アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ 作:匿名
ドレンさんのおかげか、食事はずいぶんマシになった。
パウチの中身が「何味かわからないペースト」から「チキンっぽい味のペースト」に進化した。
ドレンさん、ありがとう。正義の味方の仲間は約束を守る男だった。
だが——暇だ。
軍の施設からは出られない。シャアさんに言われた。「君の安全のためだ」と。
そう言われたら従うしかない。だが、やることがない。
ゲームがない。
モンハンがやりたい。
せっかく宇宙にいるのに、これじゃあまるで引きこもりだ。仮眠室で天井を見つめ、飯を食い、また天井を見つめる。
シャアさんには時々呼ばれて色々聞かれるが、わからないものはわからない。トキで見た画面の記憶は、思い出そうとするほどぼやけていく。
シャアさんに申し訳ない気持ちだけが積もっていった。
そう思っていた、ある日の朝。
「キリコ。今日は、一つやってもらいたいことがある」
シャアさんが、いつもと違う場所に俺を連れていった。
◇ ◆ ◇
薄暗い部屋だった。
中央に、椅子とモニターとレバーがある。
椅子の周囲を球形のフレームが囲んでいて、正面のモニターには何かの操縦画面が映っている。
「キリコ、君の力を見たい」
「……力、ですか」
「ああ。座れ」
言われるままに椅子に座った。
操縦桿を握る。足元にペダルがある。
モニターに「SIMULATION START」と表示された。
仮想空間に、緑色のロボットが現れる。
「操縦してみろ」
シャアの声が、外から聞こえた。
操縦桿を倒す。機体が動く。
——遅い。
入力してから動くまでに、わずかにラグがある。
だが、大剣使いだった俺にこの程度のディレイは誤差だ。
抜刀から振り下ろしまで何秒待たされたと思っている。
MHP2Gで999時間鍛えた廃人の勘が、ディレイの幅を一瞬で掴んだ。
体が勝手に動いた。
空間把握、操作、タイミング。これならいける。
画面に次々と標的が現れた。赤い菱形のマーカーが点滅する。
照準を合わせてトリガー。当たる。次。横移動して回避。振り向きざまにトリガー。当たる。
敵機が突っ込んできた。画面が赤く点滅する——警告だ。
瞬間、機体が勝手に横に跳んでいた。ティガレックスの咆哮をフレーム回避で抜けてきた体が、被弾タイミングを無意識に読んだ。
ブーストで加速。急制動。背後に回り込んで、トリガー。
緑のロボットの斧が敵を切り裂く。
ピンクの爆発が、画面を彩った。
楽しい。
ゲームだ。これはゲームだ。
この快感を、俺は知っている。
——SIMULATION COMPLETE。
——ALL TARGETS DESTROYED。
——SCORE: 表示が点滅している。
シミュレーターの外に出ると、シャアが立っていた。
その後ろで兵士たちが、ざわめいていた。
こちらを見ている。何か小声で話している。
俺は気にしなかった。
シャアさんみたいな本物の軍人なら、こんなの当たり前にできるだろう。
「シャアさん、楽しかったです!」
素直にそう言った。
久しぶりに指を動かせて、気分がよかった。暇すぎる日々の中で、これは最高のご褒美だった。
「また明日もやっていいですか!」
シャアは、静かに笑っていた。
いつもの底の知れない目ではなかった。
何か——満足げな、確信に近い微笑み。
「やはり……本物か。さすがだな、キリコ」
シャアが、シミュレーターの管理端末に歩み寄った。
「このデータは消しておく」
——まあ、そうだよな。
俺みたいな一般人のデータなんて、残しておいても仕方ない。
でも、楽しかった。それだけで十分だ。
「シャアさん、楽しかったんですけど、このゲームちょっと反応遅くないですか」
シャアの目が、一瞬だけ鋭くなった。
——あれ、何かまずいこと言ったか。
「……今度、君専用のものを用意しよう」
「本当ですか!? シャアさん、ありがとう!!」
俺はご機嫌で仮眠室に戻った。
今日はよく眠れそうだ。
◇ ◆ ◇
翌日。
いつものパウチを食べていると、廊下が騒がしくなった。
複数の足音。重い。軍靴の音だ。
それと——怒号。
「——おい! 昨日のシミュレーションのログは誰が消した!」
低い声。ドスの利いた声。
「記録更新があったと聞いたぞ! 俺たちの記録を抜いた奴がいるってのは本当か!」
別の声。もっと太い。
「ガイア、落ち着け」
「うるせえマッシュ! オルテガ、聞いたんだろ! 誰だ、名前は!」
「それがわからねえから聞いてるんだろうが!」
3人分の怒声と共に、ドアが開かれた。