藤丸立香が異星の使徒になる話   作:大田シンヤ

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5.偽りの共闘

 シャドウ・ボーダーのブリッジは、困惑と沈黙に支配されていた。モニターに映し出された光景は、あまりにも現実離れしていた。猛吹雪が吹き荒れる極寒の地で、敵であるはずの三人が、満面の笑みで歓迎の横断幕を掲げている。

 

「……どういうつもりかしら」

 

 オルガマリーが絞り出すように呟く。罠であることは明白。だが、その意図が全く読めない。

 

 やがて、痺れを切らしたように、ダ・ヴィンチが通信回線を開いた。

 

「やあ、そちらの皆さん。随分と手厚い歓迎じゃないか。一体何の真似だい?」

 

 モニターの向こうで、言峰神父が芝居がかった仕草で一礼する。

 

『これはこれは、カルデアの諸君。長旅ご苦労様。我々は敵意を持ってここに来たわけではない。むしろ、君達に一つの提案があって、こうして待っていたのだよ』

 

 提案、という言葉に、ブリッジの空気がさらに張り詰める。

 オルガマリーはダ・ヴィンチに目配せし、交渉の主導権を渡した。

 

「提案、ね。聞くだけ聞いてあげようじゃないか。まずは、君たちが何者で、どういう立場なのかを説明して貰おうか」

 

『話が早くて助かる。では、場所を移そう。このような場所で立ち話もなんだ、我々のうち一名を、そちらの乗り物に乗せてはいただけないかね? 誠意をもって、全てをお話しすると約束しよう』

 

 あまりに大胆不敵な申し出に、Aチームの面々から警戒の声が上がる。

 

「危険すぎる。敵を易々と招き入れるなんて」

 

「だが、奴らの目的を知るには、これ以上ない機会でもあるな」

 

 カドック、ベリルと続いて議論が紛糾する中、最終的な判断を下したのはオルガマリーだった。

 

「……いいわ。ただし、一人だけよ。少しでもおかしな真似をすれば、即座に排除します」

 

『感謝する、カルデアの所長殿』

 

 やがて、言峰神父と名乗った男が、ラスプーチンという真名を明かし、単身でシャドウ・ボーダーに乗り込んできた。

 会議室でAチームとカルデア首脳陣が彼を囲む中、ラスプーチンは驚くべき事実を語り始めた。

 

「——つまり、君達は藤丸立香に裏切られた、ということかい?」

 

 一通りの説明を聞き終えたダ・ヴィンチが、内容を要約して尋ねる。

 ラスプーチンは、胡散臭さたっぷりの動作で肩を竦めた。

 

「あぁ、その通りだ。全く、参ったよ。この私が背中からやられるとはね」

 

 彼の話によれば、彼らは異星の神によって召喚された「使徒」であり、藤丸立香はそのリーダーだった。しかし、その藤丸が突如裏切り、彼が召喚したサーヴァントと共に、異聞帯側に寝返ったのだという。そして今、異聞帯の戦力を使って、かつての仲間である使徒たちを排除しようとしている、と。

 ラスプーチンが提案してきたのは、共通の敵である藤丸立香を打倒するための、一時的な共闘だった。

 

「……情報では、彼は魔術と何のかかわりもない一般人のはずだ。サーヴァントである君達なら、抑え込むのは容易だったはず。それなのに、私達に協力を求めるのかい?」

 

 ダ・ヴィンチの鋭い問いに、ラスプーチンはそれまでの態度を改め、真剣な表情で答える。

 

「カルデアが彼を低く見積もるのは勝手だが、一度私達はそれで痛い目を見ているのでね。早急に認識を改めることをオススメするよ。なんせ、彼は直接異星の神と交渉し、地上に出現させる異聞帯を選び、使徒のリーダーとなった男だからね」

 

「……仮にも神と呼ばれる存在が、魔術も知らない素人と交渉したのか?」

 

 カドックの素朴な疑問に、ラスプーチンは決定的な情報を口にする。

 

「ふむ、そうだな。彼について分かっていることも話しておこう。当初の予定では、異星の神は藤丸と交渉するつもりはなかった。だが、彼が持つ戦力を無視できなくなり、交渉せざるを得なくなったのだよ」

 

「……は? 何だよそれ。その言い方、まるで『神』に匹敵する力があるみたいな言い方だな」

 

「君の予感通りだ、カドック・ゼムルプス。異星の神は、藤丸立香との敵対を避けた。避けなければならなかった。何故なら彼——藤丸立香は、人類悪ビーストのマスターであり、この世全ての悪(アンリマユ)を利用して、人理水没を引き起こさせた黒幕だったのだ」

 

 ラスプーチンの言葉に、シャドウ・ボーダー内は凍り付いた。

 人理の危機を齎した人類悪。それにマスターがいた。そして、その黒幕が、今回もまた人理を脅かそうとしている。

 それは決してカルデアには無視できない情報だった。

 リスクはある。相手を信用することは出来ない。全てを喋っている訳ではないだろうし、ここぞという時では裏切ってくるだろう。

 それらを踏まえ、どうするべきか。全員の視線が、一人の女性に向けられる。

 視線を向けられたオルガマリーは、暫くの間考え込んだ後、口を開いた。

 

「——良いわ。共闘の申し入れを受けましょう。ですが、私の許しなく今後シャドウ・ボーダー内に入ることは許しませんし、職員に近づくことも許しません。見張りも付けさせて貰います。それをあなた達は受け入れられますか?」

 

「その程度ならば、問題ない。警戒されて当然だからね」

 

 胡散臭い笑みを浮かべるラスプーチンと、覚悟を決めた表情のオルガマリー。

 こうして、カルデアと異星の使徒による、危険な偽りの共闘関係が結ばれた。全ては、汎人類史を取り戻すために。そして、全ての元凶である藤丸立香を打倒するために。

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