アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ   作:匿名

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第7話「この馬鹿弟子がぁぁぁぁ!!」

 

「仲間に入れていただきたい」

 

 シャリア・ブルはそう言った。

 穏やかな声だった。だが、目の奥には、穏やかではない何かがあった。

 

 シャアが、一歩前に出た。

 

「シャリア・ブル中尉。失礼ですがそれは……」

 

 丁寧な言葉遣い。だが、声の温度が低い。

 シャリア・ブルが、俺を見た。

 

「率直に言いましょう。あなたにはニュータイプの素養を感じます」

「ニュータイプ? それって——新人、みたいな?」

 

 シャリア・ブルが、一瞬だけ瞬きした。

 

「……いえ。そういう意味ではありません」

「俺、確かに新人ですけど。ここに来たばっかりで、何も知らなくて。シャアさんにも迷惑かけてばっかりで」

「……」

 

 シャリア・ブルが、シャアを見た。

 シャアは黙っている。腕を組んだまま、壁に背を預けていた。

 説明する気はなさそうだった。だが、こちらを見る目だけが鋭い。

 

「……まあ、いずれわかるでしょう」

 

 シャリア・ブルが、微笑んだ。

 

 改めて、この人を見た。

 

 銀混じりの髪。蓄えた髭。落ち着いた佇まい。深い目。

 若者を見守るような、静かな視線。

 

 ——あ。

 

 これ、知ってる。

 

 山田がゲーセンでやってたゲームに出てきた。

 銀髪で、髭があって、渋いおじさんが。

 

 名前は覚えていない。でも、あの画面は覚えている。

 Gクロスオーバーの演出で——師匠の顔がでかでかとついた弾が、ぐるぐる回りながら発射されるやつ。

 山田が爆笑していた。

 

 あれだ。

 あの師匠だ。

 

 この人は——シャアさんの師匠ポジションだ。

 間違いない。

 

 シャアさんを導いて。アムロという悪に立ち向かって。

 最後は「この馬鹿弟子がぁぁぁぁ!!」と笑いながら、あのぐるぐるアタックでアムロに突っ込んで。

 

 散るんだ。

 

 ——目頭が、熱くなった。

 

 だめだ。また泣きそうだ。

 ガイアさんたちのときも泣いた。今度は我慢しようと思ったのに。

 

 だめだった。涙が溢れた。

 壁際のシャアが、組んでいた腕をほどいた。

 

「シャリアさん」

 

 声が震えた。

 

「あなたは……すごい人だ。あなたの必殺技も」

「……必殺技?」

「顔を……顔を前にして、ぐるぐるって……回転しながら突っ込んでいく……すごい技です……!」

 

 あのゲームの画面が鮮明に蘇る。師匠の顔がでかでかとついた弾が、螺旋を描きながら飛んでいく、あの演出が。

 

 シャリア・ブルが、俺を見ていた。

 表情は変わらない。だが——目の奥が、揺れた。

 

 いや、揺れたどころではなかった。

 シャリア・ブルの顔色が、変わった。

 

 何かを見ている。向こう側にある、何かを。

 

 回転する。巨大な機体。

 顔が前面に据えられた、異形の兵器(キケロガ)

 

 見たことのない——だが、確かに自分が乗っている機体の映像。

 

「……なぜ」

 

 シャリア・ブルの声が、わずかに震えていた。

 

「なぜ、見える——」

 

 その目は、俺の向こうを見ていた。

 

「なぜ、あなたからそのような哀しみを——いや、それだけではない。これは——」

 

 ——え?

 感じる? 俺の哀しみを?

 

「あなたは今、私の死を……悼んでいる」

 

 背筋が冷たくなった。

 

「泣くな、とは言いません。だが——教えてほしい。何が見えるのですか」

 

 見える。

 そう言われて——本当に、何かが見えた。

 

 シャリアさんが——ロボットに乗っている。

 巨大な、蟹みたいな形の機体。

 敵と戦っている。白い機体。アムロだ——

 

 映像が、ぶれた。

 

 別の景色が重なった。

 

 シャリアさんが——シャアさんの隣にいる。

 さっき見たのとは違う。もっと近い距離。ワイン。二人。

 

「……別の世界もある気がする」

 

 口が勝手に動いていた。

 

「そっちでは……あなたはシャアさんと一緒にいて……もっと長く……もっと近くで……」

 

 シャアの息を呑む音が、聞こえた。

 シャリア・ブルの顔から、表情が消えた。

 

「……別の、世界?」

「わかりません。でも、あると思うんです。あなたが死なない世界が」

 

 涙が、また溢れた。

 

「シャリアさん。あなたは……死なないでください」

 

 シャリア・ブルが、静かに問いかけた。

 

「……君は、なぜそこまで」

 

 なぜ。

 そんなの、決まってる。

 

「俺は……みんなに死んでほしくないんです」

 

 ガイアさんも。オルテガさんも。マッシュさんも。

 シャリアさんも。シャアさんも。

 誰にも、死んでほしくない。

 

 シャリア・ブルの目が、大きく見開かれた。

 それから——静かに、目を閉じた。

 

「……あなたは、不思議な人だ」

 

 それだけ言って、シャリア・ブルは俺の肩に手を置いた。

 

 重くて、温かい手だった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「中尉。彼は——」

「ええ。本物です」

 

 シャリア・ブルの声は、静かだった。

 

「彼は他に何を」

「アムロ、という少年がコロニーを落とすと」

 

 シャアの足が、止まった。

 

「……っ」

 

 廊下に、沈黙が落ちた。

 

「——フラナガン機関には、私が手を回しましょう」

 

 シャアが顔を上げた。

 

「……中尉、それは」

「少尉。あなたはその間に——アムロという人物を」

 

 シャリア・ブルが、シャアを真っ直ぐに見た。

 

「あの少年が見たものが真実なら……放っておくわけにはいかない」

 

 シャアは、しばらく動かなかった。

 それから——静かに、頷いた。

 

「ええ。中尉、感謝します」

 

 シャリア・ブルは振り返らなかった。

 

「あの少年には守られるだけの価値がある。それは、私にも感じ取れましたから」

 

 軍靴の音が、静かに遠ざかっていった。

 

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