アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ   作:匿名

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第16話「アニメじゃない」

 

 キャスバルさんは宣言通り、すべてを動かし始めた。

 

 俺とアムロは「シャア少尉」の権限で正式にパイロット候補生として軍に登録された。訓練用のザクも正規に配備されている。軍の施設で、堂々と。

 隠れて動くより、制度の中で力をつける。キャスバルさんの判断だった。

 

 テムさんだけはラルさんの屋敷の地下に匿われている。連邦の技術者が表に出たらまずい。

 だがテムさんはテムさんで、地下格納庫でザクをいじれるのが嬉しそうだった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 実機訓練は、シミュレーターとは全然違った。

 

「——っ!」

 

 旋回しただけで、体が持っていかれる。

 Gだ。重力加速度。

 本物の重力が、全身に圧し掛かってくる。

 

 シミュレーターじゃない。ゲームじゃない。アニメじゃない。

 現実なのさ。本当のことさ。

 

 左に曲がる。体が右に引っ張られる。

 上に跳ぶ。内臓が下に落ちる。

 止まる。首がガクンと前に折れる。

 

「キリコ、右だ!」

 

 キャスバルさんの声が聞こえる。右にレバーを倒す。

 体が左に——

 

「うぶっ」

 

 吐きそう。

 

 一方で——

 

「アムロ君、速度を落とせ!」

「大丈夫です! まだいけます!」

 

 アムロの機体が、滑るように動いている。

 Gなんか気にしてない。いや、気にしてないんじゃなくて——Gがかからない動き方をしている。旋回の角度、加減速のタイミング、全部が滑らかで、機体に負荷をかけない操縦。

 

 15歳。初めての実機。

 なのに、この動き。

 

「……化け物め」

 

 キャスバルさんが呟いた。だが、その声には——嬉しさが混じっていた。

 

 キャスバルさんも速い。シミュレーター通りの、いや、それ以上の動き。こっちはGを力で制御している。体幹と経験で耐えている軍人の操縦。

 

 二人とも——次元が違う。

 

 ああ、そうか。

 原作主人公のキャスバルさんとラスボスのアムロだもんな。

 

「俺の出る幕、ないなあ……」

 

 ——いや。

 

 ええい、俺だって元はG級ハンターだ!

 Gぐらい、乗りこなしてみせる!

 

 毎日乗った。

 

 吐いた。吐いて、乗った。

 旋回で意識が飛んだ。飛んで、起きて、また乗った。

 

 Gに耐えるんじゃない。Gを読むんだ。

 ティガレックスの突進だって、最初は避けられなかった。でも体が覚えた。何十回も食らって、体が勝手に動くようになった。

 

 これも同じだ。

 

 三日目。旋回で吐かなくなった。

 五日目。急制動で首が折れなくなった。

 

「坊や。飯を食え。体が資本だ」

 

 訓練の帰り、ハモンさんの店に寄るのが日課になっていた。

 いつきてもラルさんがいる。

 俺がガツガツ食べると、ハモンさんが笑った。

 

「この子はよく食べるわね」

「食わねば戦えん。——若いうちはそれでいい」

 

 ラルさんがワインを飲みながら、訓練の話を聞いてくれた。

 

「Gで吐いたか。——私も若い頃は吐いたものだ」

「ラルさんでも!?」

「誰でも最初はそうだ。吐かなくなったら一人前だな」

 

 ラルさんが、にやりと笑った。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「キリコ君。カスタム機を作ろうと思う」

 

 テムさんが、油まみれの手で眼鏡を押し上げた。

 

「カスタム?」

「三人の機体を、それぞれの戦い方に合わせて調整する。——で、聞きたい。何が欲しい」

 

 何が欲しい。

 

 俺は、一秒も迷わなかった。

 

「大剣です」

「……大剣?」

「でっかい剣。機体の全長よりでかいやつ。振り回したら周りの敵が全部吹っ飛ぶような——溜めて、振って、ドカン! みたいな」

 

 テムさんの目が、点になった。

 

「……溜めて、振って、ドカン」

「はい! 溜め3が当たったときの快感って、もう——」

 

 テムさんが、額に手を当てた。

 

「……モビルスーツの話をしているんだが」

「だからモビルスーツにでっかい剣を持たせるんですよ! ヒートホークじゃ短いんです。リーチが足りない。大剣なら、一振りで間合いの外から——」

「間合い……」

 

 テムさんの目が、変わった。

 テムさんが、壁に貼ってあったザクの図面を引き剥がした。裏に、何かを描き始めた。

 

「ヒート系の刀身を大型化する。全長——機体高の1.5倍。いや、2倍か。重心は柄寄りに。振り抜きの慣性モーメントを——」

 

 手が止まらない。数式。図面。数式。矢印。

 

「刀身の加熱方式はヒートホークの拡大では駄目だ。表面積が違いすぎる。内部に加熱炉を仕込んで、刀身全体を均一に——いや、先端部だけ高温化して切断効率を……」

 

 テムさんが振り返った。眼鏡の奥の目が、少年みたいに輝いていた。

 

「これだ。対艦用の超大型ヒートソードだ」

 

 隣で整備をしていたクランプさんが、図面を覗き込んだ。

 

「……博士、これ本当に作るんですか」

「材料を手配してくれ」

 

 ——俺はただ、モンハンの大剣が欲しかっただけなんだが。

 

 テムさんの手は、もう止まらなかった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 一週間。キャスバルさんの背中が、ちょっとだけ近づいた。

 

 十日目。アムロの機体を、一瞬だけ視界に捉えた。

 

 二人に追いつけるようになった頃には——もう12月の半ばだった。

 そんな時、あの三人がきた。

 

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