呪力は呪力でも呪力かよ!? 作:パンツ男
「あ!晴臣くん!こっちこっち!」
「悪い……待たせか?」
「ううん!今来たところだよ!」
︎︎体育祭が終わり2日目の休日、俺は葉隠と待ち合わせをしていた。
︎︎なぜこうなったかというと、昨日に遡る。
︎︎「晴臣、疲れてるかもしれんが子供たちに顔見せてやってくれ」
︎︎体育祭の翌日、俺は東京にある
︎︎施設長には恩があるし、これといって予定が入ってなかったので体育祭の日の夜に静岡から東京に来たのだ。
「わかったよ」
「疲れているのにすまんの」
「気にすんな、どうせ静岡にいてもやること無かったし」
「友達と打ち上げとかせんのか?」
「打ち上げしようって話はあったが、結局体育祭の疲れを癒すことを優先することになったんだよ……打ち上げはもうちょっと先になる」
「そうか」
︎︎明日の昼には静岡に戻るのだ、俺のことを応援してくれたちびっ子にお礼でもしようかと、部屋から出た。
「ん?」
︎︎ポケットに入れたスマホが震えた。確認すると葉隠から連絡が来た。
| 晴臣くん!今東京にいる? |
| もし良かったら……明日会えないかな? |
| 無理なら無理でいいからね!? |
| もし行けるなら https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=405001 ここに来て欲しいな! |
| それじゃあね! |
「……」
「ん?どうしたんじゃ?」
「いや……その……」
「誰かと遊びに行くんじゃな?」
「……明日の昼にな」
「わかった」
「……なんだよ」
「友達ができて良かったなと」
「……子供扱いすんなよ」
「お前はまだまだ子供じゃ。それにここに来た時あれだけ塞ぎ込んでいたお前が年下の子と関わるようになったり、学友と遊びに行く姿を見ると嬉しいんじゃ」
「そうかよ」
︎︎葉隠に連絡を返すと、俺は施設で暮らす子供たちの面倒を見ることにした。
︎︎こうして、二日目の休日を葉隠と過ごすことになった。
「晴臣くん急にごめんね!」
「構わねぇよ。どうせチビ共の相手するくらいしかやること無かったし」
「チビ共……?弟がいるんだね!」
「あぁいや……弟っていうか、同じ施設で暮らす子供たちのことで……」
「え?施設……あ……ご、ごめんね」
「気にすんな。物心つく前から施設で暮らしてたんだ。俺にとっての家族は産んでくれた両親じゃなくて施設の皆だ、謝らなくていい」
「そっか……」
「……先に荷物ロッカーにしまってもいいか?」
「え?あ!そ、そうだよね!」
︎︎気まづい空気が流れる中、俺は静岡に持っていく荷物を駅前のロッカーにしまい、葉隠の案内でURLの店に向かう。
「晴臣くんは雄英の近くで一人暮らしだっけ?」
「あぁ、葉隠は実家からか?」
「うん。相談はしてみたんだけど、一人暮らしはダメだって」
「まぁ……娘が高校生で一人暮らしはどの家庭も難しいんじゃないか?」
「それはそうなんだけどさ!」
「一人暮らしも大変だぞ?飯の用意とか節約とか、色々考えなきゃならないからな」
「お茶子ちゃんも同じこと言ってた!」
「麗日って子か」
「うん!」
︎︎一人暮らしの話題で重い空気がなくなり、俺たちの会話は弾んだ。
「昨日言ってた店までここからどのくらいかかるんだ?」
「えっとね!10分くらいかな!」
「駅集合にしてもらって悪いな」
「ううん!来てくれただけで嬉しいからいいよ!」
「そうか」
(……やっぱりメガネかなにかしてくるんだった)
︎︎俺は周りから視線を感じ目だけをそちらに向ける。道を歩く女子高生やサラリーマンが俺たちをチラチラと見ている。
「ね!やっぱりあれ蘆屋くんだよね!」
「生で見ると迫力あるなぁ……」
「隣に歩いてる子……お姫様抱っこされてた子じゃない!」
「ホントだ!」
「あれって付き合ってるのかな!」
「やめなよ」
︎︎周りから話し声が聞こえ俺は葉隠の方を見る。
「うぅ……///」
「悪い……変装してくればよかったな」
「だ、大丈夫だよ!」
「そうか……」
︎︎また別の意味で気まづくなり、店に着くまで無言になってしまった。
「あ!ここだよ!お店!」
「いい感じだな」
「でしょ!でしょ!」
︎︎日本家屋をそのまま利用した喫茶店は、雰囲気があり中々に良いものだった。店先には当店おすすめの
「へぇ、あんみつか……」
「もしかして甘いの好きだったりする?」
「甘いのが好きってより、考え事してる時におはぎをよく食うからその延長だな」
「そうなんだ!」
「なぁ……葉隠はなんでこの店にしたんだ?」
「ふっふっふ……よく聞いてくれたね!晴臣くんの目は確かなようだ!」
「ん?」
「このあんみつ食べに来たんだよ!」
「なるほどな……ん?下になんか書いてあるぞ?」
「あ、それは……えっと……」
「……カップル限定……葉隠?」
「だ、ダメかな?」
︎︎透明だから見えないが恐らく手を合わせておねだりをしている葉隠の姿に、俺はため息をつき協力することにした。
「いいぞ……」
「やったー!ありがとう!晴臣くん!」
「あぁ……ほら、早く店入るぞ」
「うん!」
︎︎扉を開けるとちょうどいい冷房が俺たちを出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「二人です」
「ではテーブル席にご案内しますね」
︎︎30代くらいの男性店員に案内で席に座ると、渡されたメニューを見る。1番最初のページに表の看板に書かれていたあんみつがデカデカとイラスト付きで推し出されている。
「じゃあこのカップル限定あんみつ1つお願いします!」
「わかりました。お時間30分ほどお時間をいただきますが、よろしいですか?」
「はい!」
(30分長くないか?……ッ!?……なんだ?悪寒が……)
︎︎謎の悪寒を気のせいだと思うことにして、俺は葉隠に声をかける。
「それで何か聞きたいことがあるんじゃないか?」
「あーやっぱり分かっちゃう?」
「あんみつ食べたいってのもあると思うけど、体育祭についてか?」
「すごいね、なんでも分かっちゃうんだ」
「なんでもはわかんねぇよ」
「えっとね……一昨日、相澤先生に言われたんだ……敵から生き残ったことで天狗になってたんじゃないかって……B組は体育祭に向けてA組の情報を収集してしっかり対策していたのに、私たちは何をしてたんだって」
︎︎葉隠は一昨日のHRで体育祭の結果について相澤先生から色々言われたようだ。
「それでね……悔しくって……さっきも晴臣くんのおかげで注目されただけで私個人じゃなんの成績も残せなくて」
「それで俺に話を聞いて欲しかったのか?」
「ううん……私はもっと強くなりたい!」
「そうか」
「だから……どんなにキツイ特訓でもなんでもやるから!私を鍛えて欲しいの!」
「いいぞ」
「ご、ごめんね……急にこんなこと言って……晴臣くんはただ遊びに来ただけなのにね」
「だからいいぞ」
「え?いいの?」
「あぁ……誰かに教えるのも基本を見直す良い機会になるから俺にも利点はある、だから特訓してやる」
「ほ、ほんとに!」
「もちろんだ」
︎︎体育祭で轟のことで相談に乗ってもらった恩もあるし俺は快く引き受けることにした。断られると思っていたのか、葉隠は驚きながらも喜んでいる。
「とりあえず、明日から始めようと思うかいいか?」
「うん!」
︎︎葉隠は張り切ってるようで腕をぶんぶんと動かしている。そんな様子を見て俺は口角が緩んだのを感じた。
「それでだ、葉隠がどこまで動けるのか教えて欲しい」
「えっと入試の辺りからでいいかな」
「あぁ」
︎︎あんみつが出来上がるまでの時間、俺は葉隠がどこまで動けるのか、体術の経験があるのかこれまでの授業内容を聞きながら、トレーニングメニューを考える。
「それでね!轟くん凄いんだよ!ビルを一瞬で凍らせちゃって!私本気出したんだよ!ブーツも手袋も脱いだのに!何も出来なくてさ!」
「……ちょっと待ってくれ……葉隠……聞き間違いじゃないことを祈りたいんだが……葉隠の戦闘服はブーツと手袋だけじゃないよな?ボディースーツ的なやつを着てるんだよな?」
「え?ブーツと手袋だけだよ」
「……」
「だって戦闘服着たら見えちゃうからね!」
「もっと羞恥心もてやぁ!」
︎︎俺は叫んでいた。まさか葉隠がほぼ裸の状態で授業を受けているなんて思ってもいなかった。
「えぇ!?」
「はぁ……葉隠……明日、戦闘服について相澤先生に話せ」
「でも服きてると“個性”に影響が……」
「B組にもいるんだよ、衣服が“個性”に影響するやつが……そいつに話を聞いたら、頭髪を混ぜて作った戦闘服なら“個性”発動と合わせてコスの方も連動するようになってるって」
「そうなの!?」
︎︎やっぱり知らなかったみたいで俺は懇切丁寧に説明した。
「もうすぐ職場体験もあるんだ、早めに何とかしないとダメだぞ」
「教えてくれてありがとう!」
「礼はいい」
「またそう言う……そうだ、晴臣くんって指名貰えるならどんなヒーローのとこ行くの?」
「急に話変えたな……そうだな……貰えてると仮定するならトップ10以内は絶対だな」
「絶対きてるよ!だって凄かったもん!」
「そうだといいな」
「そうだよ!」
「お待たせいたしました。当店おすすめの巨大あんみつです!」
︎︎葉隠の言葉を遮るように机に置かれたあんみつは俺の知るそれとは何もかもが違った。机の六割を占める大きな皿に乗せられたそれはあんみつというより山だった。
「……え?」
「大きい!写真撮ろ!」
「あの……なんですかこれ?」
「こちらがカップル限定メニューのあんみつです」
「いやそうではなく……何故こんなに大きいんですか?」
「目の前の困難を共に乗り越えることで愛はより深くなるのです!」
「……逆写真詐欺どころじゃねぇな」
「晴臣くん食べよ!」
︎︎喜びながら写真を撮っていた葉隠が、スプーンを持ち食べ始める。軽快なスタートで葉隠はどんどん目の前の白玉と寒天の壁を切り崩していく。
「ん~!美味しい!!」
(甘いものは別腹って言うし案外いけるかもな)
︎︎なんて甘い考えをしながら俺も食べ始める。
︎︎白玉も寒天もフルーツもあんこもシロップも美味しいのだが、いかんせん量が多い。
「食べ切ることができましたら豪華景品がございますので!」
︎︎店員はそういうと奥に引っ込んでしまった。
「晴臣くん美味しいね!」
「あ、あぁ……」
︎︎十分後、俺は更なる地獄を味わうことをまだ知らない。
「う、う~ん……」
︎︎十分後、結構ハイペースで食べていた葉隠のスプーンが止まってしまった。限界が来たのだろう。頑張って腕を動かそうとするが、動きだけで苦しそうなのがわかる。
「葉隠……ギブアップしてもいいんだぞ?」
「だ、ダメなの……残したら……全額支払わないといけないから」
「……マジか」
︎︎これだけの量だ、そりゃ値段もとんでもないのだろう。色々な事情で金に余裕はあるが無駄遣いはしたくない俺は覚悟を決めた。
「貸せ」
「え?」
︎︎あんみつを自分の方に近づけ一気にかき込んでいく。白玉や寒天を無心で食べ続けあんこやフルーツも味わう暇などなく、甘いシロップが全身の細胞に行き渡るような感覚に襲われながらも必死に食べ進めていく。
「晴臣くん頑張れ!」
「彼氏さん!ファイトです!!」
「ッ!!」
︎︎八割ほど食べると皿を持ち上げ、シロップとともに残りを流し込んでいく。既に腹は限界だが、ここまできてギブアップするのも何故か癪に思い、腕を休めることなく動かし続ける。
「ッ!!ご馳走様でしたッ!!!」
︎︎皿を机に置き、俺はあの糖分の悪魔みたいなあんみつを完食した。
「晴臣くん凄いよ!」
「彼氏さんとても凄いものを見せていただきました!こちら景品になります!」
「あ?あぁ……」
︎︎正直周りの音も聞こえない限界状態だったが、何とか店員が差し出した景品を受け取る。封筒に入ったそれを開けてみると何かの券だった。
「おめでとうございます!見事完食したお二人に!当店のあんみつ1年間無料券を差し上げます!!」
(いらねぇ……!!もう二度とあんみつ……甘いもんは見たくねぇ……!!)
︎︎俺は心の中で叫び、店を後にするのだった。
「晴臣くん大丈夫?」
「あ、あぁ……」
︎︎葉隠に支えてもらいながら駅に向かう。腹の中であんみつが暴れているせいで物凄く気持ち悪いが、静岡行きの電車の時間もあるので、休むこともできない。
「でも本当に良かったの?晴臣くんの分の無料券貰っちゃって」
「いいんだよ……あんみつはもう二度とみたくなし……」
「たしかに大きかったよね」
「あの店は限度を考えろ……」
「あはは……でも……」
「ん?」
「かっこよかったよ」
「悪い……今、そこまで聴覚に意識割けない……」
「なんでもないよ」
︎︎その後、何とか駅に着いた俺は葉隠と別れ、静岡の学生アパートに帰ったのだった。