藤丸立香が異星の使徒になる話   作:大田シンヤ

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7.キャメロットへの侵攻

 ブリテン異聞帯の荒涼とした大地を、巨大な戦車と化したシャドウ・ボーダーが猛然と突き進む。騎士や妖精からの執拗な妨害を、強化された装甲と武装で弾き飛ばしながら、カルデア一行は首都キャメロットを目指していた。

 

 大西洋異聞帯での戦いを経て、オデュッセウス率いる艦隊の一隻と、現地民から得たテオス・クリロノミアを用いて、シャドウ・ボーダーは大幅な改造を施されていた。虚数潜航の安全性向上、武装の追加、装甲の強化を施されたその姿は、もはや陸を走るイージス艦と呼ぶに相応しい。

 

 城壁から放たれる魔力砲を魔術障壁と分厚い装甲で凌ぎながら、シャドウ・ボーダーはついに城門を破壊し、首都内部へと侵入を果たす。

 

 「キャメロット第一の城門突破しました! 大通りに敵勢力が集まりつつあります!」

 

 シャドウ・ボーダーのブリッジでは、カルデア職員が忙しなく情報を処理していた。女性職員の報告に、オルガマリー・アニムスフィア所長は即座に決断を下す。

 

 「回避はしないわ! このまま一気に城を目指すわよ!」

 

 敵が集まっていると分かっていても、オルガマリーは方向転換することを許さない。

 シャドウ・ボーダーが通行できるのは、この大通りしかない。しかし、迂回すれば住宅地を破壊することになり、余計な被害を生む。行く手を阻む敵は装甲車で轢き潰すことになるが、それでも迂回するよりはマシだった。

 カルデアの目的は、藤丸立香の打倒、あるいは捕縛。無関係な者達を巻き込むことをオルガマリーは良しとしなかった。

 

 藤丸立香が異聞帯の住人を盾にするのなら、カルデアは覚悟を持って行動し、それを突破しなければならない。平和に暮らす人々を殺させるという悪行に怒りを覚えながらも、オルガマリーはさらに指示を飛ばす。

 

 「作戦通り、内壁を突破した瞬間にシャドウ・ボーダーで道を塞ぎます。その後は時間との勝負よ! カルデアの全霊を持って城に突入し諸悪の根源を叩き潰します。Aチームの準備は!?」

 

 オルガマリーの言葉に、ダ・ヴィンチが答える。

 

 「Aチームの準備は万全さ。マシュの霊基外骨骼(オルテナウス)の整備もバッチリ! こちらに向かって来る援軍も異星の使徒が食い止めてくれている。神性が混じっているおかげか並のサーヴァントよりも強力だからね。十分な時間稼ぎにはなるだろう」

 

 異星の使徒であるラスプーチン、蘆屋道満、千子村正は、単騎でキャメロットを襲撃し、ある程度の戦力を城から引き出すことに成功していた。戦力差は歴然だが、これ以上待っても戦力が増える保証はない。故にカルデアは決戦に踏み込んだのだ。

 

 「ッ内壁に到達します!」

 

 シャドウ・ボーダーが首都の内壁を破壊する。援軍を異星の使徒が止めているとはいえ、首都にはかなりの戦力があると予想される。加えて、人理漂白という人類史の危機の片棒を担いだ歴史的極悪の犯罪者は、ビーストのマスター。味方もおらず、一組織だけで攻め込むには厳しい戦いになる。

 ブリッジにいる誰もがそのことを自覚し、覚悟を決めていた。

 

 「ここからは時間との勝負よ! Aチーム、作戦を開始しなさい!」

 

 しかし、それでもカルデアは絶対の自信を持ってこの作戦を実行する。何故なら、これまでの旅での戦い、出会い、経験、そして――

 

 「さぁ、もう一度世界を救いに行こうか。皆――」

 

 カルデアが誇るAチームを率いるキリシュタリア・ヴォーダイムを信じていたからである。太平洋異聞帯でオデュッセウス率いる艦隊をたった一人で壊滅させたキリシュタリアが見せた力。カルデアの誰もが、これならばビーストのマスターである藤丸立香の打倒は可能だと信じ、彼らを送り出す。

 

 ハッチが開き、礼装に身を包んだAチーム六名とサーヴァントたちが、街へと降り立つ。

 そのAチームの面々の前に、ブリテン異聞帯の代表が立ちはだかる。彼女の横には、左肩に大型の盾を装着し、右手に大槍を手にした男性の騎士、そして全身鎧を身に纏った少女の騎士がいた。

 

 この異聞帯において円卓に名を連ねる三名——トネリコ、パーシヴァル、ガレス。進路を塞ぐように立った彼らは、既に戦闘態勢に入っていた。カルデアと異聞帯。二つの勢力の戦いが、本格的に始まろうとしていた。

 

 

 ――――――

 ――――

 ――

 ―

 

 

 その頃、人知れず、Aチームの一人であるデイビット・ゼム・ヴォイドは、一人で首都キャメロットの裏道を歩いていた。彼の行先は、藤丸立香がいるとされるキャメロットの中央にある城だ。

 

 その特異性によりサーヴァントを召喚することが出来ず、他者との信頼関係を築けない欠点を持つデイビットは、サーヴァント戦が中心となる今回の戦闘にいない方が良いと判断し、単独行動をしていた。

 敵地を単独で行動することを危険視する者もいたが、デイビットならばとオルガマリーやキリシュタリアは許可を出している。何故なら彼こそがAチームで最強のマスター。その異質な能力は、人理が不安定なこの時こそ真価を発揮する。

 彼の単独行動の理由は、藤丸立香の暗殺。万が一、キリシュタリアたちが正面からの攻略が失敗した時のための第二の策。それを行うのが彼の役目だった。

 

 人理修復の旅の際、最終特異点でAチームが危機に陥った危機的状況をただ一人でを覆した力を持つ青年は、表で起こっている戦闘音を聞きながら、裏道を一人静かに、されど素早く移動する。このままいけば、キリシュタリアたちよりも早く藤丸の元へ辿り着くだろう。

 

 その予想は的中する。しかし、デイビットが藤丸の元へ辿り着くのではなく、藤丸がデイビットの元へとやってくる形ではあったが――。

 

 「…………」

 

 同時にデイビットは敗北を悟る。

 力を発動しても、その前に目の前のサーヴァントがこちらの命を絶つ。魔術師としての実力、外宇宙の力、どれだけ速く動いても関係ない。

 力を発動させたとしても、銃弾がこちらの命を奪う方が速い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 カウボーイの姿で、目元が陰で覆われているサーヴァントを見て、デイビットはそう判断した。

 

 「驚いたな。それを一人でやろうと言うのか」

 

 「……いや、驚くのはこっちなんだけど、もしかして俺のやろうとしていることもう分かったの? 相変わらず、洞察力が半端じゃないね」

 

 静かに状況を分析した後、語り掛けて来るデイビットに藤丸は思わず驚く。

 出会って数秒。それだけで相手にこれからやろうとしていることを見抜かれたのだ。言葉を交わさない限り相手を知れない自分自身とは違い、何でも見抜く洞察力には舌を巻くしかない。

 

 「それは前人未到の領域だ。本当にお前はそれをやるつもりか?」

 

 「やるさ。そのために俺はこうして走っている」

 

 「……そうか。賛同することは出来ないが、上手くいくことは祈っておこう」

 

 「ありがとう……えっと、映画でこんな状況では遺言みたいなのを聞くのが鉄板だけど、聞いておいた方が良い?」

 

 「必要ないだろう。それと、悪ぶるのは似合っていない。お前はお前らしくしておけ」

 

 「――そっか」

 

 気安い雰囲気での言葉のやり取りが終わり、藤丸のサーヴァントが銃を構え、デイビットがもう少しで訪れる未来を予期し、目を瞑る。

 直後――乾いた音が裏道に響き渡る。

 

 藤丸立香とAチームの初めての接触――それは、本人以外全く訳の分からない言葉のやり取りで終わった。

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