セルフヒールしか使えない俺、役立たずとして追放されたが極限環境で生活しつづけたら〝最強〟になった件――今さら謝ってももう遅いッッッッッ!!!!!   作:本部以蔵

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「ハッキリと言おう――これ以上の深層(デプス)では、お前はもう役立たずだ」

 

 それは無慈悲な宣告だった。

 

 冷酷な物言いをした男――レウスに対して、ほかのメンバーたちはさすがに微妙な表情を浮かべる。

 しかし、先の発言の否定とまではいかない。沈黙は肯定の証にほかならなかった。

 

 ――苦い顔をしながら、俺は仲間(パーティー)の顔に一人ずつ視線を移す。

 

 サブリーダーであるキアンは、わずかに眉をひそめている。いつもクールで気取った彼にしては、めったに見ない表情だった。

 

 姉御肌のアルセナは、空気に耐えられないかのように頭を掻いている。快活な彼女にとっては、この暗い雰囲気が苦手なのだろう。

 

 優しい性格のリネは、誰よりも申し訳なさそうな顔をしている。見ているこっちが罪悪感を抱きそうになるくらいに悲しそうだ。

 

 最後に、リーダーのレウスに顔を向けて――俺は尋ねた。

 

「――役立たずの理由は?」

「一点目。現在の踏破最深部において、お前の攻撃が魔物(モンスター)へあまりダメージが通らなくなってきた。完全なるサポート役であるリネ以外の、オレたち三人なら大抵の魔物を一撃で葬れるが――お前は違う」

「……それは否定しないな」

「オレたちは自力で魔法を絡めた攻撃手段を用いれるが、お前は多少のエンチャントがかかった剣で敵を攻撃することしかできない。そして、それは深層において通用しなくなってきた」

「…………」

 

 先に探索した迷宮(ダンジョン)深層――そこで竜燐のような皮膚を持った魔物と戦ったことを思い出す。

 俺は幾度となく剣で切り払ったが、その装甲を貫くことはできなかった。だが、レウスやキアンは自己強化(セルフエンチャント)によって斬り伏せられていたし、アルセナは攻撃魔法で敵を撃破できていた。

 

「――お前が自己回復(セルフヒール)しか使えない以上、これより上のレベルの場所では攻撃面において何も期待はできないだろう」

 

 そう言い放つレウスに、俺は眉をしかめて言う。

 

「……もともと俺は、味方を守るのが基本的な役割(ロール)だったはずだが。たとえばリネの護衛に回るだけでも、戦術的に十分な価値があるんじゃないか?」

「その護衛的役割が意味をなさなくなってきたのが、二点目の理由だ」

「…………」

「お前だって、自分でも気づいているだろ。――“即死”するんじゃないかって」

「…………」

「腹をぶった切られても素早く回復して戦闘復帰できるお前は、たしかに凄まじい能力だと思うが――しかし、首を刎ねられたらオシマイだ」

「…………」

「そして、お前が存在することによって“敵数”が増えるのも厳しい。むしろ誰かが死ぬ危険性が高まるわけだ」

 

 そう――奇妙な現象だが、さまざまな迷宮では“その階層にいる人間の数”に応じて魔物が増加するのが基本となっている。

 迷宮自体に魔物を召喚するシステムが組み込まれていて、人が増えればそのぶん必ずどこからか敵が増やされるのだ。

 人間に試練を与え、鍛えるための設備こそが古に築かれた迷宮なのだ――などと主張する学者もいるが、神か悪魔が嫌がらせか面白半分で各地に置いたというほうが正しいのではないかと俺は思っている。

 

 ……そんなことは、ともかく。

 

「それで――これ以上は、“少数精鋭”でやっていくしかないと?」

「端的に言えば、そのとおりだ。……そう怒るな。お前を見下しているわけでもないんだ」

「役立たずとはっきり言われたら、不愉快にもなるんだが」

「オレたちのような最前線の深層攻略組においては、という特殊な条件下によるものだ。一般的な冒険者の基準からいったら、お前のような前衛はトップクラスに有能な存在だろうよ」

「…………」

「少なくとも――ほかのパーティーからは、引く手あまただろうな」

 

 それは、わかっている。

 べつに食い扶持を失うわけではない。どこのパーティーにいっても、俺は活躍して稼ぐことができるだろう。

 だが――

 

 

 

「――わかった」

 

 

 

 俺はゆっくりと、椅子から立ち上がった。

 冒険者ギルドが直営するこの酒場には、ちらほらと見知ったほかの冒険者の顔もある。

 周囲の視線が、いっときこちらに集まっていた。

 

 俺はゆっくりと、手を動かし――

 レウスの顔を指差して、激情を込めながら叫んだ。

 

 

 

「――――テメェら、いつかぜったい見返してやっからなぁぁぁッッッッ!?」

 

 

 

 ――そんな捨て台詞を吐いて、俺は酒場を飛び出すのであった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

「あーーーーっ、ムカつくッ!」

 

 ――感情に任せて、手近にあった樹木の幹をぶん殴る。

 

 痛みが走った。

 見れば、拳には血がにじんでいる。

 しかし、瞬間的に魔力を込めると――傷は一瞬で塞がった。

 

 ――自己回復(セルフヒール)

 それが俺の最大にして、唯一の魔法だった。

 

 もともと素質によって使える魔法のジャンルは限られてくるが、どういうわけか俺のは回復のみに特化していた。それも他人に向けることはできず、自分のみを対象にすることしかできない。

 

 その能力が強いか弱いかというと、おそらく強いのだろう。即死しないかぎりは不死身に近いレベルなので、冒険者ギルドからはかなり高評価を受けていた。

 ただ――最近、発見されたばかりの迷宮の深部においては、一瞬のミスで即死しかねないという現実があった。

 そのハイレベルな環境においては――たしかに、俺は役立たずに近い。

 

 味方を助ける魔法は使えず。

 そして、敵を倒す力量もない。

 

 それが現実だった。

 悔しい。

 もっと、強くなりたい――

 

 そして、あいつらを見返してやりたい――

 

 

 

「……鍛えるしかない、か」

 

 

 

 ぽつりと、俺は呟いた。

 魔法の素質を変えることはできない。

 なら――力と技を磨くしかなかった。

 

 たしかに今までは、味方を守るだけでいいから、と敵を打ち倒すすべを軽視しすぎていたかもしれない。

 そんな甘い意識を変えるべきだ。

 

 俺は――

 

 

 

 ――ユージンという冒険者は、もっと強い存在へと変わらなければならなかった。

 

 

 

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