ある朝、佐原智樹が目を覚ますとそこは知らない部屋だった。可愛らしいクマのパジャマや胸の膨らみに驚き、自分が女の子になったことを知る、その時、この女の子の母親が入って来たり、生徒手帳からこの体は隣のクラスの地味子、山口涼佳だと判明して……

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第1話

ある日の朝、目覚めるとそこは知らない天井だった。俺、佐原智樹の部屋の照明とエアコンの位置が違う。色も白で同じではあるが、壁紙のデザインが違う。

おかしいと思って体を起こすと、布団とパジャマが違う。布団はシンプルな水色のものから薄ピンクの水玉模様に、パジャマはジャージから可愛らしいクマのイラストが入ったボタン留めのパジャマに変わっていた。

 

…と言うか胸に膨らみがある。恐る恐る触ってみると、これは間違いなく女性の胸である。

 

「なんだこりゃあああああ!!!???」

 

思わず叫ぶと声が高い。これは確実に女の声だ。と言うことは、高校生だった俺はこの一晩で女になったのか?いやいや、部屋のレイアウトや家具が違うから俺が変わったのではなく、誰かと入れ替わってしまったのか?

疑問が尽きない。とりあえず、部屋を探索してヒントを探そうと思った時、部屋のドアが開いた。

 

「うるさいわねー、あんたに似合わず。騒いでいる暇があるなら、さっさと朝ごはん食べてちょうだい。遅刻するわよー。」

「あ……は、はい。わ、わかりました……。」

「何?そんなよそよそしく。なんか変よ?とにかく、下に降りてきてご飯食べてよ。」

 

ものすごく挙動不審になってしまった。この体の母親だろうか?俺が叫んだから様子を見にきたのだろう。当然自分の母親ではない、かと言って見たこともない人だ。知り合いの女ではないだろう。

 

そして、今の俺は誰なんだろう。そう思い、部屋を探索する。本棚にはマンガ、壁には知らないアニメのポスターが貼ってある。ケースの中に少女アニメのキャラクターのフィギュアが入っており、几帳面に飾られている。机の上に財布が置いてあった。

 

もし学生なら生徒手帳があるだろう、それか免許証とか。開いてみると、同じ学校の生徒手帳があった。名前は……山口涼佳、2年生。確か隣のクラスだったか?喋ったことはない。どちらかと言うと、目立つ方ではないはずだ。

 

そう思い返していると、すぐ側に鏡があった。どんな顔なのか気になったので覗いている。正直ものすごくかわいい訳でもないし、めちゃくちゃ悪いわけでもない。メイクしたら綺麗になるタイプなのかもしれない。

少し小さい目、丸めの鼻、小さい口、眉毛が隠れるくらいの前髪と肩くらいまでの長さの黒髪。まあまあ普通か少し下くらいのランクかもしれない。でも───声は高めでかわいいな。

 

そうしているうちに、時間が経ってしまう。学校を休むのも変に思われるだろうから、まずは朝食を食べるため、下に降りる。階段を降りると、パンの焼けたいい香りが漂ってくる。

 

「あんたまだパジャマなの!?まあいいけど、早く食べちゃって!」

「はーい、いただきます。」

「お弁当、ここに置いておくから。忘れないように!」

「ありがとうございます。」

「なんか、様子が変だね?というか寝不足?また深夜アニメでも見てたんでしょ。」

「ま、まあ、そう言う感じ。」

「今が一番綺麗なんだから、寝不足はダメよ。夜更かしは美容の大敵!」

「はい、わかりました。」

 

とりあえず、当たり障りのない会話をしておく。返事はいつも通りにできているかわからないが。それにしても、世話焼きな良い母親だと思った。娘のことをよく見ている。当の本人は別人であることが残念である。

それに───ご飯が美味しい。ここは朝は洋食派のようだ。トーストにコーンスープ、サラダとベーコンエッグ。いつも俺の家は和食だったから、新鮮な感じがした。

 

「ごちそうさまでした。」

「珍しく食べ終わるの早いね、遅刻しそうだから?」

「まあ、そんな感じ、です。」

「やっぱりよそよそしいけど、本当に大丈夫?」

「ううん!いつも通りだよ!」

「それならいいけど、何かあったら言いなよー。」

「はーい。」

 

口が裂けても、今この体には別の男がいるなんて言えない。混乱を招くか信じてくれないか。それかアニメの見過ぎと言われるのがオチだと思う。

 

先程の部屋に戻り、学校へ行く準備をする。と言ってもこの山口さんは前日に準備を済ませてあるようだ。あとは、着替えて弁当を入れて行くだけ。スマホで位置情報を見ると、俺の通っている高校まで徒歩15分で着ける。あと30分後には遅刻になってしまうから、徒歩でもまあ間に合うだろう。そう思って着替えを始める。

 

……本当に脱いでもいいのだろうか?見た目は山口さんでも、精神は俺だ。これは犯罪とかにならないだろうか?恐る恐るパジャマを脱ぐ。そこには薄ピンクの下着に支えられた、控えめだけど確かにある2つの山があった。すごくドキドキする。これが今俺の体にあることに。ただ太っただけでは再現できない膨らみが存在している。

 

「すげえ、本物だ……」

 

興味本位で触ってみる。くすぐったい様な変な感じだった。こういうのは他の人、男に触られた方がいいのかな?などと考えてみる。ただ、登校時間が迫っているため、ここまでにした。下着の上に白いインナーを着て、その上からシャツとブレザージャケットを着る。服の上からも膨らみがわかった。

 

「普段は大人しいけど、かわいいかもな。」

 

話したことない地味な女子だが、悪くはないかもしれない。化粧を覚えれば、より良くなるかもしれない。将来的に伸びると思う。鏡を見ながら、勝手に山口さんのことをあれこれ考えた。

 

次はスカートだ。生まれて初めて足を通す。ズボンとは違い、足がスースーする。女子はいつもこれを履いているのか、と感心してしまう。山口さんは、きっと控えめにスカート丈は長くしてるだろうから、膝が隠せるくらいまでの高さにしておいた。俺自身、足を露出するのは恥ずかしい。そこは山口さんも同じはずだ。

 

財布やペンケースなどをカバンに入れ、家を出る。行き方はさっき調べたし、スマホの地図アプリを使えば行けそうだ。

 

「行ってきまーす。」

「はーい、気をつけてねー。」

 

家を出る時もなるべく自然を装った。幸い、いつもと同じだったのか、お母さんは返事をしてくれた。

 

歩き始めてわかったが、歩きにくい。スカート丈が長いからなのか、この体が運動に向いてないのか、思ったよりスピードが出ない。もう少し余裕を持って家を出るべきだった。

鏡を見て、髪を2つに結ばないとと思ったが、やったことないし、時間もないから諦めた。この体には似合わず大股で、可愛らしいキーホルダーを揺らしながら学校へ向かった。

 

 

 

 

学校に着くと、まずは下駄箱を探した。普段の自分の下駄箱ではなく、山口さんのを見つけなければならない。隣のクラスをあいうえお順で探すと、下の方にあった。

俺の上靴と思うと、一回りくらい小さかった。当然だが、背も小さくなっているから、いつもより下駄箱が高くて圧迫されるような感じがした。

 

山口さんのクラスに向かう際、隣のクラスを覗いてみた。元の俺のクラスだ。もしかしたら、山口さんが馴染めずにいるかもしれない。そう思っていたが───実際には違っていた。俺のクラスでは、いつも通りに俺が友達と楽しそうにおしゃべりをしていた。

 

(そんなまさか……)

 

仮にあれが山口さんだとしても、あまりにも自然過ぎる。普通に俺がいる様にしか思えない。その光景を見て固まってる俺に気づいたのか、俺がこちらに来る。

 

「悪りぃ、ちょっとトイレ行ってくるわー。」

「おう、もうすぐホームルームだから踏ん張り過ぎるなよーw」

「何言ってんだよw」

 

この一連のやり取りも、俺そのものだった。周りの友達も一切気づいていない。少し怖かった。俺と言う存在はなんなのか、元から俺は山口さんだったのか?と思うくらいに。

 

「おはよー!山口さん!どうしたの?俺のこと見てでしょ?」

「お、おはよう。さ、佐原くん?……じゃなくて!確認だけど、お前は本当は山口さんだよな!?」

「……んー、何を言ってるのかな?俺は佐原智樹だけど?急にどうしたのかな?」

「あ、え、本当に??例えば、朝起きたら俺に、佐原智樹になってたとかさ!昨日までは山口涼佳だったのにとか、ないのかな?」

「まあ、起きた時に変な感じはあったけど、トイレ行ったらスッキリしたし、そこからは何もないかな。なんだろうね、夢のことと現実がごっちゃになってたのかもしれないね。」

「夢って、なんか変な夢でも見たの?」

 

どう話しても目の前の俺は、佐原智樹に変わりなかった。でも、朝起きた時は変だったと言うことは、最初は山口涼佳の意識があったはずだ。それが消えてしまって、俺の人格が残ったのか?それなら、なぜ俺は佐原智樹としての記憶や人格が残ってて、山口涼佳の人格が出てきていないのか。不思議だった。もしかしたら、その夢にヒントがあるのではないかと思った。

 

「正直あまり覚えていない。ただ、トイレ行きたいなーと夢で思ってたら起きて、本当にトイレ行ったくらいかな。よっぽどトイレ行きたかったみたいで、出し切ったらスッキリしたよ。」

「そ、そっか。」

「あー、ごめんね。トイレトイレって下品だったね。」

「ううん、大丈夫。」

「山口さんって髪下ろしてると雰囲気違って可愛いね、いつもの2つ結びも好きだけど。」

「え、急に何!?そんなこと言われても、何もないよ…」

「まさかこんな感じで山口さんと話せるとは思わなかったから、つい言っちゃった!」

「そ、そうなんだ……ありがとう。」

「いえいえー!」

 

そう言うと俺は、佐原智樹はトイレに、向かっていった。なんか、完全にあれは佐原智樹だった。それにしても、しきりにトイレのことを言っていたな。

そう言えば、俺もトイレに行きたくなった。朝から色々あって、行くのを忘れていた。

 

…ってか、女子トイレに行くんだよな?大丈夫だよな??すごく緊張する。体で見れば合法だが、すごく悪いことをしている気分だ。ともかく、忘れていた尿意が迫ってきているので、遅い足でも早歩きでトイレ向かう。

 

 

 

少し離れたところの女子トイレに来た。入るのに勇気が必要だった。フーッと息を吐いて中に入る。

 

……意外と中は普通で、普段と違うのは全て個室というところか。鏡があるので、チラッと見る。やはり山口さんだ。髪を結んでないと印象が変わるみたいだ。話したことはほぼないから、自分ではそこまでわからない。ただ、ずっと普段と違うような、違和感の様なものはある。いつもは結んでいるのに。おかしいなって思ってしまう。

 

でも……まずは用を済まそう。適当に個室に入る。スカートと下着を下ろす。俺よりも細くて綺麗な足、太ももが顕になる。誰もいないのに、恥ずかしい。早く済ませてしまおう。下半身に力を入れると、チョロチョロっと排泄し始めた。

 

その瞬間、自分の中に知らない記憶が入ってきた。小さい頃から絵本が好きであまり友達と遊ばずに1人で好きな物語を読んでいた。家に帰ると録画した少女アニメを見た。魔法で変身する女の子達に憧れて、衣装をおもちゃ屋さんで買ってもらったり、ステッキを片手に変身の呪文を唱えた。それはとても幸せな時で、いつか自分も魔法が使えるんじゃないかと夢見てた。

 

中学の頃には少ないけど、友達もできてきた。同じアニメやマンガについて語った。目立つことが苦手で、いつも教室の隅で話していた。私は地味で控えめな女の子。そのポジションで良かった。

でも、あの人が優しくしてくれて、恋をしてみたくなった。それが佐原智樹くん。トイレから出てきた私がハンカチを落として、それを見ていた佐原くんが届けてくれた。たったそれだけのこと。その時の佐原くんは王子様に見えた。恋なんてしたことない私が、初めて男の人に対してドキドキした瞬間。

 

そこから私は佐原くんにアプローチをし続けた。佐原くんが好きな髪型が2つ結びと聞いたから、2つ結びにして、わざとハンカチを落としたり、同じ道から帰ったり、同じ高校を受験した。でも、彼は振り向いてくれない。

 

やっぱり、地味な子は興味ないんだ。そう思った時、彼の気をもっと引きたくなった。一層のこと、彼を奪ってしまおう。そう思った。

そこで私は昔買ったおまじないの本を調べて、ある1つのおまじないに辿り着いた。彼の髪の毛を1本手に入れて、1週間財布にしまう。1週間経ったら、その髪の毛をハンカチで包み、枕の下に入れて眠る。ハンカチに思い出が多いほど、効力が発揮される。

 

私は、彼がバス停で寝ていた時にこっそり回収した髪の毛を1週間大事にしていた。そして昨日の夜、あの時拾ってくれたハンカチに彼の髪の毛を包み、彼の全てを奪いたいと願って眠りについた。まるで魔法使いの女の子になれたような気分だった。

 

 

……って、待て待て!!これって山口さんの記憶じゃ?あの子、ストーカーみたいなことしてたの!?そう言えば、落としたハンカチ拾ったことはあるけど、普通に渡しただけで、かっこいいことは何もしてなかったけどな……

山口さんからしたら、運命的だったのかもしれないけど。もしかして、そのおまじないが現実になって入れ替わったのか?そうだとしたら、山口さんは俺の人生を奪おうとしている!早く戻らないと!

 

 

そう思った時には遅かった。理由はわからないが、排尿をすると前の人格が消えていくようだ。さっきも俺の体になった山口さんが、トイレ行ったらスッキリしたと言っていた。その時に前の山口さんの記憶が流され、佐原智樹の記憶が入ってきたのだろう。だからスッキリしたのと、目的を達成したから。

 

 

そして───俺もどんどん記憶が、佐原智樹としての記憶が排尿と共に流れていく。怖い。既に自分の家族のことが思い出せない。

 

 

 

思い出すのは、毎朝声をかけてくれるお母さん、いつも帰りの遅いお父さん。私のことを肯定してくれる大切な人たち。ってこれは私の家族!ん?私の家族?別に間違ってないか。

 

それにマンガ研究会の友達や先輩たち。人数は少ないけど好きなものが同じで、同人誌を作るために頑張ってる。特に仲良しは隣のクラスの和田さん。三つ編みでメガネの絵に描いたような地味っ子で私と同じアニメ好き。マンガも好きで同じ少女マンガが好き。地味でも2人で楽しくお話ししてる時が幸せで楽しい。妄想を膨らませてわちゃわちゃ話すのが好き。

 

 

 

 

 

 

……ってあれ?私トイレでぼーっとしちゃってた!?早くしないとホームルーム始まっちゃう!急いでスカートを上げて個室を出る。手を洗っている時に気づく、朝急いでたから髪を結んでいなかった。

もう、私って焦って色々疎かになっちゃうとこがダメだよねって思い、サッと髪を結ぶ。誰かが2つ結びで始めた気がするけど、誰だっけ?まあ、いっか!ハンカチで手を拭いてトイレを後にする。

 

 

 

自分の席に着くと、ハンカチを落としたことに気づく。本当、私焦るとダメだなーと思っていたら、隣の席の男の子が落としたハンカチを渡してくれた。

 

「これ、落とした?」

「あ、落とした!ありがとうー!」

「どういたしまして!なんか、今日の山口さん明るいね。何かあった?」

「ううん、特にはないよー。」

「そっか、落とし物には気をつけてなー。」

「はいねー。」

 

 

この時、ハンカチを拾ってくれた男子がカッコよく思えた。私って惚れっぽいなー。そう言えば、前も同じようなことで好きになった人がいたけど、誰だっけ?なんか、昨日の夜から忘れちゃったことがある気がするけど、なんだっけ?思い出せないや。

 

モヤっとするけど、まあいいかと思った。そして、ハンカチをキッカケに、この男子を好きになりそうな気がしていた。

 


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