深淵の闇のように広がる宇宙の風景を眺めながら目ぼしいものが見つからなかったかのようにため息を吐く。
「...ハァ、今日はあまり興味深い観測物は無しね。けど、やはり現実の宇宙は実に興味深い...」
そう呟く人物は極めて特徴的な姿をしていた。第三者が見れば十人中十人が皆その人物をまるで美しき魅惑の魔女のようだと口にするだろう。その特徴的な姿と声の主である"マダム・ヘルタ"はこの世界ではこの世の銀河の頂点に君臨する天才達が集う【天才クラブ】の内の一人であり、そしてこの宇宙で存在する星神のうちの一体である知恵の星神"ヌース"の使令のひとりでもある。
そんな彼女は偶々自身が研究目的で行なっている天体観測で偶然にも今までに観測した事のない未知の存在を認知する事になる。
「妙ね...。模擬宇宙でもこんな変化は再現されてないし観測されなかったはず。...何かの変数が混じってきたってこと?」
ホログラムで映し出される現実の立体宇宙とヘルタの元で作成された模擬宇宙を照らし合わせながら確認しても明らかにその領域には無いはずの場所に普通ではないものがノイズのように映っており、それが彼女自身の最近まで冷め気味だった研究者としての熱意と探究心を再び甦らせる事になる。
「面白いじゃない。...何も変わらない普遍的な停滞よりも遥かに面白いわ。貴方は私にどんな変化を見せてくれるかしらね?未知の来訪者さん...」
ヘルタは自身の行動を即刻で判断し、その未知なる来訪者を観察し迎え入れるための探索と回収チームを募る為、自身の端末で研究仲間達に参加の誘いを呼びかける。
ー絶対に連れて帰って見せるからー
ー時間はかかるかもしれないけど必ず貴方を見つけ出して迎えにいくからー
ーだから...無事に待ってて...私の大好きなソーマー
美しく揺れる白髪の髪をした白いドレスの女の子が泣き顔を見せながらこちらに何かを約束するように伝えながら抱きしめてくる光景が記憶から薄っすらと夢の様に過ぎる。
ー...子よ...我が子よー
ー今其方は、何処にいるのだ?...ー
ー私に...その姿を見せてくれ、我が子よー
記憶にもない全く知らないはずの...しかし体が懐かしさを覚える。母のような懐かしき存在が誰かを必死に探している。その姿を見せては美しい女神のような存在にも見えたがそれとは別に底知れない深淵を覗き込んだような不気味さが織り混ざった感覚が過ぎる。
底のない暗闇の宇宙のような闇を感じ取りながら誰かを探すその女神が一瞬此方に目線が合う。
まるで長年探し求めた我が子を見つけたように詰め寄ってくるその姿は酷く歪で不確定なノイズのように写り、迫り来る得体の知れない未知の恐怖のように映る。
ーようやく見つけた、"私の子"!ー
カハッ⁈...ハァ...ハァ...ッ!」
うなされた様にもがき苦しみながら悪夢から意識が覚醒する。目に映る先に見える見覚えのない背景に時間をかけて状況を知ろうと脳を処理していく。
「ウッ、ここ...は、いったい...?」
肌から感じ取れる空気や観察しているうちに認識できてくる、治療室のような清潔感のある部屋。ほんのり科学薬品の香りが漂ってくるこの空間に少しずつ混乱している意識を冷まさせて冷静さを与える。
「あら、ようやく起きたの?来訪者さん」
目を覚まして久々に聴こえてくる知性を持った人間の言語に自身は宇宙人ではなく人間に保護されたのだとなんとも言えない安心感を感じる。声の元に振り向くとそこには特徴的な大きなとんがり帽子に紫色をメインにとしたドレス姿をしている如何にもザ・魔女と言った風貌をした若い女性の姿が視界に映る。
「その...助けてくれてありがとう。その、アンタは...」
「私?私は...尊貴なる天才クラブ会員No.83。銀河一の大天才であり美しく、そして可愛い、それが私"マダム・ヘルタ"よ♪」
「え、ええ...?天才、クラブ...?」
「ほら、こっちが自己紹介してあげたのだから次は貴方の番よ?」
「あ、うん...えっと、俺は..."ソーマ・アストラ"。天命の極東支部所属、聖フレイヤ学園の元生徒だ」
「...天命?フレイヤ学園?聞いた事もない組織名や学園ね。どこかの辺境の星の住人かしら?」
「?...もしや地球や太陽系を知らないのか?」
「そんな名前の惑星系は初めて聞くわね...まだ認知されてない何処かの銀河系かしら?」
「そんな...」
互いの認識や齟齬が合わず、嫌な予感が過ぎる。もしやここは自身がよく知る故郷の星ではないのか?という底知れない不安だけが脳裏によぎった。
「...ふーん、なるほどね?要するに貴方のいう太陽系?にある地球って星から漂流してきたと。...けど不思議ね、貴方、自分が宇宙を漂流していた割には乗っていた宇宙船かよく分からないモノが壊れているにも関わらず真空の無重力の中でなぜ生きていられるのかしら?まだ何か秘密があるんじゃないの?」
「それは...その...」
「貴方は自分の無害性を証明する為にも素直に証言しなければならないわ。それに私だって暇じゃないの、この際可能な限り全て白状しなさい」
お互いの認識のずれを確認する為に自身のいた場所や身分について伝えたのはいいものの、どうやら救助されたときに生身のまま宇宙を漂っていたせいで得体の知れない正体不明な存在として警戒されてしまっていた。
出来れば自分の正体をおいそれと漏らすのはかなり危険ではあったが、ヘルタという女性に守秘義務を誓ってもらう形で自身の正体をバラす事にした。
「崩壊に、虚数...それに律者ね。興味深いわ、まさか私の知らないまた別の宇宙があるとはね」
「今のところ答えられるのこれだけだ、流石にこれ以上は...」
「別に構わないわ。貴方の正体を知る事ができただけ安全性を確保できるのだからね。...ただそれにしても、ソーマと言ったかしら?これからどうする予定なの?」
「できる事ならすぐにでも故郷に帰りたい。でも...ヘルタの話の通りなら明確に帰れる手段がないに等しい。...ただでさえ宇宙は広過ぎるのに別宇宙なんて、どうやって...ハァ、ホントにどうすれば」
ヘルタと情報共有した結果分かった事はどうやらソーマ自身は自分の故郷である地球での最終局面の戦いで故郷を守る為に訳あって崩壊の厄災を抱えて地球圏から離れた後、崩壊エネルギーによる超新星爆発に巻き込まれ、その影響で量子世界と虚数世界の狭間に巻き込まれ現実宇宙にようやく放り出される形で出てきたところで力尽きて別宇宙に漂流してきてしまったという事である。
つまりは崩壊による爆発のせいで次元の狂いが生じて虚数や量子のような目視できない四次元以上の壁の世界を飛び越えてしまった為にまったく知らない別の世界に流れ着いてしまったのである。
律者の権能を使って自力で帰る事も考えたがそもそも居場所も分からない自分の故郷の場所をどうやって探せばいいのかすら分からない以上、力があってもどうにもならない。
自力での帰還が敵わずどうする事も出来ない現実に苦悩してるとヘルタたから提案を出される。
「なら、私の元で働いてみる?無論貴方の生活や帰還の手助けくらいはしてあげる。そのかわり貴方の世界の科学技術や崩壊についての情報を私に教えて。私の知らない別宇宙の文明やその力の謎について研究者として興味あるの、それでどうかしら?」
「え?そ、それは願ってもない提案だが...その、いいのか?」
「私がいいっていってるんだから構わないの。それとも何?天才様の元で働けるのに何か不満かしら?」
「いや、そういう訳じゃ...分かったよ。その、ここの世界のことは全く分からずしまいだからよろしく頼む」
「なら、決まりね。それじゃあ今日からよろしく"新人助手くん"」
「はい?し、新人助手?」
故郷の星を守る為に地球を去り、その成り行きで偶然迷い込んでしまった別世界の宇宙で有名な大天才様に拾われて新たな異世界?生活を送ることになった。
それなりに年月が経ち、ソーマはその期間内で新たな世界の中、様々な交流や出会いを体験し、同時にこの世界の成り立ちや知識を少しずつ得ていくことになる。
ヘルタの元で大天才の助手という役職に就いた事で結果的に彼女の所属する"天才クラブ"という天才学者たちの集まりの場に立ち会うことこともあり、そこでヘルタの旧友である“スクリューガム"や"ルアン・メェイ"と呼ばれる同じ天才学者達と交流することになる。
スクリューガム本人はオムニック星IX「スクリュー星」という星の王であるらしく、機械人ではあるがすごく紳士的かつ常識人で人当たりがよく、当時からソーマの良き相談相手にもなってくれた第二の恩人になった。
ヘルタからは私が居るのにわざわざ彼を頼るとは何事かと不満を漏らされたが、彼女の場合ちょいちょいと口当たりがキツイ上に説明するときもその過程の説明が雑でわかりにくい性でよくスクリューガムにそれらを補足してもらっているので勘弁してほしい話である。
対するルアン・メェイはヘルタとは違ったベクトルの大変美人な女性学者という事もあり、学者の研究界でも多大な功績と共にその美貌で言い寄ってくる者達のあとが絶えないのだとか。
ソーマ自身もそれだけ聞けばさぞかし高名で素晴らしい美人な研究学者という評価で終わっていたのだが、研究関係の過程で自分の身分を彼女に明かすことあった際、興味を持ち始めたのか是非とも貴方の身体を研究させてくれと恐ろしい事を提案されたことがあり、以前、薬で眠らされ、連れていかれそうになった過去があってヘルタによって厳重に釘を刺されたようだが相変わらず業務で彼女と出会う度にビクビクしながら怯える日が続いている。
最近ではヘルタ自身の所有物となっている宇宙ステーションヘルタでの派遣業務をヘルタの代わり代行する事が増えていき、宇宙ステーションを代理で管理している天文学者であるアスター所長や護衛人であるアーランと言った人達とも関わりを持つようになった。
いろんな人達との交流と並行してこの世界についても少しづつではあるが分かってきたこともあった。特に一番衝撃を受けた事としてこの世界には"
おまけに複数体存在しており、その強さも律者とは比べ物にならないほどの差があるという。ヘルタの話では律者はおそらく、使令級などに相当する使徒のようなものではないか?と言われており、ソーマを産み落とした終焉の律者はある意味存在自体は異なるものの星神によく似た役割の存在である可能性があると言われた。
文明や科学技術レベルに関してもピンからキリまでかなりの差や違いがそれぞれの星によって異なっており、特に存護の星神である"クリフォト"を信仰するスターピースカンパニーという宇宙規模の大企業組織がこの宇宙での文明惑星圏の文明レベル上げを後押ししているらしいが必ずしもいい結果をもたらしている訳ではない事もあるらしい。
またこの世界ではソーマのいる世界にも存在する"虚数エネルギー"が星神等の存在をより強力な存在に昇格させている根源のひとつであり、意外とソーマの世界にも認識されている力のひとつでもあった事に驚く。もしかすると自身のいた故郷の世界の宇宙とヘルタ達がいる宇宙には間接的に繋がりがあるのかも知れないという帰れる為の重要な手掛かりのひとつになり得ると少しばかり期待が持てた。
【...という事だから助手、これもよろしく〜】
「はいはい、分かったよミス・ヘルタ。...ハァ、あの人、使い勝手のいい助手が出来たからって面倒な仕事ばかり押し付けてきやがって」
今日も自分の上司であるヘルタからの面倒な業務指示を受けて宇宙ステーションヘルタに入港し、ステーション内を移動していく。同じくステーション内にいる上司にそっくりな人形ヘルタを何体か引き連れて指示された書類や資料等の整理と回収を行う。
ヘルタは自分の仕事や面倒事を済ます為に代わって業務をこなす自身を模倣した人形ヘルタを何百体も所有してるが、以前何をとち狂ったのか学者仲間の一部があのミス・ヘルタが自分以外の外見をした人形を製作して仕事をさせている、とかソーマ本人を本気で人形だと勘違いされたことがある。
どうやら他人に対して関心が薄いヘルタ本人が自分の人形以外の人間を雇っている事自体があまりにもイレギュラーだった事でそのようなとんでも勘違いが起こっていたらしい。
そんな事もあったな〜と過去を思い出しながら手にした重要な資料や端末機器を宇宙ステーションから搭乗してきた宇宙船に詰め込みに行く。
その道中の広場にて沢山の人が集まって動き回っている宇宙ステーション内の作業員や業務員を避けながら歩いていくとよそ見してしまったのか誤って誰かとぶつかってしまう。
「あっとッ‼︎」
「おっと、すまない」
誰かとぶつかった衝撃で書類の紙が幾つか床下に散らばってしまったので急いで拾って回収していく。ぶつかってしまった人も申し訳ないと感じたのか拾うのを手伝ってくれた。
「すまない、なに分初めて訪れる場所だったもので、ついよそ見してしまった。手伝おう」
「あ、いえ、此方こそすみません」
落ちた書類の紙を全てかき集めて何とかまとめて回収する。ばらけてしまったが後でまとめ直せばいいと考え、手伝ってくれた人物に御礼を言おうとする。
「すみません、助かりました」
「いや、構わない此方の確認不足だっただ...け...」
突如、相手の会話が絶句したかのように止まり出したので不思議に感じ、顔を上げてぶつかった人物の顔を見ようとする。
そして目の前の人物の顔を見た瞬間にソーマも相手と同じように絶句してしまう。
そこには間違いなくかつて忘れもしない出会って会話を交わした事もある、本来ならこの世界にはいないはずの人物であった。
「...まさか...君なのか?"ソーマ"...ッ⁈」
「その声..."ヴェルト、先生"...?」
ソーマ・アストラ(情報1)
元3rd世界の住人であり、天命極東支部聖フレイヤ学園の元生徒。同期であるキアナ、芽衣、ブローニャと共に崩壊と戦う戦乙女、または崩壊戦士としての人生を歩んでいた。
しかし、度重なる戦いの苛烈さに、人類同士の陰謀等、様々な災難の渦に巻き込まれ、その最中で自身の正体が律者であった事を知ることになり、崩壊の根幹に関わる聖痕計画での戦いで故郷の地球を守る為に崩壊という厄災を抱えてキアナ達の元を去る選択を取る道を選んだ。