アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ   作:匿名

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第3話「アムロの下の名前……ナミエ?」

 

 翌朝。

 

 仮眠室のドアを叩く音で目が覚めた。

 シャアかと思って開けると、見知らぬおっさんだった。

 

「シャア少尉の客人だな。ドレンだ」

 

 声は低く、落ち着いている。軍人というより、現場監督のような雰囲気だった。

 

「朝食を持ってきた。少尉の命令でな」

 

 受け取った。銀色のパウチが3つと、歯磨き粉みたいなチューブ。

 パウチを開けて口に入れた。

 

 ——クソまずい。

 カロリーメイトを水で溶いて煮詰めたらこうなるのか?

 チューブの方は塩味のオレンジジュースだった。宇宙世紀の人間の味覚が心配になる。

 

 顔に出ていたらしい。ドレンが言った。

 

「軍の食事ですまないな。今度はもう少しましなものを用意する」

 

 ——ドレンさん。

 

 いい人じゃないか。

 変なヘルメットのおっさんとか思ってすまなかった。

 

 朝飯を持ってきてくれて、味がまずいのを気にしてくれて、今度はもっといいものをと言ってくれる。

 そりゃそうか。正義の味方シャアさんの仲間なんだ。いいやつに決まっている。

 

 黙々と食べていると、廊下からシャアの声が聞こえた。

 

「ドレン、どうだ」

「アムロという名の人間ですが、連邦側で該当する人物はまだ特定できておりません。アムロだけでは絞り込めませんな」

 

 ——そうだ。昨夜シャアが通信で調査を依頼していた。

 俺のせいだ。俺がちゃんとした情報を出せないから、シャアさんが苦労している。

 

 コロニー落としを阻止しようとしてくれている人に、俺は何の力にもなれていない。

 歯がゆかった。トキで見ただけの、あのぼんやりした画面の記憶。もっとちゃんと見ておけばよかった。山田の話をもっと聞いておけばよかった。

 

 ドレンがドアの前に戻ってきた。

 

「キリコとか言ったな」

「はい」

「少尉がお呼びだ」

 

 パウチの残りを飲み干して——噛まなくていいのは楽だが、食事をした気がまるでしない——事務室に向かった。

 せめてフルネームくらいは思い出したい。シャアさんのために。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 シャアは昨日と同じデスクに座っていた。

 コーヒーを飲んでいる。昨日と同じマグ。この人はコーヒー好きなんだろうか。

 

 ドレンが壁際に控えている。変なヘルメットのまま直立不動だ。

 

「キリコ。アムロのフルネームはわからないか」

 

 来た。

 そう言われると——ゲーセンで山田が何か言っていた気がする。アムロ何とか。

 

「アムロ……奈美恵……?」

 

 違う。ナミエはあれだ。歌手の方だ。

 

「ほう……ナミエ」

 

 シャアがメモを取った。

 壁際のドレンが、ちらりとこちらを見た。

 その目が言っていた。——少尉、本気ですか。

 

「いや、待ってください。トオルだったかも……」

 

 シャアのペンが止まった。

 

「……どっちだ」

「すみません、どっちもなんか違う気が……あと、シンジ……いや、アヤナミか……」

 

 なんか似たような名前だったような気がするのだが、思い出せない。

 なぜか、頭の中でアヤナミとアムロが絡まって、ほどけない。

 

 ドレンの視線が、俺とシャアの間を往復していた。

 何も言わない。言わないが、ヘルメットの奥の目が雄弁だった。

 ——この男の情報で、本当に動くんですか。

 

「すみません……わかりません」

 

 情けなかった。

 この人は、コロニーを落とそうとしている男を止めるために動いてくれている。正義の味方だ。

 なのに俺は、そいつの名前すらまともに思い出せない。

 シャアさん、すまない。俺はあまりにも無力だ。

 

 シャアが、静かに息を吐いた。

 ドレンが、静かに目を伏せた。

 

「……もういい」

 

 シャアが立ち上がった。

 

「ドレン」

「はっ」

「アムロ・ナミエ、アムロ・トオル、アムロ・シンジ、アムロ・アヤナミ——全員調べろ」

 

 ドレンの口が、一瞬だけ開きかけた。

 だが何も言わず、背筋を正した。

 

「はっ!」

 

「——それと、ドレン」

 

 シャアの声が、一段低くなった。

 

「この件は極秘だ。キシリア閣下の耳には入れるな」

 

 ドレンの背筋が、さらに伸びた。

 

「……はっ」

 

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