呪力は呪力でも呪力かよ!? 作:パンツ男
「おい!いつまで寝てるんだよ寝不足かぁ!うん!超寝不足だなぁ!」
︎︎懐かしい声が鮮明に聞こえる。顔を上げるとB組の教室にいた。普段の寝不足が祟って意識を落としたのか、机に突っ伏して眠っていたようだ。
「なに寝ぼけてんだよ!俺がわざわざ迎えに来てやったんだぞ!感謝しろよ!」
︎︎意識がはっきりした俺は、勢いよく後ろを振り向く。そこには灰色の長髪を、なぜかツインテールにした聖がいた。聖は長い前髪で隠れた鋭い目をこちらに向けている。
︎俺の知る聖は中学生までで、雄英の制服を着ることはなかった。だが、目の前にいるのは紛れもなく、聖本人でどういうわけか高校生くらいにまで成長している。
「ひじ……り……」
「どうした?変なもの見たみたいな顔して?」
「いや……なんでもない……」
「なんでもいいけどよ……ほら行くぞ。下でアイツらが待ってる」
「アイツら……?」
「忘れたのかよ!今日は神居とかぐやと鈴とお前で遊びに行くって言ってたろ!」
「え……あ、あぁ……そうだったな」
「しっかりしろよな!待ち合わせの時間にもなってこねぇから様子見に来たらよぉ!呑気に眠りやがって!」
「悪い……」
「はぁ……行くぞ!」
「あぁ」
︎︎俺はわけがわからないまま、聖に連れられて校舎を出る。校門の方で数人の人影が見える。近づくにつれてはっきりとそこにいる人達が誰なのかわかった。
「晴臣くん!何してたの!」
「何してたと思う居眠りだぜ!」
「勘弁しろし」
「疲れてんじゃん!」
︎︎聖と同じく高校生くらいにまで成長した、かぐやちゃん、神居、鈴ちゃんがいた。皆も雄英の制服に身を包んでおり、呆れたような笑顔を俺に向けている。
(これは夢だ……)
︎︎皆が高校生くらいまで成長していることも、一緒に雄英に入学したことも全部都合のいい夢であることは理解している。
(でも……)
︎︎それでも、この夢に浸りたいと思ってしまった。他でもない自分の手で奪った、有り得たかもしれない未来の可能性をどうしても望んでいる。
(本当に最低な奴だ、自分で未来を奪っておきながら、こんな夢を見てしまうなんて……)
「俺たちを待たせたんだ!後でジュース奢れよ!」
「わかったよ……」
「とっとと行くぞ」
「そうね、早く行きましょ!」
「楽しもうじゃーん!」
︎︎俺たちは街に向かって歩き出した。今日は午前授業だったのか、日が沈むまでまだまだ時間がある。
「やっぱここのコロッケが一番うめぇ!」
「それ地元のお店でも言ってたわよね」
「うるせぇ!美味いもんに美味いって言って何が悪いんだよ!ほら!晴臣も食えよ!」
︎︎一番始めに来たのは商店街で、聖が惣菜屋のコロッケを絶賛していた。俺も聖に勧められ食べてみると、とても美味しかった。
「ねぇ、こっちとこっちどっちがいいかな?」
「どっちも同じだろ」
「もう!違うって!」
「晴臣!これ似合ってる?」
「あぁ、そっちの方が鈴に合ってると思う」
「この靴いいな……」
︎︎商店街を後にして、次にデパートで服や靴等を見て回った。聖は相変わらずデリカシーのない発言でかぐやちゃんを怒らせていたり、神居は珍しく靴に執着を見せていた。
一通りショッピングを楽しんだ後は、︎︎カラオケやスポッチャが複合した大型レジャー施設で遊ぶことになった。
「なぁ……鈴っていつからあんな感じになったんだ?」
「あ?」
︎︎この夢が始まってからずっと気になっていた鈴ちゃんのハイテンション。小学校の時は人見知りでいつも俺の近くにいた彼女が、なぜあんなふうになったのか隣に座る聖に聞く。
︎︎聖は変なものを見るかのように俺に視線を向けると、ゆっくりと口を開いた。
「いつからって……お前大丈夫か?鈴があんなふうになったのは、中学の時にお前とクラスが別になって……そこでできたギャルの友達の影響を受けたからだろ」
「あ、あぁ……そうだったな」
「お前本当に大丈夫か?」
「ちょっと疲れてるだけだ……」
「そうかよ……」
︎︎聖はそれ以上何も言わず、鈴ちゃんが盛り上がっているのを眺めていた。
(この夢は……)
「ほら次お前だぞ」
「え?」
︎︎今見ている夢について考えていると、神居にデンモクもマイクを渡された。どうやら俺の番が回ってきたらしい。
「こういうのあんまやってないしな……」
「音痴だったら笑ってやるよ!」
「聖!そんなこと言わないの!」
「音痴とか関係ないじゃん!盛り上がったもん勝ちでしょ!」
︎︎前世を合わせても、片手で数える程しかカラオケなんて行ったことがなかった。俺は慣れない操作で知ってる曲を入れる。モニターが変わりMVと歌詞が流れる。
「いいぞ!」
「へいへい!」
︎︎慣れないながらも音程は外さないように歌うが、感情が乗っていない淡泊な俺の歌声でも、皆が盛り上げてくれたから、楽しいと思えた。
「それじゃ帰ろうぜ!」
「そうね」
「あー楽しかった!」
「……」
「おい!神居もなんか言えよ!」
「悪くなかった……」
「じゃあまたな」
「あ?どこ行こうとしてんだ?」
︎︎レジャー施設を出ると空が茜色に染まっていた。俺はいつも通り学生用アパートへ帰ろうとすると、聖に呼び止められた。
「え?」
「今日は金曜日だろ、雛月寮に帰るに決まってるだろ」
「ッ!?」
「何驚いてんだよ。施設長と決めただろ、週末はできる限り雛月寮で過ごすって……それも忘れたのか?」
「そう、だったな……」
「おいおい!勘弁してくれよ!熱でもあるんじゃないか?」
「えぇ!?そうなの!?なら早く帰らないと!?」
「いや!だ、大丈夫だ……熱とかじゃない……ただ、少し疲れたなって」
︎︎かぐやちゃんが心配そうに俺の額に手を当てる。神居や鈴ちゃんも心配そうに俺を見てくる。
「そう……ならいいけど」
「とりま早く帰って、ご飯食べて休んだらいいじゃん!ほら!はよ行こ!」
︎︎俺は鈴ちゃんに引っ張られる形で駅まで連れられ、東京行きの新幹線に乗せられた。新幹線に揺られながら、一時間ほどで東京に着き、電車を乗り換えて雛月寮の最寄り駅で降りる。
︎︎懐かしい道を進み、雛月寮に帰ってきた。
「皆!おかえり!」
「
︎︎雛月寮に到着すると、昔からお世話になっていた職員さんが、俺たちを暖かく迎えてくれた。夢だから当然だが、施設は焼けた跡など無く、職員さんも多少と歳をとったくらいで変化がない。あの日からほとんど変わらないこの景色に俺は、酷く動揺していた。
「……」
「晴臣?」
「……」
「晴臣くん?」
「……」
「おい!晴臣!」
「ッ!?な、なんだ……」
︎︎考え込んでいると、聖に肩を揺すられ大きな声で呼ばれる。俺は驚きながら聖の方へ顔を向ける。
「なんだじゃねぇよ……お前、やっぱり風邪ひいてるんじゃないか?」
「だ、大丈夫だ……」
「玄関じゃなんだし、ほら入んなさい。晩御飯もうすぐできるから、手洗いうがいして食堂で待っててね」
︎︎俺の様子を見て少し心配そうな顔をした職員さんは、晩御飯ができるからと中に促した。俺達は施設の中に入ると、手洗いを済ませ食堂に向かった。
「皆、雄英の授業でお腹減ってるでしょ!今日はハンバーグにしたから沢山食べてね」
(ハンバーグ……あの日の献立もそうだったな……)
「「「「いただきます!」」」」
「いただきます……」
︎︎目の前に置かれたハンバーグを見つめ、ゆっくりと箸で一口分を取り、恐る恐る口に運ぶ。温かくて優しい味が口いっぱいに広がる。
「おいしい……」
「それは良かった!ほら沢山あるからね!」
「おいおい!泣いてんじゃねぇか!」
「えぇ!?晴臣大丈夫!?」
「え……あ、あぁ……大丈夫だ……ははっ……おかしいな……なんで泣いて……」
︎︎あの日、食べることができなかったハンバーグ。あの日、皆と囲むことができなかった食卓。拭っても拭っても涙は止まらない。
「こんな日が続けばいいのに……」
︎︎楽しかった。
︎︎今日一日、沢山遊んで笑って楽しかった、たとえ夢でもこの日々が続いて欲しい、覚めて欲しくない。そう思うくらいにはとても幸せな時間だった。
「何言ってんだ」
「え?」
︎︎聖の酷く冷たい声が食堂を包む温かい空気を一瞬にしてかき消した。
「続くわけないだろ?」
「だってお前が奪ったからな」
「ッ!?」
︎︎聖達の眼球が黒い泥のようにこぼれ落ちた。目が無くなり空洞となった穴から血を流し、鬼の形相で俺を睨みつける。先程まで雛月寮の食堂だったはずが、いつの間にか燃え盛る講堂へと変わる。
「ここは……」
「なんでお前が生きてる」
「ッ!?」
「なんで私達を助けてくれなかったの」
「それは……」
「お前だけ生き残って……最低だな」
「ちがッ……違う……」
「晴臣も死ねば良かったのに」
「……」
︎︎聖達に囲まれ、次々に恨み言を言われ追い詰められていく。
「やめてくれ……俺だって殺したくなかった」
「じゃあ殺さなくて良かっただろ……介錯とか言いやがって……結局、俺達のこと救けるのを諦めただけだろ」
「違う……!」
「違わない……お前は俺達を諦めて自分だけ生き残る道を選んだ」
「そんなことない!」
「俺達を救けられなかった奴が楽しそうに笑ってんじゃねぇよ」
「ッ……グ……なに、を……」
︎︎聖に首を絞められ壁に叩きつけられる。抵抗しようにも、思うように体が動かない。
「お前もこっちに来いよ」
「俺たちと一緒がいいだろ?」
「私達を殺したもんね……罰は受けないと」
「まさか……拒まないよね」
︎︎神居たちが刃物や鈍器を手に取りゆっくりと近づいてくる。俺はどうすることもできず、目を閉じ顔を背けた。
「許さない」
︎︎体に刃物が突き刺さる。それが合図となり皆は手にした凶器を次々に振り下ろす。
「やめろ……ッ!!?」
︎︎意識が覚醒し、体を勢いよく起こす。心臓がうるさい、呼吸が苦しい。大量の寝汗をかいていたのか、寝間着と布団が濡れている。
「はぁはぁ…………ッ……オェ……」
︎︎呼吸が落ち着き始めると、今度は酷い吐き気に襲われトイレに駆け込んだ。
「はぁ……はぁ……クソッ……」
︎︎トイレから出た俺は、口内の不快感を取り除くために、洗面所で口をゆすぐ。顔を上げ洗面所の鏡に映る自分の顔を見て、苛立ちが込み上げる。
「ひでぇ顔だなぁ……」
「おはよう。皆も知っていると思うが一昨日、敵が雄英を襲撃するという事件があった。被害に遭ったA組は奇跡的に全員無事だ」
︎︎朝のHRでブラドキング先生が一昨日の雄英襲撃事件について話し始める。
︎︎一昨日の水曜日に『U・S・J』と呼ばれる雄英の施設で授業を受けていた1年A組が、敵に襲撃された。
︎︎主犯格には逃げられたものの、事件に関わった敵数十名を逮捕したとニュースで報道されていた。俺も葉隠に連絡を入れたが、箝口令を敷かれていたのか、自分を含めてクラスメイト全員無事ということくらいしか教えて貰えなかった。
(それにしても……許さない、か……そうだろうな……)
︎︎クラスメイトの話題は敵襲撃事件に集中しているが、俺は今朝見た夢が頭から離れなかった。HRも授業中も休み時間もずっと聖達から投げかけられた言葉が胸を突き刺す。
︎︎雄英に入って友人……と呼べる人ができて、あの日の傷が少しだけ癒えたのかもしれない。俺にそんな資格はないのに……。
(行方不明の施設長……そして柄木球大やあの悲劇に関わった敵全て俺が捕まえる……それが俺にできる償いだ)
︎︎今一度俺の目標を見つめ直し、心を落ち着かせる。夢で見た聖達にもう一度宣言する。
(安心しろよ……俺は許してもらうつもりはない……全てを終わらせて……地獄に落ちてやる)
「……おみ」
「……」
「……ぁ……るおみ」
「……」
「晴臣!聞いているのかい!」
「なんだ?」
「無視なんて酷いじゃないか!今からA組を倒す作戦会議をするんだ!君にも参加してもらうよ!」
︎︎どうやら放課後になっていたらしい、今日はずっと夢のことで頭がいっぱいで、他のことが疎かになっていたようだ。
「いきなりなんだよ……」
「君は何も聞いていなかったのかい!?鉄哲がA組に事件について話を聞こうとしたんだよ!」
「おう!そうしたらよォ!アイツら嫌な感じでよ!俺ァ許せねぇ!」
「だからこそ2週間後の雄英体育祭でA組をッ「ちょっと待て」……なんだい?」
︎︎クラスの雰囲気がだいぶおかしなことになっている。なんというか物間に飲まれているような感じだ。それに鉄哲の話も少し気になる。
「まず鉄哲、A組はどんな感じだったんだ?」
「あ?事件について話が聞きたくてよ……そんで教室の前に行こうとしたら、他のクラスの奴らもいてよ」
「なるほどな……まずA組の気持ちを考えてみろ、敵に襲撃されて奇跡的に助かったんだ。それなのに珍しいもの見たさに教室に集まられたらどう思う?」
「そ、それは……」
「それに……嫌な感じってなんだ?本当にA組全員がそんな奴らだったのか?」
「……いや違ぇ……爆豪って呼ばれて奴が……俺達にモブ共って言って調子乗って……他の奴らは止めてたような……」
「なるほどな」
︎︎大方見えてきた。熱くなりやすい鉄哲は爆豪の態度に怒り、視野が狭くなりA組全員が嫌な奴に見えたのだろう。そしてそれを皆に伝えたところ物間が張り切ったという感じか。
「話を遮って悪かったな物間……何を言おうとしたんだ?」
「だからA組を雄英体育祭で倒そうと思ってね」
「なるほど……それについては俺も賛成だ」
「ええぇ!!?」