呪力は呪力でも呪力かよ!? 作:パンツ男
︎︎騎馬戦が終了した。この後、1時間程昼休憩を挟み午後の部が始まるとプレゼント・マイク先生が伝える。
︎︎各々、食堂に向かうなか、俺は轟に呼び止められて人混みから外れた。
(スレ民には後から伝えればいいか)
︎︎昼休憩ということでLIVEモードを切り替えていた俺は、このことを伝えるかどうか少し悩み、後で伝えることにした。轟の後をついて行くと、保健室の前に来た。
「轟くん!?……それにB組の蘆屋くんだっけ?何しに来たの?」
「緑谷、少し顔貸してくれ」
「え?い、いいけど……」
「お前に聞きたいことがある」
「ここじゃできない話?」
「あぁ」
「わかったよ」
︎︎保健室から出てきた緑谷を連れて、俺達はスタジアムの裏口のような場所に向かった。
(それにしても緑谷……大分酷い怪我だな)
︎︎リカバリーガール先生に“治癒”してもらったのか痛みはないように見えるが、包帯の巻かれた左腕はとても痛々しい。
(勝つためとはいえ、自壊も辞さないとは……こいつ危ういかもな)
「えっと……蘆屋くんその……僕になにかついてる?」
「いや、酷い怪我だなと」
「え?あぁ……リカバリーガールに治癒してもらったからもう大丈夫だよ」
「大丈夫なわけないだろ」
「え?」
「お前が大丈夫でも、周りはどうだ?お前が“個性”を使う度に壊れる姿を見て平気でいられると思うか?それにリカバリーガール先生の治癒頼りにしているなら、お前はそれ以上強くなれない」
「……ッ」
「二度と自壊を治癒して貰えないと思って“個性”を使え」
「う、うん」
(俺は何を言ってるんだ。今日初めて話すやつに忠告なんかして……)
︎︎緑谷の怪我を見て普段なら焼かないであろうお節介から忠告をする。やはり精神が肉体に引っ張られているのだろう。
「話していいか?」
「え?あぁうん……」
︎︎俺と緑谷が話しているうちに裏口に着いたみたいだ。轟は俺達に向き合うと口を開いた。
「それで話って?」
「あぁ……俺の“個性”の話だ」
︎︎轟は憎むように自分の左手を見た後、俺達に話し始める。
「騎馬戦の最後……気圧された、自分の誓約を破っちまう程によ。蘆屋と爆豪と激突する時ですらそんなことはなかったのに……」
(……
「飯田も上鳴も八百万も感じていなかった……最後の場面、あの場で俺だけが気圧された」
「それ……つまり……どういう…………」
「
(……これ俺いるか?さっきから話が見えてこない。二人にしか分からねぇこと話すなら俺がいる意味ねぇだろ)
「なァ……オールマイトの隠し子か何かか?」
「は?」
︎︎二人の会話を聞いていると、意味深な顔した轟が変なことを言った。
「ち、違うよ……それは…………って言ってももし本当それ……隠し子だったら違うに決まってるから納得しないと思うけどとにかくそんなんじゃなくて…………」
(……隠し子じゃねぇな。緑谷の反応からそれはわかるが……オールマイトと何か関係はありそうだな)
「そもそもその……逆に聞くけど……なんで僕なんかにそんな……」
「「そんなんじゃなくて」って言い方は、少なくとも何かしら言えない繋がりがあるってことだな」
︎︎轟も俺同様に緑谷の発言から、オールマイトとの関係に気づき話を進めた。
「俺の親父はエンデヴァー知ってるだろ。万年No.2のヒーローだ。」
(なるほど話が読めてきた。……A組は敵襲撃事件の際、オールマイトに助けられたってブラドキング先生が言ってたし、轟はその際に何か感じたわけか。そして騎馬戦の最後、緑谷の奇襲の際にオールマイトと似た何かを感じてこうして話を聞きに来たって流れか……なら俺はいらねぇだろ)
「親父は極めて上昇志向の強い奴だ。ヒーローとして名を馳せたが、オールマイトが目障りだったんだろうな。自分じゃオールマイトを超えることができないと悟ると、次の策に出た。アイツはオールマイトを超えるために俺を作った」
「何の話だよ轟くん……僕に何が言いたいんだ……」
「個性婚……知ってるよな」
「“超常”が起きてから第二~第三世代間で問題になったやつだな。小中の道徳の授業で習ったよ。自身の“個性”をより強化して継がせる為だけに配偶者を選んで結婚する……倫理観の欠如した前時代的発想……なるほどな、エンデヴァーはお前を作ったのか」
「あぁ」
「……ッ」
「実績と金だけはある男だ。親父は母の親族を丸め込み、母の“個性”を手に入れた。俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲望を満たそうってこった。鬱陶しい……!そんな屑の道具にはならねぇ」
︎︎轟はエンデヴァーへの怒りを滲ませながら、顔の火傷跡を押さえる。
「記憶の中の母はいつも泣いている。『お前の左側が醜い』と母は
「ッ!?」
「……」
「ざっと話したが、俺が
︎︎緑谷は轟の話を聞き絶句していた。
「……轟それで話は終わりか?」
「あぁ……お前も騎馬戦の時、俺に炎を使えって言ったろ、話させねぇと納得しねぇだろ」
「……」
「それに……午前の部でお前が一年最強だと確信した。俺は
「そうか……」
「話はそんだけだ……緑谷がオールマイトの何なのか聞くつもりもない……俺は右だけで優勝する……時間取らせたな」
(……落ち着け……我慢だ……コイツの考えなんか無視すればいい……いいんだ)
︎︎轟は言いたいことを全部言って満足したのか、裏口から外に向かって歩き始めた。俺は轟の言葉を聞き込み上げてくる怒りを抑えている。
︎︎だが、無理だった。
「おい、待てよ」
「なんだ?」
「お前の事情は理解した……だかな、お前のやり方は間違ってる」
「あ?」
「あ、蘆屋くん!?」
「お前……炎使わないでエンデヴァーを否定するとか言ってたな。じゃあ聞くが、いつまでそれを続ける気だ?」
「……証明するまでだ」
「証明って?」
「エンデヴァーを完全否定するまで」
「バカかよ」
「なんだと!」
「お前はプロになったあともそのくだらない誓約ってやつを守り続けんのか」
「ッ!」
「お前の炎で人を救けられるかもしれないって時にエンデヴァーがどうとか言って使わないつもりか」
「それは……」
︎︎我慢できなかった。轟の過去は想像以上に重いものだったそこは同情できる。だが、救けられなかった過去が今の轟に怒りを覚えた。
「断言してやる!お前の“個性”なんざプロになれば皆が知ることになるんだ!」
︎︎轟の胸ぐらを掴んで俺は怒りをぶつける。神居や聖、かぐやちゃんに鈴ちゃん雛月寮の皆を守れなかったあの日の俺が轟に叫ぶ。
「お前がどれだけ隠そうと有名になればなるほどマスコミは“個性”を暴きに来る!オールマイトの“個性”が何なのか聞くのと同じだ!そうじゃなくてもお前を成功のルートに乗せるためにエンデヴァーが公表するかもしれない!その時、お前が然るべき時に炎を使うことを渋れば世間はお前にバッシングを浴びせるぞ!それだけじゃない!お前の家族にだって石を投げるかもしれないんだ!」
「……ッ」
「お前の復讐は間違ってる!お前がやるべき復讐はヒーローなんか目指さないことだ!ヒーローなんか最初からならなかったらエンデヴァーの跡を継ぐこともない!“個性”を使うこともないんだ!」
「……」
「なんでお前はここにいる!推薦っていう狭い門を通ったくせによ!!それなら他の奴に枠譲ってやれよ!!推薦入試落ちた奴が浮かばれねぇよ!!」
︎︎我慢しようと思った。普段なら我慢できたはずだ。だが、今の俺には無理だった。救けられなかった皆の顔が浮かんで、恵まれた力があるのにも関わらずそれを使わないなんて言う轟に怒りが爆発した。
「今からでも遅くねぇよ!自主退学しろや!!」
「蘆屋くん!言い過ぎだよ!!」
「あァ!じゃあお前は何も思わねぇのかよ!」
「それは……」
「チッ……もういい好きにしろよ。お前は俺がぶっ潰す」
「蘆屋くん……!」
︎︎これ以上ここにいたら、轟を殴ってしまうかもしれない。頭を冷やすためにも俺は食堂に向かった。
『さぁ!昼休憩も終わっていよいよ最終種目発表……とその前に、予選落ちのみんなに朗報だ!あくまでこれは体育祭、ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!』
︎︎休憩が終わり、午後の部が始まる。
『本場アメリカからチアリーダーも呼んでいっそう盛り上げて……ありゃ?』
『ん?』
︎︎プレゼント・マイク先生と相澤先生の反応がおかしい。周りを見てみると原因はすぐにわかった。
『どうしたA組!どんなサービスだそりゃ!』
『何やってんだアイツら……』
「「うひょー!」」
「峰田さん、上鳴さん騙しましたね!!」
「……なんだそりゃ」
︎︎チアガールの衣装に身を包んだA組女子がいた。八百万の反応から、クラスの男子に騙されたんだろう。
「なぜこうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……衣装まで“創造”で創って……」
「アホだろアイツら!」
「まぁまぁ、本戦まで時間あるし、張り詰めてても仕方ないしさ。いいじゃんやったろ!」
「透ちゃん、好きね」
︎︎A組女子は落ち込んだり、赤面したり、逆にテンションが上がったりと様々な反応を見せる。
『さあさあ皆楽しく競えよレクリエーション!!これが終われば最終種目進出!!4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだァ!!!』
︎︎A組女子は一旦置いて、プレゼント・マイク先生は進行を再開する。雄英体育祭は毎年最後の種目はトーナメント式のサシでの勝負となっている。去年はたしかにスポーツチャンバラだったか。
「組み合わせはクジで決めるわ!1位のチームからクジを引いてちょうだい」
︎︎ミッドナイト先生に呼ばれてくじを引きに行く。俺の後に心操、庄田、発目と続いて次のチームの番になる。
「全員引いたわね。これで組が決まったわ!」
︎︎モニターに映し出されたトーナメント表を見る。トップバッターを務めることになった。しかも相手は心操だ。
(……轟……案外早くになりそうだな)
︎︎二回戦、順当に進めば俺と轟が戦うことになる。頭は冷えたが未だに轟への怒りは無くなっていない。
(絶対に勝つ)
︎︎一度深呼吸して心を落ち着かせる。このまま怒りっぱなしじゃ心操に八つ当たりしまうかもしれない、関係ない奴を巻き込むのは本意じゃない、とりあえず轟と距離を取っておこう。
「蘆屋……その試合……お互いにベストを尽くそう」
︎︎心操が人混みから出てきて俺に近づく。どうやら一声掛けに来たらしい。
「もちろんだ」
「……普通に返すんだな……俺が“個性”使ってるかもしれないのに」
「お前はそんな事しないだろ」
「……そんなこと初めて言われたよ」
︎︎心操の言葉になんの警戒もなく返した俺を見て心操は驚いていた。心操が“個性”を悪用するような人間じゃないことを知っている俺は今更身構える必要も無いと伝える。
「そうか…………騎馬戦のチーム決めの時、脅してすまなかった」
「なんだよいきなり……」
「いや、騎馬戦で勝った雰囲気でなぁなぁになってたからな……ちゃんと謝っておこうと思った……焦っていたとはいえ、強引だった」
「別にいいよ……お陰で1位でトーナメントに出場できたんだ……だからこそ……本気で来てくれ」
「わかったよ……いい試合にしよう」
「あぁ!」
︎︎俺たちは握手を交わして観客席に戻った。
『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間!楽しく遊ぶぞレクリエーション!!』
︎︎プレゼント・マイク先生がレクリエーションの開始を宣言した。俺は観客席で力を温存することにした。