魔法少女のその後 作:匿名
私、日野伊吹。ピチピチの2――7、9歳? 最近は日にちとか数えてないから分からないけど確かそのくらいだったはず。まだ、30は超えていないと信じたい女の子。
はぁーー。
バイトやっぱり怖いなーと思ってしまい家から今日の勤務先の道の間を行ったり来たりしている私はこんなおふざけを頭の中で思い浮かべながらなんとか心を保ち、今日はバイトする方針を崩さないようにしていた。
魔法少女として異次元獣と戦っていた時はもっと社会的だった気がするが戦いが終わってからなんだか燃え尽き症候群のようになってしまってどんどんとダメな方へと進んでしまっている。
異次元獣との戦いが日夜、365日続いたため義務教育である中学はまだしも、高校まで卒業出来なかったし、親に誤解されて疎遠になってしまったからという言い訳をしたいところなのだがそれも良くないなと思っている。
何故なら、私と同じ聖ヶ丘学園に通っていた魔法少女は全員、手に職をもっていて立派な社会人になっているからだ。
まず、同級生で唯一無二の親友の美咲は高校卒業後にバイトで資金を貯めてFXで大金を稼ぎ、そのお金で今では株の売買や多くの不動産を経営で大金を稼いでいる超インテリ。
そして、今、同じマンションに住んでる真先輩。真先輩は二つ上の先輩でなんと大学まで卒業し、弁護士を初めとした難しい資格を取得していて、頭の悪い私は何をしているのかは説明されてもよく分からなかったが歩合で金融商品を売る仕事をしている。
同じマンションに住んでいないのであんまり顔を合わせることが少ないが偶に遊びに来てくれる一つ下の後輩の佐野犬子ちゃん。彼女は大学まで卒業した後に警官になった。魔法少女として世界を守った後にまだまだ世界を守るために頑張る偉い子だ。そして、こんな今の私でも先輩と慕ってくれる可愛い後輩だ。
こう並べてみると今の自分のダメさ加減が心に突き刺さる。
が、くじけてはいられない。今日は調子がよくて外に出られたし、家賃を滞納し続ける訳にもいかないから頑張ろうと気合いを入れ直した。
いつも、ガチでヤバくなった時にはちゃんと働けたしやれば出来る子なのだ。
「すみしゃせん、タイムーのもにょなんです……けど……」
勤務先まで来てはみたものの、単発バイトアプリ経由なので店員さんに指示を聞かないといけないのだがその際に緊張で店員に話す時に噛んでしまい、そこから恥ずかしくなってしまいどんどんと声が小さくなってしまったが何とか言い切れた。
美咲とかと話す時はもっとちゃんと話せてるのになぁ。
「えっ、なんて言いました? すいません、もう一度お願いします」
どうやら聞き取れなかったようで聞き返してくる。
「あっ、た、た、タイムーで――」
「ああ、タイムーさんね。じゃあ、従業員入り口入って横に控え室あるからそこで待っていてください」
教えて貰った通りに従業員入り口に入り、すぐ見つけられた控え室に座って待機する。ひとまずは第一関門突破だ。
控え室の中をあちこち視線をさまよわせて待っているとすぐに呼び出しがかかって制服を渡されて勤務が始まった。
「タイムーさんは食材の補充や調理をお願いします」
「あ、分かりました」
今日のバイトはチェーン店のハンバーガーショップだったのだがレジや注文を聞く仕事を割り振られず、自分一人で完結する仕事だったので幾分か気が楽だ。
作業内容も初めてではないし、難しくはなかったので注文が多い時間帯などは大変な時もあったが問題なく乗り切れていたと思っていたその時に何やら店員さんたちがざわついていた。
ヤバい、何かミスちゃったかな?
私は不安になり、そちらを向くと店員さんの一人と目があった
「いや、ちょっとね、有名なお客さんが来たみたいでね」
「……げ、芸能人とかですか?」
話かけられたから会話した方が良いよねと思って私はそう言うとその店員さんは首を横に振った。
「いや、そういうんじゃなくてね。なんて言えばいいかな……この店ではちょっと有名、みたいな」
ちょっと間を置いてから、声を潜める。
「ハンバーガーの肉抜きを頼むお客さんなんだよ」
「に、肉抜きですか……?」
思わず聞き返してしまった。
この店にはヴィーガン用にそもそも肉を使っていないハンバーガーもあるのでそれを頼まずわざわざハンバーガーを頼んで肉を抜くと言うことは何かこだわりがあるのだろうか。
「そう。で、もっとおかしいのがテーブル席に座って誰かの写真が入っている写真立てを二つ置いて、それにぶつぶつ話すの」
店員は嘲るような笑いを浮かべていた。
「でも、別に暴れたり迷惑かけたりするわけじゃないから注意とかはしないんだけどね。ほらあの人、コスプレなのか分かんないけどピチピチになってる制服着てる」
店員さんはその人に気づかれないように顎でその人を差した。
見るとそこには私と同じくらいで明らかに学生ではなさそうな人が店員さんの言った通りの注文をしているのが見えた。
「ハンバーガー一つ肉抜きで、後ポテトとオレンジジュース。どっちMで」
「はい、かしこまりました少々お待ちください」
その例の彼女が来たからか店員さんたちに軽口が増え始めた。
「肉抜きってさ、ただのパンじゃん。意味わかんないよね」
「てか、思い出したけどあの制服私が通ってた中学のだわ。なんか怖くない?」
「まじ、それ」
そして、私は彼女を見て何かが引っかかっていた。
何だろう、どこかであったことがあるような……。
だが、その答えは出ずにその彼女の注文の品ができあがるとそれを彼女は受け取った。それから彼女は受け取った商品を持ってテーブル席に座り、店員さんが言っていたように二つ写真立てを置いた。
まるで、今から誰かと食事を始めるみたいに。
彼女の口元が少しだけ歪んだ。笑顔なのだと思う。でも、どこか引きつっていて、表情筋の使い方を思い出しながら無理に作っているみたいな笑みだった。
仕事中だというのに、私は何度もそちらを盗み見てしまっていた。でも、流石に遠すぎて私の引っかかりを思い出せるような手がかりを見つけることは出来なかった。
「じゃあ、タイムーさんは上がってください」
一生懸命働いている内に終了時間になっていたようで退勤することになった。
私は急いでバイト先の制服から着替えて従業員入り口から出た。何故なら、まだあの例の彼女がまだ店内にいたからだ。
もう少し間近で彼女を見れば何かが分かる気がした。
その予感は当たっていた。わざと彼女の横を通り、写真立ての中に入れられている写真を見て私は思いだした。
――未来ちゃんだ。
その写真立ての中にあった写真は異次元獣との戦いで死んだ二人の魔法少女。その魔法少女たちはいつも三人で行動していた。ということは彼女はその中で唯一生き残っていた魔法少女の
学校が同じじゃなかったし、年もだいぶ下だったからあれから成長していて全然分からなかった。
「未来ちゃんだよね!」
私は人目もはばからずに大きな声で彼女の名前を呼んでいた。