アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ 作:匿名
「仲間に入れていただきたい」
シャリア・ブルはそう言った。
穏やかな声だった。だが、目の奥には、穏やかではない何かがあった。
シャアが、一歩前に出た。
「シャリア・ブル中尉。失礼ですがそれは……」
丁寧な言葉遣い。だが、声の温度が低い。
シャリア・ブルが、俺を見た。
「率直に言いましょう。あなたにはニュータイプの素養を感じます」
「ニュータイプ? それって——新人、みたいな?」
シャリア・ブルが、一瞬だけ瞬きした。
「……いえ。そういう意味ではありません」
「俺、確かに新人ですけど。ここに来たばっかりで、何も知らなくて。シャアさんにも迷惑かけてばっかりで」
「……」
シャリア・ブルが、シャアを見た。
シャアは黙っている。腕を組んだまま、壁に背を預けていた。
説明する気はなさそうだった。だが、こちらを見る目だけが鋭い。
「……まあ、いずれわかるでしょう」
シャリア・ブルが、微笑んだ。
改めて、この人を見た。
銀混じりの髪。蓄えた髭。落ち着いた佇まい。深い目。
若者を見守るような、静かな視線。
——あ。
これ、知ってる。
山田がゲーセンでやってたゲームに出てきた。
銀髪で、髭があって、渋いおじさんが。
名前は覚えていない。でも、あの画面は覚えている。
Gクロスオーバーの演出で——師匠の顔がでかでかとついた弾が、ぐるぐる回りながら発射されるやつ。
山田が爆笑していた。
あれだ。
あの師匠だ。
この人は——シャアさんの師匠ポジションだ。
間違いない。
シャアさんを導いて。アムロという悪に立ち向かって。
最後は「この馬鹿弟子がぁぁぁぁ!!」と笑いながら、あのぐるぐるアタックでアムロに突っ込んで。
散るんだ。
——目頭が、熱くなった。
だめだ。また泣きそうだ。
ガイアさんたちのときも泣いた。今度は我慢しようと思ったのに。
だめだった。涙が溢れた。
壁際のシャアが、組んでいた腕をほどいた。
「シャリアさん」
声が震えた。
「あなたは……すごい人だ。あなたの必殺技も」
「……必殺技?」
「顔を……顔を前にして、ぐるぐるって……回転しながら突っ込んでいく……すごい技です……!」
あのゲームの画面が鮮明に蘇る。師匠の顔がでかでかとついた弾が、螺旋を描きながら飛んでいく、あの演出が。
シャリア・ブルが、俺を見ていた。
表情は変わらない。だが——目の奥が、揺れた。
いや、揺れたどころではなかった。
シャリア・ブルの顔色が、変わった。
何かを見ている。向こう側にある、何かを。
回転する。巨大な機体。
顔が前面に据えられた、
見たことのない——だが、確かに自分が乗っている機体の映像。
「……なぜ」
シャリア・ブルの声が、わずかに震えていた。
「なぜ、見える——」
その目は、俺の向こうを見ていた。
「なぜ、あなたからそのような哀しみを——いや、それだけではない。これは——」
——え?
感じる? 俺の哀しみを?
「あなたは今、私の死を……悼んでいる」
背筋が冷たくなった。
「泣くな、とは言いません。だが——教えてほしい。何が見えるのですか」
見える。
そう言われて——本当に、何かが見えた。
シャリアさんが——ロボットに乗っている。
巨大な、蟹みたいな形の機体。
敵と戦っている。白い機体。アムロだ——
映像が、ぶれた。
別の景色が重なった。
シャリアさんが——シャアさんの隣にいる。
さっき見たのとは違う。もっと近い距離。ワイン。二人。
「……別の世界もある気がする」
口が勝手に動いていた。
「そっちでは……あなたはシャアさんと一緒にいて……もっと長く……もっと近くで……」
シャアの息を呑む音が、聞こえた。
シャリア・ブルの顔から、表情が消えた。
「……別の、世界?」
「わかりません。でも、あると思うんです。あなたが死なない世界が」
涙が、また溢れた。
「シャリアさん。あなたは……死なないでください」
シャリア・ブルが、静かに問いかけた。
「……君は、なぜそこまで」
なぜ。
そんなの、決まってる。
「俺は……みんなに死んでほしくないんです」
ガイアさんも。オルテガさんも。マッシュさんも。
シャリアさんも。シャアさんも。
誰にも、死んでほしくない。
シャリア・ブルの目が、大きく見開かれた。
それから——静かに、目を閉じた。
「……あなたは、不思議な人だ」
それだけ言って、シャリア・ブルは俺の肩に手を置いた。
重くて、温かい手だった。
◇ ◆ ◇
「中尉。彼は——」
「ええ。本物です」
シャリア・ブルの声は、静かだった。
「彼は他に何を」
「アムロ、という少年がコロニーを落とすと」
シャアの足が、止まった。
「……っ」
廊下に、沈黙が落ちた。
「——フラナガン機関には、私が手を回しましょう」
シャアが顔を上げた。
「……中尉、それは」
「少尉。あなたはその間に——アムロという人物を」
シャリア・ブルが、シャアを真っ直ぐに見た。
「あの少年が見たものが真実なら……放っておくわけにはいかない」
シャアは、しばらく動かなかった。
それから——静かに、頷いた。
「ええ。中尉、感謝します」
シャリア・ブルは振り返らなかった。
「あの少年には守られるだけの価値がある。それは、私にも感じ取れましたから」
軍靴の音が、静かに遠ざかっていった。