呪力は呪力でも呪力かよ!? 作:パンツ男
敵による誘拐事件から5年。
聖とかぐやちゃんは中学一年生になり、俺と神居と鈴ちゃんは小学六年生に上がった。
「聖、行くぞ!」
「こいやぁ!!」
「み恵みを受けても背く敵は篭弓羽々矢もてぞ射落とす……裂空魔弾!喼急如律令!!」
「そんなヘボ弾当たるかよ!うん!!豆鉄砲だぁ!!」
施設の庭で俺たちは特訓をしていた。
職員さんの中に資格を持った人がいるようで、施設の敷地内に限り、“個性”の使用を許可されているからこそ、こういう特訓ができる。
「止みなん止みなん説くべからず……止縛法!喼急如律令!!」
「あん時の鎖かッ!クソッ動けねぇ!」
「今だ!
聖の動きを止めた俺は、腰に隠していた木製の短刀に呪装する。
短刀が光と共に大きくなり、白い片手剣に変化する。
「もらったッ!!」
「クッ…………なんてなぁ!!」
「ッ!?」
止縛法を“個性”で切り刻んだ聖は、俺に向かって腕を振り下ろした。
瞬間、凄まじい衝撃が俺を襲う。
この5年で聖の“個性”は成長し、腕を振るうことで斬撃を飛ばせるようになっていた。
「あっぶな……
聖の放つ不可視の斬撃を、片手剣と全身を鎧のように防御力を向上させる呪装で防いだ。
「んだよ……もっといいリアクションしろよな」
「倒せるかもと思わせて油断したところを狩る……お前の趣味だろ?」
「……面白くねぇな」
「ヒーローらしくないぞ?」
「うるせぇな」
顕著に現れるようになった聖の悪癖とも呼べる趣味に苦言を呈すると、聖は青筋を浮かべて機嫌が悪くなった。
「まぁいいや……それで?まだ続けるんだろ?」
「当たり前だ!年下のくせに生意気な態度とりやがってぇ!しっかり立場をわからせてやるよぉ!!」
「相変わらず沸点が引くいよな!そんなんだから俺や神居に舐められるんだよ!!」
「うるせぇ!!」
いつも通り軽口でキレた聖は、まっすぐ俺を狙って突撃してくる。
「
突撃してくる聖を迎え撃つために、俺は懐から二枚の霊符を取り出し目の前に投げつける。
霊符は空中でピタリと止まると、光に変わり俺の脚と腕に装備される。
「
脚力と腕力を強化した俺は片手剣を構える。
この5年で俺は、同時に四つ呪装をすることができるようになった。
苦戦していた霊符作成も簡単にできるようになり、様々な陰陽術も使えるようになった。
まだ十二天将や長い詠唱が必要な術は使えないけど、それを差し引いても数年前とは比べ物にならないほど強くなったと思う。
(あの時、ガブリアスニキ様子がおかしかった……多分、近いうちになにか良くないことが起きるんだろうな……その時、皆を守れるように……強くならないと!)
「ハァッ!!」
「ウォォォ!!」
「そこまで!!」
聖とぶつかり合う瞬間、俺たちの顔に冷水がかかった。
「「ッ!?」」
水が飛んできた方に顔を向けると、腰に手を当てて怒っているかぐやちゃんがいた。
「何すんだよ!」
「あのまま二人が戦ってたら怪我してたわよ!!先生は“個性”使っていいって言ったけど、怪我していいって言ってないの!」
「ごめんね……かぐやちゃん」
「謝る前にちゃんと止まりなさい!晴臣くんは聖と違ってそれができるでしょ!」
「はい、おっしゃる通りです」
「おい!俺がガキだって言いてぇのか!?」
「そうよ!」
かぐやちゃんはヒートアップした俺たちが怪我をしないように、注意してくれる。
中学に上がり、元々の委員長気質に磨きがかかったみたいだ。
「晴臣くんも何笑ってるの!?あなたにも怒ってるんだからね!」
「ごめんなさい」
「全くもう!」
「おい、俺との勝負はどうした?」
「神居も今そういう時じゃないでしょ!3人ともそこに座って!今日はちゃんと怒るからね!!」
「勘弁しろし……」
この日の勝負は、かぐやちゃんに怒られるという形で終わった。
「いっちにーさんしっ!」
「毎日頑張ってるわね」
「はい!皆と一緒にヒーローになるって約束したんで、しっかり鍛えないと」
「ふふ……若いっていいわね。あまり遅くならないようにね」
「わかりました、19時には戻ります」
「えぇ……今日はハンバーグの予定だから楽しみにしといてね」
「ありがとうございます!」
夕暮れ時。
俺はランニングシューズを履き替え、日課のランニングのためにウォーミングアップをしながら職員さんと話している。
「よしッ!……
ウォーミングアップを終えると、懐から霊符を取り出し自分に呪装をかける。
怨枷滔滔は体に荷重をかけて、筋力・呪力の増長をはかる修行用の呪装だ。
今の俺には、通常の二倍の負荷がかかっている。
「それじゃ……行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
俺は施設を出て町の中を走り始めた。
最初の頃はすぐに息が切れて苦しくなったけど、継続は力なりという言葉があるように、毎日繰り返していたら1時間走り続けても平気になった。
(この世界に転生して8年……この町にも慣れてきたよな)
ランニングをしながら町の様子を見る。
初めは分からないことだらけで不安だったが、町の人は親切で俺が施設に入っていても、偏見など持たず接してくれた。
(本当にいい町だな)
いつもと変わらない平和な町並みを横目に見ながら、ランニングの折り返し地点である河川敷に向かう。
河川敷に到着すると、高架下で怨枷滔滔を維持したまま足を重点的に鍛え始める。
1:ヒロアカ陰陽師
こんばんは!近況報告してもいいですか?
2:名無しの転生者
お!イッチだ!
3:名無しの転生者
こんばんはってことはそっちは夜か。
4:ヒロアカ陰陽師
そうです。
最近寒くなってきたので、日が落ちるのが早いんですよね。
5:縁柱ドンモモタロウ
もうすぐ冬かな?
風邪ひかないように気をつけろよ。
6:竜舞ガブ
あれからほぼ毎日、近況報告ご苦労さん。
どや?なんか変わったことあったか?
7:ヒロアカ陰陽師
いえ、今日も平和です。
あ、そういえば……最近鳴羽田の方で大きな事件があったみたいです。
8:名無しの転生者
鳴羽田……ヴィジランテか!
9:竜舞ガブ
今、イッチが11歳で小六ってことは……。
10:レジェンドプロデューサー
イッチはヒロアカの主人公たちと同い年の可能性が高まったな。
11:名無しの転生者
おぉ!
12:聖剣使いのプロブレーダー
長らく不明だったけど、イッチがどのタイミングで転生したかやっとわかったな。
13:ペンギンストライカー
ということは……より強くならないといけませんね。
14:レジェンドプロデューサー
そうだな。
イッチはヒーローを目指しているんだろ、志望校は決めているか?
15:ヒロアカ陰陽師
聖がどうせ行くなら1番が良いとの事で、雄英を考えています。
俺も行くなら雄英が良いと思っていたので、ナイスタイミングでした。
16:レジェンドプロデューサー
なるほどな。
雄英高校ヒーロー科の入試は倍率約300倍だ。
“個性”の特訓もいいが勉強もしっかりな。
17:名無しの転生者
受験生約1万に対してヒーロー科2クラス38人だもんなぁ。
18:竜舞ガブ
改めてやけど……めちゃくちゃな数字やな。
19:聖剣使いのプロブレーダー
狭き門すぎるだろ……。
20:ヒロアカ陰陽師
わかってたことです。
ニュースでも、毎年雄英の受験は取り上げられてますから……それでも俺は行きます!
21:名無しの転生者
イッチ!
22:名無しの転生者
可愛い新人が……立派になったなぁ。
23:縁柱ドンモモタロウ
イッチがそっちの世界に転生して8年。
大きくなったなぁ……。
24:名無しの転生者
完全におじいちゃんで草。
25:縁柱ドンモモタロウ
おじいちゃんちゃうわ!!
まだ25や!!
26:名無しの転生者
その時代で25歳は、爺はまだでも十分おじさんじゃ……。
27:縁柱ドンモモタロウ
やめて!!
せっかく生き残ったのにそんなこと言わないで!!?
28:レジェンドプロデューサー
まぁまぁ落ち着け。
ここにいる奴らは体はともかく、精神はとっくにおじさんだ。
29:名無しの転生者
グッ!?
30:名無しの転生者
ゴハッ!?
31:竜舞ガブ
こうかは ︎︎ばつぐんだ!
32:聖剣使いのプロブレーダー
ウッ!?
33:ヒロアカ陰陽師
……死屍累々だぁ。
34:名無しの転生者
いきなり範囲攻撃はルール違反っすよね
35:レジェンドプロデューサー
まぁぶっちゃけると俺もダメージ受けてる。
36:竜舞ガブ
なんで言ったんや。
37:レジェンドプロデューサー
なんか強いられて?
38:名無しの転生者
レジェンドニキもボケるんだ……。
39:名無しの転生者
なんつーかシュールだな。
40:ヒロアカ陰陽師
それで入試なんですけど……。
41:名無しの転生者
そうだったそうだった。
42:名無しの転生者
気を抜くとすぐに脱線しちまう、俺たちの悪い癖が出たな。
43:竜舞ガブ
それで入試がどないしたんや?
今のイッチなら戦闘面は大丈夫やと思うけど?
44:名無しの転生者
筆記はともかく、実技は余裕じゃない?
45:ヒロアカ陰陽師
まだ十二天将は使えませんが、式神なら使えるんじゃないかと思いまして。
46:竜舞ガブ
なるほどな。
強力な力を持つ十二天将は無理でも、十分に修行を詰んだイッチなら式神は扱えるかもな。
47:ペンギンストライカー
実際、かなり有用ですしね。
48:ヒロアカ陰陽師
ペンギンニキやガブリアスニキに教えてもらった、呪装や陰陽術の他に式神についても軽く説明されたんですが、当時は他を優先していたので改めて教えていただけるとありがたいです。
49:竜舞ガブ
ええで!
式神は陰陽師の呪力で使役する霊的な存在や。
身の回りの世話をしてもらうお手伝いさんとか、一緒に戦うパートナーとかその役割は様々や。
50:ペンギンストライカー
式神を扱う技術を作中では“式神使役”と呼んでいますね。
51:名無しの転生者
ほぉーんアイルーとかともだち妖怪みたいなもんか。
52:竜舞ガブ
なんでそこでポケモンがないねん。
まぁええわ、“式神使役”にはいくつかのステップがあるんや。
まずその1!式神の想像や!
53:名無しの転生者
それはそうでしょうね。
54:竜舞ガブ
式神の想像に最も重要なものは、ズバリ想像力や!
どんな姿にするか、どういう役割を求めるのか。
戦闘で共に戦う仲間か、癒しを与えてくれる家族か……イッチの想像次第で式神のバリエーションは無限にあるで。
55:ヒロアカ陰陽師
なるほど……俺の想像次第でどんな姿にも能力にもなる。
難しくないですか?
56:竜舞ガブ
あんまり、ピンとこうへんなら簡単な例を挙げよか。
自分自身を式神にしたり、虫とか動物とかで考えたら、イッチが必要としている形が想像しやすいんとちゃうか。
57:ヒロアカ陰陽師
確かにそれなら役割がはっきりして、想像しやすいです!
58:竜舞ガブ
せやろ!
そんじゃ次はステップ2や!
式神を使った戦い方についてやな。
59:ヒロアカ陰陽師
よろしくお願いします!
60:竜舞ガブ
大きく分けて2つや!
1つは、シンプルに助っ人として一緒に戦う方法や。
これには式神に確立した自我が必要やし、一緒戦うための訓練が必要になるけど、それさえクリア出来れば戦闘において数の有利が取れる。
61:名無しの転生者
確かに式神によっちゃ数の有利どころか、飛行能力とか持ってるだけでも相手からしたら厄介だもんな。
62:竜舞ガブ
もう1つ……式神を武器に呪装する“式神呪装”。
十二天将の呪装もこれと同じ原理やな。
63:名無しの転生者
“式神呪装”なんかかっこいい!
64:名無しの転生者
自分だけのオリジナル呪装みたいなもんか……ロマンあるな。
65:竜舞ガブ
当然、自分の式神が強ければ強いほど扱いは難しいけど、使いこなせれば必殺技級の力になるで!
66:ヒロアカ陰陽師
俺!頑張ります!
67:名無しの転生者
イッチなら案外簡単にできたりしてな。
68:名無しの転生者
そうそう。
それよりも筆記は大丈夫なのか?
69:ヒロアカ陰陽師
前世で嫌という程やらされていたのでそこは大丈夫です。
70:名無しの転生者
あぁ……なるほどな。
71:名無しの転生者
わかる……。
72:縁柱ドンモモタロウ
なんだ?なんだ?
73:聖剣使いのプロブレーダー
イッチは、前世で娯楽とか制限されて勉強を強要されてたんだろ?
ドンモモニキは違うみたいだから、あんまりピンときてないみたいだな。
74:縁柱ドンモモタロウ
う、うるせいやい!
人のことをバカみたいに言って!
75:聖剣使いのプロブレーダー
じゃあ試してみるか?
算数・数学ではハジキの法則というものがあるが、時間を求めるためにはどうすればいい?
76:縁柱ドンモモタロウ
…………速さ……かける……距離?
77:名無しの転生者
ドンモモニキぇ……。
78:竜舞ガブ
バカが露呈したな。
79:レジェンドプロデューサー
イッチ、前世の貯金があるとはいえ油断するなよ。
80:聖剣使いのプロブレーダー
まだ先ではありますけど受験頑張れよ。
81:縁柱ドンモモタロウ
おい!お前ら!
82:ヒロアカ陰陽師
あはは……皆さんのありがとうございます。
筆記も実技も頑張ります。
83:名無しの転生者
そういえば、イッチは今何してるんだ?
84:名無しの転生者
勉強中?
85:ヒロアカ陰陽師
いえ、夕ご飯前の自主トレです。
施設から少し離れた河川敷までランニングした後、下半身中心に筋トレしてます。
86:名無しの転生者
凄いなぁ……素直に尊敬するわ。
87:名無しの転生者
それな。
俺もイッチみたいに頑張らなあかんよなぁ。
88:ヒロアカ陰陽師
いえいえ、俺は前世から慣れてるってだけなんで、自分のペースでいいと思いますよ。
89:名無しの転生者
ええ子や。
90:竜舞ガブ
自主トレといえば……あの呪装使ってるんか?
91:名無しの転生者
あの呪装?
92:ヒロアカ陰陽師
怨枷滔滔ですね。
使ってますよ、今は二倍の負荷をかけてます。
93:名無しの転生者
ドラゴンボールの重力部屋みたいな感じか。
94:竜舞ガブ
そうや、絶門符 怨枷滔滔は修行用の呪装やな。
荷重をかけて筋力と呪力を強化をはかるんや。
95:名無しの転生者
そんなものまであるんだ。
96:竜舞ガブ
それにしても怨枷滔滔かぁ……こういう目立てへん呪装も好きやわぁ。
97:名無しの転生者
ガブリアスニキがまた感動してるぞ。
98:名無しの転生者
いつものことだろ。
99:ヒロアカ陰陽師
あはは……。
そろそろ自主トレを切り上げて帰ります。
一旦落ちますね、お疲れ様です。
100:名無しの転生者
オツカーレ!
脳内の転生者掲示板から現実に意識を戻すと、俺は施設まで走って戻る。
スレ内で会話していても、現実でトレーニングは続けていたのでいい感じに体が悲鳴を上げている。
(とりあえず、今後は通常のトレーニングに加えて“式神使役”の時間も作らないといけないな。国内最高峰だけあって偏差値も高いし、勉強の方もしっかり復習しないとなぁ)
ランニングで施設に戻る道中、俺は約3年後の受験に向けてのプランを立てる。
やることが多くて、少し頭がクラクラするが約束のためにと自分を鼓舞する。
「ただいま!」
施設に戻ると、玄関の扉を開けて帰ってきたことを知らせる。
施設はやけに静かだった。