アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ   作:匿名

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第9話「ガルマ Chill」

 

「君は……私が誰か、知らないのか?」

 

 ガルマが、フォークを置いて言った。

 

 市場の外れにある小さな店だった。周りを区切られた、テラス席。

 ガルマが「ここは口が堅い」と選んだ店らしい。

 

「えっと……シャアさんの士官学校の同期、ですよね」

「それはそうだが……他には?」

 

 ガルマが、不思議そうな顔をしている。

 

 他に、と言われても。

 整った顔。紫の髪。品のいい服。品のいい手。

 

 ……あ。

 

「もしかして、有名人ですか?」

 

 ガルマの目が、丸くなった。

 

「歌手とか……俳優とか? すみません、俺テレビ見ないんで」

 

 横で、シャアのナイフが皿の上で音を立てた。

 

 ガルマが——笑った。

 声を上げて、笑った。

 

「はは……ははは! いや、歌手ではないよ。俳優でもない」

 

 涙が出るほど笑っている。何がそんなにおかしいのか。

 

「シャア。君の友人は面白いな」

「そうだろう」

 

 シャアの声が平坦だった。グラサンの奥で何を考えているかわからない。

 

「いいんだ。今日は——ただのガルマでいい」

 

 ガルマが、笑顔のまま言った。

 その笑顔が、どこか嬉しそうだった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 料理がうまい。

 パスタ。肉。サラダ。パンもある。

 和食が良かったが、パウチ生活の後では何を食べても天国だ。

 

「うまい!」

「キリコ、食べ方が汚い」

「すみません! でもうまいんです!」

 

 ガルマが、自分の皿から一切れ肉を取って俺の皿に載せた。

 

「食べなさい。遠慮はいらない」

「いいんですか!? ありがとうございます!」

 

 いい人だ。本当にいい人だ。

 

 シャアは黙々と牡蠣を食べていた。殻付きの、でかいやつ。もう3つ目だ。

 

「シャア、いいのか? そんなに牡蠣を食べて」

 

 ガルマが、心配そうに言った。

 

「当たらなければどうということはない」

 

 シャアがワインを一口飲み、グラスを置いた。

 

「ガルマ。最近どうだ」

 

 ガルマの表情が、わずかに変わった。さっきまでの明るさに、薄い影が差す。

 

「……兄上は慎重だよ」

「いつだ」

「もう、遠くない」

 

 何のことだ?

 シャアが、静かに言った。

 

「遅らせられないのか」

「シャア、何を急に——」

「まだ、準備が整っていない」

 

 ガルマが、シャアを見た。真剣な目だった。

 

「君がそう言うなら……だが私の力では——」

 

 ガルマがフォークを握る手が、強くなった。

 

 なんだか、重い空気だ。

 

「ガルマさんって、兄弟二人なんですか?」

「いや、兄が……二人に、姉が一人だ」

「賑やかでいいなあ。俺、一人っ子なんで」

 

 ガルマが、苦笑した。

 

「賑やかというよりは——まあ、複雑、かな」

 

「えー、もったいない。家族は仲良くしないと!」

 

 俺は、思ったまま言った。

 

 ガルマが、きょとんとした。

 それから——また笑った。さっきとは少し違う、柔らかい笑い。

 

「……そうだね。そうありたいものだ」

 

 シャアは、黙ってワインを飲んでいた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「そういえば、シャアさんは家族いるんですか?」

 

 軽い気持ちだった。ガルマさんの話が出たから、なんとなく。

 

 シャアの手が、止まった。

 

 長い、沈黙。

 それから、シャアは目を逸らして言った。

 

「……サボテンが、花をつけている」

 

 ——は?

 

 何言ってるんだこの人。

 確かに小さなサボテンの鉢がある。赤い花が咲いている。でも今その話じゃない。

 

 ……いや、待て。

 

 話したくないんだ。

 シャアさんは——家族の話を、したくないんだ。

 

「すみません。聞いちゃいけないことでした」

 

 シャアは、ワインを飲んだ。

 一口が、長かった。

 

 ガルマが、静かにパンを裂いた。

 

「シャア。デザートは何にする?」

 

 何事もなかったかのように、話題を変えた。

 ガルマさんは、こういうとき空気が読める人だった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 店を出た。

 ガルマが会計を済ませていた。全額。

 

「ガルマさん! 奢ってもらっちゃって、ありがとうございます!!」

「いいんだ。誘ったのはこちらだからね」

 

 ガルマが微笑んだ。育ちの良さが滲み出ている。

 

「もしかして、お金持ちですか!」

 

 ガルマは苦笑いし、それから答えた。

 

「坊やだからさ」

 

 隣のシャアが吹き出して、赤いノースリーブが揺れた。

 

「キリコ。今日は楽しかった」

「俺もです! ガルマさん、また飯行きましょう! 今度は俺が奢ります!」

 

 ガルマが笑った。

 

「ああ。——ところで、シャア」

 

 ガルマが、声を落とした。

 

「今日のことは、秘密だぞ」

「お互い様だ」

 

 ガルマが、にっこりと笑った。

 シャアは——小さく、頷いた。

 

 ガルマが去っていった。

 紫の髪が、人混みの中に消えていく。

 

「シャアさん」

「何だ」

「ガルマさん、いい人ですね」

 

 シャアは、答えなかった。

 

「あの人も——死なせたくないな」

 

 グラサンの奥の目が、こちらを向いた。

 シャアさんは、何か言いかけて——やめた。

 

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