呪力は呪力でも呪力かよ!?   作:パンツ男

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8スレ目

 あれから何があったかあまり覚えてない。

 二人の介錯が終わったあと、施設は跡形もなく焼け落ちて俺はその下敷きになった。

 三階から地面に落ちて無事だったのは奇跡としか言いようがないだろう、スレ民たちの話だけで見たことはないが、神はちゃんと存在するんだと思った。

 

 その奇跡が、どれだけ俺を苦しめるのか知らないくせに……。

 

 あの火事から奇跡的に生還した俺は、誰かの通報で来たであろうヒーローに発見され病院に運び込まれた。

 担架で運ばれる俺を相澤さん……イレイザー・ヘッドは、ずっと声をかけ続けてくれた。

 あの誘拐事件からちょくちょく交流があった相澤さんは、俺以外に生存者がいないことを悟り無愛想な顔を歪めていた。

 

 あの顔を忘れることはないだろう。

 

 

 あの悲劇から5日が経った。

 病院で検査、警察からの事情聴取、マスコミの心無い言葉……色々あったが、その殆どを俺は覚えていない。

 

「なんで俺だけ……」

 

 病院のベッドで俺は、自分の手を見つめてあの悲劇のことを思い出していた。

 この5日間あの時の事ばかり考えて食事も睡眠もろくに取れてない。

 

「なんでだよ……なんでだよ!!」

 

 皆の命を奪った腕を何度も殴り続ける。

 

「皆でヒーローになるってッ!!ずっと一緒だってッ!!」

 

「なんで俺だけ生きてるんだッ!!なんで俺だけ……俺だけッ!!」

 

「……なん、でだよ……なんで俺が……俺だけ、がッ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから二週間、退院した俺はあの悲劇を思い出さないように、前の施設を運営していた法人とは無縁の別の施設に移ることになった。

 

「初めまして蘆屋晴臣くん……色々大変だと思うがよろしく……儂らは君の味方じゃからな」

 

 今度の施設長は優しそうな老紳士だった。

 心に傷を負った俺を優しく迎えてくれて、ほんの少しだけ気分がマシになった。

 

 マシになってしまった。

 

 新しい施設での暮らしは俺の心の傷を僅かにだが癒してくれて、精神的に受け付けなかった食事や睡眠が取れるようになった。

 

 

 

 

 

 ……真っ暗な空間に俺はいる。

 ……暗闇の中で何かが俺の足を掴んだ。

 ……それは雛月寮で暮らしていた家族だった。

 ……瞳のない真っ暗な空洞をこちらに向けて、血だらけになった姿で俺を責める。

 

 ……なんで殺した。

 ……なんで助けてくれなかった。

 ……なんでお前だけ生きている。

 

 

 

 

 

 

「うわぁッ!!!?」

 

 罪悪感か自責の念からか俺は夢を見るようになった。

 どれだけ疲れて深い眠りに落ちても、2時間もすれば同じ夢を見て飛び起きる、それの繰り返しだ。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 気づけば、俺は入院時よりもやつれていた。

 新しい施設の職員さんや子供たちが心配してくれるが、俺は大丈夫と言い続けた。

 

「また、か……」

 

 何度も見続ける悪夢に俺は耐えきれず、施設を飛び出して雛月寮跡地に向かった。

 瓦礫の撤去中なのか立ち入り禁止になっていたが、立て札を無視して前に進む。

 

「……皆……ごめん」

 

 焼けた瓦礫に向かって手を合わせて謝る。

 許されると思ってない、許されようとも思ってない。

 ただ謝りたかった、ただ伝えたかった。

 

『人殺し……』

 

「ッ!?」

 

 声が聞きこえた。

 俺を責める皆の声が胸を突き刺していく。

 

『お前だけ……』

 

『もっと生きたかった……』

 

『なんで……なんで……』

 

「やめろ……」

 

 わかってる、この声は全部幻聴だ。

 わかってる、この声は俺の妄想に過ぎない。

 わかってる、この声は俺が楽になりたいだけだ。

 

「……やめろッ!!」

 

 自分に言い聞かせるように、俺を責める声に向けて瓦礫を蹴り飛ばした。

 

「わかってんだよ……こんなことしてもお前らは帰ってこない!お前らは生き返らない!!」

 

 怒りに任せて叫ぶ。

 それしかできない自分に酷く嫌気がさす。

 

「なにが転生者だ!なにがチートだ特典だ!!何の役にも立たねぇじゃねーかッ!!」

 

 十二天将の霊符を握り潰す、スレ民から強力な力があると教えられたのに、結局誰も助けられなかった。

 どうしようもない怒りが身を焦がしていく。

 十二天将に化け物になった皆を元に戻す力がないことぐらい、最初から知っている。

 それでも当たるしかなかった、そうしないと壊れそうだったから。

 

「はぁ……はぁ……クソッ!」

 

 ろくに睡眠が取れていない体では、すぐに限界がきて地面に倒れる。

 暴れ回ったおかげか頭が少し冷えた気がする。

 

「はぁはぁ……皆を……あんな目に合わせた奴を、ぶっ殺してやるッ……!」

 

 冷えた頭であの悲劇の元凶を推理する。

 スレ民……ガブリアスニキの反応から施設長が最も怪しい。

 身寄りのない俺たちの面倒を見てくれたあの人が、犯人だと思いたくないが、現時点で一番怪しいのは間違いない。

 

「……証拠がなけりゃ……警察も動かないわな」

 

 あの悲劇は施設で起きた火事として処理された。

 俺が警察に話した子供たちが化け物に変わったこと、そして手にかけたことをについては、火事による錯乱として真面目に取り合ってもらえなかった。

 

 今更、騒いだところで火事の影響でイカれたガキとしか見てくれないだろう。

 あの悲劇から姿をくらませた施設長がどこにいるのか、全く分からない。

 

「……あの悲劇が何かの実験だとしたら?」

 

 施設長の目的が分からないが、理由なく子供たちを化け物にするだろうか。

 化け物にした子供たちを使って、ヒーローや民間人に被害を与えなかった、だからこそ別の目的があるんじゃないかと考える。

 

「また罪のない子供を化け物にするのか?……いや、立て続けに児童養護施設で問題が起きたら、流石に警察も怪しむよな……」

 

 施設長のしっぽを掴むために俺は頭を回転させる。

 少しでも奴に近づくためにどうすればいいのか考える。

 

「なら、次化け物にするなら誰にする……いなくなってもそこまで話題にならない人物……そんなやついるのか?」

 

 あの悲劇が序章にすぎないとしたら、またどこかで誰かが化け物に変えられる。

 

「……チンピラや半グレ……」

 

 モヤついていた頭が一気に晴れる。

 そういった人達なら突然消えても周りから、特に気にされないんじゃないか?

 なら、俺のやるべき事はただ一つだ。

 

「絶対……仇をとってやる」

 

 俺は立ち上がり、今の施設へと戻る。

 やるべき事は決まった、あとは動くだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの夜から俺は変わった。

 悪夢に苛まれて眠れないなら、その時間を使って限界まで“個性”を磨こう。

 一秒も無駄にすることなく、俺は強くなるためにひたすら己を鍛え続けた。

 

「お前らの力なんていらない……俺は俺の力でこの復讐を果たしてやる」

 

 俺は、どれだけ縋っても懇願しても、助けてくれなかった十二天将を捨てた。

 ドラム缶の中で燃える霊符を睨みつけ、俺は復讐の道を歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ聞いたか?黒虎の噂」

 

「黒虎?なんだそれ?」

 

「最近、ここら辺で目撃情報があったヴィジランテだよ」

 

「ヴィジランテ?なんでそんな奴が?」

 

「夜な夜なチンピラとか半グレとかの前に現れては、容赦なくボコボコにするんだってよ」

 

「なんだよそれ……やってること通り魔じゃねぇか」

 

「気をつけろよ……お前、最近ヤベェ先輩とつるんでるだろ?」

 

「ハッ……あの人は強いんだ、通り魔程度に負けるかよ」

 

「はいはい」

 

 あの夜から2年と少し、俺は中学二年生になっていた。

 教室では、巷で噂のヴィジランテ《黒虎》についてクラスメイトが話しているのが聞こえてきた。

 

《黒虎》とは俺のことである。

 

 家族の仇である雛月寮の施設長のしっぽを掴むために、俺は昼間は中学生、夜は情報収集のためにチンピラや半グレに声をかけていた。

 姿を悟られないように虎の面をつけていたせいで、血の気の多いチンピラは、ヒーローかなにかと勘違いして襲ってくるので怪我しない程度に相手をしていたら、ヴィジランテと勘違いされた。

 

 ……あれからスレ民とは連絡を取ってない。

 自分からしばらく顔を見せないと言った手前、どんな顔をして戻ればいいか分からなくなったからだ。

 それに今の俺を見せたくない。

 

 そんなわけで、俺は今夜も《黒虎》として情報を集めるために施設を抜け出し、繁華街に向かうのだった。

 

 

 

 

 

「おい!これ見ろよ!」

 

「銅本さんなんスかこれ?」

 

「んだよ鋸……知らねぇのか?こいつは“トリガー”」

 

「“トリガー”?なんかの薬みたいッスね」

 

「“個性”を強化するブースト剤だよ」

 

 夜の繁華街、路地裏でイカつい男が昼間のクラスメイトに手に入れたヤクを見せびらかしていた。

 

 

 

「クロ……ご苦労様」

 

『カァー』

 

「さてと……行くか」

 

 最近、羽振りがいいと噂のイカつい男たちを探してくれたカラスの式神に礼を言い霊符に戻すと、俺はビルから飛び降りた。

 

「韋駄天符、轟腕符、金剛符、星動読符(せいどうどくふ)

 

 腰につけたケースから霊符を取り出し全身に呪装する。

 今の俺は同時に8つまで呪装が可能になった。

 

「飛天駿脚、砕岩獅子、鎧包業羅、来災先観(らいさいせんかん)……喼急如律令!!」

 

 

 

「コイツがあればヒーローなんか怖くねぇぜ!」

 

「流石銅本さんッスね!」

 

「おうよ!」

 

「楽しそうだなぁ……俺もまぜてくれよぉ」

 

「「ッ!?」」

 

 俺は路地裏でたむろしている銅本たちの前に現れる。

 リーダー格のイカつい男とチンピラ2人にクラスメイト1人……余裕だな。

 

「全身真っ黒な服に黒い虎の面……お前、黒虎だな!」

 

「俺もすっかり有名人だなぁ……まぁいいや、お前たちに聞きたいことがあるんだがいいかぁ?」

 

「何も答えねェよッ!!」

 

「落ち着けよぉ……まだ何もしてないだろぉ?」

 

「お前が俺の仲間やったことは知ってんだよ!お前らコイツをぶっ殺すぞ!!」

 

「「うっす!」」

 

「元気だなぁ……」

 

 この前潰したチンピラグループは、目の前にいるイカつい男……銅本の仲間だったみたいで、俺を見るなり激昂した。

 銅本はチンピラ2人に命令して俺を襲わせる。

 

「遅せぇ」

 

「うッ!?」

 

「グハッ!?」

 

 掌から棘を出す“個性”と腕を一回り大きくする“個性”を持った二人が向かってきたが、呪装している俺の相手ではない。

 攻撃をひらりと躱して腹を殴り、簡単に沈めることができた。

 

「クソが!」

 

「ど、銅本さん!?」

 

「へっ……お前相手に使うとは思わなかったが……」

 

 一瞬でチンピラ2人を倒した俺にクラスメイトはビビり、銅本は悪態をついた。

 

「……やめとけよぉ……意味ねぇから」

 

「ぶっ殺す!!」

 

 銅本は“トリガー”を使い“個性”を強化した。銅本の体は銅のようなものに変化し、一回りほど大きくなる。

 

「当たんねぇよ……ほらよぉ!」

 

 体が大きくなったからか、銅本の動きは遅く簡単に攻撃を回避できた。

 お返しに鳩尾に呪装した腕で拳を食らわせたが、ブーストした影響か大してダメージはないようだ。

 

「効かねェよ!」

 

「そうか……だったら」

 

 銅本は俺の攻撃が効かなかったことに笑う。

 俺は冷静に腰のケースから新たな霊符を取り出した。

 

邪爪顕符(じゃそうげんぷ) 黒煉手甲(こくれんしゅこう)……喼急如律令」

 

 手袋に呪装すると、黒く鋭い爪が路地裏に差し込むネオンに照らされる。

 

「硬いんだろ?ならちょうどいいなぁ!」

 

「は、速ェッ!?」

 

 飛天駿脚で強化した脚力で銅本の懐に潜り込むと、腕を振るい爪で切り裂いた。

 もちろん殺すつもりはないので、気絶する程度に手加減はした。

 

「……さてと、残るはお前だけだなぁ」

 

「あ、あぁ……」

 

「安心しろぉ……命までは取らねぇよ、俺の質問に答えてくれたらなぁ」

 

「な、なんでも話す!!だから殺さないでくれェ!!」

 

「はぁ……殺さねぇよ……ここ最近、半グレとかチンピラが姿を見せなくなった的な話は聞いたことあるか?」

 

「な、ない……お、お前が……黒虎が倒したって話だけだ!」

 

「そうか……なら、治験とかのバイトに誘われたヤツとかいないかぁ?」

 

「い、いない……銅本さんもそんなバイトの話はしなかった……!」

 

「ハズレか……もう帰っていいぞぉ」

 

 俺はクラスメイトの話を聞いて今回も当てが外れたとため息をつく。

 

「こ、殺さないのか?」

 

「俺は殺人鬼じゃねぇ……お前もこんなヤツらとつるむのはもうやめろぉ……ガキは家帰ってクソして寝ろぉ!」

 

「は、はいぃ!すみませんでしたぁ!!」

 

 クラスメイトに自分のことを棚に上げて説教した俺は、ビルの壁を伝って屋上に登るとその場を離れた。現在、世話になっている施設『星火寮(せいかりょう)』に帰る道の途中で、公衆電話を使って警察にさっきの銅本たちのことを通報しておく。

 

 施設に帰ると、他の人たちを起こさないように自室に戻る。前の施設じゃ六人部屋だったが、俺も中学生ということで個室を与えられた。

 今の活動をするにあって本当に良かった。

 

 自室に入ると結界を張り外に音が漏れないようにする。

 

「……今日もダメだったか……いつになったら見つかるんだろうな」

 

 あの悲劇の元凶に復讐するため、約2年地道にやってきたが今のところ成果はなし、それどころか《黒虎》の噂を聞きつけて泊をつけるために襲ってくる輩まで現れ始めた。

 

「……何やってんだろうな」

 

 ベッドに体を預けて虎の面を外す。

 

「……酷い顔だなぁ」

 

 模様も何もない黒の虎の面に映る俺の顔を見て自嘲気味に笑う。

 ろくに眠れていないせいで、目の下には酷いクマができていた。

 

『ちゃんと寝ないと体壊しちゃうよ』

 

『ひっでぇクマだな!うん!酷すぎな!』

 

『……』

 

『眠れないなら私と一緒に寝よ?』

 

「やめろ……それは幻想(ゆめ)だ」

 

 部屋の隅の方から懐かしい声が聞こえる。

 当然、そこには誰もいない。

 

「人殺しのくせに……都合のいい幻想(ゆめ)見てんじゃねぇよ……」

 

 苛立ちからか仮面を隅に投げつける。

 懐かしい声は聞こえなくなった。

 

「……」

 

 また悪夢に苛まれる時間がやってくる。

 それでも体を癒すために俺は目を瞑った。

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