宇宙連盟文化裁判所判例集   作:布団は吹っ飛ぶのか

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この噺に限らず重いテーマを取り扱う予定です。気分が悪くなる事は決して責められる事ではありません。そっと閉じて頂いて結構です。


戦勝編
アクア・ウッド対宇宙連盟裁判


第1号.宇宙歴1年11月3日 被告:アクア・ウッド 原告:宇宙連盟

判決

アクア・ウッドの有罪を認定し懲役40年を認定。

容疑

カルビン族絶滅を意図した虐殺行為

主席判事:ロゴス・ケルビン

  判事:山田雄一郎

  判事:司馬里

  判事:アレニウス・ローリー

  判事:ブレンステッド・パルミチン

  判事:ベンジエン・クロネッカー

  判事:ヨゴタイ

  判事:ブライアン・金

  判事:デイビット・カント

主文

宇宙連盟上等裁判所の判決を支持する。

理由

当院は被告、アクア・ウッドは冠戦争にて宇宙歴-18年4月5日から宇宙歴-16年5月11日にかけて座標[600,212,-400](概数)に位置するオリエント星系第6惑星に於いて現地に存在するカルビン族に対して概して400万人から600万人規模の殺害を行った事を認定する。これは全カルビン族の8%に当たる。被告は元帝国派連盟の元帥に当たり全戦線の全権限を掌握していたことを否定する要素は存在しない。更に被告の部下の証言から虐殺を認知していた事は確かである。しかし被告は行為を制止する義務を怠った。これは宇宙慣習法に照らし合わせて違法である。故に以上の通り判決する。

尚、以下が賛成・反対の割合である。

賛成(7):ロゴス・ケルビン、アレニウス・ローリー、ブレンステッド・パルミチン、ベンジエン・クロネッカー、ヨゴタイ、ブライアン・金、デイビット・カント

反対(2): 山田雄一郎、司馬里

 

判決の齎した意義と現実的状況の錯綜について

ブライアン・ヒューム

この判決は宇宙歴-18年に発生した族に言うカルビン大虐殺についての判決である。冠戦争は宇宙歴-20年に発生した戦争で宇宙連盟の機能不全により戦争を抑止する体制が極めて不十分なものになり帝国が新連盟を打ち立てて覇権を握る事を意図して起こしたものである。この戦争に於いて当初カルビン族は中立の立場を示しており戦力に余裕が無い連盟はこれを支持し承認した物の帝国側はケレン味の強い文化・生態(窒素やホウ素を常に必要としたりかつて獲得した人間を捕虜として鑑賞したりする行為)を過剰に敵視し囚われた人間を解放するという大義名分を掲げてかに座X-031第6惑星に侵攻、抵抗を4か月かけて排除した後に見るも無残な虐殺を実施した。例えば強制収容所の建設・繁殖の禁止・階級制の導入・殺戮である。それぞれ見ていくと帝国軍はカルビン族に彼ら自身で強制収容所を建設する事を命令しその完成した施設内に於いてカルビン族全体の約21%を収容した。施設内では将来的な絶滅の為に繁殖は禁止されただけでなく効率的に管理する為に目の大きさによる階級制を導入し目の大きさが直径6cmに満たない人を殺害しそうでない人に対しても大きさで「公爵」、「伯爵」、「男爵」、「子爵」、「一等騎士」、「二等騎士」、「平民」、「奴隷」などと称号を付けヒエラルキーを設ける事で帝国に対する批判をかわそうと試みた。そして将来的な殺戮の為に奴隷階級から優先して一日に約1万人程度が殺害された。また、こうして導入されたヒエラルキーは戦後にしこりを残すこととなり、公爵内戦と呼ばれる爵位を持っていた騎士以上の階級の人々と平民・奴隷であった人々間の内戦がそのしこり故に発生し後に連盟が停戦を命令するまで継続されこちらでは10万もの犠牲者を生じた。その影響は現在でも残っており連盟が崩壊した場合最も最初に再開される戦争はこの戦争であると強く信じられており、事実反物質兵器が軌道上に常に展開されているなど予断を許さない状況である。

連盟が帝国をポラリス戦役で壊滅に追い込んだ後この事件は発覚し連盟を震撼させた。この事件は互いの文化に対する無理解や絶滅を許容する歪んだ認知が生んだものであると考えられ宇宙連盟文化裁判所が創設されるきっかけとなった。

この判例により如何なる理由で有れ虐殺する事が許されない事という常識が根付くことになった一方非常に繊細な文化的問題によって人類全体が紛糾する事になる第一歩を踏み出す事となった。しかし思うにこの判決は危うさを持っているのだ。この判決はアクア・ウッド元帥の有罪を認定した一方死刑などの極刑では無く有期懲役刑を支持している。これによって後にウッド提督は恩赦を受けることが出来たし、更に言えばウッド提督以下の虐殺を実行した人々は元帝国派の援助によって外宇宙へ逃亡し未だに足取りさえ掴めていない。この様に裁判所が下した判決は断罪の様に見えて実のところ現実的な妥協でさえあるのだ。

これは当時の宇宙連盟文化裁判所が非常に狭く限定された権限と知名度のみを持っていた事により「妥協しながらまずは一つ判決を出す事」を最優先に行動せざるを得なかったことが背景にある。他にも判事の持つ文化的背景によって判決を支持する者と指示しない者に分かれるなど(例えば山田雄一郎、司馬里判事は帝国派に近い人間であり、後の人間の定義裁判でも狭義の人間、即ちホモ・サピエンスのみが人間であると主張していた。)後のグロス事件にも通底する流れはこの時から既に生じていたものと解される。

しかし私はこの判決こそを最も重要な物であるとして主張したい。何故ならばこの判決によって連盟文化裁は人類だけでなく宇宙全体に通用しうる正義と真理を探究する為の試みを始めたからである。これにより鉄と血の時代は終わり虚空と光が支配する宇宙の時代へと我々は至ったのだと私は考える。

何はともあれ歴史が始まったのである。

 

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