アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ   作:匿名

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第4話「プレイ時間999時間は伊達じゃない」

 

 ドレンさんのおかげか、食事はずいぶんマシになった。

 パウチの中身が「何味かわからないペースト」から「チキンっぽい味のペースト」に進化した。

 ドレンさん、ありがとう。正義の味方の仲間は約束を守る男だった。

 

 だが——暇だ。

 

 軍の施設からは出られない。シャアさんに言われた。「君の安全のためだ」と。

 そう言われたら従うしかない。だが、やることがない。

 

 ゲームがない。

 モンハンがやりたい。

 

 せっかく宇宙にいるのに、これじゃあまるで引きこもりだ。仮眠室で天井を見つめ、飯を食い、また天井を見つめる。

 シャアさんには時々呼ばれて色々聞かれるが、わからないものはわからない。トキで見た画面の記憶は、思い出そうとするほどぼやけていく。

 

 シャアさんに申し訳ない気持ちだけが積もっていった。

 

 そう思っていた、ある日の朝。

 

「キリコ。今日は、一つやってもらいたいことがある」

 

 シャアさんが、いつもと違う場所に俺を連れていった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 薄暗い部屋だった。

 中央に、椅子とモニターとレバーがある。

 椅子の周囲を球形のフレームが囲んでいて、正面のモニターには何かの操縦画面が映っている。

 

「キリコ、君の力を見たい」

「……力、ですか」

「ああ。座れ」

 

 言われるままに椅子に座った。

 操縦桿を握る。足元にペダルがある。

 

 モニターに「SIMULATION START」と表示された。

 仮想空間に、緑色のロボットが現れる。

 

「操縦してみろ」

 

 シャアの声が、外から聞こえた。

 

 操縦桿を倒す。機体が動く。

 

 ——遅い。

 入力してから動くまでに、わずかにラグがある。

 

 だが、大剣使いだった俺にこの程度のディレイは誤差だ。

 抜刀から振り下ろしまで何秒待たされたと思っている。

 MHP2Gで999時間鍛えた廃人の勘が、ディレイの幅を一瞬で掴んだ。

 

 体が勝手に動いた。

 空間把握、操作、タイミング。これならいける。

 

 画面に次々と標的が現れた。赤い菱形のマーカーが点滅する。

 照準を合わせてトリガー。当たる。次。横移動して回避。振り向きざまにトリガー。当たる。

 

 敵機が突っ込んできた。画面が赤く点滅する——警告だ。

 瞬間、機体が勝手に横に跳んでいた。ティガレックスの咆哮をフレーム回避で抜けてきた体が、被弾タイミングを無意識に読んだ。

 ブーストで加速。急制動。背後に回り込んで、トリガー。

 

 緑のロボットの斧が敵を切り裂く。

 ピンクの爆発が、画面を彩った。

 

 楽しい。

 

 ゲームだ。これはゲームだ。

 この快感を、俺は知っている。

 

 ——SIMULATION COMPLETE。

 ——ALL TARGETS DESTROYED。

 ——SCORE: 表示が点滅している。

 

 シミュレーターの外に出ると、シャアが立っていた。

 その後ろで兵士たちが、ざわめいていた。

 こちらを見ている。何か小声で話している。

 

 俺は気にしなかった。

 シャアさんみたいな本物の軍人なら、こんなの当たり前にできるだろう。

 

「シャアさん、楽しかったです!」

 

 素直にそう言った。

 久しぶりに指を動かせて、気分がよかった。暇すぎる日々の中で、これは最高のご褒美だった。

 

「また明日もやっていいですか!」

 

 シャアは、静かに笑っていた。

 いつもの底の知れない目ではなかった。

 何か——満足げな、確信に近い微笑み。

 

「やはり……本物か。さすがだな、キリコ」

 

 シャアが、シミュレーターの管理端末に歩み寄った。

 

「このデータは消しておく」

 

 ——まあ、そうだよな。

 

 俺みたいな一般人のデータなんて、残しておいても仕方ない。

 でも、楽しかった。それだけで十分だ。

 

「シャアさん、楽しかったんですけど、このゲームちょっと反応遅くないですか」

 

 シャアの目が、一瞬だけ鋭くなった。

 ——あれ、何かまずいこと言ったか。

 

「……今度、君専用のものを用意しよう」

「本当ですか!? シャアさん、ありがとう!!」

 

 俺はご機嫌で仮眠室に戻った。

 今日はよく眠れそうだ。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 翌日。

 

 いつものパウチを食べていると、廊下が騒がしくなった。

 複数の足音。重い。軍靴の音だ。

 それと——怒号。

 

「——おい! 昨日のシミュレーションのログは誰が消した!」

 

 低い声。ドスの利いた声。

 

「記録更新があったと聞いたぞ! 俺たちの記録を抜いた奴がいるってのは本当か!」

 

 別の声。もっと太い。

 

「ガイア、落ち着け」

「うるせえマッシュ! オルテガ、聞いたんだろ! 誰だ、名前は!」

「それがわからねえから聞いてるんだろうが!」

 

 3人分の怒声と共に、ドアが開かれた。

 

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