アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ 作:匿名
翌朝。
仮眠室のドアを叩く音で目が覚めた。
シャアかと思って開けると、見知らぬおっさんだった。
「シャア少尉の客人だな。ドレンだ」
声は低く、落ち着いている。軍人というより、現場監督のような雰囲気だった。
「朝食を持ってきた。少尉の命令でな」
受け取った。銀色のパウチが3つと、歯磨き粉みたいなチューブ。
パウチを開けて口に入れた。
——クソまずい。
カロリーメイトを水で溶いて煮詰めたらこうなるのか?
チューブの方は塩味のオレンジジュースだった。宇宙世紀の人間の味覚が心配になる。
顔に出ていたらしい。ドレンが言った。
「軍の食事ですまないな。今度はもう少しましなものを用意する」
——ドレンさん。
いい人じゃないか。
変なヘルメットのおっさんとか思ってすまなかった。
朝飯を持ってきてくれて、味がまずいのを気にしてくれて、今度はもっといいものをと言ってくれる。
そりゃそうか。正義の味方シャアさんの仲間なんだ。いいやつに決まっている。
黙々と食べていると、廊下からシャアの声が聞こえた。
「ドレン、どうだ」
「アムロという名の人間ですが、連邦側で該当する人物はまだ特定できておりません。アムロだけでは絞り込めませんな」
——そうだ。昨夜シャアが通信で調査を依頼していた。
俺のせいだ。俺がちゃんとした情報を出せないから、シャアさんが苦労している。
コロニー落としを阻止しようとしてくれている人に、俺は何の力にもなれていない。
歯がゆかった。トキで見ただけの、あのぼんやりした画面の記憶。もっとちゃんと見ておけばよかった。山田の話をもっと聞いておけばよかった。
ドレンがドアの前に戻ってきた。
「キリコとか言ったな」
「はい」
「少尉がお呼びだ」
パウチの残りを飲み干して——噛まなくていいのは楽だが、食事をした気がまるでしない——事務室に向かった。
せめてフルネームくらいは思い出したい。シャアさんのために。
◇ ◆ ◇
シャアは昨日と同じデスクに座っていた。
コーヒーを飲んでいる。昨日と同じマグ。この人はコーヒー好きなんだろうか。
ドレンが壁際に控えている。変なヘルメットのまま直立不動だ。
「キリコ。アムロのフルネームはわからないか」
来た。
そう言われると——ゲーセンで山田が何か言っていた気がする。アムロ何とか。
「アムロ……奈美恵……?」
違う。ナミエはあれだ。歌手の方だ。
「ほう……ナミエ」
シャアがメモを取った。
壁際のドレンが、ちらりとこちらを見た。
その目が言っていた。——少尉、本気ですか。
「いや、待ってください。トオルだったかも……」
シャアのペンが止まった。
「……どっちだ」
「すみません、どっちもなんか違う気が……あと、シンジ……いや、アヤナミか……」
なんか似たような名前だったような気がするのだが、思い出せない。
なぜか、頭の中でアヤナミとアムロが絡まって、ほどけない。
ドレンの視線が、俺とシャアの間を往復していた。
何も言わない。言わないが、ヘルメットの奥の目が雄弁だった。
——この男の情報で、本当に動くんですか。
「すみません……わかりません」
情けなかった。
この人は、コロニーを落とそうとしている男を止めるために動いてくれている。正義の味方だ。
なのに俺は、そいつの名前すらまともに思い出せない。
シャアさん、すまない。俺はあまりにも無力だ。
シャアが、静かに息を吐いた。
ドレンが、静かに目を伏せた。
「……もういい」
シャアが立ち上がった。
「ドレン」
「はっ」
「アムロ・ナミエ、アムロ・トオル、アムロ・シンジ、アムロ・アヤナミ——全員調べろ」
ドレンの口が、一瞬だけ開きかけた。
だが何も言わず、背筋を正した。
「はっ!」
「——それと、ドレン」
シャアの声が、一段低くなった。
「この件は極秘だ。キシリア閣下の耳には入れるな」
ドレンの背筋が、さらに伸びた。
「……はっ」