐えられない熱が、大英雄の霊基そのものを内側から猛烈に焼き、融かし、軋ませていく。
凄まじい負荷に肉体が悲鳴を上げ、パキパキと音を立てて霊基に無数の亀裂が入っていくが、カルナはその場から一歩も退こうとはしなかった。ただ無言で歯を食いしばり、藤丸とトネリコを守る絶対の盾として、その役割を全うし続ける。
やがて、ミクトランの大地をドロドロに焼き尽くした灼熱の炎が、徐々に引き波のように収まっていった。
だが、その瞬間――。
「見事な采配だったぞ、マスター。だが、ここまでだ……」
カルナは静かにそう告げると、藤丸を振り返ることなく、光の粒子となってその場から退去していった。
頼もしい大英雄の背中が静かに掻き消え、戦場には焦げ付いた大地とORTの不気味な稼働音だけが残された。
冠位の霊基で召喚されたカルナの全力の宝具。それですら、ORTの炎には耐え抜くことが出来なかった。
改めて、乗り越えなければならない災害の大きさを知る。
通常のサーヴァント霊基とは比べ物にならない器を持って、顕現した世界に対する兵器。その冠位英霊ですら使い捨てにするしかなかった。
「リツカ、大丈夫!? 息してるよね? 意識をしっかり持って!!」
「~~大丈夫ッッ」
一気に魔力を吸い上げられ、ふらついた藤丸をトネリコが支える。
「強がり過ぎだって、もう!!」
藤丸を支えながらもトネリコが走り出す。
藤丸の言葉など信じられるはずがなかった。貧弱な魔術回路しか持たないのに、大英雄を冠位で呼び出し、いきなり宝具を解放させたのだ。
どれだけの負担が藤丸の体に掛かっているか、想像するまでもない。
「歯を食いしばって立ってリツカ! カルナが私たちの命を繋いでくれた。なら、どんなに無様でも生かされた私たちは次の一手を打たなきゃいけないでしょ!!」
「分かってるッ。悪いけど、トネリコ、このまま支えてて!」
トネリコに肩を貸して貰いながら、藤丸は再度令呪を赤く輝かせる。
「テノチティトラン、エウロペ、キングプロテア、ポール・バニヤン!!!」
「うぉおおいぃ!? 死にたいの、魔術回路焼ききれる寸前なのにいきなり四騎召喚は駄目でしょ!!?」
トネリコが悲鳴混じりの怒号を上げる。だが、走り始めた魔力は止まらない。
藤丸たちを守るように聳えるのは四つの巨影。
水上都市テノチティトランが巨大ロボットへと変形し、エウロペの守護者として製造された
まさに神話の再現、否、怪獣大決戦というべき凄絶な光景が、ミクトランの大地で繰り広げられていた。
「おおおおおおおッッ!!」
四つの巨影が、前進するORTに力任せに激突する。
テノチティトランの巨大ロボットがその鉄腕でORTを掴み、タロスがその巨躯を用いて、ORTを組み伏せようとする。だが、二騎だけでは怪物の歩みは止まらない。
バキバキと世界が割れるような絶叫を上げ、テノチティトランの装甲に深い亀裂が走り、赤熱化したタロスの両腕が負荷に耐えかねて砕け飛ぶ。
プロテアが限界を超えて拳を叩きつけるが、その拳が逆にORTの鋭利な外殻に切り裂かれ、滝のような鮮血が戦場を真っ赤に染め上げた。バニヤンが渾身の力で振り下ろした大斧は、ORTの表皮に激突した瞬間、悲鳴のような金属音を立てて無惨に 刃が欠け飛ぶ。
絶体絶命。
後数秒で、四騎は吸収され、ORTは何事もなかったかのように歩み始めるだろう。
しかし、マスターを守らんとする四騎の強固な意思が、奇跡を起こす。
「「「「止ぉまぁれぇええええええッッ!!」」」」
テノチティトラン、タロスの亀裂の入り、崩壊していく腕の装甲を片っ端から修復してORTを止め、プロテアとバニヤンが血を流しながら、拳と斧を叩き込む。
四騎がその身をすり潰しながら稼いだコンマ数秒。
「走るよ、リツカ!!」
藤丸を抱えたトネリコが、爆風を背に猛ダッシュで駆け抜け、ORTから一気に距離を取る。
動きを止められたORTの頭上、ミクトランの空が、次元の壁を突き破って激しく明滅した。
それは、他ならぬ異聞帯からの世界を越えた超弩級の援護射撃。
極大の光柱が天から降り注ぐ。
ギリシャ異聞帯より放たれた、機神アルテミスの超超遠距離精密射撃──星を穿つ神罰の光が、ORTの外殻に真っ直ぐ突き刺さる。同時に、インド異聞帯の統治者たる神たるアルジュナの、権能を全霊で込めた一矢が、空間を爆裂させながらORTを撃ち抜いた。
凄まじい衝撃波がミクトラン全域を揺るがす。
しかし、ORTは止まらない。そればかりか、足止めに殉じたテノチティトランたち四騎の巨躯を、無数の触手が容赦なく貫き、その霊基を貪り喰うように吸収し始めた。
四騎の消滅の瞬間、さらなる神撃がORTに叩き込まれる。全能神ゼウスの荒れ狂う
これ以上のない、人類史と異聞帯が紡いだ最強の連撃。
だが、藤丸の瞳が驚愕に大きく見開かれたのは、その直後のことだった。
魔力をごっそりと絞られながらも、それを藤丸は目にする。
「……うそ、だろ……?」
ORTから伸ばされる白銀の触手が、突き刺さったアルテミスの光を、アルジュナの矢を、ゼウスの雷霆を、スカディの魔術に触れ──
ズズズズッ!と空間が軋む不快な音が響く。ORTの触手は、攻撃の供給元であるはずの各異聞帯そのものへと、貪欲に手を伸ばし始めていた。
このままでは、攻撃を続ければ続けるほどあの世界の人々までORTに喰い尽くされる。
藤丸は焼き切れそうな喉から、血を吐き出すようにして叫んだ。
「みんな、攻撃を止めてくれ!! これ以上は、そっちの世界までORTに喰われる!!」
血を吐くような藤丸の絶叫に応じるように、ORTに向かって降り注いでいた雷撃や光の柱が、苦渋の選択とともに掻き消えた。
各異聞帯からの援護がなくなると同時に、ORTの不気味な触手群が、獲物を失って再びミクトランの大地へとだらりと舞い戻ってくる。
もう少し遅ければ、それぞれの異聞帯そのものがORTの餌食になっていた。全てがORTに吸収される光景が脳裏に映し出され、ゾッとする。
攻撃そのものを浸食するなど、今回で初めて知った。
もう異聞帯の援護はもう頼めない。今のままでは、戦力は大幅に低下した。
それでも――まだ、終わらせてたまるかと藤丸は荒い息を吐きながら、血の滲む唇を強く噛みしめた。
「リツカ、来るよ!! もうこれ以上は速度は上げられないッ。いったん、妖精國に戻ろう!!」
「駄目だ。ORTの学習能力が前回よりも異様に早い。水鏡で飛んだら、それも学習されて別の場所に行かれかねないッ」
自身の触手に対する事象操作の付与したのと同様に水鏡も学ばれたら、本当に手が付けられなくなる。
異聞帯の援護は絶たれ、空間転移による離脱もできない、周囲には致死量の放射線が撒かれ、大地は水晶へと変わっていく。
文字通り四面楚歌の絶望的な状況。
それでも、藤丸は思考を止めない。
「テノチティトランたちですら、一秒も持たない。なら──」
これまでの戦いでも、ORTに碌なダメージを与えられた形跡はなかった。
足止めすらほんの一瞬。吹き荒れる
この状況を覆すためにも、まずは宇宙嵐の発生器官を叩き潰すことを藤丸は決意する。
藤丸は歯を砕けんばかりに噛み締め、焼き切れかけた魔術回路に魔力を流す。手の甲の令呪が血を流すように赤く狂い咲いた。
「あぁもうッ――無茶ばっかり!! このままじゃ死ぬよ!?」
「やらなくたってORTに殺されるだけでしょッ――さぁ、行くよッ!!」
魔力貯蔵庫から流れてくる膨大な魔力。
冠位の霊基を纏い、強化されているとは言え、呼び出すサーヴァントも冠位。藤丸の魔術回路への負担は変わらない。それでも、その負担を無視して連続召喚を実行する。
戦場に幾つもの光の柱が顕現し、瞬く間に激しい音と衝撃が鳴り響いた。
戦いがより一層激しさを増す。これまでの戦いが序章にすぎなかったかのように……。
聖剣が触手を断ち、外殻に魔剣が突き立てられ、天元の花が空間を斬り裂く。妖刀が振るわれ、聖槍が宙を焼き、魔槍が彗星となって空に弧を描く。
呪いが充満し、病が細胞を犯し、神代の魔術が放たれ、魔眼がORTの巨躯を捉える。
幾十、幾百という英霊たちが、召喚され、吠え、戦い、血を吐き、ORTの熱線に焼かれ、触手に圧殺され、光の粒子となって消えていく。
『館』に登録されていた霊基の反応が一つ、また一つと呼び出せなくなっていくのが分かる。
まるで、手足を捥がれていくような感覚。
精神がすり潰れていくようだった。
「行くよ。キングハサン――」
凄まじい物量によって、ORTの動きが一瞬怯む。
命の山を築いて作り出した、たった一度きりの瞬間を藤丸立香は見逃さなかった。
深淵の底から、死の鐘の音が響き渡る。
暗雲を割って現世に降り立ったのは、初代の『山の翁』。
大剣が虚空を走り、ORTの発生器官へと一閃。冠位の霊基と引き換えに、本来ないはずの死の概念をORTに与える規格外の一撃によって、ORTの宇宙嵐の発生器官はその機能を停止させる。
数多の英霊が決死の覚悟で外殻を削り、触手を切り落とし、山の翁が宇宙嵐の発生器官を潰した。
今ここが、ORTを倒せる千載一遇の機会。
「トネリコ!」
「OK! 任せて、一欠けらも残さずに吹き飛ばしちゃう」
空から
対厄災霊大儀式・脈閉塞型兵装。ORTにも並ぶ、ブリテンを長年蝕んでいた厄災にすら通用したトネリコが生み出した大魔術。
それに加え――。
「ロード・ログレス、星の聖剣を!」
「承知、我が召喚者に誉れを見せましょう」
藤丸の傍に冠位の剣士が顕現し、手にした星の聖剣を上段に構えた。
「収束せよ、星の息吹。輝ける未来を示せ。勝利は我が手に──『
アルトリア・ペンドラゴンと瓜二つの顔立ちをした英霊――ロード・ログレス。
その正体は、魔術師マーリンやブリタニアの民、そして人類すべてが切望した「理想の王の中の王」としての究極の姿にして、幻想を戴冠した者。幻想ではなく、伝説において語られたログレス国における理想の王である。
振るわれる聖剣のランクはA+++。
星の内海で造られた神造兵装、その原初のコンセプトにして、終局の刻に到達した真の
それが、ORTの細胞を一つ残らず、消滅させるため、
光りの奔流がORTに向かって一直線に奔る。
――当たる。
藤丸だけでなく、トネリコもこれ以上ない好機をものにできた手応えを感じた。その刹那……。
まるで世界そのものが捩れるような、不気味な音が戦場に轟く。
「──嘘、でしょ……!?」
トネリコが、その光景を見て目を見開く。
ORTの周囲に発生しているのは、間違いなく宇宙嵐。
発生器官は、先程山の翁の神域の一撃によって破壊したはずだった。なのに、それが再び宇宙嵐が発生している!
「早すぎるだろッ!?」
藤丸も驚愕して目を見開く。
宇宙嵐の発生器官は、確実に破壊した。
まさか、防御されたのか? いいや違う。確実に破壊したのは、この目で確認した。その証拠に宇宙嵐も一時期は止まった。
では、避けられたのか? それも違うだろう。死の概念が付与されれば、再生能力が停止するものの、ORTにとってはその程度、他の器官で代用すれば事足りてしまうことだ。
それは前回で確認済み。
紅閻魔・オルタに破壊された宇宙嵐を発生する器官は、暫くは機能していなかった。
なのに、今回はその器官の代用の生成が以前よりも異様に早すぎた。
「――もしかして、
トネリコが悲痛な予測を口にする。
それはもう、
――もしかしたら、代わりの器官の生成速度だって早くなるのかもしれない。触手に獲物を確実に捉えるように必中の事象操作を付与することだって出来るかもしれない。
宇宙嵐によって空間が捻じ曲げられ、『
極大の光はミクトランの虚空を虚しく焼き払うだけに終わった。
二人の背筋が凍り付く。
未だに自分たちはORTを見誤っていたのだと思い知る。
『
どれだけの犠牲を払っても、辿り着けない。
ORTという、星を喰らう怪物の底知れなさに、絶望が心を襲った。
「……リツカ、逃げて。もう無理だよ。これ以上は、本当に私達だけじゃどうにもならない」
引き攣ったトネリコの声が藤丸の耳に届く。
確かに、その通りだと藤丸は納得した。
こんな怪物をどうにかできる何てどうかしている。
また、英霊を召喚してもORTにとっては道中に食事が用意された程度。そして、消耗品のように英霊は死んでいくのだろう。
目の前でいなくなったカルナ。あっけなく炎に飲み込まれたテスカトリポカ、触手に潰された長尾景虎、ダレイオス。ORTに吸収されていったアーサー、ネモ。
そして、これまで呼び出しに応じて戦ってくれた英霊達。
彼等の死が瞼から離れない。
ORTは何をしても止められない。
その冷酷な事実が、藤丸の精神をじりじりと削っていく。
まるで、やすりで精神を削られているようだった。
怖いと悲鳴が口から漏れそうになる。
逃げろと本能が囁く。
背を向けて走れと理性が叫んでいる。
そもそも、何の力もない自分がここにいること自体が場違い。トネリコの言う通り、ここから逃げ出した方が良いだろう。
自分自身はキャメロットにでも閉じ籠り、戦いは異聞帯の王達に任せるのが正解だ。自分よりも強く、賢い彼等の方が、自分よりもずっと良い結果を出してくれる。
そんな声に従って逃げかけ、一歩後ろへ下がってしまった己の体に気づき、藤丸は歯を砕けんばかりに噛みしめた。
「なに、やってんだよ俺ッ!!」
必死に、震える膝に力を込めて自分へと叱責するように言い聞かせる。
異聞帯の王達に任せれば、自分よりも良い結果にはなるだろう。でも、彼等が傷つき、死ぬことは良いのか。
後の世界のこと?それぞれの異聞帯の統治?
もったいぶった理由など後付けだ。
誰一人欠けずに、次の世界でみんなで笑って生きていてほしい。その単純な
何度も終わりを見届けて来た。
今まで、ずっと途方もない重さのバトンを手渡されて来た。
足の裏を焦がすような恐怖を確固たる意志で押しのけ、藤丸立香は再び泥臭く地を踏みつけ、前を向く。
右拳を強く握りしめ、藤丸立香は己のみに許された
「――この
「――この
fate知っているのなら、誰でも知っている錬鉄の英雄さんの詠唱のオマージュです。
原作でも明かされていない藤丸の魂、死と繋がったとか、色々物騒なこと言われていたあれほんとどうなったんだろうか。未だに不明。3部で説明されたりするんだろうか。でも、人理修復自体が無くなっちゃったからなぁ。ほんと気になります。
この詠唱はあれが手の施しようがないぐらいに進んでいたら、こうなったのでは、という想定で作りました。
フルバージョンはまたいずれ。