アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ 作:匿名
キラキラだった。
アムロの部屋が消えていた。壁も、床も、天井も。部品もハロもフラウもハヤトもシーマさんも。
全部消えて、光の粒だけが残っていた。
そこに——三人、立っていた。
俺と、シャアさんと、アムロ。
裸で。
「なんで裸なんだよ!!」
シャアさんは微動だにしない。腕を組んでいる。裸で。堂々と。
なんだこの人の肝の据わり方。
「あの……僕も、なんで裸なのか聞きたいんだけど……」
アムロが、小さな声で言った。
両手で前を隠している。
「僕、さっきまで部屋にいたよね? ハロをいじってたよね? なんで急にこんな——」
突如、光の粒が、動き始めた。
ゆっくりと渦を巻いて、形を作っていく。
映像だ。空間そのものがスクリーンになって、何かを映し出している。
——巨大な円筒が、落ちていく。
コロニーだ。
地球に向かって、ゆっくりと。
半球状の光が大陸を呑み込んだ。脳の中に——数千万人の絶叫が直接流れ込んでくる。大気が発火し、眼球が沸騰し、肺が内側から焼かれ、都市が粘土のように溶けていく。数十億の命を一瞬でへし折る、圧倒的な質量の暴力だった。
「っ、ああああ!! やめろ、やめてくれ!!」
アムロが頭を抱えて蹲った。
だが映像は止まらなかった。
宇宙の彼方から放たれた極太の光の槍が、銀河の静寂を切り裂いてコロニーを貫いた。一瞬の閃光。悲鳴を上げる暇もなく、数百万の人間が鉄の壁ごと蒸発し、宇宙の塵に還る。内壁に張りついていた街並みが——さっきシャアさんと歩いた、あんな街が——光の中で影だけを残して消えた。
「あれは、憎しみの光……!」
シャアさんの声が掠れた。拳が白くなるほど握られていた。
——巨大な花が咲いた。
鋼鉄の花弁から放たれた無数の触手が、コロニーの街路を這い回っている。逃げ惑う人々の喉元を、回転する刃が機械的な正確さで薙いでいく。赤ん坊から老人まで、一切の区別なく首を撥ねられ、平穏だった通りが血の噴水で溢れかえった。
「やめろ……!」
地平線を埋め尽くす巨大な鉄の輪が、大地を転がっていく。逃げ惑う群衆を、一切の区別なく磨り潰していった。鉄の重みが肉を叩き潰し、骨を粉砕し、美しい街並みが赤黒い泥へと塗り替えられていく。赤ん坊を抱いた母親が振り返った瞬間、影ごと圧し潰された。
「だめだ! そんなこと……!」
真上から、光が降った。衛星軌道から撃ち下ろされた一条の光が、艦隊を丸ごと焼き尽くす。細胞の一つ一つが内側から沸騰し、数万の兵士が一瞬で炭化した。宇宙に浮かぶ黒い塵の中に、溶けた軍服の破片だけが漂っている。
——漆黒の巨人が、街を見下ろして歩いていた。一歩ごとに全方位へ熱線が放たれ、逃げ惑う人々を端から炭に変えていく。建物の陰に隠れた子供たちが、壁ごと蒸発した。巨人の足元には、もう何もなかった。焼けた地面だけが、どこまでも続いていた。
「もう、やめてくれ……!」
アムロが叫んだ。膝を抱えて、光の粒の中で震えていた。
——降り注ぐのは星ではなかった。
無数の巨大な円筒が、炎の尾を引いて流星群のごとく大地へ降り注いでいく。それを迎え撃つべく、無数の機械の人形たちが宇宙へ飛び上がる。必死に光を放ち、落下を止めようと抗う人形たち。だが努力は虚しく、すり抜けた一つ、また一つが地表を叩く。激突の衝撃波が地殻を捲り上げ、母なる地球が、生命の揺り籠が、内側から砕けていく。
「……これが、未来だというのか……!」
シャアさんの声が、戦慄で震えていた。
そして最後に——金色の蝶が、宇宙を覆った。
美しかった。
鱗粉が触れた瞬間——あらゆるものが砂に還った。建物が。道が。橋が。図書館が。誰かが積み上げてきた何万年分の文明が、音もなく崩れて風に溶けていく。死よりも残酷な、徹底的な虚無。人類が積み上げてきたすべてを「なかったこと」にする、傲慢な消去だった。
「……すべて……消えるのか……」
シャアさんの目が、底知れない絶望の色に染まっていた。
「山田が言ってました。最終的に全部月光蝶で消えるって」
「キリコ。お前は——これを見ていたのか。これを見て、なぜ耐えられる!」
「……俺は、見ているだけでした」
声が、出た。
「何もできなかった。ただ——見ていることしか、できなかったんです」
そうだ。
山田があのゲームをやって、Gクロスオーバーで爆笑している間、俺はずっと見ているだけだった。
100円も入れなかった。一緒に遊んでやればよかったな、今思えば。
「……あんなに一緒だったのに」
俺の頬を、涙が伝った。
シャアさんの目が、揺れた。
アムロが、膝を抱えていた。
光の粒の中で、裸の少年が体を丸めている。
「こんなのが……未来なの?」
声が、小さかった。
「コロニーが落ちて、街が潰されて、文明が消えて——こんなのが、これから起きることなの?」
目に涙が浮かんでいた。
「僕は——僕に何ができるんだよ。こんな……こんな大きなものを、どうしろっていうんだ」
もう、わかった。
アムロは——こんなことをする側じゃない。
こんなことを、止める側だ。
◇ ◆ ◇
「アムロ」
シャアさんが、声をかけた。
「これは、まだ起きていない」
アムロが、顔を上げた。
「起きていない……?」
「これは未来の可能性だ。確定した運命ではない」
シャアさんが、アムロの前に立った。
「私は、こんな未来にはさせない」
シャアさんの声が、静かに響いた。
「コロニーを落とすことも。文明を消すことも。許さない」
アムロの目が、シャアさんを見上げた。
涙の跡が、光の粒に照らされていた。
「あなたは……止められるの? こんな大きなものを」
「一人では無理だ」
シャアさんが、俺を見た。それから、アムロを見た。
「だが、二人ならどうだ」
アムロの目が、わずかに揺れた。
「僕なんかに……何ができるんだ」
「それはこれから見つければいい」
シャアさんの声には、迷いがなかった。
「僕は……ただの機械いじりが好きな——」
「それでいい」
シャアさんが、遮った。
「世界を変えるのは、いつもそういう人間だ」
アムロが、目を見開いた。
……シャアさん、かっこいいこと言うなあ。裸だけど。
「あの!」
俺は手を挙げた。
「俺も入れてください!」
「お前は最初から入っている」
「やった!」
「……なんなんだ、この人」
アムロが、困惑した顔で俺を見た。
だが——その目から、さっきまでの恐怖が、少しだけ薄れていた。
◇ ◆ ◇
光が、薄れ始めた。
キラキラが収束していく。渦が解けて、粒が散って、暗がりが戻ってくる。
最後に見えたのは——シャアさんとアムロの目だった。
二人とも、同じ目をしていた。
覚悟の目。
こんな未来には、させない。
「——っ!」
目を開けた。
アムロの部屋だった。
部品が散らばっている。ハロが床の上で「ハロ! ハロ!」と転がっている。
服を着ていた。
——よかった。
アムロが椅子に座っている。さっきと同じ格好。ドライバーを握ったまま。
だが、目が違った。さっきまでの内気な少年の目じゃない。
シーマさんが、壁に背を預けたまま、こちらを見ていた。
「何があったんだい、三人とも、急に黙って」
静かな声だった。
誰も答えなかった。
アムロが、立ち上がった。
「クワトロさん」
シャアさんを、まっすぐ見た。
「僕に何ができるか、教えてください」
グラサンが、キラリと光った。