珍しく咲夢視点(日記以外)。
MMXLII/I/XXIII
昨日は平行世界論ってものを学んだ、小難しい内容だったけど結構面白かった。バタフライエフェクトみたいな感じで可能性=世界線の数=無限大となるのは興味深い。
…ここまでは良かった、しかし私は夢で本当に嫌な物を見てしまったのだ。とある平行世界、ifの世界を。
「あれ…?」
私は何故か小学生の体になっていた。ここは…日本?
「夢…だね」
それだけは確実、しかし何が違和感を感じる。
「霊力は使える。逸脱者になった後で、日記は…ッ!」
丁度今書こうとしていた所のようだ。
「ッ、今犯人を見つければ!」
両親の死を覆せるかもしれない。夢なのは分かってる、でもどうせ見れるならいい夢でありたい。
「外から霊力の気配が…!」
10歳の体が出せる全速力でそこに向かうと、今まさにお父さんを殺そうとしている男の姿があった。
「あ?…んなっ!?」
「ハァァァァ!」
ドゴォ、と男に飛び蹴りをしてぶっ飛ばした…一発で気絶している。
「お父さんは警察を呼んで」
「あ、あぁ…」
しばらくして警察が来て、男は殺人未遂で無事お縄になった。
「良かった、これで───」
『両親は死なずに済む、と?』
「──え?」
何処からか声が聞こえてくる。テレパシー?誰が…
『果たして本当にそうでしょうか?』
声からして多分女性…貴女は誰なの?
『お答えする事はできませんね。しかしまぁ、そう遠くない内に会うと思います』
…本当にそうなのかって、どういうこと?
『そのままの意味です。貴女は確か今日の授業でバタフライエフェクトについて学んだでしょう?』
今日の授業内容を知ってる…まさか私の知ってる人?
『当たらずとも遠からず、ですね。さて、貴女はこう思ってるでしょう…バタフライエフェクトが起こるからって必ずしも悪い方向に行くわけではないと』
まさにそうだと思うけど。何、絶対悪い方向に行くとでも言いたいの?
『そうは言ってません。ただ、良く転ぶのは限りなく0%に近いでしょう。大体の場合はこうなります』
パチン、と指を鳴らす音が聞こえる。すると脳内に走馬灯のような感じで映像が流れてきた。
「…!?はぁ、はぁっ…」
何故か出現した大魔獣。
糸のようなものに絡め取られる御兎。
腹に穴の開いたクレア。
惨殺された両親。
火に沈む故郷。
──深淵。その狂気に侵され、破壊に快楽を覚えるようになった私。
「っ…ぐぅ、ぉぇ……」
『あーあ吐いてしまいましたか。中学生には刺激が強すぎました?』
黙れ、私にこんなクソみたいな映像を見せるな…!
『でも事実なんですよ。貴女の両親が死ぬことで、貴女はリート家に引き取られビャッカ王国での生活を始めた。つまり両親の死は貴女が今に至るためのコラテラルダメージなのです』
嘘だ。お前は私を騙そうとしている。
『嘘である確証は?ないでしょう?私も本当かどうかは証明できませんが』
尚更タチが悪い…
『褒め言葉として受け取っておきましょう』
…そう遠くない内に会う、って言ってたね。首を洗って待ってなよ。
『敵と認定するのですか?私を』
さぁね、でも会ったら絶対一発殴らせて貰うよ。何なら今やろうか?
「ココは夢だし、人を呼び出すぐらいできるよね」
『………』
「世末──消えたか」
恐らくこの夢は声の主が作り出したもの…目的は分からないけどね。そもそもココを夢だと認識できた時点で違和感を持つべきだった。
「っ、体が消えていく」
夢から覚めてるのかな?…声の主、会ったら絶対にぶん殴ってやる。
MMXLII/I/XXXI
もう1月も終わるけど、夢で見たあの光景が頭から離れない。声の主に対する殺意も日に日に増えていくばかりだ。そのせいか隣の席に座ってるクロドに心配されてしまっている。
クロド・ノータム。今代の『赤毛の魔女』でサポートに長けた子だ。赤毛の魔女というのはビャッカで代々と継承される異名で、名前は覚醒状態で赤毛になることに由来する…地毛が赤い人も多いらしいが、クロドは茶髪だ。
時々話しかけるだけで終わっていた彼女だが、隣の席になってちょっと仲良くなった。よっ友ぐらい。
クレア達にも言ったし、クロドは信用できそうだしで悪夢のことを言ってみた。すると自分ならその人を見つけられるかもと言ってくれた。非常に頼もしい。
空原さんがトラウマ級の悪夢を何者かに見せられたらしい。そしてその人を見つけないと夜も眠れないって。
「夢の中では声だけ聞こえたのね?」
「うん…」
「…私なら見つけられるかもしれないわ」
「ほんと!?」
「そこ、静かに」
「「…すみません」」
今授業中なの、忘れてたわ…
「マジで?」
「うん、最近強力な探知魔法を習得したの」
放課後、空原さんの親友であるリートさん達にも話した。
「逆探知の心配はある?相手が対抗手段を立ててない可能性は0に近いと思うんだけど」
「…ごめん、そこは考えてなかったわ」
「まぁそこは俺たちで対処するし問題ないぜ。今すぐできるのか?」
「ここじゃ場所が狭いし荒野でやりましょ」
荒野に移動し、基盤となる魔法陣を地面に展開する。
「空原さんはこの真ん中に立って」
「…こう?」
「うん、そして夢で聞いた声をできるだけ思い出すの。量や精度が高いほど成功率が上がるわ」
これは『記憶探知魔法』、対象の記憶からその実物が何処にあるか示す魔法よ。落とし物や事件の犯人を探す際によく使われるわ。空原さんがしばらく魔法陣に立ってると、やがてそれは光り始めた。
「成功のようね、これで方向が──「いや、失敗だよ」…え?」
「逆探知されたみたい。…来るよ」
魔法陣から何故か光が吹き出し、大魔獣が現れた。なんで!?
『グォォォォ!』
「大魔獣!?」
「夢で感じた霊力と同じ感覚、あの女の仕業だね」
「……っ」
空原さんの夢を操れたらしいし、これぐらい出来てもおかしくない…か。
「いつもより一回り大きくないかい?咲夢1人で倒せる?」
「うん───無理」
「あ、無理なのね」
「じゃあ僕が後方支援するよ。拘束するから御兎や咲夢が攻撃して」
「俺は?」
「ノータムさんと一緒にセレスト先生を呼んできて。あの人なら詳しいだろうし」
「分かった!ノータム行こうぜ」
「えぇ」
クロドとクレアが先生を呼びに行ってる間に、一回り大きな大魔獣を倒しておいた。攻撃とかは元のヤツとあまり変わらなかったけど体力が数倍あった。なんか御兎が調子悪かったけど、それ以外は特筆すべき所もなく倒せたので問題ない。
先生が来た所で霊力の残滓を調べて貰い、大魔獣を召喚したり私に悪夢を見せたりした犯人が『愉悦の魔女』であることが分かった。
愉悦の魔女。この国の指名手配犯で、その異名の通り愉悦を得る事を目的としている。その愉悦の得方が…相手を貶めたり、苦しめたり。人の心の崩れる様を見るのが楽しいらしい。…と先生が怒り露わにしながら、少し後悔を滲ませながら言っていた。
そんなカスでも強さは先生に匹敵するらしいので、調査は大人に任せて君達はあまり関わらないでくれ、と忠告された。
実際に会ったら一発殴りたかったんだけど…そんなに強いなら仕方ないか。
クロド→クロード
ノータム→Notumn→No autumn→あきない
両方俺の曲モチーフ。
クロド・ノータム
咲夢のよっ友。赤毛の魔女。能力はないが、基本属性を全て使える。
赤毛の魔女
ビャッカで代々と継承されている異名。2、30年おきに代替わりする。歴史ある異名だが特に圧力とかはなく、各代が気ままに鍛錬を積む。しかしその実力は折り紙つき。
愉悦の魔女
ビャッカ唯一の指名手配。原因となった事件はビャッカの住民を誘拐しては惨殺するというもの。突然現れた大魔獣も彼女が召喚した。
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次回もよろしくおねがいします。