アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ 作:匿名
シミュレーター室に、昨日と同じ球形のコクピットが2基並んでいた。
向かい側にも2基。ガイアとオルテガがそれぞれ乗り込んでいる。
マッシュは壁際に立ち、腕を組んで観戦の構えだった。
「キリコ」
シャアが、隣のコクピットから声をかけた。
「はい」
「下がれ、私が全て倒す」
「いえ! 俺も手伝います!」
「……援護だけだぞ」
モニターに「SIMULATION START」と表示された。
仮想空間が展開される。昨日と同じ緑のロボット——ザクと呼ぶらしい——が2機ずつ向かい合っている。
——2対2のチーム戦。
これ、知ってるぞ。
山田がゲーセンでやってたやつだ。
開始と同時に、シャアの機体が飛び出した。
——速い。
昨日、俺がやったときとは次元が違う。
機体が滑るように動く。ブーストを吹かして急加速、急制動、横ステップ。
入力遅延なんて存在しないかのような動き。
ガイアの機体がマシンガンを構えた。弾が飛ぶ。シャアはそれを最小限の動きで避けながら、一直線にガイアへ詰めていく。
「避けるだけか、シャア!」
「見えているものを食らうほど鈍くはない」
「すごい……」
思わず声が漏れた。
これがシャアさんの実力か。正義の味方は伊達じゃない。
——だが、見とれている場合じゃない。
シャアさんが前衛なら、俺は後ろからの援護だ。
大剣使いだが、サポガンの動きならわかっている。味方が殴ってる横から支援する。
オルテガの機体が、こちらに向かってきていた。
巨漢が乗っているだけあって、動きが荒い。突進力はあるが、軌道が直線的だ。
ティガレックスの突進よりは読みやすい。
ブーストで横に跳ぶ。オルテガが振り向く前にマシンガンを撃つ。当たる。オルテガの機体がよろめく。
追い打ち。もう一発。旋回して距離を取る。
オルテガが怒鳴っているのが聞こえた。
「止まれ! 当たらんだろうが!」
「止まったら死にます!」
前方では、シャアがガイアと斬り合っていた。
ヒートホークの交差。火花が散る。一瞬の鍔迫り合い——シャアが押し勝ち、ガイアの機体を蹴り飛ばした。
「キリコ!」
「はい!」
すかさず俺がマシンガンで追撃する。
赤いダメージ表示がガイアの機体に重なった。
——連携できてる。
シャアさんが前で敵を捌いて、俺が後ろから撃つ。
「右だ!」
シャアの声。振り向くと、オルテガが背後に回り込んでいた。
ブーストで前に飛んで回避。振り向きざまにトリガー。当たる。
「当たった!」
だが、致命傷ではない。
「オルテガ! 後ろにつけろ!」
「おう!」
ガイアとオルテガの機体が、縦に並んだ。
二機が同時に、こちらへ突っ込んでくる。
速い。だが、シャアさんが隣にいる。
シャアの機体がガイアを正面で受け止めた。赤熱した斧がぶつかり合う。
瞬間、ガイアの裏から飛び出したオルテガに俺がマシンガンを叩き込んだ。
「ばかなっ!?」
「オルテガ!」
それを見て動きの止まったガイアに、シャアが一撃。
二機が、同時に崩れ落ちた。
——SIMULATION COMPLETE。
——WINNER: TEAM CHAR。
「よし!」
コクピットの中で、拳を突き上げた。
◇ ◆ ◇
シミュレーターから出ると、ガイアが壁を殴っていた。
「くそっ」
オルテガが天井を仰いでいた。マッシュだけが、静かに立っている。
シャアが、ガイアの前に立った。
「約束だ。この件は極秘にしてもらう」
「……わかった」
ガイアの声は低かった。悔しさを噛み殺している。
「だが、シャア。覚えておけ。次は——」
「次はない。これで終わりだ」
シャアの声は静かだった。だが、有無を言わせない響きがあった。
ガイアが黙った。
オルテガが拳を握りしめた。
マッシュだけが、じっと俺を見ていた。
この人たち、本気で悔しいんだ。
3人で力を合わせて戦ってきた人たちだ。それを——俺みたいな一般人に負けて。
なんて言えばいいんだろう。
「あの……ガイアさん」
ガイアが、こちらを睨んだ。
「……何だ」
「強かったです。マジで」
本心だった。
最後の二人同時突撃なんて、シャアさんがいなかったら捌けなかった。
「正直、最後の突撃——あれを3人でやられてたら、負けてました」
ガイアの目が、わずかに変わった。
マッシュが、壁から体を起こした。
「もっと間隔を詰めて、一つに重なって、そうしたら……相手からは後ろの動きが見えない」
ガイアが、オルテガを見た。
オルテガが、マッシュを見た。
マッシュが——初めて、口を開いた。
「……面白い」
ガイアの顔に、笑みが浮かんだ。
さっきまでの悔しさとは違う、獰猛な笑み。
「ガイア」
オルテガが、拳を打ち鳴らした。
「やってみるか」
「ああ」
ガイアが、俺に手を差し出した。
「お前……名前は」
「キリコです」
「キリコ。覚えたぞ」
握手。ガイアの手は大きくて、骨が太かった。
「次に会ったとき——お前の言った戦法で、ぶっ飛ばしてやる」
ガイアが笑った。オルテガも笑った。マッシュも笑った。
3人が去っていった。
軍靴の音が3つ分、リズムよく遠ざかっていく。
——いい人たちだったな。
◇ ◆ ◇
シミュレーター室に、俺とシャアさんだけが残った。
「シャアさん」
「何だ」
「俺たち、これでマブですね」
山田が好きだった、あの言葉。
シャアが、こちらを見た。
「マブ?」
「マブです。マブダチ。最高の相棒って意味です」
シャアさんと組んで、2対2で勝った。
シャアさんが前で戦ってくれて、俺が後ろから援護した。
あの連携は——本物だった。
「シャアさんが俺を選んでくれたんです。一緒に戦ってくれたんです。だから、俺たちはマブです」
シャアは、しばらく何も言わなかった。
それから——小さく、息を吐いた。
「……マブ、か」
シャアが、小さく繰り返した。
「いい響きだ」
俺の胸が、じわりと熱くなった。
見てるか、山田。
俺はこの世界でマブを得たぞ。
「シャア少尉」
声が、背後から響いた。
低い声。だが、ガイアたちとは違う。
もっと静かで、もっと——奥行きのある声。
振り返ると、男が一人、入口に立っていた。
長身。痩せ型。軍服。
銀混じりの髭を蓄えた、落ち着いた顔立ちの男だった。
「先ほどの戦い、見事でした」
男が、微笑んだ。穏やかなのに、目の奥だけが笑っていない。
「シャアさん、この人は……?」
シャアの目が、わずかに細くなっていた。
「木星船団のシャリア・ブル中尉ですか。お噂は伺っております」
「こちらこそ。お会いできて光栄です、シャア少尉」
シャアさんが敬礼している。
咄嗟に俺も真似をした。
「——ところで」
シャリア・ブルの視線が、シャアから俺に移った。
目が合った。
深い目だった。見透かすというより、頭の奥を静かに覗き込まれるような。
背筋が、少しだけ冷たくなった。
「先ほどの連携……素晴らしかった。まるで、互いの心が見えているかのように」
シャリア・ブルが、一歩近づいた。
「シャア少尉のマブ、でしたか——」
笑っているのに、冗談には聞こえなかった。
「私もぜひ、仲間に入れていただきたい」
——え?