藤丸立香が異星の使徒になる話   作:大田シンヤ

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9.キャメロットでの激動

 人知れず、藤丸とデイビットが会合した頃――カルデアのAチームと妖精國の円卓トネリコ、パーシヴァル、ガレスの戦いは激しさを増していた。

 

 「オラァ!!」

 

 大槍を片手で振り回し、全力で叩き付けるのはAチームのリーダー、キリシュタリア・ヴォーダイムのサーヴァントであるカイニス。

 それを受け止めるのは純白の騎士パーシヴァル。

 大楯で弾き、カイニスに劣らない槍技で反撃を繰り出す。

 

 大楯で弾かれ、態勢を崩した際に流れるように突き出される槍。

 カイニスの腹を抉るかと思われたが、横から入り込んで来た大剣がそれを防ぐ。

 

 「瞬殺させて貰うッ!!」

 

 「させません!!」

 

 パーシヴァルの槍を防いだのは、オフェリア・ファムルソローネのサーヴァント、邪竜殺しで名を馳せた英雄――シグルド。

 カイニスに致命傷を与えようとしてパーシヴァルに出来た隙を狙い、一撃で持ってその命を狩り取ろうと魔剣を振るうが、それは予め見ていたガレスによって防がれる。

 

 「トネリコ様! 狙撃、来ます!!」

 

 同時に彼女は後方にいるトネリコに向けて警告を飛ばす。

 トネリコは彼女の言葉を疑うことなく、その場を飛び退く。一瞬遅れてトネリコが立っていた場所に矢が突き刺さり、粉塵を撒き散らした。

 

 「おいおい、マジかよ。アーチャー、お前さんの矢見切られてるぜ。それでも伝説的な弓兵か?」

 

 「オレは確かに英霊だけど、伝説的でもないんですけどねぇ。と言うか、完全に不意打ちしたつもりだったんだけど、察知されるとは……自信無くすな」

 

 トネリコに向かって矢を放ったのはベリルが召喚したサーヴァントであるロビンフットだ。

 宝具「顔のない王(ノーフェイス・メイキング)」によって姿を隠しながら、トネリコを狙うものの、ガレスによって察知されたことに肩を竦める。

 

 「仕方ねぇ。アーチャー、お前さんの宝具で毒を手当たり次第に空中に撒いたり出来ないのか? 出来れば、俺達に被害が出ずに敵だけに影響与えるようなヤツで頼むよ」

 

 「気軽に言いますねぇこの外道マスター。用意できないこともないけど、残念ながら事前準備が足りないから、今回は勘弁してくれ」

 

 「そいつは残念だ。それじゃ、さっさと仕事をしてくれ」

 

 「あいよ」

 

 「待ちなさい。この卑怯者!!」

 

 「残念、少し遅かったなお嬢さん」

 

 宝具によってロビンフットの姿が掻き消える

 姿が見えない相手からの一方的な射撃に脅威を感じたガレスが真っ先に動くが、残念ながら、ロビンフットを捕らえることは出来ず、槍は空を切る。

 

 「ッこの――」

 

 「ガレス!! 前に出過ぎないように、狙われますよ」

 

 「はいッ」

 

 ロビンフットを追いかけようとして、前に出ていたガレスがパーシヴァルの言葉で下がる。

 その様子はまるで主人に駆け寄る子犬、背丈の差やガレスが戦いの場には似合わない笑顔を浮かべているせいで余計にそう見えてしまう。

 そんな彼等を今度はカドックと契約しているキャスター、アナスタシアの魔術が襲う。

 上から降るのは巨大な氷柱。

 人など簡単に刺し殺すことが出来る大きさの氷柱は凄まじい速度でパーシヴァルとガレスに迫る。

 同時に両側からカイニスとシグルドが魔術に対応するであろう二人の隙を狙う。

 

 「ガレス、あなたは姿の見えない弓兵に注意を、トネリコ殿!」

 

 「問題ありません。どちらも任せて下さい」

 

 空中に水面が三つ浮かび上がる。

 一つは氷柱の前に、もう二つはカイニス、シグルドの前に――。

 氷柱が水面に呑み込まれると、別の水面――カイニスとシグルドの前にある水面から出て来る。

 それに二人が対処した隙にパーシヴァルは二人の間を突破し、マスター達の元へと走る。

 

 「皆さん! 私の後ろに!!」

 

 迫るパーシヴァルを見て、霊基外骨骼(オルテナウス)の装備に身を包んだマシュが盾を構える。

 ――が、パーシヴァルとマシュが激突する前に、マシュの後ろからサーヴァントが飛び出し、パーシヴァルを押し止める。

 

 「――見ない太刀筋、異国の方でしょうか?」

 

 「セイバーのサーヴァント。真名を蘭陵王と言います。手合わせ願いましょう」

 

 パーシヴァルと蘭陵王が刃を激突させ、火花を散らす。

 魔術に対処する隙を見てマスターを狙うものの、企みは失敗し、今度はトネリコ達が窮地に立たされる。

 態勢を立て直したシグルドがガレスを抑え、カイニスがトネリコを狙う。

 

 「獲ったぞ。トネリコ!!」

 

 カイニスだけではない。

 トネリコの背後からは確実に仕留めるためにロビンフットが宝具の毒矢でトネリコを狙う。

 一瞬の判断ミス。

 互いを庇うように戦うパーシヴァルとガレス。それを援護するトネリコの隙の無い陣形を保っていれば負けはなかった。

 Aチームのマスター達が勝利を確信する。

 しかし、カイニスの槍も、ロビンフットの毒矢もトネリコには届きはしなかった。

 

 横から入り込んで来た爪がカイニスの槍を弾き、空から飛来した小柄な少女が毒矢をへし折り、音速でロビンフットの霊核を貫く。

 

 「――グッォ!!? 嘘、だろ……どうやって俺の場所を」

 

 「毒矢を射たのを見ていたからね。姿が見えなくても居場所ぐらい把握出来るさ。だって僕――最強だから」

 

 「ウッドワス様!! ランスロット様!!」

 

 トネリコを助けた二名の名前をガレスが叫ぶ。

 その姿を見てAチームは警戒を露にする。

 亜鈴百種・排熱大公ウッドワス。妖精騎士ランスロット。

 この妖精國にて最も美しいと名高い騎士に六つの氏族の長で最も妖精國に貢献してきた牙の氏族の妖精。

 異星の使徒によって予め情報を貰っていたが、二人から感じ取れる魔力に一流の魔術師であるAチームの面々も戦慄する。

 

 『排熱大公ウッドワスに妖精騎士ランスロット!! あれが妖精國の最強の騎士か。こんなの有り得るのか!? 二人とも尋常じゃない魔力反応だぞ!!』

 

 『あの狼……あれが亜鈴と同等の存在と言われている亜鈴返りか……凄まじいね。呼吸するだけで魔力が肉体を満たしている。あれじゃあ、こっちがどれだけ傷を与えても回復してしまうぞ』

 

 ダ・ヴィンチがウッドワスの解析結果を見て冷や汗を流す。

 凄まじい。陳腐な言葉だが、それしか思いつかない。

 Aチームだけではなく、現代の人類史でもあの存在に勝てる者は存在しない。

 異星の使徒の霊器を見て、あの霊器ならば異聞帯のサーヴァントだろうが、異聞帯の王だろうが、負けはしないだろうと高を括っていたが、それは間違いだったと思い知らされる。

 情報通りじゃない。情報以上の存在だ。

 

 『全く……ラスプーチンには文句を言いたいね。もっと情報を詳しく貰うべきだった』

 

 そうすれば、そもそも戦場で会うことなどなかっただろう。

 そんな厄介な存在に加えて――。

 

 「コイツ等は異星の使徒が止めているんじゃなかったのか!?」

 

 「……あぁ、あの半裸の黒髪の男か? あの程度の実力で私が止められるはずがないだろう。多少頑丈だったが、上半身を消し飛ばしてやった。次は貴様らの番だ」

 

 「ウッドワス、マスターの話を聞いていなかったの? カルデアは殺さずに放置。そう言われていただろ。あ、これ返しておくよ」

 

 腕の中にいるロビンフットをAチームに向けて投げ捨てた少女がウッドワスの横に並ぶ。

 小さな身の丈は子供のようだが、内包する魔力はパーシヴァル、ガレスと比較にならない。

 低く見積もっても核融合レベルの反応が常時検知されている。

 正しく、Aチームの前にいるのは妖精國にいる最強に数えられる円卓の騎士だった。

 

 「あの小僧の命令など聞く必要などない。私の主はトネリコ唯一人」

 

 「妖精國の恩人に対して無礼だよ。それにトネリコからも言われていただろ。もしかして、もう忘れたのかい? アハハ、何時から君は狼から鶏になったの?」

 

 「黙れ、貴様から八つ裂きにするぞッ」

 

 「おやめなさい。ウッドワス――それに、ランスロットもです」

 

 「ハ――承知いたしました」

 

 「分かった。気を付けるよ」

 

 牙を剥き出しに、ランスロットに怒りを向けるウッドワスを後ろからトネリコが窘め、ランスロットに向けても余計な口を開かないように注意する。

 その言葉を受けて両者は――一人は従順な僕の様に、もう一人は寡黙な騎士のように言葉少なく返事をする。

 

 援軍が現れたことで、互いの手が止まる。

 カイニス、シグルドも油断ならない敵が現れたことで蘭陵王と同じ位置まで戻り、パーシヴァルもウッドワスとランスロットの位置へと下がる。

 突破することがより厳しくなり、撤退する選択肢もキリシュタリアの頭に浮かび上がった時、トネリコが前に出て来る。

 

 「さて、まだやりますか? カルデアのマスター……こちらとしては、撤退するならば手出しはしませんが」

 

 「何だと?」

 

 トネリコの言葉に真っ先に反応したのはカドックだ。

 横にいるサーヴァントであるアナスタシアがカドックの前に立ち、声を出したことで視線を向けて来たウッドワスを警戒する。

 だが、直ぐにウッドワスの視線は別の者に向くことになった。

 

 「へぇ、そりゃ有難い!! 俺達キャメロットまで攻め込んだのに無傷で帰して貰えるのか」

 

 有難い、と言いつつも相手を小馬鹿にしたような態度を取ってベリルがトネリコに話しかける。

 

 「だけど、俺達はこれでも正義の味方なんだ。このままあっさりと帰る訳にはいかないんだよなぁ。と言う訳でフジマルって奴に合わせてくれないか?」

 

 「お断りします。恩人であり、親友でもある彼を害そうとする者を私が通す訳がないでしょう」

 

 ベリルの頼みをトネリコが一蹴する。

 頼みを断られても、ベリルは上手くはいかないと予想していたのか、残念がる様子もなく、肩を竦めるだけに留める。

 

 「交渉の余地はないことは分かったでしょう。早くこのキャメロットから出て行きなさい。私達が追うことはありませんし、害をなさないなら妖精國を見て回ることも許可します」

 

 「それを汎人類史を守る私達が良しとするとでも――?」

 

 「既に汎人類史など滅んでいますよ。星見の魔術師達。さぁ、早く出て行きなさい」

 

 どうあっても、ここは通さない。通すつもりなどない。何度来ても追い返す。

 そんな強い意思をトネリコから感じ取り、キリシュタリアは目を軽く瞑る。

 

 汎人類史を取り戻す以上、異聞帯との戦いは避けられない。

 異聞帯の中核を担う藤丸立香が消えれば、異聞帯だって消えてしまうが、汎人類史と同じ強度を持っている以上、汎人類史に移住をすることだって可能だ。

 だが、それは彼等に対して恩人を売れと言っているようなもの。

 そんなことを彼等はしないだろう。

 

 異聞帯であっても、彼等は『円卓の騎士』なのだ。

 汎人類史であっても、その誇り高い在り方、刻んだ伝説は今尚現代に語り継がれている。その名を受け継ぐ彼等が恩人を売り渡す選択などするはずがない。

 故にキリシュタリアは選択する。

 

 「――私がやろう」

 

 自身のサーヴァントであるカイニスの前に歩み出る。

 マスターがサーヴァントの前に出るなど自殺行為でしかない。

 ウッドワス、ランスロットでなくともパーシヴァルやガレスの身体能力だってキリシュタリアを優に超えている。

 地面を蹴れば、直ぐに距離を詰め、刃で命を絶つことは可能だ。

 

 ――しかし、例外は常に存在する。

 

 キリシュタリアの戦意が衰えていないことを読み取り、ウッドワスが地面を蹴ろうとした瞬間だった。

 

 

 

 

 ――星が動いた。

 

「――ッ!?」

 

「ッなるほど、これがアトランティスの艦隊を殲滅した」

 

 空に幾重もの術式。人ではありえぬほどの神秘。

 それらを扱うキリシュタリアにトネリコは予め聞かされていた情報から予測を付ける。

 恐らく、今から行われるのはアトランティスにてオデュッセウス率いる艦隊をたった一人で壊滅させたキリシュタリアの魔術!! 

 

「藤丸立香はブリテン異聞帯の存在強度を上げた後、他の異聞帯に侵略戦争を仕掛け、勝利した。ロシア、北欧、中国、インド、ギリシャ、南米は全て妖精國となり、七つの異聞帯は一つの異聞世界となった。しかし――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ウッドワス、ランスロットが地を蹴り、キリシュタリアへ向けて爪や刃を振るう。

 しかし、障壁がそれを阻んだ。

 サーヴァントであるカイニスも後ろで支援をしていたキャスターのサーヴァントであるアナスタシアの仕業ではない。

 下手なサーヴァントの性能を遥かに超える障壁を張ったのは、星を動かしている張本人――キリシュタリア・ヴォーダイムだ。

 

 「この――」

 

 「生意気なッ」

 

 妖精國にて最強の騎士の刃をただの人間が魔術行使の片手間で防いで見せた。

 

 「つまり、この空はブリテンの空でもあるが、ロシア、北欧、中国、インド、南米――そして、ギリシャの空でもあると言うこと」

 

 キリシュタリア・ヴォーダイムの魔術。

 それは、神代よりも更に古く、占星術のルーツにもなった、かつて宇宙に魔力が満ちていた時代の「理想魔術」と呼ばれるもの。

 汎人類史では実現し得なかった理論。そして、本来ならばギリシャ異聞帯という環境でのみ絶大な効力を発揮した大魔術。

 それは皮肉にも藤丸立香が他異聞帯を一つにしたことで、妖精國でも発揮される。

 

 サーヴァント、神霊、異聞帯の王ですら凌駕する神秘を内包した魔術――「惑星轟」がトネリコ達に向かって放たれる。

 ウッドワス、ランスロットが参戦し、状況が不利になったから撤退するであろうという油断を付いた一撃。

 迎撃は間に合わない。避ければ街が消滅する。

 この瞬間、トネリコは自身の敗北を覚悟する。

 

 だが――。

 

 「弄り猛る戦神の剣(フラガラック・アンヴァル)!!」

 

 例外は常に存在する。

 しかし、それに対処する方法もまた存在する。

 

 トネリコ達を押し潰すであろう隕石。

 それが突如として掻き消え――。

 

「キリシュタリア……?」

 

 銀閃がキリシュタリアの肉体を貫いた。

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