アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ   作:匿名

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第10話「コロニーって……1個じゃなかったんですか!?」

 

「名前だけでは、特定しようがありません」

 

 シャアの声は、静かだった。

 

 廊下。シャリア・ブルと並んで歩いている。

 キリコはまだ仮眠室で眠っている。この話は、あの少年の耳に入れる必要はない。

 シャリア・ブルが、足を止めた。

 

「シャア少尉。一つ、提案があります」

 

 シャアが、振り返った。

 

「あの少年を——宇宙に出してみてはどうですか」

「宇宙に?」

「私は木星圏の暗い宇宙で、初めてニュータイプの感覚を得ました」

 

 シャリア・ブルの目が、遠くなった。

 木星への長い航海。孤独な暗闇。その中で開いた、何か。

 

「地上やコロニーの中では見えない何かが……宇宙空間に出れば、あの少年の中の何かが開くかもしれない」

 

 シャアは、しばらく黙っていた。

 

「……手がかりが得られる可能性が」

「わかりません。だが、試す価値はある」

 

 シャリア・ブルが、微笑んだ。

 

「ニュータイプとは、宇宙に適応した人類のことです。ならば——宇宙に出すのが、一番自然でしょう」

 

 シャアは、小さく頷いた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「シャアさん」

「何だ」

「ニュータイプって、結局何なんですか?」

 

 俺は昨夜の残りの味噌汁を啜りながら、聞いた。

 シャリアさんが前に言っていた言葉。ニュータイプ。新人じゃないなら、何なんだ。

 

 シャアが、壁に背を預けたまま答えた。

 

「宇宙に適応した新しい人類——という概念だ」

「新しい人類?」

「人は宇宙に出ることで、互いの意思を言葉を超えて理解し合えるようになる。そういう思想だ」

 

 言葉を超えて、意思を理解する。

 

「すごい……」

「ジオン・ズム・ダイクンという人物が提唱した」

 

「ジオン・ズム・ダイクン! ジオンって——この国の名前じゃないですか!」

「……ああ。この国の名は、彼の名から取られている」

「国の名前になるくらいの人なんですか!? すごい! その人に会ってみたいです!」

 

 シャアの手が——わずかに、握られた。

 

「残念ながら、その人はもういない」

 

 声が、小さかった。

 

「亡くなったんですか……」

「……ああ」

「すみません……」

 

 また、シャアさんの地雷を踏んでしまった。

 正義の味方の宿命なのか。たくさんの人を見送ってきたんだろう。

 

 シャアが、腕を組んだ。

 

「それより、キリコ。準備をしろ」

「準備?」

「宇宙に出る」

 

 ◇ ◆ ◇

 

 小型の輸送艇だった。シャアが操縦席に座り、俺は後ろの座席に押し込まれた。

 ドレンが地上から通信で見送ってくれた。

 

「少尉、くれぐれもお気をつけて」

「ああ」

「キリコ君も無茶はしないように」

「ドレンさん、ありがとうございます! お土産買ってきます!」

「宇宙に土産物屋はないと思うが……」

 

 ゲートが開いた。

 船が動き出す。

 

 コロニーの内部を抜け、外壁のハッチを通過し——

 

 宇宙に、出た。

 

「——っ」

 

 体が浮いた。

 シートベルトがなかったら天井にぶつかっていた。

 

 窓の外を見た。

 

 黒かった。

 どこまでも黒い。星が散らばっている。太陽の光が、斜めから差し込んでいる。

 

「すごい……」

 

 これが宇宙か。

 

 振り返って、コロニーを見た。

 巨大な円筒が、宇宙に浮かんでいる。自分がさっきまでいた場所。

 

 その向こうに——

 

「え」

 

 もう一つ、あった。

 

 同じような円筒が、少し離れた場所に浮かんでいる。

 さらにその向こうにも。その向こうにも。

 

「えええええ!?」

「どうした」

「シャアさん! コロニーって……1個じゃなかったんですか!?」

 

 シャアが、ゆっくりとこちらを向いた。

 

「何を言っている」

「だって……アムロが落とすの1個だったから……てっきり、地球の隣に1個だけ浮いてるのかと……」

 

 シャアが、長い沈黙の後、前を向いた。

 

「コロニーは無数にある。サイド1からサイド7まで、各サイドに数十から百以上のコロニーが存在する」

「百以上!?」

 

 頭がくらくらした。

 

 1個じゃなかった。

 アムロが落とすのは、そのうちの1個に過ぎない。

 

 ——待て。

 

 逆に言えば。

 

「まじか……」

 

 声が震えた。

 

「コロニー流星群も……ありうるってことじゃないですか……」

「……コロニー流星群?」

 

 シャアの声が、低くなった。

 

「何十個も同時に落としたら……地球、終わりますよね?」

 

 窓の外に並ぶコロニーの群れが、急に恐ろしく見えた。

 あの一つ一つが、地球に落ちる可能性がある。アムロがその気になれば——

 

「シャアさん、アムロは……まさか、1個じゃ済まないつもりなんじゃ……」

 

 シャアの手が、操縦桿の上で白くなっていた。

 

「それが、見えたのか」

 

 シャアの声は、静かだった。

 だが、静かすぎた。

 

 俺はただ、窓の外のコロニー群を見つめていた。

 光を受けて銀色に輝く円筒の列が、どこまでも続いている。

 

 きれいだった。

 だからこそ——怖かった。

 

「……そういえばさっき、サイドなにって言ってました?」

「ああ、サイド1からサイド7まで」

 

 瞬間、思い出した。

 ゲーセンだ。山田の横で見た、あの画面。最初のステージ

 

「サイド7」

 

 シャアの手が、操縦桿の上で止まった。

 

「今、何と言った」

「サイド7……です」

 

 シャアのグラサンが、ゆっくりとこちらを向いた。

 

「見えたのか」

「わかりません。でも……もしかしたら……」

 

 もしかしたら、何だ。自分でもわからない。

 ただ、その名前に——何か引っかかるものがあった。

 

 シャアが、前を向いた。

 

「調べてみる必要がありそうだ」

 

 その声は、さっきまでとは違っていた。

 

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