アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ   作:匿名

11 / 22
第11話「シーマさんが、メインヒロインだ」

 

「サイド7に行く」

 

 シャアが言った。

 俺がぼんやり思い出しただけの名前に、この人はもう動き出している。

 

「ドレンには船の準備をさせてある」

「俺とシャアさんとドレンさんの三人ですか」

 

 シャアが、一瞬だけ間を置いた。

 

「いや。もう一人、増える」

 

 格納庫の前に、知らない人が立っていた。

 長い髪。鋭い目。軍服を着崩した女の人。

 

「お姉さんだ!」

 

 声が出た。止められなかった。

 

 だって、ここに来てからずっとおっさんしかいなかった。

 シャアさん、ドレンさん、三連星、シャリアさん、ガルマさん。全員男。

 食堂も廊下も訓練場も、男、男、男。

 

 それが——今、目の前に。

 

「お姉さん!」

 

 もう一回言った。

 

「は?」

「お姉さんですよね! 女の人ですよね! すごい! 久しぶりに女の人見ました!」

「お前……何を言ってるんだい」

 

 睨まれている。たぶん。

 

「シーマ・ガラハウ少佐だ」

 

 シャアが、後ろから言った。

 

「今回の任務に同行されることになった」

 

 シーマさんが、シャアに目を向けた。

 

「あんた、この子に何も説明してないのかい」

「必要がなかった」

「……ふん」

 

 シーマさんが、俺を見た。

 

「あたしはシーマ。よろしくね、坊や」

「坊やじゃないです! キリコです!」

「……キリコ? 男でキリコかい」

「キリコが男の名前で何が悪いんですか!」

 

 また言ってしまった。もう何回目だ。

 シーマさんが、少しだけ口の端を上げた。

 

「で、あたしのことは何て呼ぶんだい。少佐か。ガラハウか」

「お姉さん」

「……聞いた意味がなかったね」

 

 ◇ ◆ ◇

 

 船に向かって歩く。

 

「少佐」

 

 シャアが、前を向いたまま言った。

 

「サイド7に着きましたら、私はクワトロ・バジーナと名乗ります」

 

 シーマさんの足が止まった。

 

「何だって?」

「今回は潜入捜査になります」

「偽名はいい。だが——クワトロ・バジーナ? どこから引っ張ってきたんだい」

「問題がありますか」

「怪しすぎるだろ」

 

 シャアが、鞄からノースリーブのシャツとグラサンを取り出した。

 

「変装もします」

「……あんた、本気かい」

「本気です」

 

 ドレンが、船の前で待っていた。

 

「少尉、準備は——」

 

 シャアの格好を見て、固まった。

 

「ドレン。今から私は、クワトロ・バジーナだ」

「……は!」

 

 一瞬固まったドレンさんに、俺がシーマさんを紹介する。

 

「ドレンさん! こちらはシーマさんです! お姉さんです!」

「シーマ少佐、お噂はかねがね」

 

 シーマさんが軽く手を上げた。

 

 その時、俺はひらめいた。

 シャアさんが主人公。この人が女の人。つまり——

 

 やっとだ。やっとメインヒロインが来た。

 

 ずっとおっさんばかりだった。シャアさんが主人公なら、当然ヒロインがいるはずだ。

 ドレンさんじゃない。三連星でもない。シャリアさんは師匠。ガルマさんはライバルキャラ。

 

 お姉さんだし。強いし。ちょっと怖いし。

 主人公に食ってかかる女の人って、だいたいヒロインだろう。

 

 シーマさんが、メインヒロインだ。

 

「ドレンさん! ここは若いお二人に任せて、俺たちは先に船に乗りましょう!」

「……は?」

 

 ドレンさんの腕を掴んで、タラップに引っ張った。

 

「ちょっ——キリコ君!?」

「大丈夫ですって! 二人きりにしてあげないと!」

「キリコ君、少尉と少佐は、そういう関係ではないと思うのだが」

「えー、でもヒロインじゃないですか」

「ヒロイン……?」

 

 ドレンさんの声が、船の中に消えた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 格納庫に、二人が残された。

 

「なんだい、あの子は」

 

 シーマが、少年が消えたタラップを見つめていた。

 

「ああいう男です」

「それは見ればわかるよ」

 

 シャアは答えなかった。代わりに言った。

 

「シーマ少佐。一つだけ確認させていただきたい」

「……」

「閣下からの任務は何でしょうか。我々の監視ですか。それとも——キリコの確保ですか」

 

 シーマの目が、細くなった。

 

「……さすがだね」

「閣下が何の理由もなく人をおつけになるとは思えませんので」

 

 シーマが、肩をすくめた。

 

「邪魔をするつもりはないよ。あたしは見たものを報告するだけさ」

 

 シャアは、それ以上追及しなかった。

 

「……お姉さん、ねえ」

 

 シーマが、小さく呟いた。

 

「行きましょう。ドレンが気の毒です」

 

 シャアがタラップに足をかけた。

 

「まあ——面白い旅になりそうだね」

 

 シーマが、不敵に笑った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。