アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ 作:匿名
人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀が過ぎていた。
地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。
宇宙世紀0079、地球から最も遠い宇宙都市サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んで宣戦を布告。
その
事実上の奇襲である。
◇ ◆ ◇
『シーマ艦隊! 何をやっている! ガスはどうした!!』
「申し訳ありません、指揮官殿! 海兵隊は何者かの妨害により——ああーっ! 大変です! 動けません!」
答えるシーマの声は、緊迫感に欠けていた。
「ああっ! 爆発がーっ!」
咄嗟に、副官のコッセルが録音していた爆発音を流した。
どかーん!
シーマが親指を立てた。コッセルが無表情のまま頷いた。
「ミノフスキー粒子戦闘濃度! 申し訳ございません、通信途切れます!」
『まっ、まて!』
ブリッジが、静かになった。
「……上出来だよ」
シーマが、椅子の背に身を預けた。
あとは、坊やたちの仕事さ。
◇ ◆ ◇
サイド2、
コロニーに向かう公国軍の艦隊が見たのは——巨大な、サンタクロースだった。
真っ赤な服。白い髭。丸い腹。
艦隊の進路上に、それは浮かんでいた。直径30メートルはあろうかという、巨大なバルーンが四つ。
「……なんだ、あれは」
次の瞬間、サンタの腹が光った。
巨大な映像が、投影された。
金髪の男だった。
青い目。整った顔立ち。紺のスーツ。
——だが、サンタの腹に映っているせいで、スーツは赤く染まっていた。
『ジオンの兵士諸君』
声が、全周波数で響いた。
『私の声が聞こえるな』
艦橋のクルーが、動きを止めた。
『諸君らはジオンの名のもとに戦っている。だが——問おう。ジオンとは何だ』
声が反響する。
『ジオン・ズム・ダイクン。人の革新を唱え、宇宙に住む者たちの自立を説いた男は、私の——父だ』
全艦が、制止した。
『私の名は、キャスバル・レム・ダイクン』
ざわめきが、広がった。
ダイクン。あの、ダイクン。
『父は、人の可能性を信じた。宇宙に出た人類が、地球の重力に縛られず、新たな時代を切り拓くことを夢見た』
キャスバルの目が、まっすぐ前を見ていた。
『だが、今——ザビ家は、その名を騙り、何をしようとしている』
声が、低くなった。
『同胞たるコロニーに毒ガスを撒き、住民を殺し、その屍を地球に叩きつける。これがジオンか。これが、父の夢見た人の革新か』
宙域が、静まり返った。
『否! 断じて違う!』
キャスバルの声が、響いた。
『私は父の意志を継ぐ者として、ここに宣言する』
映像の中で、キャスバルが右手を上げた。
『我々は、ロンド・ベル。ザビ家の暴走を止め、コロニーの民を守るために立ち上がった者たちだ』
紺のスーツが、真っ赤に映る。
『兵士諸君。武器を下せ。ここにいる人々は、諸君らと同じ宇宙の民だ。守るべき同胞だ。殺すべき敵ではない』
沈黙が続いた。
『ザビ家に従うか、ジオンの理想に従うか——選ぶのは、諸君自身だ』
全軍が、サンタを見ている。
テムさんが「これしか手に入らなかった」と用意した物。
キャスバルさんが「これでは道化だよ」とぼやいていた物。
瞬間、通信が割り込んだ。
『狼狽えるな! ジオンの兵士たちよ!』
全周波数。全チャンネルに、一斉に。
『キャスバルを名乗る逆賊に惑わされるな!』
ガルマの声だった。
ザビ家の末弟。ガルマ・ザビ。その声は若く、真っ直ぐで、怒りに震えていた。
『ガルマ……なぜここに……』
キャスバルの声は静かだった。
『そうか。前線に出ると言って、それで、開戦を1日遅らせたのか』
『……ああ』
ガルマの声が、変わった。
『友のためをと思い、ジオンのためをと思い、兄上を説得した。なのに——』
声が、震えていた。怒りだけではない。もっと深いものが混じっている。
『謀ったな、シャア!』
最後に、その名を呼んだ。
偽りの名。だが二人の間では、本当の名前よりも重い名前。
次の瞬間——旗艦の格納庫から、一機のザクが射出された。
濃い緑の胴体。橙の手足。装飾の施された大型ヒートホーク。
速い。
ザクがヒートホークを抜いた。
一閃。
サンタが、縦に割れた。
真っ赤なバルーンが左右に裂け、白い髭が宇宙空間にゆっくりと漂っていく。
残骸が、星の光を浴びて散った。
投影されたキャスバルが、宇宙に溶ける。
代わりに、ガルマのザクがその真ん中に浮いていた。