アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ   作:匿名

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第13話「キラキラ」

 

 キラキラだった。

 

 アムロの部屋が消えていた。壁も、床も、天井も。部品もハロもフラウもハヤトもシーマさんも。

 全部消えて、光の粒だけが残っていた。

 

 そこに——三人、立っていた。

 

 俺と、シャアさんと、アムロ。

 

 裸で。

 

「なんで裸なんだよ!!」

 

 シャアさんは微動だにしない。腕を組んでいる。裸で。堂々と。

 なんだこの人の肝の据わり方。

 

「あの……僕も、なんで裸なのか聞きたいんだけど……」

 

 アムロが、小さな声で言った。

 両手で前を隠している。

 

「僕、さっきまで部屋にいたよね? ハロをいじってたよね? なんで急にこんな——」

 

 突如、光の粒が、動き始めた。

 

 ゆっくりと渦を巻いて、形を作っていく。

 映像だ。空間そのものがスクリーンになって、何かを映し出している。

 

 ——巨大な円筒が、落ちていく。

 

 コロニーだ。

 地球に向かって、ゆっくりと。

 

 半球状の光が大陸を呑み込んだ。脳の中に——数千万人の絶叫が直接流れ込んでくる。大気が発火し、眼球が沸騰し、肺が内側から焼かれ、都市が粘土のように溶けていく。数十億の命を一瞬でへし折る、圧倒的な質量の暴力だった。

 

「っ、ああああ!! やめろ、やめてくれ!!」

 

 アムロが頭を抱えて蹲った。

 

 だが映像は止まらなかった。

 

 宇宙の彼方から放たれた極太の光の槍が、銀河の静寂を切り裂いてコロニーを貫いた。一瞬の閃光。悲鳴を上げる暇もなく、数百万の人間が鉄の壁ごと蒸発し、宇宙の塵に還る。内壁に張りついていた街並みが——さっきシャアさんと歩いた、あんな街が——光の中で影だけを残して消えた。

 

「あれは、憎しみの光……!」

 

 シャアさんの声が掠れた。拳が白くなるほど握られていた。

 

 ——巨大な花が咲いた。

 鋼鉄の花弁から放たれた無数の触手が、コロニーの街路を這い回っている。逃げ惑う人々の喉元を、回転する刃が機械的な正確さで薙いでいく。赤ん坊から老人まで、一切の区別なく首を撥ねられ、平穏だった通りが血の噴水で溢れかえった。

 

「やめろ……!」

 

 地平線を埋め尽くす巨大な鉄の輪が、大地を転がっていく。逃げ惑う群衆を、一切の区別なく磨り潰していった。鉄の重みが肉を叩き潰し、骨を粉砕し、美しい街並みが赤黒い泥へと塗り替えられていく。赤ん坊を抱いた母親が振り返った瞬間、影ごと圧し潰された。

 

「だめだ! そんなこと……!」

 

 真上から、光が降った。衛星軌道から撃ち下ろされた一条の光が、艦隊を丸ごと焼き尽くす。細胞の一つ一つが内側から沸騰し、数万の兵士が一瞬で炭化した。宇宙に浮かぶ黒い塵の中に、溶けた軍服の破片だけが漂っている。

 

 ——漆黒の巨人が、街を見下ろして歩いていた。一歩ごとに全方位へ熱線が放たれ、逃げ惑う人々を端から炭に変えていく。建物の陰に隠れた子供たちが、壁ごと蒸発した。巨人の足元には、もう何もなかった。焼けた地面だけが、どこまでも続いていた。

 

「もう、やめてくれ……!」

 

 アムロが叫んだ。膝を抱えて、光の粒の中で震えていた。

 

 ——降り注ぐのは星ではなかった。

 無数の巨大な円筒が、炎の尾を引いて流星群のごとく大地へ降り注いでいく。それを迎え撃つべく、無数の機械の人形たちが宇宙へ飛び上がる。必死に光を放ち、落下を止めようと抗う人形たち。だが努力は虚しく、すり抜けた一つ、また一つが地表を叩く。激突の衝撃波が地殻を捲り上げ、母なる地球が、生命の揺り籠が、内側から砕けていく。

 

「……これが、未来だというのか……!」

 

 シャアさんの声が、戦慄で震えていた。

 

 そして最後に——金色の蝶が、宇宙を覆った。

 

 美しかった。

 鱗粉が触れた瞬間——あらゆるものが砂に還った。建物が。道が。橋が。図書館が。誰かが積み上げてきた何万年分の文明が、音もなく崩れて風に溶けていく。死よりも残酷な、徹底的な虚無。人類が積み上げてきたすべてを「なかったこと」にする、傲慢な消去だった。

 

「……すべて……消えるのか……」

 

 シャアさんの目が、底知れない絶望の色に染まっていた。

 

「山田が言ってました。最終的に全部月光蝶で消えるって」

 

「キリコ。お前は——これを見ていたのか。これを見て、なぜ耐えられる!」

 

「……俺は、見ているだけでした」

 

 声が、出た。

 

「何もできなかった。ただ——見ていることしか、できなかったんです」

 

 そうだ。

 山田があのゲームをやって、Gクロスオーバーで爆笑している間、俺はずっと見ているだけだった。

 100円も入れなかった。一緒に遊んでやればよかったな、今思えば。

 

「……あんなに一緒だったのに」

 

 俺の頬を、涙が伝った。

 

 シャアさんの目が、揺れた。

 

 アムロが、膝を抱えていた。

 光の粒の中で、裸の少年が体を丸めている。

 

「こんなのが……未来なの?」

 

 声が、小さかった。

 

「コロニーが落ちて、街が潰されて、文明が消えて——こんなのが、これから起きることなの?」

 

 目に涙が浮かんでいた。

 

「僕は——僕に何ができるんだよ。こんな……こんな大きなものを、どうしろっていうんだ」

 

 もう、わかった。

 アムロは——こんなことをする側じゃない。

 

 こんなことを、止める側だ。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「アムロ」

 

 シャアさんが、声をかけた。

 

「これは、まだ起きていない」

 

 アムロが、顔を上げた。

 

「起きていない……?」

「これは未来の可能性だ。確定した運命ではない」

 

 シャアさんが、アムロの前に立った。

 

「私は、こんな未来にはさせない」

 

 シャアさんの声が、静かに響いた。

 

「コロニーを落とすことも。文明を消すことも。許さない」

 

 アムロの目が、シャアさんを見上げた。

 涙の跡が、光の粒に照らされていた。

 

「あなたは……止められるの? こんな大きなものを」

 

「一人では無理だ」

 

 シャアさんが、俺を見た。それから、アムロを見た。

 

「だが、二人ならどうだ」

 

 アムロの目が、わずかに揺れた。

 

「僕なんかに……何ができるんだ」

「それはこれから見つければいい」

 

 シャアさんの声には、迷いがなかった。

 

「僕は……ただの機械いじりが好きな——」

「それでいい」

 

 シャアさんが、遮った。

 

「世界を変えるのは、いつもそういう人間だ」

 

 アムロが、目を見開いた。

 

 ……シャアさん、かっこいいこと言うなあ。裸だけど。

 

「あの!」

 

 俺は手を挙げた。

 

「俺も入れてください!」

「お前は最初から入っている」

「やった!」

 

「……なんなんだ、この人」

 

 アムロが、困惑した顔で俺を見た。

 だが——その目から、さっきまでの恐怖が、少しだけ薄れていた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 光が、薄れ始めた。

 

 キラキラが収束していく。渦が解けて、粒が散って、暗がりが戻ってくる。

 

 最後に見えたのは——シャアさんとアムロの目だった。

 二人とも、同じ目をしていた。

 覚悟の目。

 

 こんな未来には、させない。

 

「——っ!」

 

 目を開けた。

 

 アムロの部屋だった。

 部品が散らばっている。ハロが床の上で「ハロ! ハロ!」と転がっている。

 

 服を着ていた。

 

 ——よかった。

 

 アムロが椅子に座っている。さっきと同じ格好。ドライバーを握ったまま。

 だが、目が違った。さっきまでの内気な少年の目じゃない。

 

 シーマさんが、壁に背を預けたまま、こちらを見ていた。

 

「何があったんだい、三人とも、急に黙って」

 

 静かな声だった。

 

 誰も答えなかった。

 

 アムロが、立ち上がった。

 

「クワトロさん」

 

 シャアさんを、まっすぐ見た。

 

「僕に何ができるか、教えてください」

 

 グラサンが、キラリと光った。

 

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