呪力は呪力でも呪力かよ!? 作:パンツ男
「ただいま!」
自主トレから帰ると、施設がやけに静かだった。
今の時間なら、食堂で男子たちが今晩のおかずの大きさで揉めているはずだ。
今日はハンバーグだと言っていたし、いつも以上に盛り上がっていると思っていた。
「皆?」
静かな施設の中を警戒しながら歩いていく。
一階にある食堂は、玄関からまっすぐ右に進むと一番奥にある。
︎︎あの誘拐事件から、常に霊符を持ち歩くようにしていて正解だった、いつでも取り出せるように懐に手を伸ばしておく。
廊下を歩きながら脳内スレにこのことを知らせようとした瞬間だった。
二階に続く階段から、何かがこちらに向かって飛びかかってきた。
101:転生者掲示板
緊急事態により強制的にLIVEモードに切り替えます。
102:名無しの転生者
なんだなんだ!?
103:名無しの転生者
イッチどうした!?
104:レジェンドプロデューサー
お前たち落ち着け!
105:竜舞ガブ
イッチが襲われとんのか?
「なんだよお前!」
『ァ……ゥオ……ィ!!』
「来るな!」
︎︎肥大化した灰色の肉体の怪物は、叫びながら俺を襲う。
︎︎スレの内容を確認しようにも難しく避けるのに精一杯だ。
「デカイくせに速いな!」
︎︎怪物の攻撃を避けていると、奴の口に何か付いていることに気づく。
「お前ェ!職員さんに何したんだァ!!」
︎︎怪物が職員さんを襲ったと理解した俺は、腕に砕岩獅子を呪装して顔面を殴り飛ばした。
『ァッ!?……ウゥ』
「お前ェッ!!」
107:竜舞ガブ
イッチッ!!そいつ殺すなァ!!!
「ッ!?」
︎︎脳内スレでガブリアスニキが叫ぶ。
︎︎声は聞こえないが、レスから必死さが伝わり頭が冷える。
「
︎︎詠唱と共に術を使用する。
︎︎呪力で形成された巨大な五寸釘が怪物の手足を貫き床に固定する。
『アァッ!!』
︎︎怪物は痛みに体を動かすが、手足が固定されたせいで思うように動けず、体を壁に何度もぶつける。
「……!?」
︎︎もがく怪物を見ていると、なんとなく
109:名無しの転生者
なぁ……やっぱりコイツって……。
110:名無しの転生者
マジかよ……。
111:竜舞ガブ
脳無や……。
「脳無?」
『ァ……ゥエ……ェ…………』
︎︎怪物は先程の勢いが嘘のように衰弱していく。
︎︎ガブリアスニキが言った脳無について聞く前に、目の前の怪物が弱々しく声を出した。
『アゥ……エェ……アゥ……ォ……ィ……』
「ッ!?」
113:名無しの転生者
なぁ……この脳無……。
114:名無しの転生者
やめろ!
……絶対にそんなこと言うな!
115:レジェンドプロデューサー
ガブリアスニキ……。
116:竜舞ガブ
イッチ……落ち着いて聞いてくれ…………その脳無は……。
「……」
︎︎ガブリアスニキが俺に真実を伝えようとする。
「……嫌だ……やめてくれ……」
︎︎この状況、嫌でも想像がつく。
『
︎︎今、俺の目の前で弱っているこの脳無が俺の家族だなんて。
「十二天将……力を貸してくれよ……こいつを元に戻してくれよ」
︎︎縋るように懐から取り出した十二天将の霊符に懇願する。霊符は何も反応を示さない。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」
︎︎頭が痛む。
︎︎呼吸が荒くなり、視界が安定しない。
118:名無しの転生者
イッチ!落ち着け!
119:名無しの転生者
大丈夫だから!
120:名無しの転生者
イッチ!今は他の子の安否を確認しろ!
「……そうだ……他の皆は……」
︎︎割れるように痛む頭を押さえていると、スレ民のレスで他の皆の安否が分からないことに気づく。
「……ちはやふる
「……絶対助けるから…………ごめん」
︎︎これ以上暴れないように突き刺した呪力の釘を消し、結界に閉じ込める。
︎︎暴力をふるってしまったことを家族に謝罪して、俺は廊下を走り出した。
122:名無しの転生者
イッチ、ヤケになるなよ……きっと皆助かるからさ!
123:名無しの転生者
そうだぜ!
124:竜舞ガブ
イッチ……。
125:レジェンドプロデューサー
下手な慰めはやめろ。
126:名無しの転生者
なんでだよ!?
127:竜舞ガブ
それで!!あの子は元に戻るんか!?
下手な希望は……かえって人を傷つけるんやぞ。
128:名無しの転生者
……。
129:名無しの転生者
……。
130:名無しの転生者
……。
「……ッ」
︎︎ガブリアスニキのレスが心に刺さる。
︎︎わかっていた……元に戻すなんて言ってもそれが不可能なことぐらい……わかっていたんだ。
︎︎でも、諦めたくない……ほんの僅かな可能性に縋りたいんだ。
「きゃああ!!」
︎︎上の方から悲鳴が聞こえた。
︎︎俺は一人でも多く助けるため痛む胸を押さえながら、悲鳴の元へ急いだ。
131:名無しの転生者
……なんとかならんのか。
132:名無しの転生者
他の転生者に頼ることはできへんのか!?
133:レジェンドプロデューサー
……この状況を何とかできる奴はいるだろうな。
だが、この程度で世界を移動することはできないだろうな。
134:名無しの転生者
そんな……何とかできないのかよ。
135:レジェンドプロデューサー
……他の世界に影響が及ぶ場合のみ……俺やあの人みたいな世界を移動できる転生特典持ちを通じて移動することができる。
この状況が他の世界に影響を与えると思うか?……そういうことだ。
136:名無しの転生者
クソッ!!
137:名無しの転生者
なんでイッチがこんな目に遭うんだよ!!
138:竜舞ガブ
……あれから毎日、気にかけとったのに……なんでやねん!なんで俺はッ……!!
139:名無しの転生者
ガブリアスニキ……。
︎︎急いで階段を駆け上がると、廊下で変わり果てた家族がかぐやちゃんを襲っていた。
「七難即滅 七里離星……喼急如律令!」
︎︎家族を結界に閉じ込め、かぐやちゃんの前に立つ。
「大丈夫!?」
「う、うん……」
「……怪我治すよ……アビラウンケンソワカ アビラウンケンソワカ アビラウンケンソワカ……」
︎︎左腕を隠すように押さえるかぐやちゃんの額から血が出ていたので、回復の術を使う。
︎︎優しい光が額を照らし、傷が塞がっていく。
「……これで大丈夫だと思うけど……何があったか教えてくれる?」
「うん……」
︎︎怪我を治すと、俺が自主トレで外に出ていた間に何が起こったのか、かぐやちゃんに話を聞いた。
「夕ご飯の準備をしてたらね……あの時みたいに急に眠くなったの」
「……それで?」
「起きたら、講堂にいて最初はなんともなかったんだけど……急にかずくんが苦しみ出したの」
「……」
「そしたら皆がパニックになって泣いたり叫んだりして……助けを呼んだの…………そしたら…………」
「かずくんが化け物になったの」
「ッ!?」
「化け物になったかずくんが皆を襲い始めて、聖と神居が私たちを逃がしてくれたんだけど……外に向かう途中で何人も化け物に変わっていって……」
「そっか……とりあえずここから離れよう!まだ無事な人がいるかも!」
︎︎俺はかぐやちゃんの腕を引っ張り、近くの部屋に入った。
140:名無しの転生者
……この子は無事やったみたいやな。
141:竜舞ガブ
……そうやとええな。
142:名無しの転生者
そんな言い方!
143:ペンギンストライカー
……彼女の発言から、イッチ以外の施設の子は脳無に変貌する可能性があります。
彼女もおそらく……。
144:名無しの転生者
ペンギンニキまで……!
︎スレの内容に目を背けた俺は、扉の鍵を閉めてかぐやちゃんの隣に座る。
「ここなら……しばらくは身を隠せそうだね」
「……」
「かぐやちゃん?」
︎︎うずくまってしまったかぐやちゃんを心配して顔を覗き込む。
「やめて!!」
「うわっ!?」
︎︎いきなりかぐやちゃんに突き飛ばされた、︎いつもより力が強くタンスに背中をぶつけてしまう。
「あ……ご、ごめん」
「だ、大丈夫だよ……ッ!?」
︎︎痛む背中をさすりながら顔をあげる。
︎︎かぐやちゃんを不安にさせないよう明るく振舞おうとした……彼女の姿を見るまでは。
146:名無しの転生者
マジかよ……。
147:名無しの転生者
こんなことあっていいはずがないだろ……。
︎︎かぐやちゃんの左腕から左頬にかけて、液体のようなものが体を形成していた。
「……か、ぐや……ちゃん?」
「ごめんね……私もそろそろ限界みたい」
「諦めちゃだめだよ……きっと助かる方法があるからさ!」
「ありがとう……でもね、私のことは私が一番わかってる」
︎︎俺が諦めるなと声をかけても、彼女は何かを悟ったように笑みを浮かべて首を横に振る。
︎︎俺は無意識に懐に入れていた霊符を握りしめる。
「嫌だ……嫌だよ…………なぁ十二天将ッ!お前ら凄い式神なんだろ!?……頼む……頼むから…………皆を助けてくれよ……」
︎︎クシャクシャになった顕符にもう一度懇願するも、十二天将は応えない。
︎︎頭が割れるように痛む、鼓動が不規則になり苦しくなる。
「晴臣くん……これ渡しておくね」
「え?……なにを……?」
︎︎かぐやちゃんは俺の手に何かを握らせた。
︎︎それはケースのようなものだった。
「晴臣くんの“個性”は……お札を使ってるでしょ?……いつも取り出す時に……苦労してそうだったから……皆でお小遣い出して……作ったんだ」
「かぐやちゃん……」
「私たちが人間じゃなくなったら……渡せないから……もう、少しで誕生日でしょ?」
「……」
「泣かないでよ…………誕生日おめでとう……晴臣くん」
︎︎明らかに無理をして笑っているかぐやちゃんを見て、ケースを強く抱きしめる。
︎︎皆からのプレゼントに胸が暖かくなるのと、この絶望的な状況に感情がぐちゃぐちゃになる。
149:名無しの転生者
……。
150:名無しの転生者
……。
︎︎自分じゃ制御できない感情に涙を流していると、かぐやちゃんは右腕を伸ばして僕の頬に触れた。
︎︎かぐやちゃんの温もりを感じて顔を上げる、彼女は恐怖を押し殺して微笑んでいた。
「……ねぇ……晴臣くん」
︎︎微笑んでいたかぐやちゃんが、真面目な顔で少し震えながら口を開いた。
「な、なに……?」
「……私を……殺して」
「は……?」
「私が……人でいるうちに……殺して欲しいの」
「出来るわけないだろッ!」
「わかってる……酷いことを頼んでるってわかってる……」
「ッ!」
「でも……でもッ!」
︎︎かぐやちゃんが今まで聞いたこともないような大声で叫んだ。彼女がどれだけ苦しんでいるのか痛いほど伝わってきた。
「晴臣くん……私、化け物になりたくないの……」
「が、かぐや……ぢゃん……」
「お願い……」
152:名無しの転生者
イッチ!!やめろ!!
153:名無しの転生者
イッチ!!ダメだ!!
154:名無しの転生者
イッチ!!止まれ!!
「助げられ、なぐて……ごめん………」
「ううん……晴臣くんは……謝らなくていいよ……」
「……プレ、ゼント…………ありがとう……」
︎︎十二天将は当てにならない、これ以上ここで押し問答を続けていてもかぐやちゃんは化け物になる。
︎︎俺は覚悟を決めた。ゆっくりと彼女の心臓に手を伸ばす。
「かぐやちゃん……」
︎︎胸に手を置いた俺は、痛みを感じないようになるべく楽に逝けるように呪力を操作する。
︎︎“個性”が発現してから8年、一生懸命に鍛えてきた結果がこれかと俺は唇を噛んだ。
「俺のこと……恨んでくれ……」
「晴臣くん…………好きだよ」
156:転生者掲示板
ヒロアカ陰陽師の要請により、LIVEモードを終了します。
157:名無しの転生者
イッチ……。
158:名無しの転生者
……。
159:竜舞ガブ
なんでやねん……ッ!なんでやねんッ!!
︎︎泥のように重い体を引きずって施設の中を歩く。
『アァ……ゥオ……ィ!!』
「……」
︎︎誰かが火を放ったのか、それとも化け物になった家族が暴れたのか、施設は火の海になっていた。
︎︎この状況ならあと数分もすれば、消防やヒーローがやって来るだろう。
「……」
『ッ……アィ、ァ……ォ』
︎︎この火事で死ぬのか、ヒーローに捕まって牢屋に入れられるか、医療施設で体を弄られて死ぬのか………案外、説明すれば生かしてはくれるかもしれないが、結局生き地獄には変わらないだろう。
︎︎一度、殺しを選択した俺に迷いはなかった。
︎︎殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺した。
「お前ら……頑張ったんだな」
︎︎肌の焼ける感触と、返り血の不快感、家族に手をかけた罪悪感、色んなものを背負って講堂に辿り着いた。
︎︎目の前には、痩せた長身の化け物と中肉中背の筋肉質な化け物がいた。
「聖……神居……」
︎︎長身の方は片腕を失い、筋肉質の方は片脚がなかった。聖と神居の二人が、皆を逃がすために化け物になった子と戦ったとかぐやちゃんが言っていた。
「今……楽にしてやるからな」
︎︎食堂で手に入れたナイフに呪装し二人に向かって走り出した。
357:ヒロアカ陰陽師
……皆さんいますか?
358:名無しの転生者
イッチ!!
359:聖剣使いのプロブレーダー
その大丈夫か……?
360:縁柱ドンモモタロウ
お、俺たちになんでも言えよ?……な?
361:ヒロアカ陰陽師
皆さんは、今日のこと知ってたんですか?
362:名無しの転生者
……。
363:竜舞ガブ
知っとった。
364:縁柱ドンモモタロウ
ちょッ!?ガブリアスニキ!?
365:ヒロアカ陰陽師
掲示板のルールで話せなかったんですよね?
……ルールに抵触しない程度にヒントは出してくれてたんですよね?
366:竜舞ガブ
そうや。
でも、この事態を防がれへんかったのは俺らにも責任はある……抱え込むなよイッチ。
367:ヒロアカ陰陽師
責任も何も……貴方たちに非はありませんよ。
すみません色々考えます。
368:名無しの転生者
イッチ……変なこと考えたらアカンで……。
369:ヒロアカ陰陽師
しばらく、スレには顔出せそうにありません。
……ありがとうございました。
370:名無しの転生者
イッチ!!
371:転生者掲示板
このスレッドは削除されました。