呪力は呪力でも呪力かよ!?   作:パンツ男

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「今日もダメか……」

 

 この世界に転生して11年。

 俺はもうすぐ中学3年生になるところだ。

《黒虎》としての結構活動してきたが、依然として収穫はなし。

 ダメ元で雛月寮の施設長の名前をネットで調べてみたが、行方不明となっていた。

 

「……」

 

 ついでに雛月寮を運営していた理事長についても調べてみたが、どれだけ探っても俺が得られる情報では、あの悲劇を起こすような人物ではないということくらいしか分からなかった。

 だからこそ、逆に怪しく感じてしまう。

 

「殻木球大……コイツが裏で手引きしていたとしても、今の俺の立場じゃ何も出来ないか……」

 

 行方不明になった施設長は何らかの理由で、裏にいる殻木球大によって消された。

 そう考えると辻褄が合うが、今の状況が変わることは無い。

 

「ぶっ殺すだけなら……できるかもなぁ……」

 

 蛇腔総合病院……ここに乗り込んで殻木球大を殺すだけならできるかもしれない。

 でも、それで皆の仇を取った言えるだろうか。

 

「家族の人生めちゃくちゃにしたんだ……絶対後悔させてやる」

 

 殺して終わり……そんな簡単に許せるわけがない、老い先短い老人だろうが関係ない、社会的にもどん底に叩き落として、残りの人生を皆への謝罪に捧げてもらう。

 

「……」

 

 不意に壁に掛けていた虎の面と目が合う。

 虎の面にはなんの模様も無いはずなのに、目が合ったと錯覚する程に俺を見ていた。

 

「そんな目をするなッ!!」

 

 虎の面が訴えかけてくる。

 皆を復讐の大義名分にするのをやめろ。

 皆が復讐を望んでないことくらいもうわかっているだろうと。

 

「わかってんだよッ!復讐なんて意味がないことくらいッ!!」

 

 虎の面……に映る俺の姿に向かって叫ぶ。

 

「わかってるさッ!!こんなことしたって皆は帰ってこないッ!!皆はもう戻らないんだッ!!」

 

 もう限界だった。

 

 あの日から復讐を理由にしないと生きていけなかった。

 皆を殺して自分だけ生き残って、罪の意識で押しつぶされそうになって、生きるための理由が欲しくなって、復讐を選んだ。

 

「誰か助けてくれよ……」

 

 俺の声は結界を張った自室に静かに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はまた夜の街に出る。

 結局、他に生き方が見つからず、名ばかりの復讐に逃げてしまう。

 生きる理由なんてないが、死ぬ理由もない。

 どうしようもないイライラをチンピラや半グレを殴ることで発散するしか無くなってしまった。

 

「……何やってんだろうな」

 

 きっかけさえあれば敵になるかもしれない。

 そんな精神状態の中、俺は港の倉庫に向かっている。

 

「クロ……偵察頼む」

 

 目的の倉庫が僅かに視界に入ると、立ち止まり腰のケースから霊符を取り出すと式神を召喚する。

 

『カァー!』

 

「お前は元気だなぁ……行ってこい」

 

『カァーッ!』

 

 ボロボロの精神状態の俺が、生み出したのか疑問に思うくらい元気に俺の周りを旋回するカラス型の式神は、肩に止まり俺の頬に顔を擦り寄せた後、倉庫に向かって飛び立った。

 

「さてと……俺も行くかぁ」

 

 黒のアウターについたフードを被る。アウターに隠していた虎の面を装着すると、裏面に付けていた霊符が式神(クロ)の視界と同期する。

 

「韋駄天符、轟腕符、金剛符、星動読符」

 

 毎回使っている霊符を放り投げて体に呪装していく。

 

「飛天駿脚、砕岩獅子、鎧包業羅、来災先観……喼急如律令!」

 

 スムーズに全身に呪装すると、クロと同期した面を通して倉庫周辺の様子を確認する。

 

「……結構集まってんなぁ」

 

 倉庫の中やその周りには百人以上のチンピラや半グレが集まっていた。コイツらは《黒虎()》にやられた借りを返すためや仲間の仇を取るために、決起集会を行うらしい。

 

「ん?」

 

 倉庫の中で柱に縛り付けられている女子がいた。

 見たところ俺と同じくらいの年齢だろうか。

 

「なんだぁ?」

 

 なんで捕まってるのかは分からないが、面倒なことになりそうな予感がしてため息が出る。

 

「仕方ねぇなぁ……」

 

 俺は倉庫に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへ……こんだけ集まりゃアイツもタダじゃすまないだろうな!」

 

「塀に入れられた兄貴の仇取ってやる!」

 

「コイツどうするんだ?」

 

「黒虎の人質にすればいいだろ?」

 

「……にしても透明人間とはなぁ」

 

「終わったらどうするよ」

 

「そりゃあな!」

 

 倉庫内では柄の悪い男の人たちが、ゲスな笑みを浮かべて騒いでいる。

 

(……誰か……助けて)

 

 柱に縛り付けられた私は、逃げることもできず怯えることしかできなかった。雄英の入試を見据えて通っていた塾の帰りに、路地裏で怪しい男の人が話しているのを聞いてしまって、正義感と好奇心で後をつけてしまった。

 

(お父さん……お母さん……)

 

 倉庫に近づくと、沢山の男の人が集まっていた。

 物陰に隠れて話を聞いていると、《黒虎》って人に仕返しをするためにここに集まったらしい。

 私は警察に通報しようとスマホを取り出した。

 タイミングが悪く、帰りを心配した母から電話が鳴り私は見つかってしまった。

 

(誰か……)

 

 なんであんなことしたんだろうと私は後悔している。

 私の“個性”は“透明化”、体が透明なだけで身体能力も上がらないし、炎とかレーザーとかも出せない。

 でも、他人に見つからないのは私だけのアドバンテージだと思った、だから雄英を受けようと思ったし努力してた。

 

(……私……全然ダメじゃん……)

 

 男の人たちに見つかって何も出来ず拘束されてしまった。

 この人たちが狙っている《黒虎》って人の人質に利用されてしまった。

 

(私……どうなるんだろ…… )

 

「おい!コイツ泣いてるんじゃないか?」

 

「ハハッ!見えねーよ!バーカ!」

 

「そりゃそうだ!」

 

 私のすすり声が聞こえたのか、男の人たちは笑った。

 笑い声は伝播していき、倉庫内に響き渡る。

 

「随分と楽しそうだなぁ……何かいい事でもあったのかぁ?」

 

 一瞬にして倉庫内が静かになった。

 

 倉庫の入口に、月光に照らされた黒い虎の面をつけた男性が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倉庫内は喧しかった。

 女の子を人質にして、百人ちょっと集まっただけで勝った気になっている雑魚共は有頂天になっていた。

 

「随分と楽しそうだなぁ……何かいいことでもあったのかぁ?」

 

 浮かれていたのかろくな警戒もせずに、俺の侵入を許してる時点でコイツらの実力はお粗末なものだとわかる。

 

「お、お前は黒虎!!い、いつの間に!?」

 

「周囲の確認もできてないようじゃ……俺を倒すなんて夢のまた夢だなぁ」

 

「う、うるせぇ!あれが見えねぇのかッ!!変なことしたらアイツぶっ殺すぞ!!」

 

 チンピラの一人が柱に縛り付けられている女の子を指さして叫ぶ。

 クロの視界と同期していた時は、姿がはっきりと見えていたが、肉眼(仮面越し)だと服が浮いているだけにしか見えない。透明になる“個性”か?

 

「七難即滅 七里即星……喼急如律令」

 

「な、なんだこれ!?」

 

「どうなってんだッ!?」

 

 柱と女の子を結界で覆い、チンピラ共の攻撃やこれから始まる戦闘で怪我をしないように守る。

 

「お前……発動型と変形型の複合じゃないのかッ!?」

 

「お前ら程度に手の内全部晒すようなヘマするかよぉ……つーか全力を出すほどでもないからなぁ」

 

「ッ!?……だったらこれはどうだッ!!」

 

 人質が意味をなさなくたったチンピラ共は懐から、何かを取り出した。

 

「トリガー……しかも結構な数を用意したみたいだなぁ」

 

「これさえあればお前をぶっ殺せる!!」

 

 チンピラ共は首にシリンダーを刺し中の薬を注入する。

 

「確かに……この数のブーストした“個性”相手は苦労しそうだなぁ」

 

「苦労ゥ!?違ぇよォ!!ここで死ぬんだよォ!!!」

 

「……クロ、あれやるぞ」

 

『カァッ!!』

 

 俺の声に反応して倉庫の窓を破り突入してきたカラス型の式神は、懐から取り出した木製の短剣に止まる。

 俺は新たな霊符を取り出してその名を唱える。

 

黒翼仇刃(こくよくきゅうじん)!喼急如律令!!」

 

 式神を短剣に呪装する。

 

「式神呪装……黒鳥魔鏡(こくちょうまきょう)!」

 

 光とともに短剣はその形を変えていく。

 光が消えると、黒曜石のような刃が特徴的な短剣がその姿を見せる。

 

「さてと……やるかぁ」

 

 短剣を振り感触を確かめた俺は、チンピラ共に向かって走り出した。

 

「く、来るぞ!!やっちまえ!!」

 

 チンピラ共は向かってくる俺に攻撃を仕掛けてくるが、フェイントもない馬鹿正直な拳は簡単に避けることができた。

 

「当たらねェ!?」

 

「大雑把なんだよぉ」

 

「グッ!?」

 

 強化した腕力で目の前のチンピラを殴り飛ばして気絶させる。

 

「遠距離持ち!!コイツを撃てェ!!」

 

 チンピラの一人が叫ぶ、遠距離攻撃ができる“個性”持ちが、棘や岩や金属のような玉を飛ばしてくる。

 俺は短剣を構えると、飛んできた攻撃を全て刃で弾くことで防御する。

 

「なんで当たらないんだよ!」

 

「おい!コッチに向けるなッ!当たるだろうが!!」

 

「うるせぇ!!そこにいるお前が悪いんだろうが!!」

 

「グハッ!?」

 

「連携もロクにできてねぇなぁ」

 

 遠距離攻撃を防御し、次の攻撃までの間にチンピラ共が固まっている場所に移動し、殴って気絶させる。

 俺がチンピラ共と近い位置にいるので、遠距離攻撃が仲間にも当たり連携が乱れる。

 

「く、来るなッ!?」

 

「ヒィッ!や、やめてくれッ!?」

 

「だったら最初からこんなことすんなよぉ」

 

 百人以上いたチンピラは数分で半分以上が気を失い戦闘不能になっていた。

 

「く、クソッ!!」

 

「おぉ……ラッキーパンチおめっとさん」

 

 ヤケになったチンピラの攻撃が仮面に掠ったのか、左目の辺りにヒビが入ったのがわかる。

 俺は仮面にヒビを入れたチンピラを蹴り飛ばし気絶させると、短剣を構え直す。

 

「そろそろかぁ」

 

「なんだァ……」

 

「黒鳥魔鏡……この呪装はただ強度や切れ味を強化するだけじゃねぇ」

 

「急になんだ……べらべらと“個性”の説明かァ!」

 

「悠長なことしてんじゃねェ!お前らァ!何かされる前に全員で潰すぞォ!」

 

「こいつの能力は……溜めて解放(チャージ&ファイア)……刃で受けたダメージを蓄積して、任意のタイミングで衝撃として解放することができるぅ」

 

「だからどうしたァ!!」

 

「分からねぇかぁ?……時間稼ぎは終わったんだよぉ」

 

 蓄積させたダメージを放つための隙を作った俺は、向かってくるチンピラ共に短剣を振るった。

 次の瞬間、白い光が倉庫を包み込んだ。

 チンピラ共も俺も結界で保護した女の子も白い光に飲み込まれ、遅れて衝撃が走る。

 

「……はい、終了ぉ」

 

 光が収まると、チンピラ共は全員床に倒れていた。

 俺は、チンピラの無事なスマホを取り上げると緊急通報で警察に連絡を入れる。

 スマホをチンピラの上に捨てると、結界で保護していた女の子の様子を確認する。

 

「大丈夫かぁ?」

 

 結界を解除して女の子の前に立つ。女の子は酷く怯えているようで体が震えている。

 

「……今日、見たことは全部夢みたいなもんだ……忘れるこったなぁ」

 

 これ以上、近づいても怖がられるだけだと思い、俺は怪我がないことだけ確認して、倉庫を出ようとする。

 

「ま、待って……!」

 

「あ?」

 

「あ、あの……貴方は黒虎さんですか……?」

 

「自分から名乗ったわけじゃねぇが……コイツらからそう呼ばれてるなぁ」

 

「な、なんで助けてくれたんですか?」

 

「……理由なんてねぇよ……俺はコイツらがまた悪さをするって聞いたからここに来ただけだぁ……アンタはついでだぁ」

 

「そ、そうだとしても……そのっ!ありがとうございます!!」

 

 女の子は俺を怖がるどころかありがとうと言ってきた。

 チンピラ共を相手にして、何度か人を助けたこともある。でもお礼なんて言われたことがなかった。

 

「は……?」

 

 俺は動揺した。

 最後にありがとうなんて言われたのは何時だっただろうか……あの悲劇から荒み続けた俺の心に女の子の言葉が染み込んでくる。

 

「何言って……」

 

 動揺からか仮面を押さえて落ち着こうとする。

 

 パキっ

 

 そんな音ともにヒビが入っていた箇所が割れて左目が顕になった。

 

「……ッ!?」

 

「チッ……じっとしてろぉ……縄解いてやる」

 

 俺は顔を見られたことに舌打ちすると、女の子を縛っている縄を解くために柱の後ろに回る。

 

「ねぇ……聞いてもいい?」

 

「何をだぁ?……アイツら適当に縛りやがってぇ……」

 

 チンピラ共が縄を適当に固く結んだせいで、解くのに苦戦している俺に、女の子は話しかけてきた。

 

「なんでこんなことしてるの?」

 

「分からねぇよ……」

 

「……分からないのに助けてくれたんだ」

 

「さっきも言っただろ……ついでだって」

 

「ついででも、結界?で守ってくれたじゃん……私がケガしないようにしてくれたんでしょ?」

 

「急に饒舌になりやがって……」

 

「安心したから……黒虎さんが悪い人じゃないって」

 

「……見る目ねぇな」

 

「え?」

 

「よし……解けたぞ」

 

「ありがと……う?何してるの?」

 

 俺は女の子の前に膝をついて屈むと、彼女の額に指を当てる。

 

「あんたりんおん そくめつそく ぴらりやぴらり あたらうん さんぜそ ざんざんぴらり」

 

 今日のことを忘れるように、催眠の呪を施す。

 

「……悪い夢は忘れるに限る」

 

「ま……って…………」

 

「待たねぇよ」

 

「なんで…………悲し……い目を……」

 

 催眠の呪が効いたのか意識を失い倒れる女の子を受け止めると、近くの柱に持たれるように優しく寝かせ倉庫を出た。

 

 

 

「……結構な騒ぎになってんなぁ」

 

 倉庫から少し離れた場所で警察やヒーローが来るのを確認した俺は、もう大丈夫だと現場を離れた。

 

「クロ……女の子を守ってくれてありがとな」

 

『カァ!』

 

 式神に礼を言い霊符に戻す。

 俺は仮面外し施設に戻る。

 

「……」

 

 夜風に吹かれながら、先程の言葉が頭をよぎる。

 

「悲しい目か……」

 

 怒りや罪悪感じゃない別の何かが俺の胸をざわつかせる。

 

「……」

 

 俺はざわつく胸を押さえ、警察やヒーローに見つからないよう慎重に施設へと帰った。

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