セルフヒールしか使えない俺、役立たずとして追放されたが極限環境で生活しつづけたら〝最強〟になった件――今さら謝ってももう遅いッッッッッ!!!!!   作:本部以蔵

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2日目

 

 眠れない夜を過ごした。

 

 いったいどれだけ不運なのだろうか。迷宮の中にいる時に変動に巻き込まれ、そして閉じ込められるなどとは。

 昨日にフロアは隅々まで探したが、やはりポータルの影はどこにもなかった。

 時間が経てば出現するのか、それとも永久にこのままなのか。それもわからない。

 

 ただ、俺にできるのは生還する方法がどこかで見つけられることを祈るだけだった。

 

 それにしても、火急の問題がある。

 外部との繋がりが断たれた状況の中で、どうやって食料を確保するのか。

 いちおうフロアの片隅に、魔力を含んだ泉が存在していたので喉の渇きは対応できるが――

 

 空腹を満たすものがない。

 ……いや、本当にないわけではないが。

 しかし、それは通常ありえない方法である。

 できることなら、そんな空腹の満たし方は御免だと言いたい。

 

 しかし、この状況だと、そうは言ってられないだろう――

 

 

 

 

 

3日目

 

 これまでの人生で、いちばん不愉快な食事をした気がする。

 

 トカゲの生肉を口にしたのは、初めての経験だった。

 ……いや、正確にはトカゲ型の魔物の肉なのだが。

 

 いちおう魔物も食せなくはないのだ。とくにドラゴンの肉などは、最高級の食材とされていたりする。

 が、わざわざ食用目的で狩猟するということは稀だった。迷宮内でキャンプせざるをえない状況にでもならないかぎりは、冒険者といえど魔物を食することは基本的にない。

 

 それにしても――やはり焼いてない肉はまずかった。

 生のまま食ったのは、単純に俺が火を起こせないからだ。

 ちなみに腹を壊す心配はない。というか、そもそも俺は病気を心配する必要がない。セルフヒールは病にすら効果を発揮するレベルだった。

 

 つまりは、まあ――食料と飲料水さえあれば死なないということだ。

 もっとも、だから何だという話で。

 肉体は滅びなくとも、この迷宮フロア内に閉じ込められたままでは死んだも同然である。

 

 救援を待つしかないのだろうか。

 俺はどうしたらいいのか。

 

 何もわからないまま、時は過ぎ去っていった。

 

 

 

 

 

5日目

 

 今日も今日とて、魔物肉を生で食らう日々である。

 

 食料は無尽蔵だった。魔物は時間経過でどこからか湧き出るからだ。迷宮の召喚システムがつねに魔物を補充しているらしい。

 何よりもつらいのは、思うように睡眠がとれないことだった。

 浅い睡眠を繰り返さざるをえない。

 

 寝込みを襲われて頭をかち割られたら、さすがに俺でも死んでしまう。

 だから、魔物を掃討したらすぐに仮眠することの繰り返しだった。

 

 時間がわからなくなるたびに、携帯していた魔法仕掛けの懐中時計で時刻を確認している。

 どうやら、閉じ込められてから五日が経過しているらしかった。

 いまだ救援の兆しはなし。

 

 とにかく、好転を祈るしかない――

 

 

 

 

 

7日目

 

 だんだんと、異常事態が日常と化してきた。

 起きて、魔物を狩り、肉を喰らい、泉で喉を潤し、睡眠を取る。

 その繰り返しを、無感情に繰り返すだけだ。

 

 トロールのような大型の魔物を目の前にしても、心は死んだように落ち着いていた。

 淡々と戦闘をして、相手を殺すだけ。

 いっそ殺されてしまったほうが楽なのではないかと思った。

 しかし、冒険者としての本能だろうか。魔物に打ち倒されることは自然と忌避してしまう。

 

 ……そういえば、トロールの肉は食えるのだろうか?

 

 いや、やめておこう。

 そんなゲテモノを口にするのは、どうしてもほかに食えるものがない時だけだ。

 

 

 

 

 

13日目

 

 肉体が少し変わった気がする。

 いや、べつに変な話ではない。ありえない密度で戦闘を繰り返しているせいで、以前よりもかなりの筋肉がついたということだ。

 

 毎日毎日、鎧に身を包んで剣を振るうことを延々と続けていれば、そうなることは必然ともいえる。

 普通は肉体の疲労を回復するフェーズが必要だが、俺の場合は強力なセルフヒールによりそれも必要なかった。

 

 最近では魔物の体を切り飛ばすのも容易になってきている。つまり、それだけ膂力と技量が上がったということだろう。

 極限状態の中で、俺は強くなっていた。

 

 そう――ここは、強くならざるをえない世界だった。

 弱い心身では、死が訪れるだけなのだから――

 

 

 

 

 

17日目

 

 虚無の世界の中で、少しだけ楽しみを見つけた。

 魔物は知性がうかがえるヤツもいる。トロールだってバカな頭をしているが、感情がないわけではない。

 致命傷を与えず、からかうように切り刻んでやると、いろいろと反応してくれる。

 

 そんなふうに遊んでいたが、途中で魔物は斃れてしまった。

 ……まあ、ともかく。

 普段とは戦い方を変える、というのは日々の変化の一つになるだろう。

 

 

 今日、はじめてトロールの生肉を食べてみた。

 意外とおいしかった。

 

 

 

 

 

25日目

 

 剣が曲がった。

 仕方のないことだ。あれだけ魔物を斬りつづけていれば、そうなるのも必然。

 しかし、手入れをできる道具も持ち合わせていないので困った。

 

 まったく使い物にならないわけでもないが――あとどれだけ武器として耐えるかどうか。

 そう考えて、俺は戦闘方法を変えることにした。

 

 具体的には、パンチとキックである。

 冒険者の中には魔法で肉体強化を施し、途轍もない威力の打撃で魔物と戦うスタイルの者もいるが、もちろん俺にそんなエンチャントが使えるはずもない。

 ただ筋力で、ぶん殴って蹴り飛ばすだけである。

 

 手始めに、あまり脅威ではなさそうな魔物で徒手空拳を試すことにした。

 相手の攻撃を見極め、躱し、攻撃を叩き込む。

 幾度となく繰り返しすぎて、息を吸うようにできるようになったその戦法を、延々と。

 剣と比べれば威力に乏しい攻撃を、ひたすら繰り返し。

 

 魔物を撲殺するのには――十分近くかかってしまった。

 意外と、素手で生き物を仕留めるのは難しい。

 打撃にも慣れていないのが影響しているのだろう。

 

 もっと効率的に――相手を破壊する方法を見つけてみよう。

 そんな向上心を抱いて、俺は魔物の血肉を喰らうのだった。

 

 

 

 

 

37日目

 

 鎧が邪魔な気がしてきた。

 稀に攻撃を受けて、若干の変形をしてしまっているせいか。

 あるいは――筋肉がつきすぎて、体のサイズが合わなくなってきているからか。

 

 仕方がないので、上半身は脱いでおくことにした。

 防具を外すことに対しては、恐れもない。

 致命傷を避ければいいだけである。

 

 さあ、今日も魔物を狩るとしよう。

 相手のレベルにもよるが、素手で三分以内に仕留めるのが目標だ――

 

 

 

 

 

51日目

 

 嬉しいことがあった。

 そこそこの魔物が相手だったが、手刀で首をへし折って殺すことに成功した。

 最近は、急所というものに意識が向くようになった。ただ敵を打つのではなく、どこを狙えば効率的に死へと導けるか、それを考えながら戦うのが面白い。

 

 格闘というのは、じつに興味深い戦闘スタイルだった。

 剣を使っていた時とは違う、新しいものを俺は感じ取っていた。

 言うなれば――相手の呼吸だろうか。

 

 無手で相対していると、敵のあらゆる動きを鋭敏に感じ取れるのだ。

 目の動きや、息遣いで、いつ仕掛けてくるのかも何となくわかる。

 それを逆手に取り、致命的な一撃を見舞わせるのが楽しい。

 

 そういえば、いつの間にか拳が岩のように硬くなってきた。

 これだけ酷使していれば当然だろうか。

 日々、成長を遂げる筋肉と、無骨になってゆく拳。

 

 それは――嫌いではなかった。

 

 

 

 

 

65日目

 

 脛当てなども含めて、防具はすべて外すことにした。

 重さを感じるわけではないが、なんとなく気持ち悪さがあるのだ。

 自然な体の状態で動けるほうがいい。

 

 身を守る鎧など必要なかった。

 極端な運動と肉食を続けたからだろうか、今や全身が硬い筋肉に覆われている。

 多少のダメージを受けても、急所までは届くまい。

 致命傷を受けなければ、俺は死ぬこともない。

 

 魔物を素手で殺すことにも慣れてきた。

 どのタイミングで、どう打撃を放てば、殺せる一撃を与えられるのかもわかってきた。

 

 今日はトロールに出逢えたので、戦ってみた。

 相手は俺よりはるかに巨大な筋肉の塊だ。

 しかし――体の使い方はなっちゃいない。

 

 力のみが威力を決めるわけではないのだ。

 適切な動かし方――すなわち技が、力と掛け合わさって表出する。

 

 二か月――

 ただひたすら、戦いを続けた俺の肉体には――技量が備わっていた。

 

 相手のバランスが崩れるタイミングで。

 正確なポイントを狙い。

 理想的なフォームで。

 最大限の拳を繰り出し――

 

 貫くようなパンチをトロールの胴部に当てた。

 そうすると――ヤツは吹き飛び、地に倒れた。

 

 自分よりも圧倒的に体躯の小さな存在に、ただの打撃で打ち倒されることなど、トロールは想像もしていなかっただろう。

 

 

 

 

 

 ――ああ、しかし。

 まだ、足りない。

 もっと自分は鍛えられる。

 

 そんなことを思いながら――俺はトロールの肉を喰らうのだった。

 

 

 

 

 

87日目

 

 いつの日からか、熟睡ができるようになっていた。

 大量の肉を胃に収め、ぐっすりと寝る。

 そして――目を覚ますのは、きまってすぐそばに魔物が現れた時だ。

 

 獲物がそこにやってきた時には、もう俺の頭は覚醒して戦いに備えている。

 どれだけ深い眠りに就いていようと、闘争の気配を察知すれば、肉体はそれに応えるようになっていた。

 

 つねに戦いの起きる環境に身を置きつづけた成果だった。

 迷宮から宿に戻って、安寧の保たれた部屋で、ベッドに身を預けて眠っていた過去は、もう忘却の彼方だ。

 

 生活と、戦闘が、つねに同居した世界。

 俺はそれに適応していた。

 

 ――魔物と戦う時は、いつも笑みを浮かべてしまう。

 

 今日は、どんな方法で、どんな攻撃を試そうか。

 格闘の技は、剣よりもはるかに多彩だった。

 指の先から、足の先まで。

 使える場所はいくらでもある。

 どんな部位も、相手を殺す凶器になるえるのだ。

 

 そして、ただの殴打にも留まらない。

 鍛えられた体があれば、剣にも勝るとも劣らない切れ味を有する。

 

「――――ッ!」

 

 俺は魔物に対して、手のひらを差し向けた。

 握った拳ではなく、貫き手による打突。

 それが、相手の肉体に接触し――

 

 ――そのまま、胸部を貫いた。

 

 表皮を突き破り、内部へと到達した手。

 それを握り込み――骨と臓器を、無造作に破壊した。

 

 なんと脆いのだろうか。

 人間は、鎧と武器を身につけることでようやく魔物と対等になるのだと思い込んでいた。

 だが、そんなことはないのだ。鍛え上げた体と、練り上げた技は、それだけで容易に魔物を葬り去ることができる。

 

 はたして、この極地に達すればどれほどの力になるのだろうか。

 いまだ見ぬ先を愉しみをしながら――俺は魔物を喰らうのだった。

 

 

 

 

 

133日目

 

 起床した時、隣に魔物の死体があることに気づいた。

 なぜだろう。そう考えて、さっきまで見ていた夢を思い出した。

 

 夢の中で、俺は魔物と戦っていた。

 だが、それは現実だったようだ。

 

 無意識のまま、そうとは気づかず、現れた魔物を殺してしまっていたらしい。

 そう気づいた俺は――

 心地のよい夢を見ることを望み、また二度寝するのだった。

 

 

 

 

 

XXX日目

 

 楽しい夢を見た。

 現実とはまったく違う内容だ。

 

 夢の中で、俺は巨大なドラゴンと対峙していた。

 いつも屠っている魔物とは段違いの巨体に、死を予期させる爪と牙。

 その口から放たれるブレスは、人間を一瞬で消し炭にするのだろう。

 

 とても魅力的な魔物だった。

 そのドラゴンは、いったいどんな動きをするのか。

 どう対応すれば、死を躱しながら攻防できるのか。

 

 考えて、想像する。

 そうすると――ドラゴンが動いた。

 夢とは思えないほど、現実味のある動きで仕掛けてくる。

 

 最高だ。

 なんて甘美で、耽美な夢。

 そうか。

 夢想すれば、いくらでも強敵と戦えるじゃないか。

 

 俺は楽しくて笑いを浮かべながら――

 

 夢のドラゴンと、武闘(ダンス)を踊るのだった。

 

 

 

 

 

XXX日目

 

 とても強い魔物と戦った。

 思い描く、〝最強〟の存在だ。

 究極の肉体を持つ、デーモン。

 この世界の底にあるという、魔界屈指の実力者。

 

 鋼よりも硬い肉の装甲。

 稲妻を思わせるような俊敏性。

 肉体の駆動には技巧が詰められており、どのような武芸者でも真似できぬ身のこなし。

 古より生きるドラゴンでさえ、その雷速の打撃を喰らえば即死は免れまい。

 

 武の極致。

 それが目の前に現れていた。

 

 素晴らしい。

 理想形だ。

 俺が成りたいと思えるような――史上最強の生物。

 

 戦おう、夢の中の好敵手よ。

 

 己の肉体を、最大限に駆使し。

 己の技術を、極限まで振るい。

 

 ――力比べをしようじゃないか。

 すべてを引き出した闘争を繰り広げよう。

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

 ああ……。

 この夢が……現実だったら、どれほど良かったことか――

 

 

 

 

XXX日目

 

 何百だろうか。

 何千だろうか。

 それとも、何万だろうか。

 

 夢幻の世界は、無限の時間で満ち溢れていて、ああ、どれだけ彼と闘ったのかもわからない。

 あらゆる動きを、あらゆる技を、あらゆる策をもってしても、勝利というものは果てしなく遠い。

 

 それでも。

 繰り返すごとに、肉体が、技量が研ぎ澄まされてゆく。

 夢を見るごとに、戦いの知識と経験が積み重なってゆく。

 

 ひたすらに、こうして強さを磨いてゆけば――

 きっと、かならず――

 

 

 

 

 

XXX日目

 

 ――己のすべてを使った戦いだった。

 

 力を振り絞り。

 技を駆使し。

 知恵を働かせ。

 経験を信じ。

 

 そうして――ようやく、夢見ていたそれを手にすることができた。

 

 

 ありがとう、夢の中の好敵手よ。

 

 

 

 

 

XXX日目

 

 ……すべてが、終わってしまった。

 もう、何も存在しない。

 

 夢の中の相手は――消えてしまったから。

 

 ここに留まる意味もない。

 

 もう迷宮を出よう。

 

 ポータル?

 そんなものは、必要ないさ。

 

 ちっぽけの壁に覆われているだけなんだから。

 ちょっと力を込めて、素手で殴れば――ほぉら。

 

 簡単に削れるだろう?

 さあ、地上に出よう。

 

 ――久々に、光を浴びたくなった。

 

 

 

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