藤丸立香が異星の使徒になる話   作:大田シンヤ

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8.シャドウ・ボーダー内にて

 戦いが始まる数時間前――シャドウ・ボーダー内にて。

 異星の使徒たちからある程度の情報を受け取った後、ダ・ヴィンチは最後の確認とばかりにラスプーチンに問いかけた。

 

 「それじゃ、最後に――異聞帯を維持しているのは藤丸立香。彼を倒せば、異聞帯は消滅する。それで間違いないのね?」

 

 カルデアの所長、オルガマリーの言葉に、ラスプーチンは淡々と返答する。

 

 「あぁ、()異聞帯を維持しているのは藤丸立香だ。彼を倒せば異聞帯は消滅し、消すことが出来る。それは間違いない」

 

 続けて、ラスプーチンは藤丸立香の動向について語り始めた。

 

 「そうだな。藤丸立香の動向も話しておこう。まず、カルデアス内で剪定されるはずだった七つの世界を存続させることを選んだ藤丸立香は、まず初めに妖精國――ブリテン異聞帯に向かった」

 

 「今正に私達が目指している場所だね」

 

 ダ・ヴィンチの言葉に、ラスプーチンは頷く。

 

 「あぁ、その通りだ。本来ならあそこは何もない孤島しかなかった異聞帯だったのだが、藤丸立香はビーストの単独顕現によって共に六千年前に移動し、当時のトネリコと共に妖精國を建国。トネリコの協力を得て異聞帯の存在強度を高めた」

 

 「六千年前だって!? そんな過去まで行ってどうして現代の人間が生きているんだい! 肉体も精神も持たないだろ!?」

 

 藤丸がビーストの単独顕現で六千年前に向かい、そのまま現代まで生きていることに、ロマニ・アーキマンが驚きの声を上げる。

 汎人類史の人間が、しかも魔術に何の関わりもなかった少年が、六千年もの間厳しい環境の中で生きていけるはずがない。

 これまでの異聞帯を見てきているからこそ、口から出た当然の疑問。しかし、ラスプーチンはそっけなく答える。

 

 「その辺りは我々でも調べることは出来なかったよ。まぁ、想像はできるがね。大方、トネリコの魔術で肉体を停止させ、殆どの期間を寝て過ごしていたのだろうさ」

 

 肩を竦め、ラスプーチンは答える。

 

 「さて、話の続きだが……どこまで話したかな?」

 

 「円卓代表のトネリコが異聞帯の存在強度を上げたって所さ」

 

 「あぁ、そうだった。では、話を続けよう。トネリコが異聞帯の存在強度を上げた結果、あの異聞帯はもう汎人類史から切除された異聞ではなく、汎人類史と同じ強度を持つ世界、新しい人類史となった。藤丸立香は存在強度が上がった妖精國の住民達を利用し、他の異聞帯へ征服戦争を行った」

 

 「ちょっと待て、異聞帯の人達は異聞帯を出ることが出来ないはずだろう。どうやってブリテン異聞帯の人達は異聞帯の外に出たんだ?」

 

 今度はカドックが口を挟む。それに対し、ラスプーチンは怒るでもなく淡々と答えた。

 

 「存在強度を高めた結果、新しい人類史となった言っただろう。トネリコがブリテン異聞帯の強度を高めたことで()()()以降に誕生した妖精や人間達は嵐の壁の外に出ても消えることがないのだよ」

 

 「異聞帯の存在強度を上げたのは戦争を仕掛けるためってか。ハッ――これまでの異聞帯を見てきたが、平和な所もあったってのに……フジマルって奴はそこにも戦争を仕掛けたのか。いやぁ! これは頭のねじが外れてるな。どんな外道なのか顔を拝みたくなってきたな!」

 

 ベリルの言葉を無視し、今度はオフェリアが口を開く。

 

 「征服戦争を行ったのは、どういう理由なの? やっぱり、戦力を蓄えて私達に備えるため?」

 

 「さて、それもあるかもしれないが、一番の目的は征服戦争そのものを行うことだろう。ブリテン異聞帯の存在強度を上げた藤丸立香は、他の異聞帯を征服することで妖精國の一部分とした」

 

 「妖精國の一部に? もしかして、円卓暦以降に誕生した妖精の存在強度が上がるのと同じ理由で、妖精國の円卓暦以降の歴史に他の異聞帯を刻み込んで存在強度を上げたのか?」

 

 「その通りだ。万能の人よ。まぁ、既に他の六つの異聞帯は独立しているがね」

 

 ダ・ヴィンチの言葉に、ラスプーチンは賞賛を送る。

 しかし、本当にそんなことが可能なのかとダ・ヴィンチは暫し思考する。

 他の異聞帯を征服して妖精國の正史として編み直す行為は、歴史の再編纂に当たる。ただ、それだけで本当に異聞帯の存在強度まで上げることができるだろうか。

 まだ、重要な何かがある。

 レオナルド・ダ・ヴィンチの頭脳がそう告げていた。

 

 「だが、いくら存在強度が上がったとしても中心にあるのが藤丸立香であるのは間違いない。藤丸立香さえ倒してしまえば、七つの異聞帯は消えるだろう。そのためにも彼との戦いは必要不可欠だがね」

 

 最後にそう口にして、ラスプーチンはオルガマリーへと向き直る。他の異聞帯の攻略をせずに、藤丸のみに狙いを定める。

 そう提案してきたのは異星の使徒。オルガマリーはそれに賛成だった。

 異聞帯では抑止力の後押しも期待できないし、支援してくれる組織も今のカルデアにはいない。時間をかければ異聞帯は地上を塗り替え、汎人類史は滅びるしかなくなるため、敵の異聞帯の中核を成す存在を叩くのも理解できる。

 暫く考え込んだ後、オルガマリーは口を開く。

 

 「良いでしょう。なら、シャドウ・ボーダーの最後の調整が終わり次第、ブリテン異聞帯に向かいます。ラスプーチン、あなた達には先鋒を買って出て貰うわ。私達が敵の本拠地に乗り込む前に戦力を減らして頂戴」

 

 「なるほど、最も危険な立ち位置だな。任せてくれたまえ」

 

 そしてオルガマリーはAチームに視線を向ける。

 

 「敵は汎人類史を裏切った反逆者であり、汎人類史を滅ぼし、剪定された世界を蘇らせて救世主を気取る悪人です」

 

 カルデアのスタッフの視線が集まる中、彼女は胸を張り、銀髪を揺らして堂々と告げる。

 

 「そんな輩にこれまで我々の先輩方が積み上げて来た汎人類史を踏みにじらせる訳には行きません! 敵勢力は強大ですが、それは我々が屈する理由にはならない。何故なら我々は汎人類史を継いできた者として生きなければならないのだから!」

 

 誰もが彼女の言葉に頷く。召喚されたサーヴァントたちもまた、再び人類史の危機に直面したカルデアの人々を助けるために、武器を握る手に力を籠める。

 

 「私が下す指令は唯一つ。敵性存在の撃破! そして、全員でここに帰って来ることよ! 特に最後は肝に銘じておきなさい!」

 

 魔術師であっても、悪党ではない彼女らしい言葉に、Aチームの面々はある者は笑い、ある者は肩を竦め、ある者は素直に頷いた。

 

 そして、場面は現代へと戻る。

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