アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ 作:匿名
キャスバルさんは宣言通り、すべてを動かし始めた。
俺とアムロは「シャア少尉」の権限で正式にパイロット候補生として軍に登録された。訓練用のザクも正規に配備されている。軍の施設で、堂々と。
隠れて動くより、制度の中で力をつける。キャスバルさんの判断だった。
テムさんだけはラルさんの屋敷の地下に匿われている。連邦の技術者が表に出たらまずい。
だがテムさんはテムさんで、地下格納庫でザクをいじれるのが嬉しそうだった。
◇ ◆ ◇
実機訓練は、シミュレーターとは全然違った。
「——っ!」
旋回しただけで、体が持っていかれる。
Gだ。重力加速度。
本物の重力が、全身に圧し掛かってくる。
シミュレーターじゃない。ゲームじゃない。アニメじゃない。
現実なのさ。本当のことさ。
左に曲がる。体が右に引っ張られる。
上に跳ぶ。内臓が下に落ちる。
止まる。首がガクンと前に折れる。
「キリコ、右だ!」
キャスバルさんの声が聞こえる。右にレバーを倒す。
体が左に——
「うぶっ」
吐きそう。
一方で——
「アムロ君、速度を落とせ!」
「大丈夫です! まだいけます!」
アムロの機体が、滑るように動いている。
Gなんか気にしてない。いや、気にしてないんじゃなくて——Gがかからない動き方をしている。旋回の角度、加減速のタイミング、全部が滑らかで、機体に負荷をかけない操縦。
15歳。初めての実機。
なのに、この動き。
「……化け物め」
キャスバルさんが呟いた。だが、その声には——嬉しさが混じっていた。
キャスバルさんも速い。シミュレーター通りの、いや、それ以上の動き。こっちはGを力で制御している。体幹と経験で耐えている軍人の操縦。
二人とも——次元が違う。
ああ、そうか。
原作主人公のキャスバルさんとラスボスのアムロだもんな。
「俺の出る幕、ないなあ……」
——いや。
ええい、俺だって元はG級ハンターだ!
Gぐらい、乗りこなしてみせる!
毎日乗った。
吐いた。吐いて、乗った。
旋回で意識が飛んだ。飛んで、起きて、また乗った。
Gに耐えるんじゃない。Gを読むんだ。
ティガレックスの突進だって、最初は避けられなかった。でも体が覚えた。何十回も食らって、体が勝手に動くようになった。
これも同じだ。
三日目。旋回で吐かなくなった。
五日目。急制動で首が折れなくなった。
「坊や。飯を食え。体が資本だ」
訓練の帰り、ハモンさんの店に寄るのが日課になっていた。
いつきてもラルさんがいる。
俺がガツガツ食べると、ハモンさんが笑った。
「この子はよく食べるわね」
「食わねば戦えん。——若いうちはそれでいい」
ラルさんがワインを飲みながら、訓練の話を聞いてくれた。
「Gで吐いたか。——私も若い頃は吐いたものだ」
「ラルさんでも!?」
「誰でも最初はそうだ。吐かなくなったら一人前だな」
ラルさんが、にやりと笑った。
◇ ◆ ◇
「キリコ君。カスタム機を作ろうと思う」
テムさんが、油まみれの手で眼鏡を押し上げた。
「カスタム?」
「三人の機体を、それぞれの戦い方に合わせて調整する。——で、聞きたい。何が欲しい」
何が欲しい。
俺は、一秒も迷わなかった。
「大剣です」
「……大剣?」
「でっかい剣。機体の全長よりでかいやつ。振り回したら周りの敵が全部吹っ飛ぶような——溜めて、振って、ドカン! みたいな」
テムさんの目が、点になった。
「……溜めて、振って、ドカン」
「はい! 溜め3が当たったときの快感って、もう——」
テムさんが、額に手を当てた。
「……モビルスーツの話をしているんだが」
「だからモビルスーツにでっかい剣を持たせるんですよ! ヒートホークじゃ短いんです。リーチが足りない。大剣なら、一振りで間合いの外から——」
「間合い……」
テムさんの目が、変わった。
テムさんが、壁に貼ってあったザクの図面を引き剥がした。裏に、何かを描き始めた。
「ヒート系の刀身を大型化する。全長——機体高の1.5倍。いや、2倍か。重心は柄寄りに。振り抜きの慣性モーメントを——」
手が止まらない。数式。図面。数式。矢印。
「刀身の加熱方式はヒートホークの拡大では駄目だ。表面積が違いすぎる。内部に加熱炉を仕込んで、刀身全体を均一に——いや、先端部だけ高温化して切断効率を……」
テムさんが振り返った。眼鏡の奥の目が、少年みたいに輝いていた。
「これだ。対艦用の超大型ヒートソードだ」
隣で整備をしていたクランプさんが、図面を覗き込んだ。
「……博士、これ本当に作るんですか」
「材料を手配してくれ」
——俺はただ、モンハンの大剣が欲しかっただけなんだが。
テムさんの手は、もう止まらなかった。
◇ ◆ ◇
一週間。キャスバルさんの背中が、ちょっとだけ近づいた。
十日目。アムロの機体を、一瞬だけ視界に捉えた。
二人に追いつけるようになった頃には——もう12月の半ばだった。
そんな時、あの三人がきた。