呪力は呪力でも呪力かよ!? 作:パンツ男
「話を遮って悪かったな物間……何を言おうとしたんだ?」
「だからA組を雄英体育祭で倒そうと思ってね」
「なるほど……それについては俺も賛成だ」
「ええぇ!!?」
︎︎俺は耳を塞ぎ、クラスメイトが落ち着くのを待つ。
「終わったか?」
「いやいやいや!?急に何言ってんの!?」
「おかしくなったか!?」
「物間!晴臣に何を吹き込んだ!!」
「僕のせいなのかい!?」
「お前ら落ち着け……俺は別にA組が憎いから倒そうとは思ってない」
「じゃあなんで物間の意見に賛成したんだよ……」
︎︎俺がA組を倒すことに賛成したことが意外なのか皆疑問を浮かべている。
「簡単な話だ、雄英体育祭はオリンピックに代わる一大イベントだ。当日の会場には沢山のプロヒーローが観に来るだろう、それだけじゃない全国放送だから会場にいないヒーローにだって認知される可能性がある」
「ブラドキング先生も同じこと言ってたな」
「あぁ」
「そして例年通りなら体育祭の後、職場体験がある」
︎︎雄英の年間行事予定に書かれた職場体験。1週間程度、プロヒーローの元で実際のヒーロー活動を体験する。ヒーローを目指す皆にとってとても重要な行事だ。
(この職場体験で今まで以上の情報を集める、そのためには……)
「当然、そんな場で活躍すれば注目されるだろうな。そして今の状況、敵に襲撃されながらも誰一人欠けることなく生還した1年A組は、ヒーローからも世間からも注目されまくっている」
「なるほど……そういうことかい」
「あぁ……だからこの状況を利用する。注目の的となっているA組を俺たちが倒せばその注目や期待は全てB組のものになる……やってみないか?」
︎︎俺は全員の目を見てその意志を確認する。皆、瞳に炎を宿しやる気に満ち溢れている。
「皆、やるってことでいいな?」
「当たり前よォ!なァ!おめェら!!」
「あぁ!」
「やるぜぇ……!」
「私もやりますぞ!!」
「ん!」*1
「もちろん、僕もやるよ!」
「私も……やるよ!」
︎︎鉄哲の言葉が伝播し皆口々に俺の提案に賛同してくれる。クラス全体に熱が広がり一つになっていく、やる気は充分あとは俺がそれに応えるだけだ。
「よし!ならやるぞ!この二週間で強くなりたい奴は放課後に特訓だ!俺が全力で鍛えてやる!ついてこい!」
「「「「「おう!!」」」」」
︎︎こうして俺達B組の特訓が始まった。
「さて、それじゃ体育祭に向けて特訓を始めるわけだが、A組の対策もしなくちゃならない。当然、情報が必要だ」
「偵察でもするつもりかい?」
「でもよォ……そんなことしたら怪しまれるだろ」
「その通りだ……だから相澤先生に取引を持ちかける」
「取引って?」
「俺達の“個性”の簡単な詳細を渡す代わりに、A組の“個性”を教えてもらう」
「えぇ!?」
︎︎俺の策にまたクラスが沸く。皆が驚く中、物間が冷静に俺の策を指摘する。
「ちょっと待てくれ!それだとA組にも僕らの“個性”が知られるんじゃないかな!?」
「安心しろ……A組が俺達について先生に聞いた時のみって条件に付け加える。俺達が先生に聞きに行くんだ、向こうも同じ条件なら文句はないだろ」
「それはそうだけど……」
「卑怯だと思うか?」
「……」
「プロヒーローは指名手配されている敵の情報は常に頭に入れているだろう。“個性”や戦い方、犯行現場等など……俺達はその練習をするだけさ」
「いいじゃないか拳藤!僕は晴臣の交渉について賛成だよ!」
「物間……あんたは……」
「拳藤……この策に乗るかどうかは自由だろ」
「鉄哲……」
「A組の“個性”を知りてェ奴は聞けばいい、それが嫌なら特訓だけすりゃいい!後からA組が俺達の“個性”を知ったんなら、堂々と聞きゃいい!それで公平だ!」
「そうだね……晴臣、そういうわけだから」
「わかった。知りたい奴だけ後で来てくれ、それじゃ皆の“個性”の詳細を教えてくれ、相澤先生に渡すから」
「おう」
︎︎交渉について全員から了承を得た俺は、ルーズリーフに皆の“個性”をまとめるのだった。
「ヒーロー科1年B組の蘆屋晴臣です。相澤先生、いらっしゃいますか?」
︎︎夕日が差し込む職員室、俺はルーズリーフ片手に相澤先生を訪ねた。職員室のデスクから顔を出した相澤先生は、包帯まみれのミイラになっていた。
「何の用だ蘆屋?」
「相澤先生……その大丈夫ですか?」
「婆さんの処置が大袈裟なだけで俺は平気だ。それより要件を話せ」
「先生がそう言うなら……要件はなのですが、雄英体育祭に向けて相澤先生と少し取引がしたくて」
「取引?」
︎︎相澤先生は怪訝な顔で俺を見る。そして視線をルーズリーフに移し、話してみろともう一度俺の目を見る。
「俺達の“個性”の簡単な詳細を条件付きでA組に提供するので、A組の“個性”の簡単な詳細を俺達に教えてください」
「……条件とは?」
「A組の誰かが相澤先生またはブラドキング先生に俺達の情報が欲しいと聞きに来た場合です。その際、この話も一緒に伝えてください」
「ブラドはなんて?」
「相澤先生の許可が降りれば構わないと」
「なるほどな……じゃあ逆に聞くが、俺が教えるとでも?」
︎︎相澤先生はそう言って俺の返答を待つ。すぐに追い出さずに待っているということは、まだ交渉の余地はあるということだろう。
「プロヒーロー……相澤先生は指名手配された敵や、過去の凶悪敵の情報は事前に調べて頭に入れてますよね?」
「あぁ」
「俺達は今回の雄英体育祭を利用して、未来に向けてシュミレーションしようと思います」
「それがA組である必要性は?」
「敵の襲撃を受けて誰一人欠けることなく生還した同級生に挑戦したいと思うのはおかしいことですか?」
「……わかった。ただし、こちらも条件を一つ」
「なんでしょうか?」
「やるからには徹底的にだ。A組の壁として相応しい成果を期待している」
「わかりました、ありがとうございます」
「あぁそれと蘆屋。体育祭で霊符を使うなら申請書を提出しろよ」
「はい」
︎︎こうして俺達は、A組の“個性”の簡単な詳細を得た。
「イレイザー……ウチの生徒がすまんな」
︎︎職員室で仕事をしていると、ブラドに話しかけられた。要件は晴臣が持ちかけてきた取引についてだ。
「ブラドか気にするな」
「だが……いいのか?A組は苦戦を強いられるぞ」
︎︎ブラドは心配そうに俺に問うが、特に問題ないと伝える。
「随分と自分のクラスを買っているんだな」
「今年の俺の受け持ちは違う……ハッキリと断言出来る」
「そうか……A組は今回の一件で本物の敵と対峙した、そして奇跡的に誰も死なずに生還した」
「そうだな」
「だからこそ、どこかで驕りが生じている可能性がある。この体育祭でB組に負ければ、その考えも正すことができるそう思っただけだ」
「相変わらずだな」
「話はそれだけか?」
「あぁ」
︎︎ブラドは満足したように頷き、自分のデスクに戻っていく。
「さて今日から特訓を始めていくわけだが、なにか質問はあるか?」
︎︎翌日、ブラドキング先生に監督をお願いして体育館を借た。放課後、B組全員が体操服に着替え、体育館に集まっている。
「じゃあはい!」
「なんだ取蔭」
「特訓て何するの?晴臣一人で私達を教えるのにも限度があるんじゃない?」
「それについては大丈夫だ」
︎︎俺は腰のケースから霊符を四枚取り出し、背後に投げ式神を召喚する。霊符が輝き形を変えていく、人型になった式神は光が消えると共にその容姿がはっきりとする。
「は、晴臣が増えた!?」
「落ち着け、コイツらは俺の式神だ。俺の全能力のうち約87%コピーした分身のようなものと思ってくれ」
「おめェそんな事できたのかよ……」
「驚かされてばかりだね……」
︎︎俺そっくりの式神にクラスメイトは驚いている。まぁ無理もないだろう、俺だって必要になるかと思い《黒虎》の活動自粛中に作ったはいいものの、今の今まで使う場面がなかった式神だからな。
「話を戻すぞ、今から5人1組のグループを作る、俺達は1グループに1人配置する。特訓内容はそれぞれ配置された俺に聞いてくれ」
︎︎それぞれの課題や得意に合わせてグループを作ると、俺達はそれぞれに別れて特訓を始めた。
「鉄哲!もっと腰を入れろ!そんなんじゃ切島に勝てないぞ!」
「やってやらァ!!」
︎︎“個性”で金属化した鉄哲の拳を回避して、呪装で強化した腕で殴り飛ばす。A組に似たような“個性”持ちがいたので、対抗心を煽り更にやる気を出させる。
「その調子だ、拳藤!もっとフェイントを混ぜろ!」
「わかってるよ!」
︎︎鉄哲の拳と同時に背後から繰り出された発勁を回避し拳藤にアドバイスする。更に連撃を仕掛けてくるが、全て受け流す。
「まだまだだな!そして宍田!理性を保て!その力とタフネスならもっとやれることがある!ただ力任せに動くな!!」
︎︎拳藤の攻撃を受け流していると、宍田が自慢のパワーで強烈な一撃を食らわせにくる。俺は拳藤を押し宍田の攻撃の範囲から出すと、強化した腕力で受け止める。
「むぅ……わかりましたぞ!」
︎︎宍田の攻撃を受け止めている間に、庄田が懐に潜り込んできた。俺は宍田の腕を蹴り上げ体勢を立て直すとすぐに庄田の攻撃を回避する。
「庄田!お前も動きが大きい!ツインインパクトは強力だが当たらなければ意味がないぞ!」
「なんて隙の無さ……」
︎︎他のグループを式神に任せ、俺はB組でも特に近接が得意な鉄哲、拳藤、宍田、庄田、そして。
「物間、どうだ?呪装のコツは掴めそうか?」
「はぁ……はぁ……今のところ進展なしだね……本当にできるようになるのかい?」
「やってみないとわからないだろ。実際、俺の“個性”をコピーして呪力は得ることができたんだ、ならきっと使いこなせるはずだ、ほら更新するぞ」
「はぁ……スパルタだね……A組の“個性”を知れたんだしその対策だけでいいんじゃないか……」
「A組に勝つだけならそれでもいいかもな、でもこの特訓は体育祭、そしてその先を見据えたものだ。得意を伸ばすのも、苦手を克服するのも、新しいことに挑戦するのも、体育祭が終わった後も皆の力になる」
︎︎体育館を見渡すと、体力がない者は走り込みや筋トレを、“個性”頼りの戦い方ばかりする者は近接の基礎を、特に粗がない者は自分の可能性を広げる特訓をしている。
「君って一度身内認定してらめちゃくちゃ甘くなるタイプでしょ」
「さぁどうだろうな……ほら続けろ」
「わかったよ……」
︎︎物間は観念したように、霊符を握り直し呪装の特訓を再開する。それを見た俺は4人の方を向き、組手の再開を伝える。
「さぁ!次だ!」
「おう!」
「うん!」
「はいですぞ!」
「はい!」
︎︎こうして日々は過ぎていく。A組の対策や基礎固め、“個性”の応用や弱点の克服等、この二週間でやれることは全部やった。後は本番で出し切るだけだ。
『雄英体育祭!! ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!? 敵ヴィランの襲撃を受けたにも拘らず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』
︎︎プレゼント・マイク先生の声が会場全体に響く。
『ヒーロー科!! 1年!!! A組だろぉぉ!!?』
︎︎プレゼント・マイクに呼ばれA組が入場していく。この二週間、短いようで長かった。今日はその成果を見せる時だ、