逃げたと思っていたはずであったサンポからの思わぬ助けにより、何とかシルバーメインの追撃隊からの包囲の窮地を脱することに成功する。
その後はサンポが利用している秘密のルートの隠し道を伝ってベロブログとは異なる下層部都市である"ボルダータウン"と呼ばれる場所へ案内される。
サンポの伝手で街の治療所へ星達を運び込み、気絶した彼らを治療する為にしばらくの期間、その場所でお世話になる事となりその間、ソーマはこのボルダータウンという都市についての情報収集を行う事にした。
しばらくしてからは丹恒、続けてなのかと意識が回復していき、残りは星とシルバーメインのブローニャの二人だけになった。
「...とりあえず今日のところ大丈夫そうね。ただ眠っているだけの状態みたいだし」
「申し訳ない"ナターシャ"さん。アンタにこんなに面倒ごとを押し付けてしまって」
「別にまわないわよ。ただ...例のシルバーメインのリーダーさんだったかしら?彼女、あなたが持ち場を離れていた間に目を覚ましたみたいで外を飛び出したみたいなの。正直、下層部の人間に目を付けられたら面倒なことになるわ」
「え、彼女が⁈いつの間に...」
「悪いけど、彼女を保護しに行ってもらえるかしら?一応、サンポにも応援を頼んでいるわ。面倒ごとになる前にお願い」
「分かった。伝えてくれてありがとう、すぐに行く」
直ぐに治療所を飛び出し、一人で街中を出て行ったブローニャを探しに行く。幸いにもボルダータウンでしばらくの間滞在していたときに街中をあらかじめ情報収集してマッピングを済ませていた為、大体の場所は把握出来ていた。
ソーマ自身、元々はかなりの方向音痴ではあったが事前にルートや居場所を覚えていればわりと何とか行けるので今回は問題なく行動できた。ただ流石に通ったこともない小道や裏道ルートを通られると詰んでしまうので最悪、虚数ワープを使ってすぐに医療所に連れて帰るという手段も視野に入れた。
「ッ!いたッ!...って、面倒ごとに巻き込まれてる真っ最中だったか!」
ソーマが目を向ける先には例の少女であるブローニャ本人の姿と5、6人くらいの下層部の人間らしき服装の団体に取り囲まれて絡まれている光景が視界に映っていた。おまけに相手側には銃器で武装している輩もおり、予断を許さない状況であった。
「おうおう?シルバーメイン様が一体このオンボロ都市に何かようかい?俺らを見捨てた連中がいまさらのこのこと来やがって...」
「それはこちらの台詞だ。私をこのような場所に連れて来て何を企んでいるつもりだ」
「はっ、知るかよ。おおかた、アンタがトロかったから真っ先に捕まえられただけじゃないのか?所詮は大守護者の先兵も大したことないってな!」
「なっ、言わせておけばお母...大守護者様の侮辱は許さないッ‼︎貴方達のような下劣な連中なぞに馬鹿にされる筋合いはない‼︎」
「テメェ...言わせておけばッ‼︎」
(ッ!マズイッ‼︎)
血が上りすぎたのか下層部の流浪者の一人が銃器をブローニャに向けて来たのが確認できた。ブローニャ側が非武装で自衛手段が無いと見て素早く彼らの間に飛び込んで行く。
「調子に乗りやがって!コッチも容赦しねぇぞッ‼︎」
流浪者の一人が銃器を構えてブローニャに向かって発泡する。ブローニャが咄嗟に回避行動を取るが当然弾丸の進む速度に適うわけもなく、真っ直ぐに彼女の左肩に吸い込まれていく。
ブローニャはここまでかと目を瞑ると彼女の前に黒い影が飛び込み、銃弾がその陰によってあらぬ方向へと弾け飛ぶ光景が現れる。
「ッ!貴方は...!」
ブローニャの目の前に現れたのは捕縛対象であった筈の来訪者であるソーマ本人の姿であった。ソーマは手にした片手剣を構えて左手に構えた拳銃を撃って来た相手に向けて威嚇する。
「全く...目覚めたかと思えばすぐにいなくなって今度は暴漢どもに絡まれるなんてな...」
「て、テメェ、ナニモンだ!あの女の仲間かッ!」
「ちょっと違うが、ここで事を起こされると困るからな。彼女を狙うなら俺を倒してからにしな」
「チッ、舐めやがって!」
同じく銃器を構えていた流浪者の仲間たちが発泡するが全てソーマによる剣術で銃弾を斬り払われ、お返しとばかりに手にした拳銃で素早く早撃ちしていき、的確に相手の飛び道具だけを撃ち落とし無力化させる。
「どうする、まだやるか?」
「コケにしやがって!お前ら、取り囲んで仕留めろッ!」
どうやら相手は虫のいどころがまだ収まらず、此方を数で圧倒しようと接近戦を仕掛けて来た。
「おいアンタ、俺の背中から離れるな。捕まったら一貫の終わりだからな」
「わ、わかった」
手にした鈍器を振り回して突っ込んでくる流浪者どもを非殺傷弾の弾丸で撃ち倒していくが、守る対象を抱え込んで戦うには相手の数が多過ぎたので流石のソーマもやや苦戦を強いられていた。
逃げ道のルートを考えながら戦っていると、迫り来た流浪者の一人が紫色の残像に横から襲われ、何かに斬り払われて無力化される。
「アンタたち、"地炎"のいないところで随分と好き勝手にやってくれたわね?覚悟は出来てんのかしら?」
流浪者を仕留めた新たな参戦者が現れ、援軍かとソーマが目を向けると、そこには大きな鎌状の武器を手にした黒紫髪の少女...というか明らかによく知っている身内によく似た顔のそっくりさんに驚きとああまたか、という既視感と諦めを抱いていた。
信じられないものを見た顔をしていたソーマの視線に気づいた大鎌使いの少女が此方を向く。
「ん?アタシになんか用?」
「いや...なんでもない。援軍に感謝する」
「別に。地炎の縄張りで勝手な事をされてるのが気に入らないだけ」
「ソーマッー!」
「この声...なのか達か!」
黒紫髪の鎌使いの少女の登場と遅れて人混みからなのかの名前を呼ぶ声に星や丹恒が此方に来ている事が確認でき、形成が逆転した事でなのか達と共同で流浪者達を撃退させる事に成功する。
「クソッ、お前らいったん引くぞ!」
流浪者達を撃退したあと、一旦ブローニャの身元を確認するが怪我はなかったようで安心し、星達と向き直る。
「もう無事そうか?星」
「うん大丈夫、しっかりと熟睡できたから」
「いや、そう言う事を聞きたいんじゃなくて」
「ハァ、星の事は気にしないで。ウチらはソーマが人探しをしてる最中にコッチも聞き込み調査をしてたの。あ、ちなみに丹恒ってば何故か闘技場で情報を得るために闘いに参加してたんだよ?」
「闘技場?そりゃまた大胆な」
「強い奴が多くいる場所ならばこの街での有益な情報を持っていると考えたからだ。...何故か機械メカが対戦相手だったがな」
「私達も参加したんだよ?」
「そ、そうか。この世界観で機械メカって...まるでスチームパンクみたいな雰囲気の星だなぁ」
その後、鎌使いの少女の紹介よって例の地炎の仲間達と合流する事になり、その最中に一足先に街を出ていたサンポとも出会う。
ちなみに肝心の鎌使いの少女だか、自己紹介で自身の事を"ゼーレ"と名乗っており、もはや見た目だけでなく名前まで同じなせいで、まさかここは地球によく似た並行世界なのでは?と疑い始めたほどである。
しばらくして地炎のリーダーであるオレグという男に会い、元々の目的であった星核を封印する為の情報の手掛かりを得る為に地炎の活動に協力することにし、オレグ達も追い詰められているヤリーロⅥの現状を打破する為にも半信半疑ではあったがソーマ達の星核を封印する闘いに協力してくれることとなった。
地炎での地下層の支援活動の協力の最中、採掘場でのいざこざや縄張り争いで負傷した人々を治療する為に医療品の物資を回収する任務をソーマは手の空いていたゼーレとブローニャの3人で活動していた。
星達も同じく物資の調達作業をしていたが、人数の割り振りの関係でたまたまこの組み合わせになった。そして今現在、肝心のソーマは自分の世界にいた妹分に瓜二つなブローニャと妹分の孤児院からの家族であったゼーレと姿も名前も同じそっくりさんのふたりの後ろをついていくように移動しながらどう接するか迷っていた。
「...」
「...ッ」
ソーマがいた世界のブローニャとゼーレならば相思相愛とばかりに仲が良かったが、どうやらこの世界のブローニャとゼーレは互いにほぼ初対面らしくおまけに上層部の人間と下層部の人間と言った感じでそういった出身の壁もあり、つい先ほどまでしばしばゼーレが上層部のブローニャ達に対して自分達下層部の扱いの不満や文句を漏らし、対するブローニャはそれらを当初否定してたが地炎との共同活動で目にしてしまった下層部の残酷な現実を目にしてショックを受けてしまい、何も反論が出来ないという状態が続いていた。
(ハァ...人違いとはいえ、痛々しいな...)
よく似た妹分達がまるでいがみ合ってギズギスしている距離感が本人達の影が重なって見えて嫌な気分であったが、放って置けなくなって来たソーマはとりあえず彼女達の仲がマシなるように話に入って仲裁することにした。
「ブローニャ、大丈夫か?ずっと顔色が良く無いが...」
「いや...私は大丈夫。...ただ」
「ただ?」
「ただ、私にはこの下層部の現状が余りにも衝撃が強過ぎた...お母様からですらこのような状態を詳しく聞いた事も無かった。やっぱり...口で語られる内容よりも実際に自分で目にしたものの方が遥かに説得力がある」
「フン...ようやくアンタも下層部の現状を理解できたでしょ?」
「ええ、本当に...痛いほどに。私は...あまりにも無知だった」
「...確かにそうだけどそれはブローニャ、アンタがそういう世界に触れる機会が無かっただけだろう?確かに無知は罪とはいうがキッカケが無ければ知る事なんて無理な話だ」
「それは...」
「それにゼーレも別にブローニャ個人を責めてるんじゃなくてあくまでも下層部の現状を知って欲しいという訴えが人一倍強かったから、少し乱暴な言い回しになってしまった。違うか?ゼーレ」
「フン...別にアンタを嫌ってる訳じゃないわよブローニャ」
「ゼーレ...」
「ゼーレはブローニャがめげることなくきちんと現象に目を背けずに前を向いて見てくれてる事に評価してるんだよ。ホントは仲良くなりたいという本心もあると思うぞ」
「ちょっとソーマ、アンタ勝手に!」
「そもそも俺個人にどうすればブローニャとの仲を直せるか相談して来たんだからいい加減向き直らないとダメだろう?ブローニャだって同じように相談して来たんだぞ」
「ゼーレ...えっと、これはその...」
実は行動を共にしていた時に彼女達にお互い交互にどう仲直りすれば良いかという相談を受けていた。妹分達にそっくりな彼女達の困った顔に自身の良心が耐え切れず、結果的に相談に乗る事になるが流石にいつまでもわかだまり終わらない状況にウンザリしてきたソーマはお互いの心情をバラす事にし、動揺こそしたもののようやくふたりとも素直に話し合えるようになってきてくれたことに安心する。
少し休憩しながら下層部の街並みが見渡せる丘の場所を眺めてると、物資の整理を終えたブローニャがソーマの横に立つ。
「その...ありがとう、ソーマ。最初は敵対関係の立場だったのにこうやって話してみるととてもいい人だって事がよく理解できた」
「全くだ。いきなり逮捕状を突き付けられて、星達と逃げ回る羽目になるし、今度は下層部のチンピラどもに絡まれるし、ゼーレとは気まずくなってるし」
「えっと...本当にごめんなさい」
「別に気にしてないよ。この程度でイライラするほどの事じゃないし」
「...その、ソーマ。気になってた事があるのだけど...」
「ん、どうした?」
「その、何故貴方はそこまで私達のことを気にかけてくれるの?」
「気にかけるって...別にそこまでの事は」
「でも貴方は、対立してたはずの私の事や身を案じてくれてたし、ゼーレの事に対しても真摯に気にかけてアドバイスしてくれた。短い付き合いでここまでしてくれる事に不思議に思ってて...」
「あ、それ、アタシも気になってたのよ!ほらソーマ、アンタも正直に答えなさい。アタシ達だけ本心バラされて自分は別はナシよ?」
「あ〜えっと...」
お互いに仲直りしたことで幾分余裕ができたブローニャといつの間にか会話に参加して来てたゼーレに矛先を向けられ、どう話そうか迷うが仕方なく内容を端折って話すことにした。
「...あまり、笑わないでくれよ?」
「笑わないわ」
「うーん、場合によるわね?」
「アンタな...ハァ、まぁいいや。あー、まぁなんだ...アンタ達が、俺の...大事な妹分達に似ているから...だな」
ソーマは少し恥ずかしそうに彼女達に対して抱いてる感情を吐いた。姿も雰囲気も全く同じとは言わないが、何となく彼女達から発する行動や言動が何故か妹分達を見ているように重なってしまい、つい助け船を出す行動にでてしまったと彼女達に伝える。
ソーマから見るとブローニャはともかくとして、ゼーレに対しては見た目は似ていても性格は似ていないといってもいいが、どちらかというと外見がオリジナルのゼーレで中身が黒ゼーレ寄りと言った感じに近い為、二人が合体してひとりに統合されたみたいな雰囲気があるのが目の前にいるゼーレのイメージだったりする。
「プ、ククww...ッ!それじゃあなに?アンタは赤の他人でしかなかったアタシ達のことを自分の妹達に重ねて見てたって訳?」
「...うっさいな。だって仕方ないだろ、びっくりするくらい瓜二つだったんだからよ。最初は幻覚でも見てるのかと思ったぞ?」
「まさか私達にそこまで似ていた人達が居たなんて。なんだか不思議な感覚ね」
「ならアタシ達がソーマのことをお兄ちゃんって呼んであげましょうか?ね、お・兄・ちゃ・ん?」
「マジでやめろ、なのか達にバレたら変な目で見られるっての!」
「ゼ、ゼーレ、流石にからかいすぎよ」
もはやソーマの話を聞いて面白おかしく感じて来たのかゼーレがおふざけでソーマに対して兄呼びしてからかいはじめ、それをソーマが止めろと嫌そうな反応をし、そこをブローニャが仲裁に入ろうとすると言った光景が続いた。
ゼーレに兄呼びでいじられているソーマを助けてあげようとしてるブローニャではあるが、実は内心、ひっそりと自身もソーマのことを兄呼びしてみたいという本心があったりもしたが、彼女自身が恥ずかしさで死にそうになるので大人しく自重することにした。
(もし私にも彼みたいな兄が居たなら...今よりも毎日が楽しく感じていたのかしら。...ソーマの故郷にいる私のそっくりさん達が羨ましい)
「スヴァローグ?その人が星核に関する秘密を抱えているの?」
「まぁ、正確には人ではなく人型のロボットだかな」
地炎の支援任務に協力しながら日々を過ごしていたとき、地炎のオレグからの情報網から星核に関する情報の話が伝えられ、スヴァローグというロボットが星核に関する秘密、あるいは下手したら今のベロブルグの災害の元凶を知る手掛かりを持っている可能性が高いという話が出ていた。
「つまりは、そのスヴァローグとかいうロボットを説得すれば星核の居場所を特定できて俺たちの本来の目的を遂行することが可能になるな。それに...」
「それに星核を封印したら今のベロブログの災害が完全に収まって一石二鳥ってことでしょ?丹恒」
「結果的にそういう事になるな」
「うーん...そんなに都合よく行くと思う?ソーマ」
「まぁ、多分新しい面倒ごとが待ち構えてるんだろうなって想像つく」
「フッ、流石は幾多もの星を開拓して来たナナシビトだな。全く持って想像通りだといっておこうか」
「結局、あの親玉のスヴァローグを相手にする羽目になるのね。でもアイツを言い聞かせるなんてあの"クラーラ"って子を通さない限り無理よ?ハァ、面倒ね...」
「ゼーレ、その"クラーラ"ってのは何者なの?」
星核の事について重要な情報を持っている存在を確認出来たものの、どうやらそのスヴァローグというロボットの司令塔ともいうべき存在は長年に渡って現地住民と対立関係にあり、人間側の考えに賛同出来ないことから無差別に攻撃こそは仕掛けて来ないものの、対立状態に陥っており、一部の採掘場エリアは例のスヴァローグのロボット兵団達に占拠支配されているのだとか。
そして、対立しているスヴァローグと交渉するには先程話題で現れた例のクラーラという珍しくスヴァローグを含むロボット兵団達によって保護され、共に生活している少女に説得の助けがいるという面倒な話がでてきた。
ただ例のスヴァローグがいるルートに関しては出身鬼没なサンポの道案内で厄介な障害に巻き込まれずに割と早くロボット達のアジトである採掘場まで辿り着くことができた。
そしてやはりというべきか、予定通りにスヴァローグがいる下層部の採掘場まで地炎のメンバーやソーマ達一同が足を運び交渉をする為に訪れたが、肝心のスヴァローグ本人は此方の話を聞き入れてくれず結果的に戦闘状態に入り、途中から割って入ってきたクラーラという白髪の少女が止めに入った事でなんとか最悪な事態は免れた。
「もうこれ以上はやめてくださいッ!スヴァローグをいじめないで!」
「ちょっと待って、クラーラ!アタシ達はただ星核の在り方を知る為に話に来ただけよ!」
「そうだよ!ウチらは別に悪さをしたいんじゃ無くて今の状況をなんとかしたいだけだよ」
「ッ...皆さんが今のベロブログの状況を救う為に動いてるのはわかってます!でも...こんなやり方しか...ないんですか?...スヴァローグは別に...みんなのことを本気で嫌ってる訳じゃないんです」
クラーラから通された話によると、スヴァローグ達はかなり早い時期に星核に関する状況を察知、或いは感知したらしく、現状今の人類を救う為の手掛かりを模索する為に様々な対策や計画を演算して対応して来たという。
その結果が今の人類では太刀打ち出来ないので余計なことをさせずにこのベロブルグという人類最後の安全圏シェルターに彼らを押し留めるという結論と計画手段を決行したのだというのだ。
つまりスヴァローグ達が導き出した演算の答えは逃れられない滅びから一分一秒でも長く生きてもらう為に人間達には大人しく引きこもってもらい、抗うことを放棄するという生物としての敗北宣言に近いものであった。
当然、そんな戦闘放棄に近い提案に全員が反対するものの、その最中でソーマは今現在ベロブログに置かれている現状に自身の故郷で経験した世界の厄災が自分達を滅ぼしにかかってくるという状況が重なっているように見えた。
この星に生きている者達も星核からの大寒波、または裂界現象という脅威から世界を、同胞達を守る為に今もなお戦い続けているのだ。
だからこそソーマは生きるという選択肢をここで諦めてほしくはなかった。
「...?ソーマ、アンタどうする気なの?」
「少し...俺なりの交渉をクラーラ達にするだけだよ。大丈夫だ、ただ話をするだけ、希望を捨てない為の大切な話さ」
「ソーマ...」
自分と変わらない見た目の年代の筈なのにどこか人離れじみた雰囲気がひしひしと伝わる。
ゼーレの横を通り過ぎるソーマからは短い付き合いながらも不思議と幾つもの死守をくぐり抜けて来た猛者のような、或いはこのような状況を身をもって体験したかのような貫禄を肌から感じ取った。
「クラーラ、スヴァローグ...ふたりには聞いてほしい話がある。勿論、その際には人質として俺を連れて行ってもらっても構わない。それで話を聞いて貰えるなら、俺はアンタ達には絶対に手を出さないことを誓う」
そういいながら、前に出たソーマは手にした二丁の拳銃を両手から全て地面に手放す。
「ちょッ、ソーマ危ないって!」
「ソーマ、いくらなんでも無謀だ」
「お願いだ、行かせてくれ!絶対に...絶対に成功させて見せるから」
「ソーマ...貴方は...」
「...行かせてあげよう?なのか、丹恒」
「星...ホントにそれでいいの?」
「大丈夫...だと思う。ただなんでか...そう感じる。...勘で」
「いや勘って...」
「...いや、任せてみよう。もしかするとソーマには何か策があるのかもしれない。最悪、俺たちでフォローすればいい」
「ハァ...分かったよ。まさか丹恒まで分の悪い賭けをするなんてね」
「ソーマ、どうか...無事でいて」
「大丈夫だ、ブローニャ。大船に乗ったつもりで待っていればいい。これでも昔は世界を救ったことがあるんだからな」
ブローニャにそう言い伝えるソーマはまるで身内の家族に言い聞かせるように優しい笑みを見せる。まるでかつて優しく自身を愛し、慰めてくれてたかつての自身の母であるカカリアの姿と重なって見えた。
「ソーマさんの故郷でもそんな事が...」
「ああ、これがクラーラ達に話したかった事なんだ。...クラーラ達が経験しているこの状況はある意味、俺のいた世界の故郷での出来事に類似している」
【ソーマ・アストラの生態反応変化を計測...現時点で虚偽による創作話の可能性は低い。信憑性が高いと判断】
「信じてくれてありがとう、スヴァローグ」
ソーマはクラーラとスヴァローグの条件の元、一時的に人質として連れて行かれ、ソーマが持ちかけて来た話を一通り聞く事にした。
当初はスヴァローグも人間側の無駄な時間稼ぎだと結論付けていたが、現地人ではない来訪者であるソーマという少年の話を聞いたことで、自身の考えと演算の再構築を行う必要性がありと、現時点での結論を180度方向転換する方針を取る事になる。
「ソーマさんは...このベロブルグにいるみんなを助ける事が出来る可能性があるんですか?」
「ああ、あるといってもいい。ただ、今はまだそのキッカケが出来てない状態だ。無謀な戦いを強要するつもりは無いけど...でも、戦いを放棄する事は正に敗北を受け入れることに等しい。俺たちの祖先達や過去の英雄達はそんな戦いの中で次の世代達に願いを託して...そして今の俺たちがその意思を継ぎ、戦いに討ち勝ったんだ。俺たちが人として歩み続ける限り、それは絶対に途切れない」
【...ソーマ・アストラ、お前の交渉に応じ、星核の真実、そしてベロブルグが抱える秘密を開示する】
「ッ!それはまさか...」
【お前達人類側の要求を受け入れる判断を下した。...クラーラが生きる世界を守る為にもそれは必要だ】
「...そっか、アンタ達にとってクラーラは大事な存在なんだったな」
【無論だ。クラーラは私達の家族だからだ】
「スヴァローグ...。その、まだ不安だけど...ソーマさん達の話を、受け入れたい...と思い...ます」
「ありがとうクラーラ。話を最後まで聞いてくれて」
そう言いながらクラーラ達に感謝しながら顔を向けると、何やらクラーラがモジモジしながら恥ずかしそうな顔でソーマに提案して来た。
「そ、その...ソーマ...さん、お願いが、あるんです」
「うん?どうしたの」
「その、ソーマさんのこと...お兄ちゃんって...呼んでもいい...ですか?その、ここまで異性の人で...ここまで親しみのある人は初めてで...そのダメ、ですか...?」
元々、孤児としてスヴァローグに拾われて育てられて来たクラーラはあまり同じ種族である人間とはあまり深く接する機会が少なく、人の優しさを直に体験した事がない為、積極的にクラーラに真摯に語りかけ、クラーラの悩みや不安についても宥めてくれたソーマのその在り方に人間の家族愛のようなものを感じ取ったのだとか。
その為、本人の見た目に合った呼び方として兄として呼ばせてほしいと懇願して来たのだ。
ソーマ自身どうしようかと思い悩んだが、彼女の恥ずかしがりながらも懸命に懇願して来た純粋無垢な願いに対し、スヴァローグからも人間の家族愛の必要性を説かれて、仕方なく自身への兄呼びを受け入れることにした。
受け入れてもらえたことで嬉しそうにしているクラーラを見ていると自然とソーマもまんざらでもなく嬉しい気持ちになる。
(まさか...別の世界の星でまた新たな妹分が出来るなんてな。...既に人間ですらない俺がクラーラの兄貴分というのもおかしな話だけど...流石にそれは自虐的すぎるか)
晴れてクラーラの兄貴分になったソーマはクラーラが体験したかった親しい人と手を繋ぐという体験をしてみたいというお願いを聞き入れて彼女と手を繋ぎながらスヴァローグと共に星達のいる場所へと再び引き返す事になる。
その後、ソーマの活躍によって説得に応じたスヴァローグから提供された星核とベロブログの真実の情報を知った星達やゼーレ、ブローニャ達はその内容を理解して戦慄することになる。