アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ   作:匿名

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第12話「見つけたぞ、世界の歪みを!」

 

 サイド7は、サイド3とはまるで違った。

 

 ズム・シティの威圧的な整然さはどこにもない。代わりにあったのは、未完成の匂いだった。

 

 舗装が途切れている道。建設途中のまま放置されたビル。資材を運ぶトラックが砂埃を巻き上げて走っていく。

 

「田舎だね」

 

 シーマさんが呟いた。

 

「辺境の開発コロニーだ。サイド3とは比較にならない」

 

 シャアさん、いや、クワトロさんが答えた。

 グラサンにノースリーブ。何度見ても目立つ。

 

「あんたがクワトロなら——」

 

 シーマさんが、クワトロさんのノースリーブの腕を一瞥しながら言った。

 

「あたしはエフェメラ・ハント。第16輸送船団のハント船長……とでもしておこうかね」

「用意がいいですね」

「慣れてるのさ。こういうのは」

 

 偽名の二人。本当の身分を隠して、並んで歩いている。

 

 ——やっぱりこの二人、主人公とメインヒロインだ。

 

 ちなみに、ドレンさんは船で待機している。

 

「いいかい、坊や。はしゃぐんじゃないよ」

 

 シーマさんの目が、周囲を素早く走査していた。

 軍人の目だ。通行人の中に脅威がないか、建物の死角はどこか、退路はどこか。

 

 一方の俺は——

 

「お、アイスだ! アイス売ってる!」

 

 シーマさんが、こめかみを押さえた。

 

 三人でアイスを食いながら、建設途中のコロニーを歩く。

 

 11月なのにアイスが美味い。コロニーってすごいぜ。

 

 普通だ。

 普通の街。普通の人たち。

 

 ——こんな場所から、コロニーを落とす悪党が生まれるのか。

 

「ここの連中は、戦争なんて考えていないだろうね」

 

 シーマさんが、アイスの棒を指でくるくる回しながら言った。

 その目は遠くを見ていた。サイド7の街並みじゃなくて、もっと遠いどこかを。

 

「シーマさん?」

「なんでもないよ」

 

 アイスの棒を、ゴミ箱に投げた。きれいな放物線を描いて、入った。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 問題は、アムロの居場所だった。

 

「聞き込みをするしかありません」

 

 シャアさんが、グラサンの奥で目を光らせている。

 

「目立たないように——」

「すみませーん!」

 

 俺はもう、通りすがりの少年に声をかけていた。

 

「この辺にアムロって子いません?」

 

 シーマさんの舌打ちが聞こえた。

 

 声をかけた少年は、ひょろりとした男だった。

 俺と同じくらいの年か。だらしなく開けたシャツの襟。斜に構えた目つき。

 

「……あ?」

 

 少年が、こちらを見た。

 

「アムロ? なんだお前、アムロの知り合いか」

 

「いや、知り合いってわけじゃ——」

 

「へえ」

 

 少年の目が、俺を上から下まで舐めるように見た。

 それから、後ろのシャアさんとシーマさんに視線を移す。

 

「随分と物騒な連れだな。グラサンのおっさんと、軍人みたいなねーちゃん」

 

 ——鋭い。

 この少年、鋭いぞ。

 

「お前、ジオンの奴だろ」

 

 言葉が、まっすぐ飛んできた。

 

「はあ!? 違いますけど!」

 

 少年の目が、丸くなった。

 それから——呆れたように、笑った。

 

「おまえ、嘘が下手だな」

 

 後ろで、シーマさんが小さく「同感だね」と呟いた。

 

「お前、名前は」

「キリコです」

「キリコ? 男でキリコ?」

「キリコが男の名前で何が悪い!」

 

 何回目だよこのやりとり。

 

「俺はカイ。カイ・シデンだ」

 

 手を差し出され、握手した。

 

「で、アムロに何の用だ」

「会いたいんです」

「へえ。あいつに会いたがる奴は珍しいな。引きこもりのメカオタクに用があるとは」

 

 ——引きこもりのメカオタク。

 

 悪党の情報が、また一つ追加された。

 

「カイ!」

 

 後ろから声がした。

 振り返ると、もう一人の少年が走ってきた。黒髪の、カイよりも少し小柄な男。

 

「フラウが探してたぞ。買い物手伝えって」

「あー……やれやれ」

 

 カイが首の後ろを掻いた。

 

「ハヤト、こいつら。アムロに会いたいんだと」

 

 ハヤトと呼ばれた少年が、俺たちを見た。

 カイほど鋭くはないが、真面目そうな目だった。

 

「アムロに? 珍しいね」

 

 やっぱり珍しいらしい。

 アムロ、友達いないのか。

 

「僕はハヤト・コバヤシ。君は?」

「キリコです。よろしく!」

「キリコくん、いい名前ですね」

 

 ハヤトはいいやつ。山田に似てる。俺はメモをした。

 

「ハヤト、案内してやれよ。俺はフラウの買い物から逃げる」

「逃げるなよ。フラウ怒るぞ」

「だから逃げるんだろうが」

 

 カイがひらひらと手を振って、路地に消えていった。

 

「こっちだよ。アムロの家、近いから」

 

 ハヤトが先に立って歩き始めた。

 

 歩いていると、前から女の子が来た。

 茶色い髪を肩の下まで伸ばした、温かそうな目の女の子。

 

「あ、ハヤト。カイは?」

「逃げた」

「もう……あの人は」

 

 困ったように眉を寄せて、でも怒りきれないような顔。

 

「フラウ、この人たち、アムロに会いたいって」

 

 フラウと呼ばれた女の子が、俺たちを見た。

 

「アムロに?」

 

 三人目の「珍しい」リアクション。

 アムロ、本当に友達いないのか。

 

「アムロなら家にいると思うけど……あの子、あんまり外に出ないの」

 

 フラウの声には、心配と諦めが混じっていた。

 

「連れてってもらえますか?」

「いいけど……あなたたち、どういう関係?」

 

 フラウの目が、俺の後ろのシャアさんとシーマさんに向いた。

 鋭くはないが、まっすぐだった。嘘をつきにくい目。

 

「えっと——」

 

 言葉に詰まった。

 

「遠い親戚です」

 

 シャアさんが、横から言った。

 声のトーンが変わっている。穏やかで、当たり障りがない。

 

「お伝えしたいことがありますので」

「んー……わかったわ。ついてきて」

 

 フラウが先に歩き出した。

 ハヤトが隣に並ぶ。

 

 俺の心臓が、速くなっていた。

 

 ——ついに。

 ついに会うのだ。

 コロニーを落とす男。極悪人アムロに。

 

 見つけたぞ、世界の歪みを!

 

 ◇ ◆ ◇

 

 その家は、住宅区画の端にあった。

 

「アムロー? お客さんよー」

 

 返事がない。

 

「アムロ!」

 

 二階から、かすかに機械音が聞こえた。何かが動いている。モーター音。

 

「……上にいるわ。いつもああなの。何か作ってると、周りが聞こえなくなるの」

 

 フラウが、少し寂しそうに笑った。

 

 階段を上がった。

 狭い廊下の奥に、一つだけドアが開いている。

 

 覗き込んだ。

 

 部品が散らばっていた。

 工具、配線、基盤、ハンダごて。机の上も、床の上も、棚の上も。足の踏み場がない。

 

 その真ん中に——少年が座っていた。

 

 茶色い髪。細い体。猫背。

 手元の小さな球体に、ドライバーを突っ込んでいる。集中した目。周りが見えていない目。

 

 球体が、ぴょこんと跳ねた。

 

「ハロ! ハロ!」

 

 甲高い電子音声。丸い目が点滅している。

 

「……もうちょっと、ここの接触を——」

 

 少年が呟いた。独り言だ。

 

「アムロ」

 

 フラウが呼んだ。

 

「え?」

 

 少年が、やっと顔を上げた。

 

 俺と目が合った。

 

「……誰?」

 

 アムロが、きょとんとした顔で言った。

 

「あの……ここ、僕の部屋なんだけど」

 

 こいつが?

 この子が?

 

「キリコです」

 

 声が出た。自分でも、ずいぶん小さな声だと思った。

 

「キリコ? よろしく、アムロです」

 

 アムロが、慌てて付け足した。

 膝の上のハロが「ヘンナナマエ! ヘンナナマエ!」と繰り返した。

 

「失礼だぞ、ハロ」

 

 アムロがハロを押さえた。ハロが暴れた。部品が飛び散った。

 

「あーっ、さっき付けた端子が——」

 

 俺は、立ち尽くしていた。

 

 後ろで、シャアさんが静かに息を吐いた。

 シーマさんは、腕を組んで壁に背を預けていた。

 

 フラウが、困ったように笑った。

 

「ね? こういう子なの」

 

 ——こういう子だった。

 

 部屋にこもって、機械をいじって、ロボットと会話している、ただの少年だった。

 

 俺の中で——何かが、揺れた。

 

「アムロ君」

 

 シャアさんが、一歩前に出た。

 

「君に、話がある」

 

 アムロが、シャアさんを見上げた。

 グラサンとノースリーブの怪しい男を前に、アムロの目が警戒で細くなった。

 

「あなたは?」

「クワトロ・バジーナだ」

「父さんに用があるなら、研究所に——」

「いや。用があるのは君だ、アムロ君」

 

 シャアさんの声が、わずかに変わった。

 クワトロ・バジーナの穏やかさが剥がれて、その下のシャア・アズナブルが覗いている。

 

 部屋に、沈黙が落ちた。

 

「……クワトロさん」

 

 小声で呼んだ。

 

「この子……悪い奴には、見えないです」

 

 シャアさんのグラサンが、わずかにこちらを向いた。

 

「ああ」

 

 それだけだった。

 だが、その一言に——何か、安堵のようなものが混じっていた気がした。

 

 瞬間。

 

 ——不意に世界が、キラキラに包まれた。

 

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