アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ   作:匿名

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第8話「量ったな、シャア!」

 

「シャアさん! もう無理です!」

 

 朝。仮眠室。銀色のパウチを前に、俺は叫んだ。

 

「和食が食べたいです! 味噌汁! 白米! 焼き魚!」

 

 シャアが、ドアの前に立っていた。

 いつもの軍服。いつもの底の知れない目。

 

「ドレンさんがいいもの出してくれるようになったのは感謝してます! でも! もう限界なんです! ペーストじゃない飯が食いたい!」

 

 シャアが、しばらく俺を見ていた。

 

「キリコ。君は極秘扱いだと言ったはずだ」

「わかってます! でもこのままだと俺、ペーストの味しかわからない人間になります! 味覚が死にます!」

「ドレンに買って来させよう」

「いーやーだー! 自分で行きたい! 外の空気ー!!」

 

 シャアが、目を閉じた。

 それから——小さく、息を吐いた。

 

「仕方なかろう」

 

 3分後。

 

 シャアが戻ってきたとき、俺は自分の目を疑った。

 

 グラサン。

 赤いノースリーブ。

 

「シャアさん、その格好……」

「目立たないための服装だ」

 

 目立ってる。めちゃくちゃ目立ってる。

 

「ほら、これを着ろ」

 

 投げ渡されたのは、地味な色のジャケットとキャップだった。

 

 なぜこれが選べて自分はその格好を……

 

 ◇ ◆ ◇

 

 基地の外に出たのは、ここに来てから初めてだった。

 

 エレキカーに乗り込む。シャアが運転席、俺が助手席。

 ゲートを抜けると——街が広がっていた。

 

「すごい……」

 

 声が漏れた。

 

 空が、丸い。

 コロニーの内壁に沿って、街並みが湾曲している。見上げると、はるか頭上に別の街が逆さまに貼りついていた。

 光は人工太陽から降り注いでいる。柔らかい、朝の光だ。

 

「ズム・シティ。ジオン公国の首都だ」

 

 シャアが、前を見たまま言った。

 グラサンの奥の表情は読めない。

 

 正義の味方の国の首都。そう思うと、感慨深かった。

 

 通りには人が歩いている。買い物をしている人、子供を連れた親、カフェでお茶をしている老人。

 普通の街だ。宇宙にあるのに、普通の街。

 

 こんな平和なコロニーを脅かすなんて。

 

 許せん、アムロ。

 

 ——ん?

 

 前方に、巨大な建物が見えた。

 街のど真ん中にそびえ立つ、城のような構造物。塔が何本も立ち、壁面には紋章が刻まれている。

 

「シャアさん! あれ! 決戦兵器ですよね!?」

 

 シャアのグラサンが、こちらを向いた。

 

「いや、あれは公王庁。政治の中枢だ」

「いやいやいや。最後にああいう城が変形して巨大ロボになるんですよ。足が生えて、ビーム撃って」

 

 サングラスの奥で、生暖かい目がこちらを見ている気がした。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 屋根付きの広い通りに、露店がずらりと並んでいた。野菜、果物、肉、魚——パウチじゃない、本物の食材だ。

 

「シャアさん……! 食べ物が……本物の食べ物がある……!」

 

 目頭が熱くなった。今日の涙は嬉し涙だ。

 

「騒ぐな。目立つ」

 

 シャアさんが小声で言った。

 でも、間違いなくシャアさんのほうが目立ってる。

 

 市場を歩く。あった。和食の食材を扱っている店。

 味噌がある。醤油がある。米がある。

 

「シャアさん! 味噌! 味噌があります! 買っていいですか!?」

「好きにしろ」

 

 シャアは自分でもコーヒー豆を見始めた。

 量り売りの店だった。豆を袋に入れ、計量台に載せている。

 

「シャアさん、コーヒー好きなんですね」

「まあな」

 

 珍しく、普通の返事だった。

 

 シャアさんが豆を足したり、減らしたりしている。計量台の針を睨みながら、慎重に。

 

 ——ぴたり。

 針が目盛りの上で止まった。

 

 シャアの口元が、かすかに緩んだ。

 

 グラサンの奥の目が、満足そうに細くなっている。

 なんだろう。シャアさんが嬉しそうだと、俺も嬉しい。

 

 ——と。

 

 横から声がした。

 

「うまく量ったな、シャア」

 

 若い男だった。

 整った顔立ち。紫がかった髪に帽子を目深にかぶっている。

 

 男は、シャアの計量台を覗き込んで——笑った。

 

 シャアの手が、止まった。

 グラサンの奥で、目が見開かれている——のが、横からでもわかった。

 

「ガルマ」

 

 シャアの声が、低くなった。

 

「なぜここに」

「それはこちらのセリフだよ、シャア」

 

 ガルマと呼ばれた男が、シャアの格好を上から下まで見た。

 

「その格好は何だい? ノースリーブにサングラスとは……随分と攻めているね」

「……事情がある」

「ふうん?」

 

 ガルマの視線が、シャアから俺に移った。

 

「それで——こちらは?」

 

 俺を見ている。好奇心に満ちた、明るい目だった。

 

 シャアが、答えに詰まっている。

 珍しい。シャアさんが言葉に詰まるのを、初めて見た。

 

「知人だ」

「知人? シャアに知人がいたとは驚きだな」

 

 ガルマが、俺に手を差し出した。

 

「ガルマだ。シャアとは士官学校の同期でね」

 

 ——士官学校の同期。

 

 見える、俺にも見えるぞ。

 

 シャアさんの一番大切な親友ポジション。

 アムロを止めるために戦って、犠牲になる人。

 

 なぜか遺影が馬鹿みたいにデカくて。

 そして、シャアさんがバーで一人、グラスを傾けながら涙を流すんだ。

 

 ——また、目頭が熱くなった。

 

「あの、俺はキリコです。シャアさんにはお世話になっていて」

 

 握手をした。ガルマの手は、指が長くて、品がある。

 

「キリコか。よろしく」

「ガルマさんは、何を買いに?」

「ああ——和風の食材を買いに来たのだ……お忍びでね」

 

「和食!? ガルマさんも和食好きなんですか!?」

「いや、私というより兄上が——」

「俺も和食が食べたくて来たんです! 味噌汁飲みたくて!」

 

 ガルマが、きょとんとした顔をした。

 それから——笑った。明るい、屈託のない笑い。

 

「はは、味噌汁か。いいね。兄上にも教えてあげよう」

 

 いい人だ。

 シャアさんの親友は、いい人だ。当たり前だ。正義の味方の親友なんだから。

 

「せっかくだ。シャア、キリコ。皆で食事でもどうかな」

 

 俺は即答した。

 

「はい!」

 

 シャアの口元が、わずかに引きつっていた。

 

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