白夜叉とのゲームを終え、噴水広場を越えて俺たちは30分ほど歩いた後、“ノーネーム”の居住区画の門前に到着した。
門を見上げると、旗が掲げてあった名残のようなものが見える。それにしてもずいぶんと広いな。
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入り口から更に歩かねばならないので御容赦ごようしゃください。この近辺はまだ戦いの名残がありますので……」
「戦いの名残? 噂の魔王って素敵なネーミングな奴との戦いか?」
「は、はい」
「丁度いいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」
さっきから飛鳥は機嫌が悪いな。
プライドの高い彼女からすれば、虫のように見下されたという事実が気にくわないのだろう。ま、それをばねにして強くなってくれればいいけどな。
黒ウサギは躊躇とまどいつつも門を開ける。
すると正面から乾ききった風が吹き抜けた。
ちょ、砂で前がよくみえん。
やがて開けた視界の先には、見渡す限りの廃墟が広がっていた。
「……っ、これは……!?」
街並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥と耀は息を呑み、十六夜は無言のままスッと瞳を細める。
俺もこれには顔を顰めざるをえなかった。
十六夜は木造の廃墟に歩み寄って、囲いの残骸をその手に取る。
少し握ると、木材は乾いた音を立てながら崩れていった。
「……おい、黒ウサギ。魔王とのゲームがあったのは──今から何百年前の話だ?」
「僅か三年前でこざいます」
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが年前と?」
──そう。
彼ら“ノーネーム”のコミュニティは、まるで何百年という時間経過で滅んだように崩れ去っていたのだ。
咲夜の能力に似ていいるが、あいつはここまで広い範囲の時間の経過を早めることができないし、こんな長時間を早めることもできない。これは相当だぞ...。下手したら白夜叉よりやばいんじゃないか?
「時間の経過を早められるのは知り合いにいるが、ここまで広い範囲、長時間は無理だ。これをするには白夜叉と同等かそれ以上の実力がいるな。」
「ああ。これはあり得ない。」
「ベランダのティーセットがそのままテーブルに出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」
「……生物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」
彼女達の感想は、俺や十六夜の声よりも遙かに重い。おそらく相当ショックなんだろう。
黒ウサギは廃墟から目を逸そらし、朽ちた街路を進む。
「……魔王とのギフトゲームは、それほど未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないように屈服させます。僅かに残った仲間達も皆心を折られ...コミュニティから、箱庭から去って行きました」
そうか...。確かにこれくらいすれば反抗する気も失せるだろうな...。現に耀と飛鳥はこれと戦うなんて信じられないといった顔をしている。
「魔王──か。ハッ、いいぜいいぜ、いいなぁオイ。想像以上に面白そうじゃねえか……!」
こいつは例外だが、それでもまだまだ実力が足りない。
黒ウサギは不安そうな顔をしている。おそらく十六夜達を巻き込んでしまっていいのか悩んでるのだろう。
「なあ黒ウサギ。」
「な、なんでしょうか?」
「悩む気持ちがわかるが、もう戻れないだろ?だったら覚悟を決めろ。俺も協力するから。」
「え、ということは?」
「ああ。俺もこのコミュニティに入る。」
「あ、ありがとうございます!しかし何故ですか?魔王の恐ろしさがわかったのに。」
「ん~、なんつーか、このコミュニティに入れば、成長できそうだなって思ったんだよ。」
「成長ですか?」
「ああ。十六夜達もこれからどんどん成長していくだろうし、このコミュニティもどんどんこれから成長していくだろ。そんな所にいたら、俺も成長できそうだな~と思って。」
そう。俺は強くならなければならない。あんなことを2度と起こさないように。
「お、菫も入るのか?」
「ああ。みんなこれからよろしくな。」
「ええ、よろしく。」
「よろしく。」
「さて、菫も入ったし、マジで魔王をぶっ倒して旗印と名を取り戻さないとな!」
「そうね。強くならないと。」
「うん。がんばる。」
「ま、がんばろ~ぜ。」
あ~やっぱ仲間っていいね。
「み、みなさん...。」
「つーわけでだ黒ウサギ。俺もよろしく頼むぜ」
「私もよろしくお願いするわ、黒ウサギ」
「……よろしく、黒ウサギ」
「よろしく~。」
「...YES。よろしく、お願い致します」
黒ウサギは涙ながらも満面の笑みで、彼らにそう告げた。
次はがんばって早く投稿します。