アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ 作:匿名
「サイド7に行く」
シャアが言った。
俺がぼんやり思い出しただけの名前に、この人はもう動き出している。
「ドレンには船の準備をさせてある」
「俺とシャアさんとドレンさんの三人ですか」
シャアが、一瞬だけ間を置いた。
「いや。もう一人、増える」
格納庫の前に、知らない人が立っていた。
長い髪。鋭い目。軍服を着崩した女の人。
「お姉さんだ!」
声が出た。止められなかった。
だって、ここに来てからずっとおっさんしかいなかった。
シャアさん、ドレンさん、三連星、シャリアさん、ガルマさん。全員男。
食堂も廊下も訓練場も、男、男、男。
それが——今、目の前に。
「お姉さん!」
もう一回言った。
「は?」
「お姉さんですよね! 女の人ですよね! すごい! 久しぶりに女の人見ました!」
「お前……何を言ってるんだい」
睨まれている。たぶん。
「シーマ・ガラハウ少佐だ」
シャアが、後ろから言った。
「今回の任務に同行されることになった」
シーマさんが、シャアに目を向けた。
「あんた、この子に何も説明してないのかい」
「必要がなかった」
「……ふん」
シーマさんが、俺を見た。
「あたしはシーマ。よろしくね、坊や」
「坊やじゃないです! キリコです!」
「……キリコ? 男でキリコかい」
「キリコが男の名前で何が悪いんですか!」
また言ってしまった。もう何回目だ。
シーマさんが、少しだけ口の端を上げた。
「で、あたしのことは何て呼ぶんだい。少佐か。ガラハウか」
「お姉さん」
「……聞いた意味がなかったね」
◇ ◆ ◇
船に向かって歩く。
「少佐」
シャアが、前を向いたまま言った。
「サイド7に着きましたら、私はクワトロ・バジーナと名乗ります」
シーマさんの足が止まった。
「何だって?」
「今回は潜入捜査になります」
「偽名はいい。だが——クワトロ・バジーナ? どこから引っ張ってきたんだい」
「問題がありますか」
「怪しすぎるだろ」
シャアが、鞄からノースリーブのシャツとグラサンを取り出した。
「変装もします」
「……あんた、本気かい」
「本気です」
ドレンが、船の前で待っていた。
「少尉、準備は——」
シャアの格好を見て、固まった。
「ドレン。今から私は、クワトロ・バジーナだ」
「……は!」
一瞬固まったドレンさんに、俺がシーマさんを紹介する。
「ドレンさん! こちらはシーマさんです! お姉さんです!」
「シーマ少佐、お噂はかねがね」
シーマさんが軽く手を上げた。
その時、俺はひらめいた。
シャアさんが主人公。この人が女の人。つまり——
やっとだ。やっとメインヒロインが来た。
ずっとおっさんばかりだった。シャアさんが主人公なら、当然ヒロインがいるはずだ。
ドレンさんじゃない。三連星でもない。シャリアさんは師匠。ガルマさんはライバルキャラ。
お姉さんだし。強いし。ちょっと怖いし。
主人公に食ってかかる女の人って、だいたいヒロインだろう。
シーマさんが、メインヒロインだ。
「ドレンさん! ここは若いお二人に任せて、俺たちは先に船に乗りましょう!」
「……は?」
ドレンさんの腕を掴んで、タラップに引っ張った。
「ちょっ——キリコ君!?」
「大丈夫ですって! 二人きりにしてあげないと!」
「キリコ君、少尉と少佐は、そういう関係ではないと思うのだが」
「えー、でもヒロインじゃないですか」
「ヒロイン……?」
ドレンさんの声が、船の中に消えた。
◇ ◆ ◇
格納庫に、二人が残された。
「なんだい、あの子は」
シーマが、少年が消えたタラップを見つめていた。
「ああいう男です」
「それは見ればわかるよ」
シャアは答えなかった。代わりに言った。
「シーマ少佐。一つだけ確認させていただきたい」
「……」
「閣下からの任務は何でしょうか。我々の監視ですか。それとも——キリコの確保ですか」
シーマの目が、細くなった。
「……さすがだね」
「閣下が何の理由もなく人をおつけになるとは思えませんので」
シーマが、肩をすくめた。
「邪魔をするつもりはないよ。あたしは見たものを報告するだけさ」
シャアは、それ以上追及しなかった。
「……お姉さん、ねえ」
シーマが、小さく呟いた。
「行きましょう。ドレンが気の毒です」
シャアがタラップに足をかけた。
「まあ——面白い旅になりそうだね」
シーマが、不敵に笑った。