呪力は呪力でも呪力かよ!? 作:パンツ男
︎︎一週間前……。
「ハァッ!!」
「やぁッ!!」
「遅い!」
「っ!」
︎︎私は晴臣さんの攻撃を受けて体育館の床を転がる。体育祭まで残り一週間、晴臣さんの指導はより厳しいものになってきました。
「痛みを恐れるな。これから先……ヒーローとしてやっていくなら怪我なんて数え切れないほどするだろう……今のうちから耐性をつけておけ」
「はい……!」
「よし、ならもう一度だ」
「お願いします!」
︎︎それから一週間、近接の組手において私は晴臣さんから一本も取ることはできませんでした。
「甘い!」
「ッ!」
「腰が引けている!そんなんじゃ当たる攻撃も当たらないぞ!!」
「はいっ!」
︎︎一本も取れませんでしたが、この二週間で私は強くなったと、そう断言できるようになりました。
「一動作のあと思考して次の行動に移すな!」
「はい!」
「敵はお前の思考を待たない!」
「ッ!」
「そのラグが命取りになるぞ!」
「……ッ!」
「攻撃と同時に思考しろ!回避と同時に思考しろ!防御と同時に思考しろ!慣れないのならこの期間に慣れろ!」
「はい!」
「経験が足りないのなら俺で稼げ!そのためにこの二週間がある!」
︎︎厳しくもしっかりと鍛えてくださった晴臣さんに応えたい、私達B組は言葉にしなくとも心で通じ合い、二週間必死で食らいついていきました。
(体格差も筋肉量も……足りない……いくら近接の訓練をしても意味がないんじゃ……)
︎︎何度も地面を転がり肩や腹に打撃を与えられる中、私は弱気になってしまった。
「晴臣さんは……どうしてそこまで強いのですか?」
「ん?何だ急に?」
「いえ、同年代でここまで実力差があるので……何か特別なことでもしているのかなと……」
「……どうしても強くならないといけないからな」
「え?」
「俺には絶対に果たさなきゃならないことがある。そのために強くなるしかなかった」
「果たすべきこと……?」
「あぁ……」
︎︎晴臣さんはそれ以上何も言ってくれませんでしたが、その瞳はとても悲しくて見ていると心が締め付けられるようなそんな感覚になりました。
(晴臣さん……私は……貴方が背負っているものを少しでも支えたい……そのためには強くならないと……)
︎︎晴臣さんとの会話で落ち込んでいた私は決意を固め、それまで以上に特訓に励みました。
(筋肉量が足りないのなら……体格差があるのなら……“個性”で補いましょう……私ならそれができる……!)
︎︎晴臣さんに隠れて更に鍛えていた私は“個性”を全身に纏わせる新たなスタイルを編み出しました。
『準決勝第一試合!まさかまさかの展開で大白熱!蘆屋VS塩崎!!勝つのは矛か!!盾なのかァ!!』
「驚いたぞ……そんな隠し玉があったなんてな」
「少しでも貴方に追いつくためです!」
「嬉しいこと言ってくれるな……行くぞ!」
「はい!」
︎︎炎を纏った虎爪が塩崎の鎧から伸びた巨大な拳を切り裂く。切られたツルは俺を捉えようと燃えたまま伸びて迫ってくる。
「ッ!速ぇな……」
︎︎追撃をやめ後方に飛びながら回避した俺は、塩崎の反応速度の上昇を警戒する。
「えぇ……鍛えられましたから」
「塩送っちまったか」
『これは凄いぞ!!今まで圧倒されていた塩崎が互角以上に渡り合っている!!』
686:名無しの転生者
塩崎さん強っよ!?
687:名無しの転生者
新技から一気に畳み掛けてきたな。
688:竜舞ガブ
属性的には依然イッチ優勢やけど……。
689:ペンギンストライカー
先程のを見る限り……反応速度も中々のものですよ。
690:名無しの転生者
切った瞬間から伸ばして反撃してくるなんて……。
691:レジェンドプロデューサー
だが……塩崎もあの状態がどれほど持つかだぞ。
692:名無しの転生者
え?
693:竜舞ガブ
茨のツルを全身に巻いとるんや……棘が刺さって自分にもダメージがあるんとちゃうか?
694:フィジカルギフテッド石化中
そうだね……いくら体操服で保護していても、あんな風に締め付けるようにしていたら自分にもダメージがいくね。
695:名無しの転生者
じゃあ塩崎さんにもリミットがあるってわけか……。
『激しい攻防が続く準決勝!!茨の鎧を纏い果敢に攻める塩崎!!対する蘆屋は冷静に爪で防御し着実に削っている!!』
「そろそろ限界じゃないか?」
「えぇ……ですが諦める理由にはなりません!!」
︎︎茨の鎧が更に塩崎の体にくい込みそれに併せて速度が上昇した。ツルの棘が体操服を破り、肌を傷つけていく。
「……それがお前の覚悟か」
「はい!参ります!!」
「ッ!」
︎︎塩崎は腕のツルを操作してガントレットのようなものを作り出し一気に距離を詰める。
「はぁッ!!」
「くっ……!」
︎︎塩崎の拳を爪で防御するも、後ろに吹き飛ばされてしまう。
「お返しだ!」
「させません!!」
「ッ!鬱陶しいな!」
︎︎俺が爪を構え接近すると、鎧の一部を解きツルによる妨害で思うように攻めることができない。
「相手のやりたいことをさせない……晴臣さんから教わりましたから!」
「優秀な教え子で泣けてくるよ!!」
︎︎一進一退を繰り返し、互いに一歩も引かない攻防が続く。ヒットアンドアウェイで的確に俺を攻めてくる塩崎に俺は決め手に欠けていた。
(クソ……今使える術や呪装で塩崎に勝てるものはいくつかあるが……明らかに過剰だ……かといって心操の時みたいに威力を抑えれば、反撃される可能性がある……なら一か八か……やるしかないか)
「ッ!」
「今です!!」
︎︎何度目かの妨害を受け俺は回避するために後ろに飛んだ。そしてあえて片足を滑らせ塩崎に付け入る隙を与えた。
『蘆屋が体勢を崩した!!塩崎このチャンスを逃さず一気に攻めたぞ!!』
697:名無しの転生者
イッチ!!
698:レジェンドプロデューサー
落ち着け、イッチはわざと体勢を崩しんだ。
699:竜舞ガブ
せやろな。
イッチがこんなポカやらかすはずがない。
塩崎に勝つためにあえて付け入る隙を与えたんやろうな。
700:ペンギンストライカー
塩崎さんは真面目で心優しいですからイッチの演技を信じちゃいましたね。
701:アサシンディケイド
塩崎の性格は好ましいが……全ての勝負が正々堂々ってわけじゃないからな。
702:縁柱ドンモモタロウ
イッチもイカサマしてるわけじゃないし……フェイントみたいな一種の駆け引きだもんな。
703:聖剣使いのプロブレーダー
塩崎に隙を突かせたのはいいがここから何をするつもりだ?
704:名無しの転生者
カウンターとか?
705:名無しの転生者
それなら反応されて失敗するんじゃ。
706:竜舞ガブ
答えはすぐにわかるわ。
「ハァッ!!」
塩崎はツルを右腕に集中させ巨大な拳を作り、俺に向かって勢いよく放った。俺は回避せず真正面から拳を受けあまりの威力に吹き飛ばされそうになる。
『クリーンヒットォ!!!蘆屋これはまずいぞ!!!』
「やった……!」
「最後まで気ぃ抜くなぁ!」
「ッ!……そんな……!?」
︎︎塩崎は俺に一撃を与えたことで気が緩んだ。その瞬間、俺は左腕の爪で巨大な拳を切り裂き、呪装を解き中にある塩崎の腕を掴んだ。
「これなら避けられないだろ」
「ッ!させません!!」
「遅せぇよ!」
︎︎塩崎の腕を引き俺との距離を更に縮めると、右腕の爪で鎧を切り落とした。
『蘆屋のカウンター炸裂!!塩崎!鎧を失い万事休すだァ!!』
「ッ!まだ!」
「やめとけ……俺の勝ちだ」
「……ッ……降参です」
︎︎鎧を失ってもまだ俺と戦おうとする塩崎の首に右腕の爪を突きつける。塩崎は悔しそうに顔を歪めミッドナイト先生に告げる。
「塩崎さん降参!蘆屋くんの勝利!!」
「……やはり晴臣さんはお強いですね」
「今回……ヒヤッとさせられたよ……強くなったな」
「そんなまだまだです……」
「反省点があるのは俺も塩崎も同じさ……糧にしよう……そしてもっと強くなればいい」
「……はい」
「……それとこれ着とけ……体操服破れて目のやり場に困る」
「え?……あ!?は、はい!」
︎︎塩崎に体操服の上着を渡した俺は、スタジアムを降りてリカバリーガール先生の元に向かった。
「……痛ェ……肋いったかもな」
708:転生者掲示板
LIVEモードを終了します。
709:ヒロアカ陰陽師
皆さん試合終わりました。
710:名無しの転生者
お疲れ様イッチ!
711:名無しの転生者
いい試合だった!
712:ペンギンストライカー
怪我は大丈夫ですか?
713:ヒロアカ陰陽師
塩崎、強かったです。
最後の一撃で多分、肋がいったと思います。
714:レジェンドプロデューサー
そうか。
リカバリーガールに早く治してもらえ。
715:ヒロアカ陰陽師
はい。
716:竜舞ガブ
それにしても塩崎といい鉄哲といい……めちゃくちゃ活躍してんな。
717:ペンギンストライカー
イッチ、特訓って何やってたんです?
718:ヒロアカ陰陽師
単純ですよ。
まず俺そっくりの式神を用意して、苦手の傾向や得意の似ている五人一組を作りそれぞれ特訓をつけたんですよ。
719:竜舞ガブ
イッチ、有馬みたいに自分そっくりな式神も作っとったんやな。
720:ヒロアカ陰陽師
えぇいつか必要になると思ったんで。
721:レジェンドプロデューサー
なるほどな。
二週間、たった一人で20人を見るのは難しくても、五人ならしっかり指導できるってわけか。
722:縁柱ドンモモタロウ
なんだろう……柱訓練を思い出した。
723:名無しの転生者
あぁ……あのキツイやつ。
724:ヒロアカ陰陽師
ドンモモニキでもやっぱりキツかったんですか?
725:縁柱ドンモモタロウ
いや、俺は……柱側やったな。
他の一般隊士に全集中の呼吸・常中を覚えさせてた。
726:聖剣使いのプロブレーダー
お前、甲なのにな。
727:縁柱ドンモモタロウ
うるせいやい!
柱クラスに強かったんだから良いだろ!
728:名無しの転生者
結局、柱にはならなかったんですね。
729:縁柱ドンモモタロウ
まぁな。
俺が介入して柱全員、最後まで生存したからな。
730:名無しの転生者
なるほど。
731:ヒロアカ陰陽師
あ、出張保健所に着いたんで一度落ちます。
732:名無しの転生者
OK!
733:竜舞ガブ
決勝戦に向けてちゃんと休むんやで。
734:ペンギンストライカー
決勝戦までそこまで時間はありませんが、呪力回復できるといいですね。
735:ヒロアカ陰陽師
ありがとうございます。
「チュー……はい、終わったよ。グミ食べるかい?」
「ありがとうございます。いただきます」
︎︎リカバリーガール先生に傷を治してもらい、俺は貰ったグミを口に入れ廊下を歩く。
(……そろそろ……縛りもキツくなってきたな……)
︎︎俺は復讐を誓ったあの日から2つの
(俺の予想以上に皆強い……解除も視野に入れとかないとな)
︎︎術の方はまだ解くつもりはないが、呪装は解除することを頭の隅に置き控え室に向かう。
「あ、蘆屋さん!」
「塩崎か」
︎︎考えながら廊下を歩いていると、リカバリーガール先生に治療してもらうのか、傷ついたままの塩崎に呼び止められた。
「決勝戦頑張ってください……応援してます!」
「おう……わかった」
「……」
「ん?俺の顔になんかついてるか?」
「い、いえ……その……また挑戦してもいいですか?」
「構わねぇよ、俺はいつだって挑戦を受けるさ」
「そうですか……ありがとうございます……」
「それより怪我治してこいよ……せっかく綺麗な肌なんだからさ痕が残る前にさ」
「ッ……///……わかり、ました……し、失礼します!」
︎︎塩崎は足早に出張保健所の方へ向かった。
︎︎控え室に着くと、設置されたテレビには骨抜と爆豪の試合が流れていた。勝負もそろそろ決着が着きそうだ。
「……」
︎︎俺は残りの時間を呪力回復に充てるため目を瞑り瞑想を始めた。