ポケットモンスター~もしもツクシ君にこんな幼馴染がいたら~   作:カイナ

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第1話

「ツクシくん、お疲れ様。午前に挑戦登録された挑戦者は今の子で終わりだよ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 ある建物内。まるで森林のように木々に囲まれたその最奥で、事務員のようにかっちりとしたスーツを着た女性の言葉に、ツクシと呼ばれた少年がそう返す。

 彼はここヒワダタウンのポケモンリーグ公認ジム、通称ヒワダジムのジムリーダーツクシ。若干10歳そこらにしてジムリーダーに就任した虫タイプポケモンのエキスパートだ。

 

「じゃあぼくは休憩に入らせていただきますね」

 

「はいお疲れ様。せっかくの夏休みに仕事ばっかりで大変だろうけど、今日の午後からしばらく予約は入ってないし、突発の挑戦者はこっちで対応するから。ツクシ君はゆっくり休憩してね」

 

 事務員の女性からの労いの言葉を聞きながら、ツクシははぺこりと会釈をして持ち場を離れる。

 夏休み、世間一般的には彼と同い年の学生等にとってはそう呼ばれる長期休暇の時期。大抵の学生トレーナーからしたらこの時期を使って旅行も兼用したジム巡りをするのがお約束であり、逆にジムからしたら挑戦者が多くなる繁忙期。

 本来なら学生をやっているような年齢ながら既にジムリーダーをやっている彼もそれは例外ではなく、ここ数日朝から主に自分と同い年のトレーナーを次々と相手していた。そのバトルに使うポケモンそのものは相手のバッジ数に合わせて決まっているし疲れてきたら交代もできるがトレーナーはそうもいかず、特にジムリーダーであるツクシは出ずっぱり。流石に疲労が溜まらないと言っては嘘になる。

 

「ん~……ちょっと家に帰ってご飯を食べて、次の挑戦者の予約時間までには戻れる程度に軽く仮眠でも取るかなぁ……」

 

 ジムを出れば夏らしく強い日光に照らされるもヒワダタウンに長年住んでいれば慣れたもの。木々がそよ風に揺れる音や、その木々に住んでいる虫ポケモン達のさわめきを聞きながら、ツクシは伸びをして一度家に帰ろうと歩みを進める。そう、過酷なジム戦(挑戦を受ける側)の合間、のどかな雰囲気に癒されていて油断をしていた。

 

「ふんぎゃ!?」

 

 突然何かにつまずき、スッ転ぶ。なおこの町にはヤドンというのんびりしたポケモンが数多く生息しているが、ヤドンはこの町では神聖なポケモンとして崇められており、うっかりヤドンを踏んづけた観光客が住民の怒りを買って追い回される光景はこの町では珍しくない。

 逆に住民ならもう無意識にヤドンは避けて歩けるくらいに日々の生活の中で訓練されており、そんな住民の一人であるツクシがヤドンにつまずいて転ぶなど考えづらく、ツクシは転んだ勢いで打った鼻を押さえながら自分がつまずいたものを確認する。

 そこに広がるのはピンク色の物体。ヤドンと同じ特徴にツクシはぎょっとするが、別にそれはヤドンにつまずいてしまったのではという驚きではない。

 

「ノンさん!? また道端で寝転んでるの!?」

 

 驚いたツクシが、転んだせいで地面に這いつくばるような姿勢のままそのピンク色の物体に近寄り話しかける。

 

「やぁん……お散歩してたんだけどぉ……暑くってぇ、おうち帰るのもめんどうでぇ……ここちょうど影できてるしぃ……もうここでお昼寝してようかなぁってぇ……」

 

 そのピンク色の物体、もといピンク色の髪を長く伸ばしたロングヘアの少女が、ツクシの呼びかけに顔を上げて閉じた目をツクシに向けながら、まるでヤドンが人語を喋るならこんな感じなのだろうと思わせるようなのんびりとした口調で話し始める。

 この少女はノン。ツクシの幼馴染で一応彼よりも年上のお姉さん……なのだがまるでヤドンの擬人化のようなのんびり屋で、ヤドンと同じように道端で寝転んでいる事もよくあり、年齢よりもしっかり者なツクシにとってはもはや「年上なのに妹のように世話が焼ける人」扱いである。

 

「はぁぁ……仕方ないなぁもう」

 

 ツクシは額に手を当ててため息を一つつくと、腰からモンスターボールを一つ取り出しスイッチを押してボールを手のひら大に巨大化させるとぽいっと軽く放り投げる。

 

「ヘラクロス、ノンさんを家まで運んであげよう」

 

「ヘラクロッ!」

 

 ぽいっと放り投げたボールから出てきたカブトムシのようなポケモン――ヘラクロスに指示を出し、ヘラクロスは一声鳴いてツクシの言葉に応えるとノンをひょいとお姫様抱っこのような形で持ち上げる。

 

「やぁん、らくちんらくちん……」

 

 ノンもヘラクロスにだらりと身体を預けて脱力。それからツクシとヘラクロスはノンの家に向けて並んで歩き出す。その道中でツクシは呆れたような顔をしてノンに話しかけた。

 

「ノンさん、そんな感じで本当にあっちでの生活は大丈夫なの……?」

 

 ノンは今はヒワダタウンに住んでいるわけではなく、ここジョウト地方とは別地方にあるカントー地方のある学校に進学してその学校がある町に住んでおり、進学先の学校が所有する寮で生活している。

 今は夏休みで里帰りしているとはいえ、そんな彼女がこんな道端で寝転んでまともに動かないような生活をしているのを見れば、あっちではなんとかなっているのだろうかとツクシが心配するのももっともだろう。

 

「やぁん、皆親切な人達だよぉ……この服もねぇ……あっちでお友達とお話しててぇ、“素材がいいのに田舎っぽすぎて勿体ない”とかなんとか言ってぇ……色々教えてくれたんだぁ……」

 

 ツクシの問いかけにノンはいつもの気の抜けたような声色で言うとベージュのニットのような、しかしこんな夏にニットなんて着てるわけないからきっと違う種類なのだろう上着を引っ張る。

 言われてみれば垢抜けた格好になっているような気がする。ジムリーダーの資格試験を取ったり仕事やら研究やらに行ったり以外ではヒワダタウンを滅多に出ない、せいぜい隣町のコガネシティくらいだがそれでもそこにある自然公園で定期的に行われている虫取り大会のゲストや解説が主目的な自分ではよく分からないけど。ツクシはそう思いつつ目を向けるがその時、ちょうどノンが引っ張っている上着の胸の辺りに視線が向き、彼女の大きく膨らんだ胸に目がいってしまった。

 

「!?」

 

「やぁん……? どうしたのツクシくん……?」

 

 思わずと言った様子で顔を赤くしてさっと顔を逸らすツクシ。それを見たノンが不思議そうな顔で問いかけるが、ツクシは「なんでもない!」と答えると足早に歩みを進めて一軒の家に向かっていった。

 

 

 

 

 

「あらあら、ごめんねツクシ君。ツクシ君もジムリーダーやってて忙しいだろうに」

 

「い、いえいえ……」

 

 ツクシが向かった家に住む女性――ノンの母親の朗らかに微笑みながらの言葉にツクシも苦笑いで答える。

 

「ほらノン、また道端でヤドン様のように寝転がってたんでしょう? 服が汚れてるから着替えなさい」

 

「やぁん……お部屋まで行くのめんどー……」

 

「……ヘラクロス、ノンさんを部屋まで運んであげて」

 

 母親の言葉もどこ吹く風の様子でマイペースに答えるノン。その様子を見たツクシはこれ以上何か言うよりそっちの方が楽だと思ったのかヘラクロスにそう言い、ヘラクロスも一鳴きして答えるとノンを二階にある彼女の部屋へと運んでいき、ツクシもその後を着いていくと部屋のドアを開けてヘラクロスを部屋に入れる。

 

「ほらノンさん、部屋まで運んであげたから。流石に着替えは自分でやってね」

 

「やぁん……はぁい……」

 

 既に呆れ声が隠せないツクシの言葉は特に気にしてない様子で、流石に着替えまで任せられないとは理解してるのかノンはのろのろとヘラクロスから降りると洋服ダンスを漁りだす。

 本当に世話が焼ける、とツクシは思いながらとりあえずヘラクロスをボールに戻そうと腰のボールを手にやる。

 

 ぱさり

 

 音がした。まるで布が地面に落ちたような音が。

 ギギギ、とゆっくりとした動きでツクシが音の方を見る。そこにあったのはミニスカートを脱いでピンク色のパンツを露にしながらニット風の上着も脱ぎ捨て、今はその下のワイシャツまでも脱ごうとしているノンの姿だった。

 

「きゃあああぁぁぁぁっ!?」

 

 何故かツクシの方が悲鳴を上げて部屋を飛び出し、ドアをばたんっと勢いよく閉めてそのままの勢いで叫ぶ。

 

「なんで僕が出ていく前に着替えだすの!?」

 

「やぁん……だって小さい頃はよく一緒に着替えてたし……」

 

「何年前の話だよ!?」

 

 ドアの向こうから呑気に答えるノンにツクシが絶叫でツッコミを入れ、ぜえぜえと荒い息を吐く。

 

「あらあら、ごめんねツクシ君。またノンが迷惑かけちゃったみたいで」

 

「あ、ああ、いや……あはははは……」

 

 ツクシの様子から何かを察したのだろう、やってきたノンの母親の言葉を否定しきれず苦笑いで返すツクシ。それに対してノンの母親もにこにこと微笑んで返す。

 

「ところでツクシ君、良ければお昼ご飯も食べていって。午後からもジムリーダーのお仕事があるんでしょう?」

 

「え、ええまあ……でもいいんですか?」

 

「大丈夫よぉ。ツクシ君のお母さんにももう連絡しちゃってるし、遠慮しないで」

 

「は、はぁ……じゃあお言葉に甘えます……」

 

 母親に連絡されていたらもう選択肢はないも同然ではないかと思うがツクシはもう諦めてこくりと頷き、ノンの母親も「はーい」と答えると階段を降りていく。

 形は違うけどノンさんもおばさん(ノンの母親)もマイペースなのは変わらない気がする……ツクシが疲れた様子でそう考えていると突然部屋のドアがバンバンと叩かれる。

 

「な、なに!?」

 

 慌ててドアを開けながらそこを離れると飛び出してくるのはヘラクロス。

 

「ヘラクロッ!」

 

「ああ、そういえば戻してなかったっけ。ごめんごめん」

 

 慌てた様子で飛び出してきたヘラクロスの様子も気にせずにツクシはボールを取り出してヘラクロスに向ける。そのボールから、ボールに登録されたポケモンをボール内に戻す赤い光線がヘラクロスに飛んでヘラクロスを包み込み、それがボールへと吸い込まれるように消えていくのを確認するとツクシはボールを腰に戻してヘラクロスが飛び出してきたドアを閉めようとそっちに視線を向ける。

 

「……ん?」

 

 見過ごせないものが部屋の中にあった。

 脱ぎ捨てられた服、それはいい。開けっ放しの洋服ダンス、色々ごちゃごちゃに入ってて年頃の男子が目にするには気にするようなものもあるがそれもいい。

 膨らんでいるベッド。流石にそれは見過ごせなかった。

 

「ノンさん!? おばさん今からお昼ご飯だって言ってたよね!? 何寝ようとしてるの!?」

 

「やぁん……眠いぃ……」

 

 部屋に飛び込み、ベッドに潜り込んで寝ようとしてるノンをゆさゆさと揺さぶって起こそうとするツクシだがノンは余計に掛け布団の奥に潜り込んでいく。

 

「ノーンーさーん-!?」

 

「やぁん……」

 

 それでも諦めずに揺さぶるツクシに対してノンはのそのそと布団の中で動くとばさりと掛け布団を自ら剥がす。起きてくれるか、とツクシが油断したその時。

 がばり、とノンがツクシに飛び掛かる。普段ののんびりした姿とは思いもよらない俊敏な動き、それに反応できなかったツクシはノンの両腕に包み込まれると一気に布団へと引きずり込まれていった。

 

「ノ、ノンさん!?」

 

「やぁん……もううるさい……ツクシくんも一緒にお昼寝しよぉ……」

 

「い、いやだからもうすぐお昼むぐむぐ……」

 

 起きるよう呼びかけるツクシだがノンに思い切り抱きしめられて口が塞がれる。何に塞がれているか、今ツクシの目の前に広がるのはピンク色の布地に白で縁取られたヤドンの模様がいくつも描かれたパジャマ。ヒワダタウンの雑貨屋等で売られているこの町の住民なら珍しくもない品、それが目の前にある、そしてこの柔らかい感触……

 

「っー!?!?」

 

 ()()を理解した瞬間ツクシは顔を真っ赤にしてじたばたと暴れ、ポケモンを出してどかしてもらおうと腰のボールに手を伸ばそうとする。しかし彼の腕は偶然だろうがノンの両腕で包み込むように封じ込まれて思うように動かせず、なんとかヘラクロスを入れたボールを掴んだものの取り落としてしまう。

 

「やぁん……別にいいでしょぉ……ツクシくん、小さい頃はよく一緒にお昼寝してたしぃ……」

 

「だから何年前の話だってば!?」

 

 呑気なノンの言葉にツクシがまたもツッコミを入れるがノンは気にしていない様子どころかなんか寝息が聞こえ始めてきた。このまま本格的に眠りだしそうである。

 

「やぁん……けっこー、心配してたんだよぉ……」

 

 突然ノンが寝言のように話し始める。

 

「ツクシくん、ジムリーダーになったって張り切ってて……最近はジムでたくさんバトルしてて、毎日忙しそうで……ツクシくんが身体を壊したりしないかって……オデ、けっこー心配してて……」

 

「……」

 

 たしかに夏休みが始まってからというものの、夏休み前から予約していた学生トレーナー達が押しかけてきたためツクシは次々訪れる挑戦者を捌くためのジムバトルにてんてこ舞い。

 あまりに忙しく、里帰りしたノンとまともに挨拶したり会話したりしたのもノンが帰ってきてから数日後という有様、なんなら帰ってきていた事に気づいてもいなかったくらい。それを「心配していた」と言われたらツクシも返す言葉もなかった。

 

「すぅ……すぅ……やぁん……」

 

 いつの間にかノンは眠りだしていた。ぷにぷにと柔らかく、元々体温が低いのか温かくありつつも少しひんやりとしているような気もする。まるでヤドンのような、どことなく懐かしい感触に包まれたツクシの意識もいつの間にか遠のいていったのだった。

 

 

 

 

 

 なお

 

「遅刻だー!!!」

 

 ノンの母親が起こしてくれた頃はほぼ遅刻ギリギリ。

 ノンの母親の「お昼ご飯が出来て呼びに来たけど、二人とも揃ってぐっすり眠ってて起こすのも悪いと思った」「ヒワダジムに連絡を入れて、少しくらいの遅刻はカバーするようにしてみせるからギリギリまで寝かせてあげる事になった」という供述を聞き流しながら、気を利かせてお弁当に作り替えてくれた昼食を受け取って、ツクシはノンの家を飛び出していく。

 

「やぁん……ツクシくん、がんばってねぇ……」

 

 二階の窓から顔を出し窓の縁に頭を乗せながら手をふりふり小さく振って見送るノンに、ツクシも「うん」と答えて手を振るとヒワダジムに向けて走っていくのだった。




《後書き》
 最近発売された「ぽこあポケモン」のヤドンがなんか気だるげなギャルっぽいってとこから発祥したギャルヤドン概念を知り、「ヤドンといえばヒワダタウン、ヒワダタウンといえばツクシくん→そうだギャルヤドンをヒロインにツクシくんとのおねショタ一本作ろう!」と思い至ったので書きました。
 ちなみに僕「ぽこあポケモン」はプレイしてません。なんならSwitch2も持ってません。このギャルヤドンはぽこあポケモンのヤドンのキャラクターを参考にしたとかそういう事は特にありませんのでご了承ください。ほとんど発売前に色々出てたギャルヤドン概念のイメージと自分なりに気だるげ……というかのんびり系ギャルのイメージで作りました。

 一応短編のつもりですがウケが良くてネタが思いつけば続きを書く可能性もなくはないかもしれません。最近他の小説のネタが浮かばなかったりモチベが低かったりあるから気分転換にいいかもしれませんし……
 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。


《オリジナルキャラクター設定》
名前:ノン
性別:女
年齢:15(高校一年くらいのイメージ)
設定:ヒワダタウン産まれヒワダタウン育ち、正真正銘のヒワダっ子。一人称は「オデ」。
ピンク色の髪を長く伸ばした姿やのんびりとしたマイペースな性格等、ヒワダタウンでは「ヤドン様の擬人化」と称されているが、別に現人神と崇められてたりはしない。そののんびりとした性格は人間なのにヤドンと同じように道端でごろ寝しているほど。なので余計に「ヤドン様みたい」と言われている。
 ツクシとは幼馴染であまりののんびり具合に相手の方が年下ながらよく世話を焼いてもらっており、それは今もあまり変わらない。
 現在はカントー地方のある学校に進学して寮暮らし。のんびりした性格は変わらないが同級生に可愛がられており、「素材はいいのに勿体ない」としてお洒落を教えられ外見的にはまるで高校デビューでのギャル化しているが中身はのんびりヤドンの擬人化ヒワダっ子のまま。
 ちなみに裏設定だがポケモンバトルもそれなりに嗜んでおり、設定上の手持ちは「フォレトス(相棒枠)」や「シェルダー」。(メタ的には「ヒワダタウン周辺にいる」と「ある意味ヤドン関係」という選出です。残る手持ちは考え中)
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